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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介008(no.030-032)

No.032
Clinical and radiographic outcomes of the modified minimally invasive surgical technique with and without regenerative materials: a randomized-controlled trial in intra-bony defects.
Cortellini P, Tonetti MS.
J Clin Periodontol. 2011 Apr;38(4):365-73.


改良minimally invasive surgical technique(M-MIST)単独、エナメルマトリックスデリバティブ(EMD)あるいはEMD+異種骨と組み合わせたM-MIST3群について臨床的、レントゲン的な有効性について比較をおこなった。
45人の患者で45箇所の深い孤立した骨内欠損が選択され、M-MISTでアクセスされ、ランダムに3実験群に割り当てられた。M-MISTは欠損のある歯間乳頭のはく離挙上をおこなわずに、小さく頬側のフラップを形成した。鋭利に肉芽の除去と根面のインスツルメンテーションをおこなったのち、一次閉鎖の前に指定のある場合には再生材料を適用して単純歯間部改良マットレス縫合をおこなった。手術はマイクロスコープとマイクロサージカルインスルメントを用いておこなわれた。結果は、ポケット深さの減少、アタッチメント獲得、レントゲン的骨再生と患者関連因子で評価された。
M-MIST EMD+BMDXの一症例を除く全ての処置部位で、一次創閉鎖が維持された。術中も術後も全ての患者で痛みを訴えることはなかった。群内でベースラインと1年後との間で、プロービング深さの減少、臨床的アタッチメントレベル(CAL)の獲得、骨再生(p<0.0001)に関して3群ともに有意差がみられた。計測した臨床結果のいずれの計測値においても、群間の比較で統計学的な有意差は認められなかった。特に、CAL獲得はM-MISTコントロール群で 4.1±1.4mm、EMD群で4.1±1.2mm 、そしてEMD+BMDX群で3.7±1.3mmの値が観測された。骨内欠損のレントゲン的な骨再生割合は、 M-MISTコントロール群で77±19%、EMD群で71±18%、EMD+BMDX群で 78±27%であった。
再生材料を伴うあるいは伴わないM-MISTは臨床的あるいはレントゲン的な改善を認めた。この初期の研究は群間のCAL差<0.96mmを検知できるほどの十分なパワーを持っていないが、観測結果は驚くほど似通っており、今後の研究を正当化する根拠となる。
(私の感想、解説:この新規の手術法は、これまでの歯周外科処置法とは発想が異なり、大きく歯ぐきの部分を開けずに小さい創面で骨の溶けた部分にアプローチする方法である。骨の溶けた部分の上部にある歯ぐき部分に切開を入れずに残存させて、スペースを確保して、骨の再生に重要な血餅を保持させるのである。自前の歯ぐき弁を利用したGTRみたいなものである。そのためか、エムドゲインや異種骨などを応用しなくても十分な再生が生じている。大きく切開やはく離をしないので、手術時間も短縮できる。いいことずくめに聞こえるが、この方法の欠点は適応が限られることである。頬側弁の切開だけでアプローチできるような骨の溶け方に限られる。もし舌側に骨の吸収が広がっていると対応しにくいし、口の小さい人の奥歯でもやりにくい。
適応は限られるが、良好な結果が得られるので、可能なら利用したい手術法である。)

(平成23年7月23日追記)


No.031
Microbial changes after full-mouth tooth extraction, followed by 2-stage implant placement.
Quirynen M, Van Assche N.
J Clin Periodontol. 2011 Jun;38(6):581-9.


