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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p026(no.091-095)

No.095
Clinical and microbiologic results 12 months after scaling and root planing with different irrigation solutions in patients with moderate chronic periodontitis: a pilot randomized trial.
Kruck C, Eick S, Knofler GU, Purschwitz RE, Jentsch HF.
J Periodontol. 2012 Mar;83(3):312-20.


この研究の目的はスケーリングルートプレーニング(SRP)に際し異なる歯肉縁下洗浄液を用いた場合に、12ヶ月後の治療結果におよぼす影響をランダム化試験にて決定することである。
広汎型慢性歯周囲炎患者51人が、SRPに際し歯肉縁下洗浄として、0.9%食塩水、0.12%クロルヘキシジングルクロネイト、あるいは7.5%ポピドンーヨードを用いて全顎のSRP治療を受けた。SRP前と2および12ヶ月後に、プロービング深さ(PD)、臨床的アタッチメントレベル(CAL)とプロービング時出血(BOP)が記録された。歯肉縁下のサンプリングが、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythiaとTreponema denticolaに対して解析された。
PD、CALと BOPは12ヶ月後に全ての群で有意な改善が見られた(P <0.001 P = 0.044)。全ての部位と、ベースライン時4から6mmのPD部位に対し群間では有意差は認められなかった。ポピドンーヨード群は最も高い臨床効果を示した。ポピドンーヨードを用いた場合には、12ヶ月後A. actinomycetemcomitansとP. gingivalisが有意に減少していた (P = 0.045とP = 0.002)。 3ヶ月後A. actinomycetemcomitansと P. gingivalisに対して、12ヶ月後T. forsythiaに群間で有意差が認められた。
12ヶ月後の臨床結果では群間に有意差は認められなかった。細菌学的な結果に関しては、ポピドンーヨードを用いた場合にわずかに優位な効果があるように思えた。
クロルヘキシジン ジグルクロネイト、慢性歯周炎、細菌学、ルートプレーニング、ルートプレーニング、塩化ナトリウム
(私の感想など:こんなかわいい論文が載るので、私はjournal of Periodontologyが好きだ。
洗浄で歯周病関連菌達が全部洗い流されたり、死滅するのであればこんな楽チンなことはない。歯周治療ではSRPの効果が高いので、有効差のでるような薬剤ってなかなかない。この研究でも臨床所見の変化は、殺菌性のあるクロルヘキシジンやポピドンヨードを用いても、生食と変わらなかった。そらそうだろう。細菌に対しては効果がある???というぐらいのようだ。このパイロット研究ではポピドン-ヨードに有効性の可能性があるという。さて、研究デザインを考えて症例増やすと統計処理に耐えられるような有効性がでるのだろうか。)
(平成24年3月17日)



No.094
Relationship between periodontal status and levels of glycated hemoglobin.
Morita I, Inagaki K, Nakamura F, Noguchi T, Matsubara T, Yoshii S, Nakagaki H, Mizuno K, Sheiham A, Sabbah W.
J Dent Res. 2012 Feb;91(2):161-6.


この研究の目的は歯周組織の状態と糖尿病との間に双方向性関連が存在するかどうかを評価することである。
研究1ではベースライン時4mm以上の歯周ポケットが存在しない5,856人が含まれた。相対リスクは、ベースライン時糖化ヘモグロビン(HbA1c)レベルが6.5%以上の被験者において、4 mm以上の歯周ポケットが5年インシデント (CPI scores 3 および 4)に対して評価された。研究2では、ベースライン時HbA1c6.5%未満の人6,125人が含まれていた。相対リスクは、CPIで評価されたベースライン時歯周組織状態で、5年HbA1c上昇に対して評価された。
歯周ポケット増悪の相対リスクは、肥満指数(BMI)、喫煙状態、性別、年齢で補正されて、ベースライン時HbA1cが6.5%以上の人々で1.17倍 (p = 0.038)であった。ベースライン時に4から5mmポケットグループと6mm以上の歯周ポケットを有するグループについて、5年後フォローアップ時にHbA1cが6.5%以上であることに対する相対リスクは、BMI、飲酒、喫煙状態、性別と年齢で補正した後、それぞれ2.47 (p = 0.122) と3.45 (p = 0.037)であった。歯周病の進行リスクはHbA1cレベルと関連があり、HbA1c上昇リスクは4mm以上の歯周ポケット進行と関連がみられた。
血糖指数、ヘモグロビンA1、糖尿病、歯周病、コホート研究、縦断的研究
(私の感想など:歯周病と糖尿病の双方向性については、関連を見いだせないとする報告、この論文のように関連ありとする報告があるが、いまのところ後者に分があるようだ。
双方向性のメカニズムについて考察で述べていることを要約する。一つには、まず歯周病が既に上昇しているサイトカインレベルをさらに上昇させて全身的な炎症に影響を与える。最終糖化産物が形成、蓄積されて、この産物の好中球への結合が過剰炎症状態を惹起して、サイトカインに対する反応を増幅させる。過去に活性化された好中球も縁下プラーク内のグラム陰性細菌のLPSを接して反応を亢進させるために、結果として歯周組織の破壊や糖尿病を悪化させる炎症カスケードの引きがねをひいてしまうというもの。
今ひとつは、歯周病がストレスや喫煙と関連があり、この原因因子が糖尿病や肥満などの他の慢性疾患と共通するということだそうだ。
歯周病と糖尿病関連の疫学もあまり目新しいものではなく、ちょっと興味がそがれる。)
(平成24年3月17日)


