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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p042(no.171-175)

No.175
Gingival crevicular fluid and plasma acute-phase cytokine levels in different periodontal diseases.
Becerik S, Ozturk VO, Atmaca H, Atilla G, Emingil G.
J Periodontol. 2012 Oct;83(10):1304-13.

この研究の目的は異なる歯周病状態の患者を対象に、歯肉溝浸出液(GCF)と血清の急性期サイトカインであるインターロイキン-1β (IL-1β)、インターロイキン-6 (IL-6)、インターロイキン-11 (IL-11)、オンコスタチン M (OSM), と白血病阻止因子 (LIF)レベルを検索することである。
この研究は80人の被験者が対象となった。慢性歯周炎(CP)20人、広汎型侵襲性歯周炎(GagP)20人、歯肉炎20人、健常な歯肉被験者(H)20人である。プロービング深さ、臨床的アタッチメントレベル、プラーク指数、と歯間乳頭出血指数が評価記録された。
CPとGAgP群はH群と比較してGCFのIL-1β、IL-6、とIL-11レベルが有意に高かった(p<0.05)。逆にCPとGAgP群のGCF LIFレベルはH群と比較して低い値を示した(p<0.05)。GCF OSMレベルは研究対象とした群間では有意差は認められなかった。対象としたサイトカインの血清レベルは群間で有意差は認められなかった。
今回の研究データに基づけば、血清レベルでは無く、歯肉溝浸出液中で上昇するIL-1β、IL-6、とIL-11レベルが歯周疾患における確かな炎症バイオマーカーとなりうる可能性があるといえる。疾患群におけるLIF減少は、歯肉での炎症反応に対するLIFの有益な修飾作用を反映したものかもしれない。
(インターロイキン-1β、インターロイキン-6、インターロイキン-11、白血球阻止因子、オンコスタチンM、歯周炎)
(論文の考察や私の感想など:IL-6受容体はgp130と会合してそのシグナルが細胞内に伝えられる。gp130は別の受容体とも結合してシグナル伝達に関与するが、それらの受容体リガンドがIL-6ファミリーと呼ばれる。今回の研究対象となったサイトカインはIL-6、IL-11、OSM、LIFというIL-6ファミリーとIL-1βである。IL-6、OSM、とLIFはin vitroの系ではあるが、骨の改変や骨刺激に関与しているという報告があるようだ。
また慢性歯周炎患者でGCF中のOSMやLIF上昇を認めるという報告もあるようだ。
歯周炎におけるIL-1βやIL-6の上昇は過去にも報告があり、今回の研究もこれを追認する結果であった。
IL-11は亢および抗炎症性の両面作用を持ち、TIMP-1を誘導して炎症制御作用を持つという。今回はCPとGAgP群で上昇したが、過去には逆に低下している報告がある。どちらにも解釈できる結果だ。
今回の研究ではOSMは病態によって変化しなかったのだが、GCF中IL-6とOSMは慢性歯周炎の程度との関連が報告されている。
GCF中のLIFは今回の検索では歯周炎群で低下しているので、組織防御的に働く善玉的な因子ではないかと考察している。
とまあ、論文の考察にそって書いてはきた。しかし、各群サイトカインレベルの幅は大きい。統計学的にはいざしらず、生物学的には群間の差はどれほどのことを意味しているのだろう。
また血漿中のサイトカインレベルでは、群間に有意差は見られていない。歯周病が引き起こす全身への影響を、歯周病局所から産生されるサイトカインによって説明する仮説があるが、この研究で調べたサイトカインについてはそれを支持するようなデータは得られなかったようだ。)
(平成24年11月21日)


No.174
Influence of smoking on interleukin-1beta level, oxidant status and antioxidant status in gingival crevicular fluid from chronic periodontitis patients before and after periodontal treatment.
Toker H, Akpnar A, Aydn H, Poyraz O.
J Periodontal Res. 2012 Oct;47(5):572-7.

