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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p018(no.056-058)

No.058
Microbial shifts during dental biofilm re-development in the absence of oral hygiene in periodontal health and disease.
Uzel NG, Teles FR, Teles RP, Song XQ, Torresyap G, Socransky SS, Haffajee AD.
J Clin Periodontol. 2011 Jul;38(7):612-20


この研究の目的はデンタルバイオフィルムの再形成の細菌叢遷移をモニタリングすることである。
ベースライン時と歯のクリーニング直後に、歯周組織が健康な38人と歯周炎患者17人から、縁上と縁下のプラークサンプルが別々に採取された。
口腔清掃を中断して1、2、4、と7日後にランダムに選択された1/4区分にある7本の歯から、プラークサンプルが再び採取された。サンプルはチェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーション法を用いて解析された。菌種数は各採取ポイントで、被験者内で平均された。歯周組織の健康な被験者と歯周炎患者間におkる菌数の有意差はマン-ホイットニーテストを用いて解析された。
初回時、歯周炎患者では総縁上菌数と縁下菌数が有意に高い値を示し、そして2日後にはベースライン時と同程度あるいはそれを越える値を示した。Veillonella parvula,、Fusobacterium nucleatum ss vincentii と Neisseria mucosaの縁上菌数は、2日から7日後に増加した。歯肉縁下の細菌数は、Actinomyces、グリーンそしてオレンジコンプレックス類でより増加していた。初回、処置直後と7日後に41菌種のうち17菌種で、縁上菌数における群間の有意差が生じていた。縁下のプラークではこれらの数値は、初回時に39/41分類群、7日後に17/41菌種であった。
縁上のプラーク再発育は歯周炎でも健康歯肉でも同程度であったが、歯肉縁下における細菌の再コロニー形成は歯周炎でより著しいものであった。

(私の感想など:歯周組織が健康な人と歯周病の人では、歯肉縁上プラーク中の細菌数がまず異なる(50.2±6.6対84.1±12.4x10の5乗)。この数値が処置直後には、ともに大きく減少して(生データがないので数値は不明だが、9x10の5乗以下程度)、再び細菌数が増加するが、その再形成ペースに差はない。一方、歯肉縁下でも歯周病の人の細菌数は多く(19.4±3.7対40.9±7.1)、縁上と同様に処置後細菌数がともに大きく減少し(4x10の5乗以下程度)、再び細菌数が増加するが、歯周病の場合の方が多い。これは歯周ポケットの存在によるところが多いのであろう。いずれにせよプラークは口腔清掃しなければ、歯周病の有無にかかわらず、2日あれば元と同じ状態にもどることが示されている。いくら一生懸命スケーリング、ルートプレーニング、ポリッシングなどして、クリーンにしても、細菌はゼロになるわけではなく、しかも患者さんが磨いてくれなければ、2日でチャラということだ。最後に著者らの仮説で
「歯周病被験者の歯肉縁上バイオフィルムの再形成は、歯周組織の健康な被験者の再形成より早い。」は否定され、
「歯周病被験者の歯肉縁下バイオフィルムの再形成は、歯周組織の健康な被験者の再形成より早い。」
「経時的な個々人の細菌叢分類群レベルでの遷移が歯周組織の健康な被験者と歯周病罹患被験者では異なる(ただしActinomyces、グリーンコンプレックス、オレンジコンプレックスにおいて)。」
「P.gingivalis、T.forsythisとT.dnticolaなどの特異的な歯周病原性細菌の再形成は他の菌種に比較して成長速度が遅い。」などの仮説は否定されなかった(仮説が正しい可能性あり、ということ)と締めくくっている。)


バイオフィルム、健康、口腔細菌、歯周の、歯周炎、歯肉縁下、歯肉縁上
(平成23年11月23日)


No.057
Retention of questionable and hopeless teeth in compliant patients treated for aggressive periodontitis.
Graetz C, Dorfer CE, Kahl M, Kocher T, Fawzy El-Sayed K, Wiebe JF, Gomer K, Ruhling A.
J Clin Periodontol. 2011 Aug;38(8):707-14.


この研究の目的は、侵襲性歯周炎(AgP)と慢性歯周炎(CP)に罹患している患者において、保存に疑問のある(クエッショナブルな)歯やホープレスな歯の、サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)の15年間における生存率を決定することである。
50%以上の骨吸収を2歯以上有するAgPが34人とCPが34人(SPT?10 年)、継続して募られた。骨吸収はデジタルレントゲンで測定され、歯を「クエッショナブル」 (?50 to <70% 骨吸収) あるいは 「ホープレス」 (?70%)として分類した。SPT中のプロービングポケット深さ(PPD)の進行、歯の喪失、抜歯の理由が解析された。
AgPにおいて、262歯がクエッショナブル、63歯がホープレスと判断された(CPではそれぞれ149/51)。アクティブな歯周治療期間に25本のクエッショナブルな歯と26本のホープレスな歯が抜歯された(CPではそれぞれ12/26)。AgPのSPT平均15.3 ± 4.1 年の期間に、28本のクエッショナブルな歯と15本のホープレスな歯が抜歯された(CPではそれぞれ28/12)。SPT期間中患者一人あたり平均歯牙喪失は0.14本/年(AgP)と0.16本/年(CP)であった。AgPとCP間で、歯の喪失や経時的なPPD進行に有意差はみられなかった。
AgP患者において、クエッショナブルな歯の88.2% (209 of 237) とホープレスな歯の59.5% (22 of 37) が、歯科大学外来における定期的なSPT期間中の15年間残存した。

