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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p037(no.146-150)

No.150
Effectiveness of diode laser as adjunctive therapy to scaling root planning in the treatment of chronic periodontitis: a meta-analysis.
Sgolastra F, Severino M, Gatto R, Monaco A.
Lasers Med Sci. 2012 Aug 16. [Epub ahead of print]

慢性歯周炎患者に対してスケーリングルートプレーニング単独処置を行った場合に比較して、ダイオードレーザーの付加的使用がより好ましい効果を追加できるのかどうかを検討するために、システマティックレビューとメタ分析のための好ましい報告アイテムとコクラン共同計画に従ってメタ解析がおこなわれた。7つのデーターベース、マニュアル検索で文献検索がおこなわれた。加重平均差と95%信頼区間が臨床アタッチメントレベル、プロービング深さとプラークと歯肉指数の変化に対して計算された。試験内の多様性に対してI二乗試験がおこなわれた。ファンネルプロットのビジュアル非対称検査、Eggerの回帰分析とtrim-and-fill 法が出版バイアスのために用いられた。 全ての成績は6ヶ月で評価された。対象とした臨床成績のいずれにおいても有意差はみられなかった。多様性や出版バイアスの根拠も検出されなかった。これらの結果は、通常の非外科的歯周治療における付加的治療として、ダイオードレーザー使用がより好ましい臨床的効果を提供しないことを示唆している。しかしながら、解析に含まれる研究がほとんどなく、含まれる5研究のうちの3つは高いバイアスリスクがあることを考えると、この結果の解釈には注意を要する。未だ解明されていない重要な問題は、臨床成績における喫煙の影響、細菌学的な成績に及ぼすレーザーの影響、そして副作用の出現率である。将来的に長期に良くデザインされたパラレルランダム化臨床試験が、適切な線量測定とレーザー設定に加えてダイオードレーザーの付加的使用の有効性を評価する必要がある。
(私の感想など:レビューでみると、歯周治療のダイオード(半導体)レーザーによる付加的効果については上述の通りである。)
(平成24年9月18日)


No.149
Combined photoablative and photodynamic diode laser therapy as an adjunct to non-surgical periodontal
treatment. A randomized split-mouth clinical trial.
Giannelli M, Formigli L, Lorenzini L, Bani D.
J Clin Periodontol. 2012 Oct;39(10):962-70.

この研究の目的は、慢性歯周炎の治療に対してスケーリング/ルートプレーニング(SRP)単独治療をおこなう場合と、SRPの付加的治療としておこなう光切除および光線力学ダイオードレーザー治療の効果を比較することである。
26人の被験者が研究対象となった。上顎の左あるいは右四分の一顎が、偽レーザー+SRPあるいはレーザー+SRPにランダムに振り分けられた。レーザー治療はダイオードレーザー(λ=810nm)を用いた光切除的ポケット内外の上皮切除、SRPとダイオードレーザー(λ=635nm)による、光感受性物質として0.3%メチレンブルーを用いた、複数回の光力学的治療(1週間に1度、4-10度の処置をおこなう平均±SD:3.7±2.4)からなっていた。患者は0日と365日に臨床評価(プロービング深さ、PD;臨床的アタッチメントレベル、CAL;プロービング時の出血、BOP)で、0、15、30、45、60、75、90、365日に処置歯の隣接面から採取された歯肉上皮剥離サンプルの細胞蛍光法(多形核白血球、PMN;赤血球、RBC;障害を受けた上皮)でモニタリングされた。
365日に、コントロール四分の一顎と比較して、レーザー+SRP治療は細菌コンタミネーション、特にスピロヘータや歯肉サンプルにおけるPMNとRBCの脱離(p<0.001)に加えて、PD(-1.9mm)、CAL(-1.7mm)とBOP(-33.2%出血部位)の有意な(p<0.001)減少を生じさせた。
通常のSRPに付加的に行うダイオードレーザー治療(光切除とそれに続く複数回の光線力学療法)は慢性歯周炎患者の治癒を促進する。
(細胞蛍光法、ダイオードレーザー、非外科的/機械的、歯周炎、光切除、光線力学的、スケーリングルートプレーニング、治療)
(今回の実験のように、レーザーを用いて光切除と光線力学的を組み合わせて処置した方法についての報告は初めてだと、著者らは述べている。レーザーの付加的効果だが、PDでコントロールが4.9mm→4.0(初診→1年後)に対してレーザーも行うと5.1mm→2.1(同)だ。細菌学的な検索でも、処置後90日からコントロール群はspirochetesやbacilliでスコアが有意差をもって上昇しているのに対し、レーザー群では365日までほとんど上昇していない。PMNでも同様の傾向だ。
光切除は、歯の全周囲にチップをあてて、接合上皮、歯肉溝上皮、外側の歯肉上皮(歯肉マージンから5mm)の除去をおこなっている。これまで、レーザーを用いた歯周治療の付加的治療は旗色が悪かったように思うが、今回の方法ではハッキリした有効性が示されているように思う。著者らが考察で述べているように、ダイオードレーザーの付加的治療を効果的にするためには、歯肉上皮の光切除的療法と光力学的療法を繰り返すデコンタミネーションの両方の処置が必要なのかもしれない。他施設からも同様の効果が報告されるなら、ダイオードレーザーにも注目すべきか。
次の論文ではダイオードレーザーによる付加的効果に関するレビューをとりあげる。)
(平成24年9月18日)