この研究の目的は喫煙が歯周炎患者におけるインターロイキン-1(IL-1β)および酸化物質、と非外科的歯周治療に対する反応、との関連性に及ぼす喫煙の影響を評価することである。
広汎型慢性歯周炎患者30人(15人の喫煙者と15人の非喫煙者)と歯周組織の健康な10人からデータが得られた。歯肉溝浸出液中のIL-1βレベル、総酸化状態(TOS)と総抗酸化状態が測定記録された。プロービング深さ、臨床的アタッチメントレベル、歯肉とプラーク指数、プロービング時の出血も測定された。歯肉溝浸出液と臨床パラメーターはベースライン時と歯周治療6ヶ月後に採取された。
歯周治療後に喫煙者および非喫煙者の両方で臨床パラメーターの統計学的に有意な改善がみられた。さらに、喫煙者のベースライン時IL-1βは非喫煙者と比較して有意に高かった。歯周治療後、IL-1βレベルは喫煙者と非喫煙者の両方で有意な減少が見られた(p<0.05)。ベースライン時や治療6週間後に歯周炎患者と健常人コントロール間でTOSとTASに有意差はなかった。歯肉溝浸出液中のIL-1βレベルは喫煙者と非喫煙者両群でTOSと正の相関がみられた。
歯周治療は喫煙者と非喫煙者の両者で臨床パラメーターを改善させた。今回の結果から歯周治療が歯肉溝浸出液中のIL-1βレベルに影響を与えること、しかしTOSやTASには影響しないことが確認された。
(歯肉溝浸出液、IL-1、歯周炎、喫煙、総抗酸化状態、総酸化状態)
(論文の考察や私の感想など:タバコは歯周病に悪影響を与えることが知られている。喫煙は歯周組織の破壊にどのようなメカニズムで関与しているのか。血管機能、好中球/単球の活性化、接着分子、抗体やサイトカイン産生、さらに炎症メディエーター産生などへの影響が知られている。
細胞の貪食作用の際に活性酸素が用いられるが、活性酸素が一方で組織破壊を促しうる。そのために活性酸素と抗酸化とのバランス不均衡が多くの炎症性疾患で病因に関わっていることが指摘されている。そしてIL-1βは活性酸素の産生を促進するサイトカインの一つである。
そこで歯周組織の病態を評価しうる歯肉溝浸出液をサンプルに、喫煙がIL-1βおよび活性酸素/抗酸化状態へどのように影響しているかを検討した、ということである。
歯周炎患者ではTASはコントロール群に比較してやや減少してしている(有意差なし)。これは過去の報告にも同様の報告がある。TOSやTASは歯周治療によって変化しなかったのだが、過去の報告では同様に変化なしとするものもあればTASが上昇するとの報告もあるようだ。
喫煙者ではIL-1βが非喫煙者に対して高く、歯周治療によって低下している。TOSは喫煙者と非喫煙者で有意差はなかったのだが、IL-1βとTOSで相関があったので、喫煙の影響がサイトカインや酸化物質/抗酸化物質のバランスにも影響しているかも、ということだ。)

(平成24年11月18日)


No.173
Effects of different manual periodontal probes on periodontal measurements.
Holtfreter B, Alte D, Schwahn C, Desvarieux M, Kocher T.
J Clin Periodontol. 2012 Nov;39(11):1032-41.

