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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p009(no.033-035)

No.035
Aggressive periodontitis in children: a 14-19-year follow-up.
Mros ST, Berglundh T.
J Clin Periodontol. 2010 Mar;37(3):283-7.


この研究の目的は、局所性侵襲性歯周炎(LAP)の既往のある被験者について、その疾患の再発について評価することである。最初に、LAPに罹患している11人の小児(7ー13才)が診査された。歯肉縁下の細菌叢と軟組織生体組織検査から検体のサンプリングがなされた。非外科的歯周治療がほどこされ、影響のある乳歯と二本の永久歯が抜歯された。被験者は、臨床的およびレントゲン的診査のためにリコールされた。
再診査の結果、被験者のうちの2人は6mm以上のプロービング深さと幾つかの歯で3-4mmの骨吸収を呈して再発がみられ、一方また別の二人は限定的な病的部位がみられた。被験者全員にプロービング時の出血が共通の所見であったが、7人にはアタッチメントロスの進行はみられなかった。最初の診査時にAggregatibacter actinomycetemcomitansとその特殊なJP株の存在が見られたことも、乳歯でのアタッチメントロスの進行がみられたことも、ともに14-19年の追跡調査間中での疾患の再発とは関連が見られなかった。LAPの治療を受けた小児は、14-19年の期間に渡ってサポーティブペリオドンタルセラピーを受けなくとも、歯周病が全ての症例で再発するとはかぎらない。
私の感想:侵襲性歯周炎はかつて若年性歯周炎と呼ばれた歯周炎に相当する、若くして歯周組織の破壊が進行する病変である。若くして発病進行する病変はほっておくとどうなるか。過去の報告では、やはり悪くなるようだ。今回の研究では、歯周基本治療をすれば、サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)(病気が悪化進行しないように定期的にフォローしていく治療)をしなくても、すべての症例で悪化がみられるわけではないという。もちろんSPTをすれば、再発の症例がなかったかもしれないが、今回はそれはわからない。一番わかりやすい実験デザインは、治療をした場合としない場合でどうなるか、さらにSPTをしたらどう、しなかったらどうかがわかるものだ。でも病気があるのをわかっていて、治療しないなんて、そんな倫理的に問題のある人体実験的な研究は普通できない。また若年者で歯周病に罹患している人の数も多いわけではないし、それを何年にも渡って経過をみることも難しい。
この論文読んでいてもあまり面白くなかった。というのも結果を強調するようなものがなく、過去の報告を引用しているのだが、結果を述べるだけで考察めいたことをあまり述べていないのだ。

侵襲性歯周炎、プロービング時出血、骨吸収、再発、レントゲン写真
(平成23年8月7日追記)


No.034
Sex differences in destructive periodontal disease: exploring the biologic basis.
Shiau HJ, Reynolds MA.
J Periodontol. 2010 Nov;81(11):1505-17.


口腔清掃習慣や喫煙などの行動や環境因子について補正をおこなった後であっても、男性は女性に比べて、破壊的な歯周病に対してより高いリスクを有しているという根拠が、幅広く疫学調査から供出されている。しかしながら、明確にすべきことは、免疫機能における性特異的な差が、破壊的な歯周病における感受性の性差に対して、妥当な生物学的なバイアスを提供しているかどうかである。このレビューは、歯周病の有病率や重症度の性差について根底にある生物学的バイアスを供する根拠を調べることである。病因に起因する炎症性病変と免疫応答について、性差と関連した文献のレビューがコンピューター化されたデータベースから検索された(MEDLINE, PubMed, and SCOPUS)。性ステロイドは、炎症の増幅と消散を規定している多重の免疫パラメーターに対し著明な効果を発揮する。自然免疫と獲得免疫に関わる免疫機能には性差が存在する強力な証拠がある。創傷と感染は、女性よりも男性で、インターロイキン-1βと腫瘍壊死因子-αを含む炎症性サイトカインについて高レベルを示すことが関連づけられている。これは破壊性歯周炎に観察された性特異的な差異に対応する。性差異のある遺伝子制御、特に性ステロイド反応性遺伝子においては、この性差異遺伝子制御が、破壊的歯周病に感受性であり性差に寄与しているのかもしれない。
(私の感想:住宅地の中の医院では、患者層が女性にかたよりがちである。なので女性の歯周炎患者様を見ることが多い。
疫学的な調査からは、男性の方が歯周病が進行しやすいのだという。これは、前回のレビューで述べた。その差異を生じせしめている生物学的な原因因子は免疫系にあるようだ。性ステロイドは、炎症の進行や解消を制御する多くの免疫パラメーターに大いなる影響を及ぼす。自然免疫や獲得免疫など、免疫機能に性差が存在することは根拠のある事実らしい。創傷や感染では IL-1βやTNF-αなど炎症性のサイトカインの関与が大きい。歯周病における組織破壊でこのような炎症性サイトカインが関わっていることから、性差の根拠となるようである。また抗原に反応するB細胞の活性化や抗体産生も、女性の方が勝るらしく、このことも歯周組織破壊に抗する理由の一つなのかもしれない。
女性ホルモンがある種の細菌の活動に影響を及ぼすことが知られているが、細菌学的な病因では、男女の有意な性差は確認されていないようだ。ただ思春期や妊娠期には一時的な変化があるのかもしれない、とは述べている。)

