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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介005(no.021-023)

No.023
Relationship between oral malodor and the menstrual cycle.
Kawamoto A, Sugano N, Motohashi M, Matsumoto S, Ito K.
J Periodontal Res. 2010 Oct;45(5):681-7.


性ホルモンは歯周病の病因に影響を与える重要な修飾因子と考えられている。この研究では、月経周期における揮発性硫黄化合物(VSC)、臨床パラメーター、細菌レベルの変化を検索した。この研究の対象群は、歯周炎患者女性10名と歯周組織の健康な女性12名からなる。臨床および細菌学的検査は、性周期の排卵期および卵胞期に全ての被験者に実施された。プロービング時出血(BOP)は歯周炎被験者の排卵期に有意に増加したが、健常被験者ではその傾向はみられなかった。歯周炎被験者のVSCレベルは、卵胞期に比較すると排卵期で2.2倍に増加した。排卵期におけるVSCレベルとBOPは、健常被験者より歯周炎被験者で有意に高かった。歯周炎被験者におけるPrevotella intermediaの数、および唾液レベルは、卵胞期より排卵期で有意に高かった。この研究から、歯周炎に罹患した女性の性周期では、VSC、BOP、P.intermediaレベルに変化があることが示された。
(私の感想:性ホルモンに関連して歯肉炎が生じることが知られている。思春期性歯肉炎、月経関連歯肉炎や妊娠性歯肉炎などである。もし、生理周期にあわせて、歯ぐきが腫れたり、不快感が増したり、口臭が強くなるような人がいたら、性ホルモンに反応して何やら細菌が増え出すような歯周病の人かもしれない。早く歯周病専門医かそれに準じた歯科医院へいくのをオススメする。
女性の患者さんで「月経周期にあわせて歯ぐきがむずむず気持ち悪くなるんです」と言って来院してきた人がいた。P.intermediaが増殖していたのかもしれない。歯周基本治療をおこなうと、それ以降は症状が全くでなくなり、BOPも改善しメインテナンスを続けている。)

歯周病、口臭、VSC、性ホルモン、月経
(平成23年6月29日追記)


No.022
A prospective 12-month study of the effect of smoking cessation on periodontal clinical parameters.
Rosa EF, Corraini P, de Carvalho VF, Inoue G, Gomes EF, Lotufo JP, De Micheli G, Pannuti CM.
J Clin Periodontol. 2011 Jun;38(6):562-71.


今回の12ヶ月間の前向き研究では重度慢性歯周炎患者の非外科的治療において、禁煙が及ぼす付加的な影響について評価することが目的である。
禁煙外来で登録された201人のうちから、93人が研究対象として適格とされ、非外科的歯周治療と同時に禁煙治療を受けた。歯周メインテナンスは3ヶ月ごとにおこなわれた。1歯6部位で全顎の歯周組織診査が、較正された診査者によって、喫煙状態はブラインドにされて、ベースライン時、治療後3、6、そして12ヶ月後におこなわれた。さらに、呼気一酸化酸素濃度測定と構造的調査票に基づくインタビューが、人口統計学や喫煙データの収集のためにおこなわれた。
研究対象として適格とされた93人のうち、52人が1年後もこの研究対象としてどどまっていた。これらの人のうち、17人が禁煙し、35人が喫煙を続けるか、禁煙と喫煙を繰り返した。1年後、禁煙者のみが臨床的アタッチメントレベルの有意な獲得をしめした(p=0.04)。しかし、1年後の臨床的アタッチメントレベル、プロービング深さ、プロービング時の出血、プラーク指数に関して群間に差はみられなかった。
禁煙は、1年フォロー後において、禁煙外来患者で重度歯周炎を有する人の臨床的アタッチメントの獲得を促進させていた。