この研究の目的は同等のプロトコールで、異なったペリオドンタルプローベを用いて研究比較を可能にするために、三種類のペリオドンタルプローベに対する数字選好効果を定量化し、補正値を計測することである。
前向きインビボ交差試験が、6シーケンス、3期間デザインでおこなわれた。6人の試験者がアタッチメントロス(AL)、プロービングポケット深さ(PD)、と歯肉高さ(GH)を、6人の全身的に健康な被験者に対し4歯面で全顎、3種類のプローベ、すなわちPCP11 (3-3-3-2 mm increments),、PCP2 (2 mm increments),とPCPUNC15 (1 mm increments).、を用いて評価した。
AL、PD、とGHの分布はプローベ間(p<0.001)で差があった。PCPUNC15と比較して、PCP11とPCP2のプローベマーキングと一致して歯周組織の測定は、それぞれ試験者によって選好的に識別された。数字選好はPDで最も著しく、ALとGHで低かった。PDは3種類のプローベ間で有意に異なっていた(p<0.05);プローベーと試験者間に関連した効果はALとGHでも観察された。プローベの対比較に対する補正値が決定された。
我々は経験的実証を提供し、歯周組織測定でプローベタイプの効果を定量した。プローベタイプの差は疫学研究内と研究間での歯周組織データを比較する時に考慮され、ここで示されたように適切な補正がされるべきだ。
(バイアス補正値、数字選好効果、手用歯周プローベ、歯周アタッチメントロス、プロービングポケット深さ)
(論文の考察や私の考察など:測定には色々なバイアスの入ることがある。歯周組織検査である歯周ポケットの測定に大きく影響する因子は測定者とプローブであろう。ここで取り上げているのはdigit preference数字選好である。例えばアナログで血圧を測るときに、81、82や83といった数値ではなく、80、85や90といった数値が好んで読み取られる、これがdigit preferenceである。プローベを用いた測定の際にも同様の効果が現れると考えられるが、それはプローベの種類によってどう異なるかをこの研究では検討している。
この研究で用いられている3種類のプローベPCP11、PCP2とPCPUNC15はヒューフレディ社のものでPCP11は先端から3-6mmと8-11mm部分が黒いマーキングされ、PCP2は2-4、6-8、10-12mmに黒いマーキングがされている。そして、この論文で推奨されているPCPUNC15は1、2、3、6、7、8、11、12、13mmに1mm間隔に黒いマーキングと4-5mmと9-10mm部分に黒いマーキングがされている。
2790歯(11160部位)が3種類のプローベで診査された。結果をみると確かに違う。ポケット測定で、3-3-3-2mmパターンのPCP11は2mmと測定されたのが35%、3mmは26%なのに対し、2-2-2-2-2-2mmパターンのPCP2による読み取り値は2mmが52%で3mmが10%なのだ。ちなみに1mm刻みのPCPUNC15は2mmと測定されたのが42%で3mmと測定されたのが14%であり、両者の中間比率となっている。つまり3mmにマーキングされたPCP11は3mmと読み取られることが多くなり、2mmのそれであるPCP2は2mmという読み取り値が多くなっている。
PCP11、PCP2とPCPUNC15プローブ先端の直径はそれぞれ0.48、0.50と0.57mmとなっている。先端の細さはプロービングに影響するので前2者はoverestimate気味になるだろうが、この研究もそれを反映した結果がでている。
スクリーニングには良いが、疫学調査や臨床研究ではゴールドスタンダードとしてPCPUNC15タイプのプローベを用いた方がよさそうである。)
(平成24年11月15日)


No.172
Levels of Selenomonas species in generalized aggressive periodontitis.
Goncalves LF, Fermiano D, Feres M, Figueiredo LC, Teles FR, Mayer MP, Faveri M.
J Periodontal Res. 2012 Dec;47(6):711-8.