歯周炎、リスク因子、性徴
(平成23年8月4日追記)


No.033
Sex differences in destructive periodontal disease: a systematic review.
Shiau HJ, Reynolds MA.
J Periodontol. 2010 Oct;81(10):1379-89.


人間の多くの健康状態や病気での有病率や重症度には性差が存在する。しかしながら、歯周病に対するリスク評価モデルは、リスク因子としての性に関して相反する結果が得られている。文献のシステマチックレビューとメタアナリシスは歯周病の有病率について性に関連して差異があるかを評価する。MEDLINE, EMBASE, そしてSCOPUS データベースから、男性と女性について破壊的歯周病の有病率データを含む集団調査(サンプルサイズが500以上、最低1/2口腔内調査、臨床的アタッチメントレベル調査)が検索された。選択基準を満たす12の集団調査から、50,604人の被験者を表すデータが、疾患のしきい値(3,4,5,と7mm)によって層別化された。5mm以上の臨床的アタッチメントロスしきい値を用いて、有病率の平均加重化性差の計算を可能にする7つの研究からデータが提供された。メタアナリシスから、性の全体への影響は比較的小さかったが、男性と女性(それぞれ37.4%と28.1%)間では9%の差があり、性は有病率と有意な相関があった。この有病率における男女間平均の差は、疾患のしきい値の重症度にもかかわらず、そして他のリスク因子に対して補正をおこなっても同様であった。男性は破壊的歯周炎に対して女性よりも大きなリスクがあるように思える。しかし、男性は、歯周組織破壊の進行度合いについては女性よりも高いリスクがあるようには思えない。
(私の感想解説:色んな病気で、男の方がなりやすいだとか、女の方がなりやすいだとかある。歯周病についてはどうか。このレビューの結論は、男性は女性よりも破壊的な歯周病になっている割合が高い、つまり歯周病には罹患率に性差があると述べている。単に男性と女性の歯周病罹患率を調べるだけでは、信頼のある結論をだせない。どんな因子の解析でもそうだが、隠れた真に影響を及ぼす因子に引っ張られてしまうことがあるからだ。例えば喫煙は歯周病の有意なリスク因子のひとつで、喫煙があると破壊的歯周病有病率と重症度が2.6から6倍になることが知られている。そのため調査した集団で、男性の喫煙率が女性に比べて高ければ、男性の歯周病有病率が高くても、それは喫煙という因子のせいではないか、と疑問を投げかけられる。この論文では、喫煙や口腔清掃習慣などを考慮しても、やはり男性の方が歯周炎の罹患率については高いリスクがあるという。また病気の進行しやすさ、ということについては、男性よりむしろ女性でハイリスクである可能性があるといっている。では歯周病罹患率の男女差は何に起因すると考えられるのか?これについては、次のno.034を読んでみることにしよう)
因果律、歯周炎、リスク因子、性徴
(平成23年7月31日追記)



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