(私の感想)喫煙と歯周病に関する論文は掃いて捨てるほどある。それは喫煙が歯周病や歯周病治療に悪影響を及ぼす因子のひとつだからである。この論文では、禁煙が歯周治療後の各種臨床パラメーターにどのような変化を及ぼすのかについて評価している。結論的には、禁煙すれば、1年後には歯周病治療の効果を促進する可能性が一部(臨床的アタッチメントレベル獲得)で示されたが、歯周ポケットなど他の臨床パラメーターでは有意差がなかった。
喫煙は何故歯周病に悪影響を及ぼすのであろう。実は詳細なメカニズムはわかっていない。タバコ成分が、好中球の走化性や貪食能を損なう、サイトカインや炎症メディエーターの産生を修飾する、血流を減少させる、歯周組織の再血管新生を損なわせるなどをこの論文では、関連する報告を述べている。禁煙してから、喫煙によって変化したある種の免疫反応が回復するのに6ヶ月や8週間かかるという報告もあるようなので、臨床パラメーターの変化を確認するには1年以上もっと長期にフォローする必要があるだろう、と述べている
それにつけても驚くのは禁煙成功率の低さである。当初の93人から1年後まで実験に参加した人が52人しかいないというのも低いが、禁煙プログラムに1年間参加した52人中で禁煙に成功した人は17人のわずか32%である。過去の同様の報告では20%だったことと引き合いに出して、自分たちのグループはまだましだという口調だ。もともと、禁煙外来の患者である。つまり喫煙しているけれど、禁煙したいと思っている人たちである。それでもこのざまである。禁煙治療は、歯医者が歯周病治療で、「よくないからタバコやめましょうねえ」とひとこと言ったような程度ではないのだ。禁煙治療のプロトコールが書かれているので、書き出してみる。週一回、4週連続の平均1時間レクチャーがある。これは、医師、心理学者、歯科医師からなるマルチ訓練チームスタッフによって、喫煙の為害性、禁煙によって得られる有益性についてカウンセリングをするのである。さらに、心理学者が援助する認知行動療法も受けるのである。個人の必要に応じて、ニコチン置換療法や、付加的に抗うつ薬、多動症治療薬ブプロピオンまで使うこともあるプログラムになっている。 それでも1年後に32%しか禁煙はできていない。ブラジルというお国柄もあるのかもしれないが、タバコの魅惑はそれほどまでに、喫煙習慣のある人の心の中に取り込まれているのか。
歯周病、喫煙、歯周炎、禁煙、タバコ
(平成23年6月26日追記)


No.021
120 Infrabony Defects Treated With Regenerative Therapy: Long-Term Results
Maurizio Silvestri,Giulio Rasperini, and Stefano Milani
Journal of Periodontology
2011, Vol. 82, No. 5, Pages 668-675


この研究の目的は再生治療の長期的な有益性とどの因子(例えば、喫煙、口腔清掃、レントゲン的な欠損角度、歯、治療をおこなった臨床施設、生物学的材料)が結果に影響を及ぼすかについて評価した。
120の骨内欠損に対して、移植剤を伴う吸収性あるいは非吸収性のGTR膜を用いた方法、エナメルマトリックスディリバティブプロテイン(EMD)で治療をおこなった。ベースライン時に、喫煙、レントゲン的な骨欠損角度、プロービング深さ(PD)、歯肉退縮、そして臨床的アタッチメントレベル(CAL)が記録された。CALは術後1年時と16年以内で2年ごとに測定された。口腔清掃プロトコールへの患者の参加が記録された。平均±SDベースラインCALは8.5±2.3mm、ベースラインPDは7.8 ± 2.1 mmそしてベースラインレントゲン欠損角度は31.8° ± 8.9°であった。術後1年でのCAL獲得は4.1 ± 2.1 mmであった。EMDは47の欠損に、蛋白除去牛骨併用吸収性膜使用は41症例に、非吸収性膜は7欠損に、吸収性膜と自家骨の併用は5欠損に、そしてコンビネーションは20欠損に施された。被験者の10%が喫煙者で、20%は口腔清掃プログラム参加しなかった。平均フォローアップは9年であった。13年後での歯の生存率は90%、CAL獲得は11年間で82%維持された。統計学的解析から、喫煙と口腔清掃メインテナンスが長期の成果に影響を与えていた。レントゲン的な欠損角度、歯、治療をおこなった臨床施設、そして用いた生物材料は結果に影響しなかった。
再生治療は高い長期の成功率を供した。他の因子が長期予後に影響しなかったのに対し、喫煙と口腔清掃メインテナンスに参加しないことは、予後に 悪影響を及ぼしていた。

(私の感想)歯周外科処置症例と非外科的症例とを比較して長期予後をみた研究などでも、同様に予後に影響する因子はメインテナンスと報告される。今回は再生治療に限った処置であるが、同様に予後に影響を及ぼす因子は”メインテナンス”という結論を述べている。つまり、経過良好を維持しようとすると、ずっと定期的(この研究では4ヶ月)に専門医かそれに準ずるドクターにかかるのが大事、ということになる。まあだから我々は一生懸命、定期的なケアが大事なんですよ、と力説する。でもやっぱり色んな理由で脱落する人がいる。我々の力が足りないということかなあ。
欠損の角度や用いた材料によって予後が変わってもおかしくはないが、この研究では症例に応じて用いた材料を変えている。例えば骨欠損幅が狭い場合はEMD、広ければGTRを選択したと論文で述べている。そのようなやり方をしたためであろう。逆に言えば、適材適所で材料を選択すれば予後はかわらん、ということか。
喫煙については今さら言うまでもない。(平成23年6月25日追記)

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