(私の感想など:結果で興味ある項目をピックアップする。SPT15年という制約はつくが、侵襲性歯周炎で、クエッショナブルと判定された歯はその20(SPT期間に限定すれば11.8)%が抜歯になり、その抜歯理由の81.1%は歯周病が原因で、抜歯までの期間は平均4.5±6.2年となっている。逆に言うと、クエッショナブルな歯であっても80%はSPT15年間維持されたわけだ。同様に、侵襲性歯周炎のホープレスな歯は65.1(SPT期間に40.5)%が抜歯で、抜歯理由の41.5%が歯周病で、抜歯に至るまでの期間は平均3.9年だった。ついでにいうと、慢性歯周炎では、クエッショナブルな歯は26.8%が抜歯、抜歯に至るまで平均5.9年、歯周病が原因は65%、ホープレスな歯は、抜歯の歯が54.9%、平均4年残存、歯周病理由は57.1%だった。侵襲性歯周炎であっても慢性歯周炎と同じで、クエッショナブルはクエッショナブル、ホープレスはホープレスということになる。またクエッショナブルなら、前述したように侵襲性なら80%、慢性歯周炎なら73.2%と15年後にも結構残存しているよね。でもさすがにホープレスになると半数以上は平均4年程度で抜歯に至っている。ただし、歯周病以外の理由が多いのは何故だろう。抜歯理由を歯周病とそれ以外でしか検索していないためか、この論文では興味あるような考察をしていない。???。しかし半数近くは15年も保存可能だった。これらの結果を、悲観的に見るか楽観的に見るか。どうだろう。)

侵襲性歯周炎、ホープレスな歯、クエッショナブルな歯、サポーティブペリオドンタルセラピー、歯の喪失)
(平成23年11月20日)


No.056
Oxidative and inflammatory status in Type 2 diabetes patients with periodontitis.
Allen EM, Matthews JB, O' Halloran DJ, Griffiths HR, Chapple IL.
J Clin Periodontol. 2011 Oct;38(10):894-901.


この研究の目的は2型糖尿病において、歯周病が酸化/炎症状態と糖尿病コントロールに及ぼす影響を検討することである。
歯周病に罹患した2型糖尿病患者(BMI35+5)20人、年齢/性別のマッチした非歯周炎2型糖尿病患者(BMI29+6)コントロール20人と糖尿病でない歯周炎患者コントロール20人(BMI 25+4)の比較研究がおこなわれ、歯周組織検査と空腹時血液サンプルが採取された。酸化ストレスは 、血漿低分子抗酸化能(pSMAC)とタンパク質のカルボニルレベルにより決定した。白血球総数/百分率、フィブリノーゲンと高感度C-反応性蛋白(hsCRP)により炎症状態を、空腹時血糖、HbA1c、脂質プロファイル、インシュリン抵抗性と分泌によって糖尿病状態を決定した。SPSSを用いて統計学的処理がなされた。
歯周炎に罹患していない2型糖尿病患者に比較して、歯周炎に罹患した2型糖尿病患者では、pSMACが低下し(p=0.03)タンパク質のカルボニルレベルが上昇していた(p=0.007)。糖尿病患者では、歯周炎は有意に高いHbA1c(p=0.002)と空腹時血糖レベル (p=0.04) そしてβ細胞機能低下 (HOMA-β; p=0.01) と関連していた。歯周炎は炎症マーカー脂質プロファイルにほとんど影響を与えなかった。しかし、歯周炎に罹患した2型糖尿病患者は糖尿病でない歯周炎患者よりもhsCRPレベルが有意に高く(p=0.004)、全ての群中最も低いHDL-コレステロールレベルであった。
歯周炎は、2型糖尿病患者における酸化ストレスの増加と血糖コントロールの破綻に関連している。

(私の感想など:糖尿病と歯周病、よくきかれるが、その相互作用は十分には解明されていない。よく知られた仮説は、歯周炎病巣由来のTNFαがインスリン受容体の下流に作用してこれを抑制し、その結果インスリン抵抗性が生じるというものである。この論文では、歯周炎が局所的だけでなく、全身的な酸化ストレスを上昇させ、これがβ細胞の機能低下を生じせしめる、という仮説を提示している。歯周病と糖尿の関連因子は単一でもなさそうなので、種々のメカニズムが関わっているのだろう。)

糖尿病、炎症、酸化ストレス、歯周炎
(平成23年11月17日)




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