この研究の目的は歯周組織が健康な被験者と広汎型侵襲性歯周炎被験者の歯肉縁下バイオフィルムにおけるSelenomonas sputigena と培養できない/未知の Selenomonas species レベルを比較検討する事である。
15人の歯周組織の健常な被験者と15人の侵襲性歯周炎被験者がリクルートされ、被験者の臨床的歯周組織パラメーターが評価された。各被験者から9つの歯肉縁下プラークサンプルが回収され、RNAオリゴヌクレオチド定量法を用いて、培養可能あるいは培養不可能な未知の微生物を含む、それぞれ10の細菌分類群レベルで解析された。試験分類群レベルにおける群間の差はマンホイットニーU検定で決定された。
広汎型侵襲性歯周炎患者はPorphyromonas gingivalis、S. sputigenaとMitsuokella sp. Human Oral Taxon (HOT) 131 (以前はSelenomonas sp. oral clone CS002と表記された)の平均数が有意に高かったのに対し、Actinomyces gerencseriaeとStreptococcus sanguinisの平均数は健常人で有意に高かった(p<0.01)。Selenomonas sp. HOT 146は広汎型侵襲性歯周炎でのみ検出された。広汎型侵襲性歯周炎群では、P.gingivalisとS.sputigenaのレベルが浅い部位(プロービング深さ<3mm)よりも深い部位(プロービング深さ>5mm)で高かった。さらに広汎型侵襲性歯周炎被験者では、プロービング深さ<3mmの部位で、健常人被験者の同じプロービング深さの部位よりも、これら2菌種が高いレベルを示した。プロービング深さとP. gingivalis (r=0.77; p<0.01)、 S. sputigena (r=0.60; p<0.01)とSelenomonas dianae (以前Selenomonas sp. oral clone EW076と表記されていた) (r=0.42, p<0.05)の菌種間で正の相関がみられた。
S. sputigenaとMitsuokella sp. HOT 131は広汎型侵襲性歯周炎の病因と関連している可能性があり、それらの菌の感染初期および進行時における役割はさらに検討されるべきであろう。
(16SリボゾーマルRNA、広汎型侵襲性歯周炎、分子生物学、未培養種、Selenomonas sputigena)
(論文の考察や私の感想など:ここで検討している細菌はSelenomonas sputigena、Selenomonas noxia、 Selenomonas sp.HOT 146、 Selenomonas dianae、 Mituokella sp. HOT131、 Aggregatibacter actinomycetemcomitans、 Porphyromonas gingivalis、 Actinomyces gerenseriae、 Streptococcus anginosus/gordonii、 Streptococcus sanguinisの10菌種だ。
S.sputigenaは健常人に比較して侵襲性歯周炎で部位の出現率が高く、歯周ポケットの浅い部位に比較して深い部位で高レベルであった。Aggregatibacter actinomycetemcomitansも調べているが、侵襲性歯周炎や深いポケット部位でカウントが高い傾向を示すが有意差はない。
このS.sputigenaに関する過去の報告が述べられている。歯周炎患者で抗体価が高い、壊死性潰瘍性歯周炎や歯周炎の活動部位との関連などが報告されているとのこと。
この細菌の何が病原性を発揮するのかは不明だが、LPS組成が他のグラム陰性菌とは異なることや、実験的歯周炎で骨吸収を引き起こしうることが考察されている。
一方、健常組織で多く検出されたStrectococcus sanguinisは前報の考察にあるとおりだ。
侵襲性歯周炎とSelenomonasについての報告は増えてくるのかも知れない。)
(平成24年11月12日)


No.171
Microbiological characterization in children with aggressive periodontitis.
Shaddox LM, Huang H, Lin T, Hou W, Harrison PL, Aukhil I, Walker CB, Klepac-Ceraj V, Paster BJ.
Source
J Dent Res. 2012 Oct;91(10):927-33.

この研究の目的は局所型侵襲性歯周炎(LAP)に罹患したアフリカ系アメリカ人児童の歯肉縁下細菌叢を同定することである。51人の児童が含まれた。歯肉縁下プラークサンプルがLAPの疾患部位(DD)と健全部位(DH)からと、HSとHCによる健全部位から採取され、16S-rRNA-based マイクロアレイによって解析された。Aggregatibacter actinomycetemcomitans (Aa)はDDにおけるその出現率(OR = 8.3、 p = 0.0025)と検出数 (p <0.01)がより高く見いだされた唯一の菌種であった。Filifactor alocis(Fa)もまた出現率(OR 2.31、 CI 1.06-5.01, p = 0.03)が高かった。健常な部位で最も検出率が高かった種はSelenomonas spp、Veillonella spp、Streptococcus spp、Bergeyella sp、とKingella oralisであった。 結局、Streptococcus spp、Campylobacter gracilis、Capnocytophaga granulosa、Haemophilus parainfluenzaeとLautropia mirabilisは健常な児童で最も検出数が高く、一方 Aa,、Fa、Tannerella sp,、Solobacterium moorei、Parvimonas micraとCapnocytophaga spはLAPで検出数がもっとも高かった。 16S-rRNA-based マイクロアレイによる総合解析に基づけば、Aaは強い関連があり、LAPにおいて部位特異的であった。対照的に、他の菌種は健常部位と健康児童に関連があった。
HS:健康な同胞における健常部位、HC:健康なコントロール児童の健常部位
(局所型侵襲性歯周炎、診断、細菌学、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、HOMIM、歯肉縁下細菌叢)
(論文の考察や私の感想など:Aaは局所型侵襲性歯周炎(かつて局所型若年性歯周炎と呼んでいた)と強く関連した歯周病原細菌である、という王道をいくような研究論文だ。Aaは、出現頻度やその細菌数においてもLAPの部位特異性と強く関連している。
Aaは健常な児童でもその出現頻度や細菌数は低いが存在する。そして同胞では、有意差はないがコントロールの健常児童よりも頻度高く見いだされている。最近の縦断的研究から、歯周組織が健常であっても、児童や成人におけるAaの存在はLAP発症のリスクマーカーである、とらえられているようだ。病的部位に多く検出される他の注目菌としてParvimonas micraやFilifactor alocisをあげ、過去にも報告のあることをのべている。P. gingivalisも過去にAgPとの関連が報告されているが、今回の研究では頻度高くは検出されていない。
逆に、健常な部位に多く検出される細菌にS.sanguinisがあり、この細菌が検出されない場合には臨床的歯周組織の破壊へつながる可能性のあることが報告されている。この菌は生体防御的に働く善玉菌と呼べるかもしれない。もちろん歯周病の病因は細菌叢だけでは説明できず、宿主の応答についても考慮が必要である。
次回は広汎型侵襲性歯周炎について細菌検索した論文だ)
(平成24年11月10日)



