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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p041(no.166-170)

No.170
Hierarchical decisions on teeth vs. implants in the
periodontitis-susceptible patient: the modern dilemma.
Donos N, Laurell L, Mardas N.
Periodontol 2000. 2012 Jun;59(1):89-110. Review.

(アブストラクトはありません。
一部抜粋と私の感想など:
インプラントは歯周病罹患歯よりも成功する予知性が高く、歯周病罹患歯よりも合併症も少ないと、当初は考えられていた。つまり、「インプラントは全ての問題を解決できる」というドグマが作られたわけだ。しかし、インプラントが広く応用さられてくると、インプラントは難攻不落の永久物ではなく、インプラント周囲炎というやっかな疾患に罹患することがわかってきた。
歯かインプラントか、というのは本来おかしな比較だと著者らは主張する。というのはインプラントは歯が失われた後の治療法として考えられるべきもので、歯の代替物として考えるべきではないから。
“戦略的抜歯”と称して、現状以上の骨吸収を防ぐために積極的に抜歯をおこない、インプラント治療を行うことがある。しかし、抜歯後の骨吸収を防ぐことは出来ない、と現在のエビデンスは示しています。

さて、この論文の副題にある「ジレンマ」とは何でしょう。そのジレンマを生み出している背景は、歯周病に対するリスク因子とインプラント周囲炎に対するリスク因子は共通であるという、こと。つまり、歯周病がひどくて歯を抜くことになりやすい人というのは、抜歯後にインプラント治療を行うと、そのインプラントはインプラント周囲炎という病気になりやすい、と考えられる訳だ。歯周病で歯を抜かなければならない人ほど、インプラントも予後が悪い。まったくもって、歯周病とは歯を抜いてからも、ついてまわるようなたちの悪い病気といえます。歯を抜いても、歯周病やインプラント周囲炎になりやすい、という素因の多くは無くなるわけではないので、素因を持つ人は踏んだり蹴ったりだろう。もちろん抜かなかった歯以外の歯周病治療が適切に行われていないと、さらにインプラント周囲炎という病気発症リスクは高まる。
著者らは最後に次のように述べている。
失われた歯を、歯の支持で、あるいはインプラント支持を利用した治療法で代替することが可能です。特に、インプラント治療はその機会が増えてきており、いきおい早期に抜歯されることもあります。しかし、歯周病に罹患した歯を長期間維持し、機能を発揮させることが可能である、という有意なエビデンスは存在します。
ところが、10年を越えて残存するインプラントに関する我々の知識は限定的で、しかもそれはもはや利用できないようなインプラントシステムについてです。同時にインプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎そしてインプラント喪失という生物学的な合併症は増えています。
インプラント周囲疾患に対する患者関連のリスク因子は同定されてきており、それには喫煙、清掃不良、歯周病既往があります。それゆえ、もしインプラント治療が歯周病患者で考慮されるのであれば、患者の期待に基づいたコストベネフィット解析と共に、患者と部位リスクのプロファイル評価が、歯周治療の完了の後に引き続き観察期間をおいて、常に行われるべきである。)
(平成24年11月6日)


No.169
Effect of gingivitis on azithromycin concentrations in gingival crevicular fluid.
Jain N, Lai PC, Walters JD.
J Periodontol. 2012 Sep;83(9):1122-8.