No.148
Crestal bone resorption after the application of two periodontal surgical techniques. A randomized, controlled
clinical trial.
Kyriazis T, Gkrizioti S, Mikrogeorgis G, Tsalikis L, Sakellari D, Lyroudia K, Konstantinides A.
J Clin Periodontol. 2012 Oct;39(10):971-8.

この研究の目的は、デジタルサブトラクション放射線撮影を用いて、6ヶ月間二種類の歯周外科処置法後の歯槽頂部骨吸収を評価することである。
30人の慢性歯周炎患者がランダム化コントロール臨床研究に参加して、二群に分けられた。コントロールとして修正ウイドマンフラップ術(MWF)、実験群として骨整形切除を行わずに根尖側移動術(APF)をおこなった。臨床計測(プラーク指数、歯肉出血指数、プロービングポケット深さと臨床的アタッチメントレベル)はベースライン時、術後6週後、3および6ヶ月後におこなわれた。デジタルレントゲンはベースライン時、術後1、3、6週間、3および6ヶ月後に撮影されデジタルサブトラクションがおこなわれた。
両処置群ともに臨床的パラメーターの統計学的に有意な改善がみられた。6週のプロービング深さ(PPD)にのみ、2群間に統計学的に有意な差がみられた。このときテスト群がより大きな改善を示した(観察された最小の統計学的に有意な差、SSSDO=0.64)。2群は同程度の歯槽頂骨吸収を示した。
歯槽頂骨吸収は、歯周外科処置の結果観察される現象であり、二種類の手術法間で有意差はなかった。さらに、両処置法ともに満足すべき臨床的な成績をしめしていた。このことは歯周外科処置で骨の切除が必ずしも必要のないことを示すものだ。
(歯周炎、歯周外科処置、デジタルサブトラクション、放射線撮影、骨吸収)
(私の感想など:歯周外科処置をおこなうと、大なり小なり歯槽頂部の骨吸収が生じる。今回の研究ではMWFとAPFともに術後歯槽頂の骨吸収が進行して3週目でピークを迎え、その後は骨の添加が生じている。MWFでは3週と6ヶ月はそれぞれ-3.08±0.37、-0.8±0.39mmで3週から6ヶ月後の骨添加量が2.64±0.38mm、APFでは3週と6ヶ月はそれぞれ-2.90±0.34、-1.49±0.36mmで3週から6ヶ月後の骨添加量が1.61±0.36mmだが、これらの数字は群間に有意差はない。
過去の報告でも、MWF、APF、そしてGTRでも骨吸収の生じることが報告されている。これらの数値は今回の数値と同程度かそれより低値である。そして当然であるが骨切除や骨整形を伴う処置では吸収量は増加する傾向にある。
臨床指数は上述のように術後6週のPPDで群間の差を認めるが、6ヶ月後では群間の差はない。
いずれの手術法でも、臨床成績には改善がみられ、歯槽頂部の骨吸収が生じるがこれも回復する傾向にあるということだ。)
(平成24年9月15日)


No.147
Expression of immune-inflammatory markers in sites of chronic periodontitis in patients with type 2 diabetes.
Duarte PM, Miranda TS, Lima JA, Dias Goncalves TE, Santos VR, Bastos MF, Vieira Ribeiro F.
J Periodontol. 2012 Apr;83(4):426-34.