No.093
Periodontal health status and bacteraemia from daily oral activities: systematic review/meta-analysis.
Tomas I, Diz P, Tobias A, Scully C, Donos N.
J Clin Periodontol. 2012 Mar;39(3):213-28.


この研究の目的は、口腔清掃、歯肉および歯周組織状態の変化が、日々の経口作用から生じる菌血症(B-EOA)の進行におよほす影響について、その罹患率、継続性、強度、菌の多様性を解析し、研究結果の確実性を検索することである。
このシステマティックレビュー/メタアナリシスはPRISMA レポートガイドラインに遵守している。MEDLINE-PubMed、the Cochrane Library とEmbaseがB-EOAについての研究を調べるために検索された。
調査対象に適した可能性のある論文が290であった。そのうち12論文がB-EOAに関して選択基準を満たしており、データ抽出(ブラッシングに関して7論文、デンタルフロッシングに関して1論文とチューイングに関してが4論文であった)のプロセスをおこなった。ブラッシング後の菌血症発生頻度に対するプラークや歯肉指標の影響を評価すると、統合オッズ比はそれぞれ2.61(95%信頼区間(CI)は1.45-4.69)と2.77 (95% CI は 1.50-5.11)であった。フロッシングと咀嚼に続発する菌血症に関する5研究のいずれも口腔清掃、歯肉あるいは歯周組織状態と菌血症の進行との関連性に統計学的な有意差は示されていなかった。
メタアナリシスから、プラーク蓄積と歯肉炎症スコアがブラッシング後の菌血症発生を有意に増加させていることが示された。しかし、システマチックレビューでは口腔清掃、歯肉および歯周組織とB-chewingの進行との関連は示されず、歯肉および歯周組織の健康状態にB-フロッシングが影響するという根拠はみられなかった。
(私の感想など:菌血症は血液中に生きた細菌が検出される状態である。歯科治療の幾つかで菌血症が生じることが知られている。口腔内には沢山の細菌が棲息し、しかも縁下プラークは血管組織に極めて近い状態で存在する。口腔細菌が血管内に侵入しやすいのだ。
ここでタイトルにあるoral activitiesとはブラッシング、フロッシング、咀嚼などである。驚く事なかれ、ブラッシング後の血流内に細菌が検出されるのだ。文献的には菌血症の発生率がブラッシングで0-62%、デンタルフロスで 0-41%、縁上の洗浄処置で0-50%、咀嚼で0-17%などだそうだ。しかしブラッシング後の菌血症がみられるは最長でも15分だそうだ。検出細菌はストレプトコッカス19%、スタフィロコッカス15%でbase line時0.02CFU/ml B-EOA0.97CFU/mlとなっていた。
臨床的に問題となるのは菌血症の累積時間だという。単根歯の抜歯では菌血症6分。抜いてしまったから、もう生じない。ところが一日二回という毎日のブラッシングを1ヶ月おこなった際の累積時間は5370分!ということだ。もし歯肉に炎症があれば菌血症の発生リスクは高まる。それで、歯周炎が感染性心内膜炎などのリスク要因となりうるということだが、この点については相反する所見もある。しかし、菌血症の発生率を下げるためには歯ブラシをしない、ということではなく、ブラッシングを適切におこない、プラーク除去とともに歯肉の炎症が生じないようにすることが肝要なようだ。)
菌血症、経口作用、歯肉炎、メタアナリシス、口腔清掃、歯周炎、システマチックレビュー(平成24年3月16日)


No.092
Pattern and rate of progression of periodontal attachment loss in an urban population of South Brazil: a 5-years population-based prospective study.
Haas AN, Gaio EJ, Oppermann RV, Rosing CK, Albandar JM, Susin C.
J Clin Periodontol. 2012 Jan;39(1):1-9.