マクロライド系抗生物質は炎症組織で高濃度をもたらす。このことは、歯肉炎部位における歯肉溝浸出液(GCF)の抗生剤レベルが上昇していることが示唆される。しかしながら、歯肉炎と関連したGCFの容量増加はマクロライドの濃度を大きく薄める可能性もある。これらの仮説が正しいかどうかを決定するために、全身投与をおこなったアジスロマイシンの生物学的利用性が、健康な部位と歯肉炎部位におけるGCFで比較された。
健康な9人の健常被験者において上顎6分割部位で実験的歯肉炎が惹起された。反対側の健常な6分割部位がコントロールとして設定された。参加者は500mgアジスロマイシンを服用し、24時間後に250mgを服用した。2回目の服用後4時間後にプラークが実験部位から除去された。GCFサンプルがその後2,3,8,15日後に回収され、アジスロマイシン濃度が寒天拡散バイオアッセイで決定された。
2と3日に、実験部位にプールされたGCF容量はコントロール部位よりも有意に高い値を示した(P<0.01)、そして実験部位からプールされた30秒GCFサンプルにおけるアジスロマイシンの総量はコントロール部位よりも有意に高かった(p<0.02)。しかしながら、どの時点でも実験部位サンプルとコントロール部位サンプル間ではアジスロマイシン濃度で有意差は見られなかった。濃度は2日目7.3 μg/mL、15日目2.5 μg/mLを越えていた。
アジスロマイシン濃度は、歯肉炎部位と健常部位で同程度であった。このことはGCFアジスロマイシン濃度を制御するプロセスが局所の炎症変化を代償していると考えられる。
(抗感染症薬、炎症、薬物動態学)

(論文の考察や私の感想など:みんなが注目するアジスロマイシンは歯肉溝浸出液にはちゃんと出てきている。今回の服用パターンで、2週間後であってもGCF中2.5μg/mLと高い濃度を維持している。アジスロマイシンの殺菌作用は時間依存的らしい。つまり有効濃度が長期間続くところにこの薬剤の殺菌作用特性があるようだ。通常1.5g服用だが、今回の実験のように半分の750mgでも長期間維持されている。この濃度はA.actinomycetemcomitans(0.25から2.0μg/mL)、P.gingivalis(0.125から2.0μg/mL)とPrevotella intermedia(0.03から1μg/mL)の最小阻止濃度を超えている。
しかし歯周病治療に関して、肝心の臨床研究結果がパッとしないのは前回紹介したとおり。
歯肉炎部位でも健常部位でもGCF中のアジスロマイシン濃度はあまりかわらのだが、そのGCF中のアジスロマイシン濃度は血清の15-50倍(1、2日)であり、その後も50倍以上だった。
炎症部位では通常血管や上皮の透過性は亢進するので、炎症部位での濃度が高くなってもおかしくはない。マクロライド系抗生剤は線維芽細胞、上皮細胞、炎症性細胞、免疫担当細胞などに取り込まれて、これら細胞はリザーバーとして機能しうる。健常部位でも歯肉炎部位と同程度のアジスロマイシン濃度が維持されたのは、これらリザーバー細胞が関与していたのあろうと考察されている。)
(平成24年11月3日)


No.168
Effect of azithromycin, as an adjunct to nonsurgical periodontal treatment, on microbiological parameters and gingival crevicular fluid biomarkers in generalized aggressive periodontitis.
Emingil G, Han B, Ozdemir G, Tervahartiala T, Vural C, Atilla G, Baylas H, Sorsa T.
J Periodontal Res. 2012 Dec;47(6):729-739.

