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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p021(no.068-071)


No.071
A population-based study of periodontal care among those with and without diabetes.
Newton KM, Chaudhari M, Barlow WE, Inge RE, Theis MK, Spangler LA, Hujoel PP, Reid RJ.
J Periodontol. 2011 Dec;82(12):1650-6.


我々の目的は、歯周治療と糖尿病との関連を調べる目的で、糖尿病罹患あるいは罹患していない集団での歯周病治療の処置率(歯周病のマーカーとした)を調査することである。
年齢40から70才、歯科および医科保険を有し、歯科受診1回以上、医科受診1回以上で、集団コホート(N=46,132)からデジタルデータ5年分を用いて横断的な解析をおこなった。歯周病治療(ある/なし)は、歯周病を管理するための診療行為に対して付与された歯科要求コードにより定義された。
歯周治療と糖尿病との関連は年齢、性別、保険タイプ、喫煙状態、BMI指数、と医療資源群(RUB)(同時罹患性に寄与した健康ケア資源)で補正、層化したロジスティック回帰分析を用いて決定した。
11.2%が糖尿病基準に合致した(46,132人のうち5,153)。糖尿病あるいは非糖尿病患者のうち、年齢で調整した歯周治療率はそれぞれ39.1%と32.5%であった(P<0.0001)
。BMIとRUBで補正したときに、糖尿病と歯周治療との関連は、年齢増加とともに減少した(関連性、P<0.0001)。糖尿病と関連した歯周治療に対する、年齢層調整オッズ比(OR)は、40から44歳の人でもっとも高く(OR, 1.6; 信頼区間 (CI), 1.30 to 1.97)60から64歳の人で最も低かった(OR, 0.97; CI, 0.81 to 1.15)。そして40から54歳の人でのみ有意差がみられた。
非糖尿病の人と比較して、歯周治療率は糖尿病の人で有意に高い値を示すことを見出した。そして、この関連性は年齢とともに減少した。

(私の感想など:歯周病と糖尿との関連性が大きく取り上げられて久しい。そして引き続き歯周病と糖尿病との関連論文は少なくない。
今回の研究で調査しているのは歯周病の状態そのものではなく、「歯周病治療」行為を調査している。具体的にあげているのは、「歯周治療メインテナンス」「根尖側移動術」「骨整形術」「GTR]「フルマウスデブライドメント」「歯周再評価」「 スケーリングルートプレーニング」「「局所の抗生剤投与」など歯周治療に含まれる検査や処置である。つまりここに列挙したような歯周病治療や検査を行っているということは、歯周病であるということを意味していることだ、と解釈しているのである。だから歯周病であるにしても、歯周病の程度を直接に調べているのではないので、被験者の歯周病の状態の詳細はわからない。
比較的若い人ほど歯周病と糖尿病との有意な相関がみられるという。著者らは、ひとつには若い人ほど糖尿病以外の種々の疾患(加齢も含めて)に罹患している可能性が低いので、糖尿病以外に歯周病に影響する因子が少ないことが相関を強めているのだと考察している。また年齢が進んだ人は歯周病が進行して重度な歯が抜歯されていることも相関をさげることになるだろうなど述べている。
前述したように、この研究では歯周病そのものの状態を直接把握していない。しかし、なんといっても今回の研究対象人数が46,132人という圧巻な数字、荒業である。これは歯周病の状態把握を「歯周病治療」という履歴を参照したことでなせたことなのだろう。)


慢性歯周炎、糖尿病、歯周炎、糖尿病合併症
(平成24年1月25日)


No.070
Potential impact of surgical periodontal therapy on oral health-related quality of life in patients with periodontitis: a pilot study.
Saito A, Ota K, Hosaka Y, Akamatsu M, Hayakawa H, Fukaya C, Ida A, Fujinami K, Sugito H, Nakagawa T.
J Clin Periodontol. 2011 Dec;38(12):1115-21.


