難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 論文紹介002(no.060-010)

No.010
Interproximal bone loss at contra-lateral teeth with and without root canal filling in periodontitis patients.
Adyani-Fard D, Kim TS, Eickholz P.
J Clin Periodontol. 2011 Mar;38(3):269-75

この研究の目的は、歯周炎患者で適切に歯内治療がなされた歯が、修復物辺縁(RM)と関連して根管充填(RCF)を施していない反対側の歯に比較して歯周組織骨欠損がより進行するという仮説を検証することである。
53人の患者(26人女性、34-73歳)、66組のレントゲンがサンプリングされた。各ペアのレントゲンには対側性に1対の歯が示されていた:つまり一方はRCFを伴う歯で、他方はRCFが施されていない歯である。全てのレントゲンはデジタル化された。PCプログラムを用いて、セメントーエナメル境(CEJ)あるいはRMと歯槽骨頂(AC)とCEJ/RMと骨欠損(BD)との直線距離が、最も顕著な歯槽骨欠損部位で計測された。RCF,RM、部位(近心/遠心)、顎、歯の種類(前歯/臼歯)の各項目に照らして比較された。この研究から、歯の種類でのみCEJ/RM-BDの距離に統計学的な有意差が示された(前歯: 6.17 ± 3.01 mm、臼歯: 5.03 ± 2.59 mm, p=0.044; RCFされていない歯: 5.14 ± 2.82 mm, RCFされた歯: 5.57 ± 2.70 mm, p=0.159; RMのない歯: 5.67 ± 2.98 mm, RMあり: 5.16 ± 2.61 mm; p=0.322; 近心: 5.62 ± 2.98 mm, 遠心: 5.06 ± 2.24 mm; p=0.238; 上顎: 5.55 ± 3.04 mm, 下顎: 5.20 ± 2.52 mm; p=0.486)。歯内治療を施された歯が、歯内治療を施されていない歯よりも骨欠損が大きいことは示されなかった。
(私の感想:歯の神経をとった時、それが辺縁の骨吸収に影響を及ぼすか、歯周病が進行しやすいか、ということを気にして研究した論文である。結論は影響しない。ただし、今回の研究では歯内治療が上手くいかないような、根尖部に病変のあるものは含まれていず、根尖病変のあるものは歯周病との関連があるという過去の報告があることを述べている。そうすると、根管内に感染源があるとその時は歯周病変に影響しうるが、感染源がなければ、つまり適切な根管治療がなされているなら、影響しない、ということのようである。)
(2011.4.16追記)(2011.5.16差し替え)

No.009
A.Gingival changes during pregnancy: II. Influence of hormonal variations on the subgingival biofilm.
Carrillo-de-Albornoz A, Figuero E, Herrera D, Bascones-Martinez
J Clin Periodontol. 2010 37(3):230-40.

妊娠中に進行する歯肉の炎症が妊娠中のホルモンレベル上昇により誘導される縁下バイオフィルム変化と関連しているのかを検討した。
歯周病原性細菌の全てが出産後に有意な差をもって変化したが、歯肉縁下歯周病原性細菌の比率は妊娠期間中変化しなかった。P.gingivalis陽性であった患者は歯垢の量とは関係なく歯肉の炎症増加が見られた。ホルモンレベルと、P.gingivalisおよびPrevotella intermediaとの間には相関がみられた。歯周病性細菌の定性的な差が妊娠中から分娩後にみられた。P.gingivalisを保菌する患者は歯肉には炎症が認められ、また炎症は増加した。(2011.4.7追記)

No.008
The Impact of Oral Contraceptives on Women's Periodontal Health and the Subgingival Occurrence of Aggressive Periodontopathogens and Candida Species
Maria Isabel Brusca,Alcira Rosa, Olatz Albaina, Maria D. Moragues, Fernando Verdugo, and Jose PontonJournal of Periodontology
2010, Vol. 81, No. 7, Pages 1010-1018