この研究の目的は広汎型侵襲性歯周炎患者に対して6ヶ月の臨床的および細菌学的パラメーターと歯肉溝浸出液のMMP-1およびTIMP-1に及ぼす、非外科的歯周治療と併用するアジスロマイシンの影響について検討することである。
広汎型侵襲性歯周炎患者32人がランダム化、二重盲検、プラセボコントロール、パラレル研究に参加した。被験者はアジスロマイシン(1日500mg3日間)あるいはプラセボ群にランダムに割り当てられた。プロービング深さ、臨床的アタッチメントレベル、プロービング時の出血の有無、プラークが記録された。歯肉溝浸出液は単根歯から採取され、細菌学的サンプルはプロービング深さ6mm以上を有する単根歯2本から採取された。細菌学的パラメーターはAggregatibacter actinomycetemcomitans,、Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythia、 Fusobacterium nucleatum、 Prevotella intermedia に対する定量的リアルタイムPCRにより解析された。歯肉溝浸出液バイオマーカ-は蛍光免疫測定法とエライザ法を用いて決定された。
全ての臨床的パラメーターは改善がみられ、細菌学的パラメーターと歯肉溝浸出液MMP-8レベルは6ヶ月後に有意に減少した(p<0.05)。両群とも同様の改善であった。アジスロマイシン群は1ヶ月後にプラセボ群に比較して深いポケット改善(ベースラインから3mm以上のプロービング深さ減少)がより高いパーセンテージを示した(p<0.05)。
付加的アジスロマイシン治療は広汎型侵襲性歯周炎患者において、臨床的パラメーター、細菌学的パラメーター、と歯肉溝浸出液生化学的マーカーについて、非外科的治療を上回る付加的利益を提供はしなかった。
(付加的治療、アジスロマイシン、スケーリングルートプレーニング、広汎型侵襲性歯周炎、歯肉溝浸出液MMP-8、TIMP-1)
(論文の考察や私の感想など:アジスロマイシン、効かないんですかね。ベースラインから3mm以上のポケット減少を示した部位のうち、ベースライン時7mm以上のポケットをパーセントで比較すると、1ヶ月後にのみ群間比較で有意差があった。そう、かなり無理からって感じです。後の項目は全然ダメですから。
著者らのグルーブは広汎型重度慢性歯周炎でもアジスロマイシンを用いた同様の臨床研究を行い、別雑誌に報告している。
Azithromycin as an Adjunctive Treatment of Generalized Severe Chronic Periodontitis: Clinical, Microbiological and Biochemical Parameters.
Han B, Emingil G, Ozdemir G, Tervahartiala T, Vural C, Atilla G, Baylas H, Sorsa T.
J Periodontol. 2012 Feb 11. [Epub ahead of print]
この研究でもアジスロマイシンの付加的な有効性を示すことはできなかった。投与法やSRPプロトコールに依存するのだろうか。それに引き換え、少し前に紹介したように、メトロニダゾールの有効性を示す論文は少なくない。これらの結果を見ていると、メトロニダゾールに比較してアジスロマイシンは弱っちいのかも。)
(平成24年10月31日)


No.167
Serum lipids modify periodontal infection - C-reactive protein association.
Haro A, Saxlin T, Suominen AL, Ylostalo P, Leiviska J, Tervonen T, Knuuttila M.
J Clin Periodontol. 2012 Sep;39(9):817-23.

この研究の目的は、血清低密度リポ蛋白質コレステロール(LDL-C)と高密度リポ蛋白質コレステロール(HDL-C)のような低レベル炎症関連因子が歯周組織の感染とC反応性蛋白との関連性を修飾するかどうかを検討することである。
この研究は2000年健康調査を基にしている。この調査では有歯顎、非糖尿病、非リウマチの30-49才の被験者(n=2710)から構成されていた。
歯周組織の感染程度は歯周ポケット4mm以上と歯周ポケット6mm以上の歯数で、高感度C反応性蛋白を用いて全身的炎症が測定された。
歯周組織の感染程度はHDL-C値が中央値1.3mmol/l以下かLDL-C中央値3.4mmol/l以上の被験者では、C反応性蛋白レベルの上昇と関連していた。HDL-C値1.3mmol/l以上あるいはLDL-C 3.4mmol/l以下の被験者では歯周組織の感染と血清C反応性蛋白濃度との間に関連性は認められなかった。
この研究から、歯周組織と全身的炎症状態との関連はこれまで推定されていた以上に複雑と考えられる。この研究所見から、歯周組織の感染の影響は血清脂質組成に依存していることが推測される。
(C反応性蛋白、リポ蛋白、歯周組織感染)
(論文の考察や私の考察など:LDL-Cは悪玉、HDL-Cは善玉コレステロールと言われている。どちらも生体には存在するが、単にコレステロールが高いのが悪いわけではなく、両者のバランスが問題だという。
今回の研究では、そのバランスが悪い(LDL-Cが高く、HDL-Cが低い、両者の比が低くなる)と考えられる場合にのみ歯周病とCRPの関連性がみられた。つまり血清コレステロール組成が、歯周炎とC反応性蛋白との関連性に影響を与えていると考えられるわけだ。そのメカニズムが考察されている。
HDLは抗炎症、LDLは炎症を亢進させるという。なので、好ましい脂質組成(LDL-C/HDL-Cが低い)では歯周組織に抗炎症的な効果が働き、好ましくない脂質組成(LDL-C/HDL-Cが高い)では逆に炎症を亢進させて、両者が連動するように関連するのではないか、という考察。二つ目は脂質組成は、摂食栄養素やエクササイズと関連するので、これらのことが抗炎症作用として機能していることが考えられる、という考察。
歯周病とCRPは関連性があるにしても、そう単純ではないようだ。)
(平成24年10月28日)