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p041(No.160-170) ← p042 → p043(No.176-)


No.173
Effects of different manual periodontal probes on periodontal measurements.
Holtfreter B, Alte D, Schwahn C, Desvarieux M, Kocher T.
J Clin Periodontol. 2012 Nov;39(11):1032-41.

この研究の目的は同等のプロトコールで、異なったペリオドンタルプローベを用いて研究比較を可能にするために、三種類のペリオドンタルプローベに対する数字選好効果を定量化し、補正値を計測することである。
前向きインビボ交差試験が、6シーケンス、3期間デザインでおこなわれた。6人の試験者がアタッチメントロス(AL)、プロービングポケット深さ(PD)、と歯肉高さ(GH)を、6人の全身的に健康な被験者に対し4歯面で全顎、3種類のプローベ、すなわちPCP11 (3-3-3-2 mm increments),、PCP2 (2 mm increments),とPCPUNC15 (1 mm increments).、を用いて評価した。
AL、PD、とGHの分布はプローベ間(p<0.001)で差があった。PCPUNC15と比較して、PCP11とPCP2のプローベマーキングと一致して歯周組織の測定は、それぞれ試験者によって選好的に識別された。数字選好はPDで最も著しく、ALとGHで低かった。PDは3種類のプローベ間で有意に異なっていた(p<0.05);プローベーと試験者間に関連した効果はALとGHでも観察された。プローベの対比較に対する補正値が決定された。
我々は経験的実証を提供し、歯周組織測定でプローベタイプの効果を定量した。プローベタイプの差は疫学研究内と研究間での歯周組織データを比較する時に考慮され、ここで示されたように適切な補正がされるべきだ。
(バイアス補正値、数字選好効果、手用歯周プローベ、歯周アタッチメントロス、プロービングポケット深さ)
(論文の考察や私の考察など:測定には色々なバイアスの入ることがある。歯周組織検査である歯周ポケットの測定に大きく影響する因子は測定者とプローブであろう。ここで取り上げているのはdigit preference数字選好である。例えばアナログで血圧を測るときに、81、82や83といった数値ではなく、80、85や90といった数値が好んで読み取られる、これがdigit preferenceである。プローベを用いた測定の際にも同様の効果が現れると考えられるが、それはプローベの種類によってどう異なるかをこの研究では検討している。
この研究で用いられている3種類のプローベPCP11、PCP2とPCPUNC15はヒューフレディ社のものでPCP11は先端から3-6mmと8-11mm部分が黒いマーキングされ、PCP2は2-4、6-8、10-12mmに黒いマーキングがされている。そして、この論文で推奨されているPCPUNC15は1、2、3、6、7、8、11、12、13mmに1mm間隔に黒いマーキングと4-5mmと9-10mm部分に黒いマーキングがされている。
2790歯(11160部位)が3種類のプローベで診査された。結果をみると確かに違う。ポケット測定で、3-3-3-2mmパターンのPCP11は2mmと測定されたのが35%、3mmは26%なのに対し、2-2-2-2-2-2mmパターンのPCP2による読み取り値は2mmが52%で3mmが10%なのだ。ちなみに1mm刻みのPCPUNC15は2mmと測定されたのが42%で3mmと測定されたのが14%であり、両者の中間比率となっている。つまり3mmにマーキングされたPCP11は3mmと読み取られることが多くなり、2mmのそれであるPCP2は2mmという読み取り値が多くなっている。
PCP11、PCP2とPCPUNC15プローブ先端の直径はそれぞれ0.48、0.50と0.57mmとなっている。先端の細さはプロービングに影響するので前2者はoverestimate気味になるだろうが、この研究もそれを反映した結果がでている。
スクリーニングには良いが、疫学調査や臨床研究ではゴールドスタンダードとしてPCPUNC15タイプのプローベを用いた方がよさそうである。)
(平成24年11月15日)


