難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 論文紹介004(no.015-020)

No.020
Salivary infectious agents and periodontal disease status.
Saygun I, Nizam N, Keskiner I, Bal V, Kubar A, Ac?kel C, Serdar M, Slots J.
J Periodontal Res. 2011 Apr;46(2):235-9

唾液の微生物が、歯周疾患の診断や歯周治療の指標となる可能性が最近の興味ある研究トピックである。この研究の目的は、歯周病原性菌の唾液中数が、同じ感染性因子の歯周ポケット内数と関連しているかどうか、そしてテストした感染性因子の唾液中数が歯周組織の健康なあるいは種々のタイプの歯周炎に罹患した患者と区別できるかどうかについて決定することである。この研究では150人の全身的健康な成人が対象で、そのうち37人が歯周組織が健康、31人が歯肉炎、46人が慢性歯周炎、そして36人は侵襲性歯周炎であった。各被験者は、歯列の中で二箇所の最も深い歯周ポケットと全唾液から細菌サンプルを提供した。Aggregatibacter actinomycetemcomitans, Campylobacter rectus, Fusobacterium nucleatum, Porphyromonas gingivalis, Prevotella intermedia, Tannerella forsythia と Epstein-Barr virusをTaqMan real-time PCR法で同定した。統計処理はMann-Whitne U-testを用いた。
C.rectus, F.nucleatum, P. gingivalis, P. intermedia and T. forsythiaは、歯周組織が健康な被験者からの唾液サンプルよりも、歯肉炎、慢性歯周炎、侵襲性歯周炎の被験者からの唾液サンプルで有意に高いコピー数が生じていた。A.actinomycetemcomitansは歯周組織が健康な被験者に比較して、侵襲性歯周炎の被験者で、唾液中の高いコピー数を唯一示した。Epstein-Barrウイルスの唾液中のコピー数は、調べた四つの被験者群の中でなんら有意差を示さなかった。歯周炎の診断鋭敏度diagnostic sensitivityはP.gingivalisに対し18.19、T.forsythia、P.intermediaに対し86.49であり、特異性の幅ランクは83.78から94.59であった。
歯周炎を同定するために、唾液単位mLあたりの最適コピー数はP.gingivalisに対して40,000、 T. forsythiaに対して700,000 P.intermediaに対して910,000であった。
調べた感染性因子のこれら3種以外が診断としての有用性がほとんどないのに対し、P.gingivalis、T.forsythiaおよびP.intermediaの唾液中のコピー数は歯周炎の存在を同定しうる可能性を有しているように思える。縦断的研究を行うことで、主要な歯周病原性細菌の唾液中のコピー数が将来の歯周組織の破壊を予知できるかどうか、十分な根拠が提供されるようになる。

(私の感想:唾液中の細菌を調べたら、歯周病かどうかわかるという。また深い歯周ポケット内と唾液中の細菌レベルが相関するのは興味ある結論だ。でも歯周病かどうかは口の中を調べたらわかるのだから、歯周病診断の有用性は、臨床的にはあまりないように思える。侵襲性かどうかについての診断価値や歯周ポケットや骨吸収レベルなどとの関連は検討していない。
唾液採取は取るのを依頼する方も、患者さんも苦痛がほとんどなく、手軽にサンプリングできるのがよい。診断検体としてはお手軽である。以前唾液中のある物質の日内変動をみたことがあるが、個人差が非常に大きかった(朝夕で変動の大きい人がいる一方で、あんまり変わらない人もいた)。唾液の流出量によっても変動が考えられるし、インターナルコントロールが欲しいところだ。
アブストの最後に書いてあるように、将来の組織破壊予知が予知できるのであれば非常に有用だ。でも歯周病は部位特異性がある病気なのでどうなるのだろう。つまり、ある歯に凄い病気の進行があっても、隣の歯は健全ということもある。いや、おなじ歯であってもほっぺた側は何ともないのに、内側で病気が進行ということもある。唾液の診断ではそのような局所レベルの判断は難しい。例えると、明日地震が起こる可能性が非常に高いです、と予測しても、それが地球のどこで起こるかはわかりません、では情報として価値が劣る。もし病気の悪化が予知できるのならそれはとても有り難いことだが、どこの歯かはわかりませんでは情報として物足りない。
この論文の続報がでるかどうかわからないが、どんなことをしてくるのかな。)
(2011年6月19日追記)歯周病、診断、唾液、歯周炎

No.019
Essential oils compared to chlorhexidine with respect to plaque and parameters of gingival inflammation: a systematic review.
Van Leeuwen MP, Slot DE, Van der Weijden GA.
J Periodontol. 2011 Feb;82(2):174-94.

