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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p022(no.068-075)

No.075
Risk variables in the association between frequency of alcohol consumption and periodontitis.
Lages EJ, Costa FO, Lages EM, Cota LO, Cortelli SC, Nobre-Franco GC, Cyrino RM, Cortelli JR.
J Clin Periodontol. 2012 Feb;39(2):115-22.


この研究の目的はアルコール消費頻度と歯周炎との関連を検索することである。さらにこの両者の関連における生物学的、行動学的そして社会的リスク変数の影響も評価する。
被験者は542人で、男女が含まれ35-55才からなり、完全な歯周組織検査がおこなわれ、アルコール飲酒障害鑑別スクリーニング(AUDIT)とCAGEアルコール依存症自己診断法(CAGE)マニュアルに基づき、アルコール消費の頻度に従い4群に分けられた。(1)全く飲酒しないか時折飲酒する(NA)、(2)中等度アルコール飲酒(MA)、(3)強度飲酒(IA)、(4)アルコール依存(DA)。歯周炎の罹患とリスク変数間の関連は、妥当な場合には喫煙状態により層別化した単変量あるいは多変量ロジスティック回帰を用いて解析した。
NA、MA、IAとDA群における歯周炎の罹患率はそれぞれ17.2%、24.0%、29.6%と53%であった。アルコールオッズ比(OR)は消費頻度(DA>IA>MA>NA) の増加と共に有意に増大し、非喫煙者(OR = 1.22 to 3.02)に比較して、喫煙者では(OR = 3.43 to 7.91) おおよそ2倍であった。
アルコール消費者における歯周炎の罹患率は高く、アルコール消費頻度は主に喫煙者で漸次歯周炎のオッズは増加した。

(私の感想など:これまでにも飲酒と歯周病との関連を指摘する報告がある。今回の研究では、年齢を35-55に限定し、歯周病の定義を絞り込み、アルコール依存症も対象としているなどが特徴なようだ。
アルコール飲酒がどう歯周病と関係してくるのだろうか。アルコールが宿主の生体応答や感染自体にも影響を与える。さらにその毒性とエタノールの骨代謝への影響があるとのこと。それで、過度で継続したアルコール摂取が、細菌による感染に対する生体応答に関わるということのようだ。
喫煙する人は過度の飲酒による歯周病に対する影響がより顕著だということ。人によっては心すべきか、、。)


アルコール、歯周炎、リスク因子、罹患率

(平成24年1月30日)


No.074
Mapping biological to clinical phenotypes during the development (21 days) and resolution (21 days) of experimental gingivitis.
Scott AE, Milward M, Linden GJ, Matthews JB, Carlile MJ, Lundy FT, Naeeni MA, Lorraine Martin S, Walker B, Kinane D, Brock GR, Chapple IL.
J Clin Periodontol. 2012 Feb;39(2):123-31.


この研究の目的は、21日間の実験的歯肉炎で、生物学的および臨床症状変化の特徴を明らかにして位置づけることである。
健常人ボランティア(n=56)で21日間に渡って実験的歯肉炎を惹起させた。その後正常のブラッシングが再開された(回復期)。歯肉およびプラーク指数が評価された。歯肉炎誘導期(day0、7、14、21)と回復期(day28、41)に各被験者のテスト部位と対側コントロール4ペア部位から歯肉溝滲出液が採取された。滲出液量が計測され、単一検体が各部位特異的に30秒間サンプルから定量的に測定された。結果は繰り返しの測定とペアサンプルテストの解析により評価された。
テスト部位における臨床指数や歯肉溝滲出液量はday0から増加し、day21で最大値を示した(テスト/コントロールの差は全てp<0.0001)。そして、day28日にはコントロールレベルにまで戻った。4種類の炎症マーカーレベルは同様の動態を示し、テストとコントロール間で有意差があり(サブスタンス P、カテプシン G、インターロイキン1β、エラスターゼ全てでp<0.03)、day21日でピークを示した(全てp<0.02)。α-1 アンチトリプシンのレベルに傾向のあるパターンはみられなかった。
サブスタンス P、カテプシン G、インターロイキン1βと好中球エラスターゼレベルは、概して臨床症状変化に先行しており、歯肉の炎症惹起および回復時に客観的なバイオマーカーとして挙動する。

(私の感想など:実験的歯肉炎、どうしているかというとソフトビニールでカバーして磨けなくしている。それで3週間磨けない。口の中全部じゃないけど気持ち悪いだろうね。このたぐいの実験って倫理上問題あるので歯肉炎しかできない。そう、歯肉炎が生じても、プラーク除去して一生懸命磨けば、もとの健康な歯肉に戻すことができる。歯肉炎は可逆性だからね。でも歯周炎ではこうはいかないので、ホントはみんなが知りたいのは歯周炎の場合だけどそんな実験できない。
今回の結果から著者らが提示した仮説は、プラーク刺激を受けた細胞から神経ペプチドが放出される。で上皮細胞の活性化と好中球の浸潤に続いて急性期反応が生じるというものだ。
この論文ではあんまり考察していないのだが、僕は回復期方も気になる。21日の次に28日そして42日と検体を採取しているが、28日(つまり歯磨き復活後1週間)で臨床所見も、メディエーター数値もほぼday0レベルに戻ってしまっている。だから42日の観察があんまり面白くない。だって数値が下がりきっているから。ブラッシングを再開して3週間は長すぎるだろう。歯肉縁惹起側がメインの観察ポイントであったにせよ、回復期の観察ポイントをもっと短期間にした方がよかった(結果論だけど)。何日、いや何時間で炎症所見が消退し始めるのか、個人的にはそれが知りたかったなぁ。)

バイオマーカー、カテプシンG、実験的歯肉炎、歯肉溝浸出液(GCF)、インターロイキン-1β、炎症、サブスタンスP

(平成24年1月29日)


No.073
Maternal periodontal status and preterm delivery: a hospital based case-control study.
Baskaradoss JK, Geevarghese A, Kutty VR.
J Periodontal Res. 2011 Oct;46(5):542-9.