No.172
Levels of Selenomonas species in generalized aggressive periodontitis.
Goncalves LF, Fermiano D, Feres M, Figueiredo LC, Teles FR, Mayer MP, Faveri M.
J Periodontal Res. 2012 Dec;47(6):711-8.

この研究の目的は歯周組織が健康な被験者と広汎型侵襲性歯周炎被験者の歯肉縁下バイオフィルムにおけるSelenomonas sputigena と培養できない/未知の Selenomonas species レベルを比較検討する事である。
15人の歯周組織の健常な被験者と15人の侵襲性歯周炎被験者がリクルートされ、被験者の臨床的歯周組織パラメーターが評価された。各被験者から9つの歯肉縁下プラークサンプルが回収され、RNAオリゴヌクレオチド定量法を用いて、培養可能あるいは培養不可能な未知の微生物を含む、それぞれ10の細菌分類群レベルで解析された。試験分類群レベルにおける群間の差はマンホイットニーU検定で決定された。
広汎型侵襲性歯周炎患者はPorphyromonas gingivalis、S. sputigenaとMitsuokella sp. Human Oral Taxon (HOT) 131 (以前はSelenomonas sp. oral clone CS002と表記された)の平均数が有意に高かったのに対し、Actinomyces gerencseriaeとStreptococcus sanguinisの平均数は健常人で有意に高かった(p<0.01)。Selenomonas sp. HOT 146は広汎型侵襲性歯周炎でのみ検出された。広汎型侵襲性歯周炎群では、P.gingivalisとS.sputigenaのレベルが浅い部位(プロービング深さ<3mm)よりも深い部位(プロービング深さ>5mm)で高かった。さらに広汎型侵襲性歯周炎被験者では、プロービング深さ<3mmの部位で、健常人被験者の同じプロービング深さの部位よりも、これら2菌種が高いレベルを示した。プロービング深さとP. gingivalis (r=0.77; p<0.01)、 S. sputigena (r=0.60; p<0.01)とSelenomonas dianae (以前Selenomonas sp. oral clone EW076と表記されていた) (r=0.42, p<0.05)の菌種間で正の相関がみられた。
S. sputigenaとMitsuokella sp. HOT 131は広汎型侵襲性歯周炎の病因と関連している可能性があり、それらの菌の感染初期および進行時における役割はさらに検討されるべきであろう。
(16SリボゾーマルRNA、広汎型侵襲性歯周炎、分子生物学、未培養種、Selenomonas sputigena)
(論文の考察や私の感想など:ここで検討している細菌はSelenomonas sputigena、Selenomonas noxia、 Selenomonas sp.HOT 146、 Selenomonas dianae、 Mituokella sp. HOT131、 Aggregatibacter actinomycetemcomitans、 Porphyromonas gingivalis、 Actinomyces gerenseriae、 Streptococcus anginosus/gordonii、 Streptococcus sanguinisの10菌種だ。
S.sputigenaは健常人に比較して侵襲性歯周炎で部位の出現率が高く、歯周ポケットの浅い部位に比較して深い部位で高レベルであった。Aggregatibacter actinomycetemcomitansも調べているが、侵襲性歯周炎や深いポケット部位でカウントが高い傾向を示すが有意差はない。
このS.sputigenaに関する過去の報告が述べられている。歯周炎患者で抗体価が高い、壊死性潰瘍性歯周炎や歯周炎の活動部位との関連などが報告されているとのこと。
この細菌の何が病原性を発揮するのかは不明だが、LPS組成が他のグラム陰性菌とは異なることや、実験的歯周炎で骨吸収を引き起こしうることが考察されている。
一方、健常組織で多く検出されたStrectococcus sanguinisは前報の考察にあるとおりだ。
侵襲性歯周炎とSelenomonasについての報告は増えてくるのかも知れない。)
(平成24年11月12日)