この研究の目的は慢性歯周炎(CP)に罹患している糖尿病患者の歯肉バイオプシーを検索して免疫-炎症マーカーの遺伝子発現を評価することである。
全身的に、また歯周組織の健康な被験者(SPH)、全身的に健康な歯周炎患者(SHCP)とCP罹患で良好にコントロールされたあるいはコントロール不良の糖尿病患者から歯肉組織が採取された。インターロイキン (IL)-17、 IL-6、IL-23、 IL-10、 IL-4、 インターフェロン-γ、トール受容体 (TLR)-2、 TLR-4、 オステオプロテグリン、 receptor activator of nuclear factor-kappa B リガンド(RANKL)、腫瘍壊死因子(TNF)-α、トランスフォーミング増殖因子-β、フォークヘッド転写因子p3, オーファン核内受容体 C2 (RORC2), and receptor of advanced glycation end products (RAGE) が定量的リアルタイムPCRによって評価された。
全てのCP群はSPHと比較してTLR-2, TLR-4, IL-17, RANKL, and RAGEのmRNAが高レベルを示し、IL-17とTLR-2 mRNA-陽性バイオプシーの高頻度を示した(p<0.05)。他の群と比較して、糖尿病罹患の両群からのバイオプシーでROCR2の検出頻度が高かった。IL-4mRNA陽性組織の頻度は、SHCPと比較して糖尿病患者では低い値を示した(p<0.05)。
2型糖尿病ではなく、CPが自然免疫と獲得免疫反応に関連した今回の検討遺伝子に有意に影響を与えている。
(慢性歯周炎、サイトカイン、糖尿病、遺伝子発現、PCR)
(私の感想など:糖尿病と歯周病だからTNFαに注目してみよう。結果は歯周病があろうが、糖尿病があろうが、群間に差はみられない。過去の報告には2型糖尿病で糖コントロールが悪いと歯周組織におけるTNF-αやIL-6の遺伝子発現やタンパク発現が高くなっているという報告がある。歯周病と糖尿病を関連づけるキーファクターとしてTNF-αが知らているのだが、今回の研究では、TNF-αの特徴的な関与を示すエビデンスは提供されなかった。
Th1サイトカインであるIFN-γ、Th2サイトカインであるIL-4やIL-10は歯周炎の有無による差はなかったのに対し、IL-17には有意差がみられている。IL-17に関する論文が増えているのだが、歯周炎ではIL-17やIL-17陽性細胞が重要な役割を果たしているのだろうか。
結論として、糖尿病であることが、歯周組織の炎症マーカーには影響を与えておらず、歯周炎がそのプロファイルに影響していた。著者らは何か見つけたかったのだろうが、糖尿病の存在が歯周組織の炎症マーカーに影響している!というような所見を、今回は、見つけることはできなかったようだ。)
(平成24年9月11日)


No.146
Periodontal disease decreases insulin sensitivity and insulin signaling.
Colombo NH, Shirakashi DJ, Chiba FY, Sara de Lima Coutinho M, Ervolino E, Saliba Garbin CA, Machado UF, Sumida DH.
J Periodontol. 2012 Jul;83(7):864-70.

この研究の目的は非糖尿病ラットにおいて、歯周病などの局所の炎症性イベントが腫瘍壊死因子α(TNF-α)血漿濃度の増加や、インスリン感受性とインスリンシグナルの減少を誘導するかどうかを検討することである。48匹のオスウィスターラット(2ヶ月齢)が、リガチャー誘導歯周炎(LPD)あるいはコントロール(CN)のいずれかの2群に分けられた。実験はリガチャー処置後28日に両群でおこなわれた。血糖とTNF-αの血漿濃度(n=10)がグルコースオキシダーゼ法とエライザ法によってそれぞれ解析された。インスリン感受性(n=7)はインスリン負荷試験を用いて測定された。インスリンのシグナル伝達(n=7)はウエスタンブロット法を用いてインスリン感受組織におけるpp185チロシンリン酸化状態により測定された。
血糖変化は見られなかった(p>0.05)が、LPD群はインスリン感受性が減少した(p<0.05)。LPDラットにおけるTNF-α血漿濃度はCNラットと比較して高かった。加えて、LPD群の白色脂肪組織と骨格筋組織にインスリン刺激後、CN群と比較してpp185チロシンリン酸化の減少が見られた。
LPDはおそらくはTNFα血漿濃度の上昇のために、インスリンシグナル伝達とインスリン感受性に変化を引き起こしうる。それゆえ、今回の結果は、糖尿病を予防するために歯周炎のような局所炎症性疾患の予防が重要であることを強調するものだ。(糖尿病、インスリン、インスリン受容体基質タンパク、インスリン抵抗性、歯周炎、腫瘍壊死因子α)
(インスリンはインスリン受容体に結合することでその作用を発揮する。インスリン受容体は、インスリンが結合するαサブユニットとチロシンキナーゼを含み細胞質内へ刺激を伝達するβサブユニットから成っている。
βサブユニットは刺激を受けると自己リン酸化を生じ、さらにインスリン受容体基質(IRS)をリン酸化する。このチチロシンリン酸化した基質は続いてホスファチジル イノシトール3-キナーゼ(PI3K)を活性化して、幾つかの過程を経てグルコースの取り込み輸送最終的には細胞内に存在するグルコース輸送体4(GLUT4 :Glucose transporter 4)が細胞表面に移動して細胞外のブドウ糖を細胞内に取り込む。ところがこの
IRSにはセリン残基もあり、このセリン残基がリン酸化されてしまうとインスリンのシグナル伝達が阻害される。TNFαはセリンキナーゼの活性化を介してIRSのセリン残基のリン酸化を引き起こすので、結果としてインスリンの作用が抑制されることになる。
以上の背景が歯周病と糖尿病との関連メカニズムを知る基礎知識である。
今回の動物実験から、歯周炎の進行→TNFα上昇→インスリンのシグナル伝達阻害、というメカニズムがお話としてできる、ということ。
ただヒトを対象にしたときに、歯周炎で必ずしもTNFαが上昇するわけではない。)
(平成24年9月7日)



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