歯周炎に罹患した患者の口腔健康に関連した生活の質(QoL)に歯周外科処置が及ぼす影響に言及した。
研究に参加した患者は中等度から重度の歯周炎患者から募った。歯周基本治療の後、被験者は歯周外科処置を受けた。口腔関連QOLの歯科衛生モデル(OHRQL)が歯周組織評価の各時点(ベースライン、歯周基本治療後3週間、歯周外科処置後3、4ヶ月)で被験者のQoL評価に用いられた。
21人の患者が歯周外科処置後OHRQL評価を全うした。ベースライン時と比較して、歯周組織パラメーターの著しい改善が歯周治療期間中に認められた。ベースライン時の総平均OHRQLスコア(25.5 ± 11.4)は初期治療の後、および歯周外科処置の後に有意に減少(改善)した(それぞれ16.7 ± 9.5 、 15.0 ± 9.7; p < 0.01)。しかしながら、初期治療後と外科処置後のOHRQLスコアに有意差は見られなかった。
初期治療後に比較して、外科処置はQoLの改善を決定するような傾向がみられるものの、初期治療後と外科処置後間には口腔関連QoLに有意差は認められなかった。

この著者らのグループが日本歯科保存学会誌(52:138-144, 2009)に日本語版OHRQLモデルを記述しているので参考にしよう。このモデルは「症状の改善」「機能状態」「健康認識」を評価し、その尺度は「痛み」「口の乾燥」「食事・咀嚼」「会話機能」「社会的機能」「心理的機能」「健康認識」がある。例えば、「痛み」には「歯が痛いことがありますか」、「歯ぐきが痛いことがありますか」など、「社会的機能」には「歯や入れ歯、口の問題のために笑うことをためらうことがありますか」、「心理的機能」には「歯や入れ歯、口の問題のために恥ずかしい思いをすることがありますか」などの質問がなされている。
質問票に従って患者さんが評価する形式である。歯周病とは関連性が低い項目もある。患者さんがどの程度認識できているのかということもある。いくつかの問題点はあるにせよ、患者さんサイドからの評価という点では意義あることであろう。
しかし、歯周外科による効果は、患者さんにはわかりづらいであろう。痛いから歯周外科をするわけではなく、歯周ポケットの除去や掻爬、骨や歯肉形態の改善、骨の再生などどれも患者さん自身にとっては実感しにくいものだからねえ。

(平成24年1月23日)


No.069
Clinical and patient-centered outcomes after minimally invasive non-surgical or surgical approaches for the treatment of intrabony defects: a randomized clinical trial.
Ribeiro FV, Casarin RC, Palma MA, Junior FH, Sallum EA, Casati MZ.
J Periodontol. 2011 Sep;82(9):1256-66.


この研究の目的は骨内欠損の治療として最小侵襲の非外科的と外科的治療の成績を比較することである。
骨内欠損を有する29人の患者が、1)最小侵襲非外科的療法(MINST)、2)最小侵襲外科的療法(MIST)群にランダムに分けられた。各々の手技のチェアータイムが計測された。プロービング深さ(PD)、歯肉縁の(PGM)と相対臨床アタッチメントレベル(RCAL)が、処置後3と6ヶ月後に評価された。治療中と治療後に患者が感じた不快感/痛みと治療に関する患者の満足度も評価された。
MINSとMIST群ともに3および6ヶ月後に有意なPD減少、RCAL獲得がみられ、PGMは不変であった(P <0.05)。患者が感じた評価については治療方法間で差はみられなかった(P >0.05)。MINST群よりもMIST群で有意に長いチェアータイムが必要であった。
最小侵襲非外科的療法そして最小侵襲外科的療法を骨内欠損の治療に用いた成績は良好であり、有病率は軽微で、患者の満足度も良好なうえに歯周組織の健康が獲得された。しかしながら、治療時のチェアータイムの短縮に関しては非外科的治療法が有利であった。

(私の感想など:MISTそしてMINSTはとってもいいよ、素晴らしい治療法だ、という自慢のような論文だ。治療方法としてはとても興味あるのだが、論文として読むと、僕には興味ある知見はあまり書かれていない気がするのだ。
最小侵襲は、それはいいのだろう。術後の創傷治癒では早期の再血管新生を伴う組織安定が重要だといわれているので、MINSTやMISTの予後成績に有利に作用していると思われる。
もともとflapを開けるのはclosedな条件下で根面のdebridementに限界があるからという側面もあると思うのだ。徹底的な掻爬と最小侵襲とは相反する行為なので、単根歯ならいざしらず、複雑なPD、骨欠損に対しては難しかろう。)

歯周炎、ルートプレーニング、外科処置、最小侵襲
(平成24年1月14日)


No.068
The impact of vitamin D status on periodontal surgery outcomes.
Bashutski JD, Eber RM, Kinney JS, Benavides E, Maitra S, Braun TM, Giannobile WV, McCauley LK.
J Dent Res. 2011 Aug;90(8):1007-12.