経口避妊薬が歯周病原性菌の歯肉縁下での検出率や歯周炎状態に及ぼす影響について検討した。被験者は92人(19~40才、女性)で経口避妊薬の使用者と非使用者間で比較をおこなった。経口避妊薬の使用者は侵襲性歯周炎の有病率が高く、非使用者より深い歯周ポケットであった。さらにCandida陽性率が有意に高い値を示した。また、経口避妊薬使用者では、歯肉縁下のCandidaはP.gingivalis、P.intermediaとの関連性がそれぞれ、82.9%および85.4%であった。経口避妊薬の使用は、侵襲性歯周炎のリスクを増加させるのかもしれない。(2011.3.24追記)


No.007
A randomized, controlled trial on the effect of non-surgical periodontal therapy in patients with type 2 diabetes. Part I: effect on periodontal status and glycaemic control.
Koromantzos PA, Makrilakis K, Dereka X, Katsilambros N, Vrotsos IA, Madianos PN.
J Clin Periodontol 2011; 38: 142?147.

この研究は中等度から重度歯周炎に罹患した2型糖尿病患者の、血糖コントロールに及ぼす非外科的歯周治療の効果を評価することである。この研究は2型糖尿病に罹患した患者のランダム化コントロール臨床試験である。中等度から重度歯周病に罹患した60人が、スケーリング・ルートプレーニングを含む歯周治療群(介入群:IG)と、6ヶ月の後に歯周治療を遅れて受ける群(コントロール群:CG)に振り分けられた。歯周パラメーターと糖化ヘモグロビン(A1C)は1,3,そして6ヶ月時に評価された。全ての歯周パラメーターがIGで有意に改善した。IGのA1Cレベルは、他の交絡因子とは独立して、CGに比べて有意に減少した(0.72%versus 0.13%; p<0.01)。歯周治療をおこなうことで、2型糖尿病患者における血糖コントロールに改善がみられることが、この研究から明らかとなった。この所見が2型糖尿病患者の他の集団にまで一般化できるかどうかを確認するためには大規模コントロール試験が必要である。
(私の感想:糖尿病の人では歯周病が悪化しやすく、治りにくいのは昔から知られたことである。糖尿病の特徴としてそもそも易感染性、創傷治癒遅延などがあるから当然だろう。ところが、昨今歯周病の病態が糖尿病に影響するという、逆向きのことが種々報告されてきている。この論文もそういう観点からの報告である。
この論文では歯周病がある糖尿病患者さんで、歯周病の治療をすることで、糖尿病のよく知られた指標ヘモグロビンA1cが変化する(減少する)という結果を示している。しかし著者らものべているが、過去の報告では相反する結果が示されおり、未だ確定的な結論はでていなし。A1Cは全身的な炎症の影響を受けるので、例えば、歯周治療のために抗生剤投与をおこなうと、糖尿病の各指標が抗生剤そのものの影響を受けることもある。もし歯周病が改善することでヘモグロビンA1Cが影響を受けているにしても、それがどういうメカニズムなのか詳細も(サイトカインの影響などの仮説として提唱する人はいるが)実は明らかにはされていない。
糖尿病の人が、糖尿病を治すために歯医者さんへ行こう、とは思わないだろうし、糖尿病が内科的にコントロールされていない時には歯周治療の効果も思わしくない。糖尿病の人はまず、内科的な治療を受けて、さらに歯周病を気にして歯医者さんへ行くべきだとは思う。)
歯周病、歯周病治療、2型糖尿病、ヘモグロビンA1C
(2011.3.14追記)(7.16追追記)

No.006
Association between periodontal infection and obesity: results of the Health 2000 Survey.
Saxlin T, Ylostalo P, Suominen-Taipale L, Mnnisto S, Knuuttila M.
J Clin Periodontol 2011; 38: 236?242.

歯周病と肥満との関連について調べた。歯がある人で、糖尿病でない人2784人(年齢は30-49才)を対象とした。その結果、深い歯周ポケットのある歯の数は肥満指数(BMI)と関連が認められた。また非喫煙者に限ると、同じく深い歯周ポケットのある歯の数は、体脂肪率や胴囲とも関連がみられた。しかし、その因果関係を推測するにはさらなる研究が必要である。(2011.2.25追記)

最新の歯周病治療歯周病研究論文紹介 トップ

001(no.001-005) ← 002 → 003(no.010-015)

一息入れたい人はこちら→ブログ