このレビューはエッセンシャルオイルマウスウオッシュ(EOMW)の効果を、プラークや歯肉の炎症パラメーターに関して、クロルヘキシジンマウスウオッシュと比較して系統的に評価したものである。Pubmed/MEDLINEとcochrane central databaseで、適切な論文を確認するために、2010年9月までの研究が調査された。網羅的な研究が企画され、2人の評価者によって論文の適格性について独立してスクリーニングされた。クロルヘキシジンマウスウオッシュと比較したEOMWの効果を評価する論文が含まれている。390のユニークな論文が見いだされ、そのうち19論文が適格性条件に合致した。長期(4週間以上)研究のメタ解析から、クロルヘキシジンマウスウオッシュは、プラークコントロールに関して、EOMWより有意に良好な効果を示した(WMD加重平均差:0.19:p=0.0009)。歯肉炎症の改善については両者に有意差はみられなかった(WMD加重平均差:0.03:p=0.58)。長期使用ではEOMWの標準的な配合処方は歯肉の炎症に関して言うと、クロルヘキシジンマウスウオッシュの確かな代替品に思える。

(私の感想:ここでいうエッセンシャルオイルマウスウオッシュとは何かというと、「リステリン」である。プラークコントロールではクロルヘキシジンに劣るが、抗炎症的には同等のようで、著者らはクロルヘキシジン使用で着色が生じることを考慮すると、「リステリン」もいいんじゃないか、と述べている。しかし術後などでは、やはりゴールドスタンダードのクロルヘキシジンがいいと言っている。プラークに対する効果が劣るので当然だ。しかし、幸か不幸か有効濃度が含まれるクロルヘキシジン洗口液は、欧米では販売されていても日本では販売されていない。薬剤でショックを起こした例があったため、日本ではお国がプラーク抑制効果のある有効濃度含有クロルヘキシジンの販売を認めていないからだ。低濃度クロルヘキシジン配合のコンクールは販売されているが。
リステリンには溶媒として20数%というアルコールが含まれている。刺激が強いと嫌がる人もいる。焼酎でゆすぐようなものか。販売会社のwebには、リステリン洗口後も呼気にアルコールが残留するから洗口直後には運転しないようにと書いてある。論文ではアルコールは含有されているが発ガン等安全性について問題のある報告はなかったとしている。
積極的にお勧めするものかどうか、う~ん、ていう感じ)
(2011年6月12日追記)歯周病、洗口、歯肉、炎症、クロルヘキシジン、リステリン)

No.018
The Impact of Vitamin D Status on Periodontal Surgery Outcomes.
Bashutski JD, Eber RM, Kinney JS, Benavides E, Maitra S, Braun TM, Giannobile WV, McCauley LK.
J Dent Res. 2011 May 9. [Epub ahead of print]

ビタミンDはカルシウム代謝や免疫機能を制御する。ビタミンD欠乏は歯周炎と関連しているが、創傷治癒や歯周外科処置後の治療成績に及ぼす影響についての知見はほとんどない。本縦断的臨床試験では、ビタミンD充足あるいは欠乏被験者において歯周外科処置をおこないテリパラチド投与をおこなった後の臨床成績を評価した。重度の慢性歯周炎を有する40名の被験者は歯周外科処置を受けて、毎日カルシウムとビタミンDサプリメントの服用と、自己投与テリパラチドあるいはプラセボ投与を骨の治癒期間に相当する6週間おこなった。ベースライン時ビタミンD欠乏症[血清中ビタミン25(OH)Dが16-19ng/ml]プラセボ被験者は、ビタミンDが欠乏していない被験者に比較して、臨床的アタッチメントロス(CAL)の獲得(-0.43mm vs 0.92mm, p<0.01)とプロービング深さ(PPD)の減少(0.43mm VS. 1.83mm, P<0.01)が有意に低かった。ビタミンDレベルはテリパラチド投与患者における1年後のCALやPPDの改善に影響を与えなかったが、ビタミンD欠乏被験者に比較して、テリパラチド治療を受けたビタミンD欠乏のない被験者では骨内欠損の回復がより大きかった(2.05mm VS. 0.87mm, p=0.03)。歯周外科処置時にビタミンD欠乏があると、1年までの治療効果に対して、ネガティブに影響を与える。今回の研究から、ビタミンD状態は外科処置後の治癒に重要であることが示唆された。
(コメント:テリパラチドは骨粗鬆症治療薬として用いられる副甲状腺ホルモン製剤である。日本では2010年承認された。自分で皮下注射しないといけないらしい。25(OH)DはビタミンDの代謝産物で、総ビタミンD量を反映する指標になる。骨粗鬆症に対する定番薬剤であるビスフォスホネートは、破骨細胞による骨の吸収作用に主に作用するが、テリパラチドは骨形成系に主に作用するタイプの骨粗鬆症製剤である。かつてその作用からビスホスホネートを歯周病の治療薬として用いようとする発想があったぐらいのものである。
さて、ビタミンD欠乏は歯周病による骨欠損の再生に不利に働くようである。)
(2011年6月7日追記)歯周炎、骨粗鬆症、ビタミンD