この5年縦断的研究の目的は南ブラジル都市部集団における歯周アタッチメントロス(PAL)進行のパターンと速度を検討することである。
2001年、ブラジルのポルトアレグレ在住の人から、代表的なサンプルとして有歯顎の1465人が選ばれ、多段サンプリング計画が用いられた。5年後、697人の有歯顎者(男性294人/女性403人、平均年齢37.9±13才)がフォローアップでデータ入手可能であった。PALはフルマウスプロトコールを用いてキャリブレートされた試験者により評価された。近心のPAL進行評価と平均誤差(SE)が報告された。
被験者の56%(SE 1.9)と36%(SE 1.8)で、PAL3mm以上進行した歯がそれぞれ2本以上あるいは4本以上であった。PAL3mm以上の進行がみられた歯は、罹患歯3.8本(SE 0.2)および5.7本(SE 0.3)とほとんど局所に限定されていた。年単位のPAL進行は平均0.3mm(SE 0.01)であた。年齢、性別、人種と社会経済状態に応じてPAL進行に有意差が認められた。PAL進行は年齢と共に上昇し、40-49才集団で最大の進行を示した。PAL進行は女性や白人よりも男性や非白人で高い値を示した。
このブラジル都市部での大規模集団は、PALが進行する歯周病に罹患しておる、このことから破壊的な歯周疾患の進行予防を目的とした口腔健康増進イニシアチブに対する必要性が強調されるべきだ。
(私の感想など:歯周病って治療しなかったらどうなるのだろう。どんなスピードやパターンで進行するのだろう。素朴な疑問だ。そんなテーマは新しくない。これは新興国ブラジルの都市部ではどうだ、という論文だ。
限定をかけない集団で歯周病の進行パターンを厳密に調べるのは難しい。その人に知られずに歯周病の状態を調べるのは不可能だ。さらに「毎年5年間歯ぐきの状態を調べさせてください」という調査に参加しようという人はきっとお口の健康に少なからず興味のある人だろう。また毎年チェックされるなら、歯も磨かなあかんな、とも思うかもしれない。また継続して参加してくれる人と、途中でドロップしてしまう人との口腔清掃や健康に対する考え方や行動が異なるであろう(この論文ではバイアスは少ないと言っているが)。ちなみにこの調査で継続して調査に参加してくれた人の割合は50%だ(この数字は他の研究と同程度)
今回の調査では、40代で歯周病進行程度が最大であった。まあこれは年代が進むと悪い歯が抜歯されてしまっているので、歯周病の進行程度としては低下する、との解釈がある。それも理由のひとつだろう。しかし年齢と共に歯周病進行速度は高くなる、という研究もある。
今回の研究から、歯周病は治療を受けなくても口腔内全体が同程度に進行する訳ではない、ということが確認された。3mm以上PAL進行した歯が2本以上だと56%だが5mm以上となると11.9%しかない。逆に言うと44%の人は3mm以上PAL進行する歯が2本未満ってことだね。だからといってもちろん治療をないがしろにしていい理由にはならないよね。また部位別では上顎第一大臼歯、下顎の中切歯と悪化しやすく上顎前歯犬歯や下顎犬歯が進行しにくいようだ。
アタッチメントロス、縦断的研究、歯周病、疫学、歯周炎
(平成24年3月16日)


No.091
Overweight and obesity predict time to periodontal disease progression in men.
Gorman A, Kaye EK, Apovian C, Fung TT, Nunn M, Garcia RI.
J Clin Periodontol. 2012 Feb;39(2):107-14.


体重過多や肥満指標~体格指数(BMI)、腹囲(WC)身長比~が男性における歯周炎の進行を予知できるかどうかを検討することが本研究の目的である。 被験者は、VA歯科長期研究のうち医学的に健康な1038人で、非ヒスパニックおよび白人男性が、1969年から1996年間に3年間の口腔および医学的診査でモニタリングされた。各個人における歯周病の進行は、ベースラインから歯槽骨レベルが40%以上、プロービングポケット深さ5mm以上、あるいは臨床的アタッチメントロス5mm以上進行した歯が2本かそれ以上有する場合と定義した。拡張コックス回帰分析を用いて、過体重/肥満状態、年齢に対するコントロール、喫煙、教育、糖尿病、直近の歯周治療、近々の予防清掃、と充填/う蝕の面数による歯周病進行イベントを被る危険性を評価した。 体格指数と胸囲身長比は、歯周病指標にも関わらず歯周病進行イベントが発生する危険率と有意な関連が認められた。肥満男性(BMI ?30 kg/m(2) )の歯周病進行に対する修正危険率比は、正常体重と腹囲身長比(?50%)である男性に比較して41-72%高かった。 肥満と内臓脂肪は共に、男性における歯周病進行イベントの増加する危険率と関連する。
(私の感想など:肥満と歯周病との関連性が指摘されている。
肥満、これを定義する指標にはいくつかあるが、どの指標が歯周病との関連性をよく反映しているのだろう。
これまでの研究ではWCと歯周病との関連が報告されている。例えばWCが1cm増えると歯周病オッズで5%の増加が見られるという。健常なWCに比較して高WC(男性102cm、女性88cm)では35%以上の歯周病オッズ増加があるという。 今回の研究で肥満の指標としてWHtRが初めて歯周病との関連が示され、このWHtRがメタボリックリスクの指標として有効だという。さらに脂肪組織からの亢炎症サイトカイン(IL-1β、TNF-α、IL-6、やRANKL)などが歯周疾患の進行リスク増加に関与する可能性を考察では述べている)
体格指数、肥満、過体重、歯周病、腹囲、腹囲身長比
(平成24年3月9日)



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