No.166
Non-surgical periodontal therapy reduces coronary heart disease risk markers: a randomized controlled trial.
H Bokhari SA, Khan AA, Butt AK, Azhar M, Hanif M, Izhar M, Tatakis DN.
J Clin Periodontol. 2012 Nov;39(11):1065-74.

歯周疾患は冠状動脈疾患(CHD)リスクと強く関連する全身的炎症マーカーを上昇させる。このランダム化コントロール研究の目的はCHD患者において全身的C反応性タンパク(CRP)、フィブリノーゲン、と白血球に及ぼす非外科的歯周治療の影響を検討することである。
歯周炎をに罹患して、血管造影的にCHDであることが示された患者(n=317)が介入群(n = 212) あるいはコントロール群 (n = 105)とにランダムに割り当てられた。. 主要評価項目は血清CRPの減少;二次評価項目はフィブリノーゲンと白血球の減少である。歯周治療にはスケーリング、ルートプレーニング、と口腔清掃指導が含まれた。歯周組織と全身的パラメーターはベースライン時、と2ヶ月後のフォローアップ時に評価された。intent-to-treat(ITT)解析がなされた。
研究は完了時、246被験者(介入群=161、コントロール群=85)であった。歯周組織と全身的パラメーターにおける有意な改善が介入群で認められた。介入群でCRP>3mg/Lの被験者数は38%減少し、コントロール群では4%増加した。ITT解析から12.5%の有意な絶対リスク減少がわかった。
歯周炎に罹患するCHD患者では、非外科的機械的歯周治療はC反応性タンパク、フィブリノーゲン、と白血球の全身的レベルを有意に減少させた。
(冠状動脈疾患、CRP、歯周治療、ランダム化コントロール試験、リスク)
(この論文の考察や私の感想など:血清CRPレベルは4.4±0.2mg/L(ベースライン時)が1、2ヶ月後それぞれ3.4±0.2mg/Lと3.1±0.2mg/mLになったのに対し、コントロール群は4.2±0.3mg/L(ベースライン時)が同様に4.1±0.3mg/Lと4.1±0.3mg/Lであった。治療抵抗性高血圧の人に対する歯周治療の効果はCRP(35%)とフィブリノーゲン(14.5%)減少という報告があるようで、本研究の30%と似たような結果といえよう。
HMG-CoA還元酵素阻害薬であるスタチン(メバスタチン、ロバスタチン、プラバスタチン、シンバスタチンなど)は高コレステロール血症の治療薬として知られる。CHD患者を対象に高用量スタチン(80mg)を5週服用した臨床研究では、CRPが36.4%減少したという。別の同様の研究では24.5%。
CRPは冠状動脈疾患、を含む心血管系疾患の予知因子と考えられているため、今回の研究は歯周炎とCHDの関連性を支持する結果であった。
高コレステロール血症治療薬でCRPが減少することを考察で述べているが、次は血清脂質組成が歯周病とCRPとの関連に影響するという報告だ。)
(平成24年10月28日)



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