近年の研究では、定量的PCRが、全顎の歯を抜去した後に、歯周病あるいはインプラント周囲炎に関連した細菌を低い濃度においても検出できることを示している。この研究は抜歯後から無歯顎9ヶ月からアバットメント結合の1年に至るまでの細菌叢についてモニタリングした。重度歯周炎に罹患した10人がリクルートされた。抜歯6ヶ月後に、インプラントが埋入された。3~6ヶ月後、インプラントとアバットメントが連結された。抜歯前とアバットメント連結の6ヶ月後に、プラークが舌背、唾液、歯肉縁下(歯およびインプラント)からサンプリングされ、培養、定量PCR、チェカーボード法を用いて解析された。好気性および嫌気性CFU/ml総量の減少が認められた。Porphyromonas gingivalisとTannerella forsythia(定量PCRおよびチェッカーボード法)は、唾液中で、そして少し舌背で減少していた。Prevotella intermediaの変化はごくわずかで、Aggregatibacter actinomycetemcomitansに変化はみられなかった。感染源のなかった歯肉縁下の微少環境では主要な感染細菌のコロニーが早期に生じた。これら細菌の最終的な濃度は低いままであったが、検出頻度はずっと高いままであった。全くの無歯顎になると、歯周病あるいはインプラント周囲炎に関連した細菌の有意な減少がみとめられたが、例外はA.actinomycetemcomitansであり、このことはこの細菌が歯周ポケットなしに主要な感染細菌として生存しうることを意味しているのかもしれない。
(私の感想、解説:歯周病が進行して、最終的に歯がなくなってしまうと、歯周病という病気はなくなる。歯が無くなれば、当然細菌も消えてなくなるとこれまで考えられていた。ところが、この論文の結果は、抜歯をした後も歯周病に関与していたと考えられる細菌は生き延びている、ということを示している。やっかいなことだ。もう少し解説しよう。研究に協力した人たちは重度の歯周病で歯を全て抜くことになった。そして、歯を抜いてから半年後に人工歯根(インプラント)を植えた。そして、その人工歯根にかぶせもののために土台をインプラントの上に作るのだが、その3-6ヶ月後にはこのインプラント周囲で歯周病に関係するばい菌が検出されたというのだ。歯の全くない状態が6ヶ月も続いていたのにである。
以前の報告では見つからなかったのに、何故今は見つかっているのか。それは最近の最近検出技術が進歩して検出感度があがり、以前では見いだせなかったレベルでも細菌の検出が可能になり、今回のような結果がえられるようになったからと考えられる。
この結果から、重度歯周病になっている人は、歯の周り以外(唾液、舌など)にも関連しているばい菌が潜みうること、そして半年後でも歯に類似したインプラントの周囲に侵入しうる能力を持つ可能性のあることが示されたのである。
重度歯周炎に罹患していた人がインプラント治療を受けたときに、そのインプラントは予後が悪いという報告がある(そうではないという報告もある)。今回の結果はその理由付けになる報告である。インプラントはむし歯にはならないが、歯周病に似た病気、インプラント周囲炎(インプラントの周囲の骨が溶けてなくなっていく病気)にはなりうる。歯を抜いて、むし歯にならない人工歯根だから手入れしなくてもOKなんて思っていると、あぶない。歯周病だった人はインプラント治療のリスクに気をつけるべきだろう。)

歯周病、バイオフィルム、無歯顎、インプラント、細菌の再コロニー形成、歯肉縁下コロニー形成、抜歯
(平成23年7月23日追記)


No.030
Clinical and radiographic outcomes following non-surgical therapy of periodontal infrabony defects: a retrospective study.
Nibali L, Pometti D, Tu YK, Donos N.
J Clin Periodontol. 2011 Jan;38(1):50-7.


この後ろ向き研究の目的は、非外科的治療後にみられる骨内欠損の臨床的、レントゲン的な反応を解析し、そのような反応と関連する因子を見いだすことである。臨床的レントゲン的なデータは、非外科的歯周治療を受け、継続して同じ臨床医によって再評価された143人の患者から取得された。歯周骨内欠損の直線的なレントゲン計測が、ベースライン時、経過観察時(術後12-18ヶ月)のレントゲン写真からおこなわれた。多層的に、被験者および部位因子、と骨内欠損の治癒との関連が解析された。68人の患者で126箇所の骨内欠損がベースライン時に同定され、解析に含まれた。プロービングポケット深さ、臨床的アタッチメントロス、レントゲン的欠損深さ、とレントゲン的骨内欠損角度の幅に有意な減少を認めた。ベースライン時の欠損深さと抗生物質併用療法の使用がレントゲン的欠損深さの減少に正の関連を認める一方、喫煙は負の関連を示した。コントロール群のない後ろ向き研究という制限はあるが、この研究から非外科的処置後にも歯周骨欠損に、臨床的およびレントゲン的な好ましい結果が生じうることが示された。そして、欠損が完全に回復するような症例も見られた。

(私の感想:歯周病で溶けた骨は、手術なしではほとんど回復しない、しにくいというこれまでの報告に対し、この論文では、そんなことはない、非外科的な処置でもレントゲン的に骨の十分な回復が確認されますよ、と述べている。
歯周基本治療で、歯肉の退縮が0.8mm、ポケットの減少が2.3mm、そしてアタッチメントの回復が1.5mm、そして骨内欠損の回復が0.7mmとなっておりそれぞれ有意差ありである。骨欠損が満たされるような症例もある、とは述べているものの、骨の回復が平均0.7
である。それと、この研究対象となった症例は全て一人のドクターがおこなっている。結論を一般化するにはこの人らがいうように、さらなる検討が必要である。
ここでも喫煙が目の敵にされている。タバコを吸う人で、タバコをやめずに歯周病を治したいという人がいたら、そんな考えは捨てた方がよい。

歯周病、歯周病治療、骨内欠損、骨充填、非外科的治療、レントゲン、
(平成23年7月18日追記)


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