ビタミンDはカルシウムや免疫機能を制御する一方、ビタミンD不足は歯周炎との関連が指摘されているものの、その創傷治癒や歯周外科の治癒への影響に及ぼす報告はほとんどみられない。この縦断的臨床試験は、ビタミンD不足およびビタミンD正常患者における歯周外科の結果およびテリパラチド投与の結果を評価することである。重度慢性歯周炎患者40人が歯周外科処置を受け、カルシウムとビタミンDサプリメントを毎日摂取し、骨の治癒期間に相当する6ヶ月間テリパラチドあるいはプラセボを自己投与した。血清25(OH)Dがベースライン時、術後6週間、そして6ヶ月後に評価された。臨床的そしてレントゲン的結果が1年間にわたり評価された。ベースライン時ビタミンD不足(血清25(OH)D、16-19ng/mL)のプラセボ投与患者は、ビタミンDが正常患者に比較して臨床的アタッチメントロスCAL)獲得(-0.43 mm vs. 0.92 mm, p < 0.01)とプロービング深さ(PPD)減少(0.43 mm vs. 1.83 mm, p < 0.01)が有意に少なかった。ビタミンDレベルは、1年後のテリパラチド投与患者群におけるCALとPPDの改善に有意な影響を与えなかったが、テリパラチド投与群でビタミンD患者に比較して、テリパラチド投与ビタミンD正常群では骨縁下欠損の改善が1年後に至るまで優位であった(2.05 mm vs. 0.87 mm, p = 0.03)。歯周外科処置時のビタミンD欠乏は1年後までその治療結果にネガティブに影響を与える。これらのデータ解析からビタミンD状態は術後の治癒に重要な影響を与えているかもしれないことが示唆された。
(私の感想など:ベースライン時ビタミンDが欠損していると歯周外科処置後の軟組織(CALやPPD)の変化にはネガティブな影響が生じたが、テリパラチド投与患者ではベースライン時のビタミンD欠損による軟組織のネガティブな影響は消失していた。
著者らはビタミンD欠乏の定義を25(OH)Dが20ng/mL以下としている。ビタミンD欠乏患者の術後成績を、ビタミンD正常値の人と比較するとCALやPDの改善成績が悪い。これはビタミンD欠乏が歯周外科処置後の治癒に悪影響を与えていることを示唆している。患者は全て手術3日前から6週間に渡って、カルシウムとビタミンDサプリメントを摂取しているのだが、この行為によってもビタミンD欠乏による悪影響を排除しきれなかったことになる。血清25(OH)D量をモニタリングしてみると、術後6週で26.43ng/mLにまで回復しているが、6ヵ月後には20ng/mに再び低下している。副甲状腺ホルモン(PTH)レベルを安定化して、カルシウムの利用を維持するには血清25(OH)D量が最低でも28ng/mL必要のようで、これらの理由で、ベースライン時にビタミンD欠乏だった患者はサプリメントを服用しても歯周外科処置後の治癒が悪かったのではないかとの考察をおこなっている。
ただ歯周外科処置後の骨縁下欠損レベルについては、ビタミンD欠乏の有無で差はみられていない。これはビタミンD正常群での骨の回復がほとんど認められていないためであろう(骨の再生がみられるような症例なら差がでたかも)。
解釈がややこしいのはテリパラチド投与群である。
ビタミンD正常値の人と比較するとビタミンD欠乏患者のCALやPD改善が劣る傾向がみられるのに、1年後では両者の差がなくなっているのだ。テリパラチド投与群ではサプリメント摂取によるビタミンD欠乏患者のビタミンD回復が著しく、6週6ヵ月後でそれぞれ38.5、26.5ng/mLとなっている。このことも関与するのかも。
面白いのはビタミンD正常患者がテリパラチド投与を受けている場合には、ビタミンD欠損患者がわずかな増加に対して、骨レベルの増加が著しく、しかも1年後まで増加し続けている。症例数が少ないのでなんとも言えないが、もしこれが本当なら、続報や他の研究期間からも同様の結果が報告されるのだろう。)

ビタミンD、テリパラチド、副甲状腺ホルモン、歯周炎、歯周外科成績、骨の治癒
(平成24年1月10日)


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