No.171
Microbiological characterization in children with aggressive periodontitis.
Shaddox LM, Huang H, Lin T, Hou W, Harrison PL, Aukhil I, Walker CB, Klepac-Ceraj V, Paster BJ.
Source
J Dent Res. 2012 Oct;91(10):927-33.

この研究の目的は局所型侵襲性歯周炎(LAP)に罹患したアフリカ系アメリカ人児童の歯肉縁下細菌叢を同定することである。51人の児童が含まれた。歯肉縁下プラークサンプルがLAPの疾患部位(DD)と健全部位(DH)からと、HSとHCによる健全部位から採取され、16S-rRNA-based マイクロアレイによって解析された。Aggregatibacter actinomycetemcomitans (Aa)はDDにおけるその出現率(OR = 8.3、 p = 0.0025)と検出数 (p <0.01)がより高く見いだされた唯一の菌種であった。Filifactor alocis(Fa)もまた出現率(OR 2.31、 CI 1.06-5.01, p = 0.03)が高かった。健常な部位で最も検出率が高かった種はSelenomonas spp、Veillonella spp、Streptococcus spp、Bergeyella sp、とKingella oralisであった。 結局、Streptococcus spp、Campylobacter gracilis、Capnocytophaga granulosa、Haemophilus parainfluenzaeとLautropia mirabilisは健常な児童で最も検出数が高く、一方 Aa,、Fa、Tannerella sp,、Solobacterium moorei、Parvimonas micraとCapnocytophaga spはLAPで検出数がもっとも高かった。 16S-rRNA-based マイクロアレイによる総合解析に基づけば、Aaは強い関連があり、LAPにおいて部位特異的であった。対照的に、他の菌種は健常部位と健康児童に関連があった。
HS:健康な同胞における健常部位、HC:健康なコントロール児童の健常部位
(局所型侵襲性歯周炎、診断、細菌学、Aggregatibacter actinomycetemcomitans、HOMIM、歯肉縁下細菌叢)
(論文の考察や私の感想など:Aaは局所型侵襲性歯周炎(かつて局所型若年性歯周炎と呼んでいた)と強く関連した歯周病原細菌である、という王道をいくような研究論文だ。Aaは、出現頻度やその細菌数においてもLAPの部位特異性と強く関連している。
Aaは健常な児童でもその出現頻度や細菌数は低いが存在する。そして同胞では、有意差はないがコントロールの健常児童よりも頻度高く見いだされている。最近の縦断的研究から、歯周組織が健常であっても、児童や成人におけるAaの存在はLAP発症のリスクマーカーである、とらえられているようだ。病的部位に多く検出される他の注目菌としてParvimonas micraやFilifactor alocisをあげ、過去にも報告のあることをのべている。P. gingivalisも過去にAgPとの関連が報告されているが、今回の研究では頻度高くは検出されていない。
逆に、健常な部位に多く検出される細菌にS.sanguinisがあり、この細菌が検出されない場合には臨床的歯周組織の破壊へつながる可能性のあることが報告されている。この菌は生体防御的に働く善玉菌と呼べるかもしれない。もちろん歯周病の病因は細菌叢だけでは説明できず、宿主の応答についても考慮が必要である。
次回は広汎型侵襲性歯周炎について細菌検索した論文だ)
(平成24年11月10日)



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