近年の研究から、妊娠期女性の歯周病は早産に対する影響因子である可能性が示されている。しかしながら、この知見は見解の一致をみているわけではない。この研究はインドケーララ州における母性歯周病と早産との関連を検索するために実施された。
このケースーコントロール研究では18歳以上分娩後の300人(100人症例と200人コントロール)が被験者として参加した。ケース群は(37週未満の)自然早産の人、コントロール群は妊娠37週以上で出産の人であった。標準的、臨床的および歯周組織診査は産科病棟にておこなわれた。そして歯周病と早産の関連性については早産の他のリスク因子も考慮した多変量ロジスティック モデルによって評価された。
ケース群の母親25%で、コントロール群の母親14.5%で歯周病と診断された。ロジスティック回帰解析から、歯周病を有する母親における早産はほぼ3倍のリスクのあることが示された(調整オッズ比ORa)=2.72;95%信頼区間(CI)1.68-6.84)。早産と関連した有意な他のリスク因子にはphysical exertion((ORa)=2.8;95%CI:1.18-6.65)、過去の早産既往歴((ORa)=2.65;95%CI:1.2-5.83)と過去のinfantのabortion/death(ORa)=4.08;95%CI:1.56-10.65)があった。
今回の集団で、歯周炎は早産のリスク因となる可能性がある。

(私の感想など:これまでのこの種の研究対象被験者は社会的経済的に下流層を対象とすることが多く、そのため対象集団の口腔健康への意識が低い。また同時に早産リスクを有することが多い集団でもあった。そこでこの著者らは都心部集団で、社会的クラス、都市農村、学歴、職業、家族人数なども合致させた集団で、他の早産リスク因子も考慮して、早産と歯周病との関連をより厳格に疫学研究したというわけである。
歯周病がなぜ早産・低体重児出産の原因、誘導因子となるか?
歯周病に罹患すると、慢性的に歯周組織が感染し局所および全身的な宿主反応を引き起こす。一時的な菌血症も生じる。歯周病に関連したグラム陰性細菌由来の内毒素も多く生じる。内毒素によるサイトカイン産生やプロスタグランディン産生も亢進するであろう。プロスタグランディンやある種のサイトカインは分娩を促すことが知られている。このようなメカニズムが考えられている。


母性歯周病、早産、妊娠、リスク因子、ケースコントロール研究
(平成24年1月28日)


No.072
Treatment of experimental periodontal disease with antimicrobial photodynamic therapy in nicotine-modified rats.
Garcia VG, Fernandes LA, Macarini VC, de Almeida JM, Martins TM, Bosco AF, Nagata MJ, Cirelli JA, Theodoro LH.
J Clin Periodontol. 2011 Dec;38(12):1106-14.


この研究の目的は、ニコチン投与ラットに惹起させた歯周炎に対して、スケーリングルートプレーニング(SRP)の補助療法として抗菌光線力学的治療(aPT)を比較検討することである。
240匹のラットを均等に2群に分けた。C群として生食処理群、N群としてニコチン処理群である。歯周病は両群下顎第一大臼歯に惹起させた。7日後リガチャーが除去された。全ての動物はSRP処置を施され、次の各処置に従い分けられた:SRPー生食洗浄;トルイジンブルー-O(TBO)ーフェノチアニジウムダイ(100 μg/ml)での洗浄;LLLTーレーザー照射 (660 nm; 0.03 W; 4 J);aPDT-TBOとレーザー照射。各群の各処置あたり10匹が7、15と30日後に安楽死された。組織計測的と免疫組織的評価が統計学的に解析された。
群内解析から、全ての実験期間でaPDT処置はSRPと比較して骨吸収量が少ないことが示された。群間解析から、N群aPDT処置は実験期間を通じてSRP処置C群よりも低い骨吸収量であることが示された。
抗菌光線力学的療法はニコチン投与ラットに惹起された歯周炎で、有効なSRP補助療法である。

(私の感想など:光線力学的療法の効果を動物実験で検討している。ラットに歯周病をおこさせて、SRP単独と光線力学的療法の併用とを比較している。
アブストではわかりにくいのだが、C群で骨吸収量は30日後でSRP単独 0.99、SRP+TBO 0.66、SRP+LLLT 0.50、SRP+aPDT 0.38(単位は平方mm)となり、N群で骨吸収量は30日後でSRP単独 1.89、SRP+TBO 0.76、SRP+LLLT 0.51、SRP+aPDT 0.40(単位は平方mm)である。どちらの群でもaPDTの骨吸収量が少ない。
ラットに惹起させる歯周炎は必ずしもヒトの歯周炎のよいモデルではない。骨吸収のメカニズムもラット実験モデルとヒトの歯周炎では異なると考えられている。それだけに、今回の結果がヒトの歯周炎でも同様かと言われると??まあ少なくとも動物実験系では光線力学的療法は有効ということだ。
用いられた機器はペリオウェイブ/ペリオウエーブではなく、ブラジルのバイオウエーブだった。)

歯槽骨吸収、レーザー、ニコチン、破骨細胞、歯周炎、光化学療法
(平成24年1月26日)



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