No.017.
One-year effects of vitamin D and calcium supplementation on chronic periodontitis.
Garcia MN, Hildebolt CF, Miley DD, Dixon DA, Couture RA, Spearie CL, Langenwalter EM, Shannon WD, Deych E, Mueller C, Civitelli R.
J Periodontol. 2011 Jan;82(1):25-32.

ビタミンDとカルシウムサプリメントを摂取する歯周病メインテナンスプログラム患者は、そのようなサプリメントを摂取しない患者に比較して、歯周組織が健康的である傾向を示すという結果を報告した。同じ被験者コホートを対象に、そのような傾向が1年後も継続しているかを検討した。2つのデンタルクリニックで歯周病メインテナンスを受ける患者から51名の患者がリクルートされた。そのうち23名はビタミンD(? 400 IU/日)とカルシウム(? 1,000 mg/日)を服用し、28名は服用していなかった。全ての被験者は隣接面部で3mm以上のアタッチメントロスを有する部位が2箇所以上あった。下顎臼歯に対し、gingival index, plaque index, プロービング深さ, アタッチメントロス, bleeding on probing, calculus indexと分岐部病変が評価された。毎日の総カルシウムとビタミンD摂取量は、サプリメント摂取群でそれぞれ1.769mg(95%信頼区間、1,606ー1.933)と1,049IU(同781ー1,317)で、非摂取群ではそれぞれ642 mg (同505 ー 779) and 156 IU (同117 ー 195) であった(ともにp<0.01)。臨床的な測定値をまとめて考慮すると、サプリメント摂取者と非摂取者の差は次のようなP-valueであった。ベースライン(P = 0.061); 6 ヶ月 (P = 0.049); 12 ヶ月 (P = 0.114). 共変動の調整後におけるサプリメントの影響はベースライン (P = 0.028); 6ヶ月 (P = 0.034); 12 ヶ月 (P = 0.058)であった。カルシウムとビタミンDは歯周組織の健康に中等度のポジティブな影響を与え、継続したデンタルケアはサプリメントにかかわらず、歯周病の臨床パラメーターを改善した。今回の知見は、ビタミンDが歯周組織の健康にポジティブな影響を与えている可能性を支持し、ビタミンDの歯周病に与える影響についてのランダム化臨床試験の必要性を確認するものであった。

(私の感想:カルシウムたくさん取ったら、歯槽膿漏で溶けた骨が治りますか、って聞かれることがあります。一生懸命磨いたり、歯医者さんでのケアを受ける以上の効果はでないが、プラスアルファ的にわずかな効果はあるかもしれない、ってことでしょうか。でもカルシウム1日1769 mgってかなりの量な気がします。最近journal of dental researchにもカルシウム・ビタミンDと歯周病の関連論文が載っていたのでそれもまたみてみよう。)(2011年5月29日追記)

No.016
Association between patients' chief complaints and their compliance with periodontal therapy.
Yeh H-C, Lai H.
J Clin Periodontol 2011; 38: 449-456.

患者の主訴と歯周治療の治療コンプライアンス(治療遵守)との関連を評価した。1196名被験者の平均年齢は47.7±11.6歳であった。それら被験者のうち、36.9%が慢性症状の主訴、22.4%が急性症状の主訴、40.7%が無症候性の主訴であった。480名が基本的な歯周治療を最後まで受け、209名が途中で離脱し、そして507名が治療を全く受けなかった。急性症状の主訴を有する被験者は、慢性の主訴を有する被験者に比較して60%多く歯周治療を受けやすく[オッズ比(OR)1.661;95%信頼区間(CI):1.203-2.293]、無症候性の被験者と同程度であった(OR=1.669;CI:1.252-2.223)。しかし、急性症状を有する被験者は、基本的歯周治療を最後まで受けることが60%少なかった(OR=0.420; 95% CI: 0.267-0.660)。自己負担が必要な場合は、治療を終了するORが1.944である一方、経験ある歯周病専門医による治療の場合はORが1.695であった。患者の主訴は基本的な歯周治療コンプライアンスと関連があった。急性症状の主訴は歯周治療を開始するポジティブな予測因子で、治療の完遂にはネガティブな予測因子かもしれない。
(私の感想:痛みなどがあると、治療を受けようという気になるが、その症状がおさまると治療を続けて受ける気にはならないようです)(2011.5.26追記)

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