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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p045(no.186-190)

No.190
Cyclooxygenase-2 expression in gingival biopsies from periodontal patients is correlated with connective tissue loss.
Mesa F, Aguilar M, Galindo-Moreno P, Bravo M, O'Valle F.
J Periodontol. 2012 Dec;83(12):1538-45.

この研究の目的は慢性歯周炎患者(CP)、歯肉炎患者(GV)と歯周疾患のない患者(コントロール群)から採取した歯肉組織中のシクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)タンパク発現を比較し、臨床変数と粘膜固有層中の結合組織喪失との関連性を立証することである。CP患者52人、GV患者39人とコントロール17人から108の歯肉組織について横断的、解析的研究がなされた。生検材料は全て通法の組織学的検索とCOX-2タンパク発現の免疫組織学的検索およびイメージ解析による結合識の自動定量処理がおこなわれた。
形質細胞と単球によって主に産生されるCOX-2のタンパク発現は歯周病の存在、出血指数、炎症浸潤の程度、歯肉組織の粘膜固有層における結合識の消失と有意な関連がみられた(P <0.01, Spearman test)。COX-2タンパク発現は、歯周病のみられない被験者よりもGVとCP患者でより高い発現がみられ、画像解析で検討すると、粘膜固有層における結合識の量と逆の相関がみられた。この所見から、COX-2が歯周組織の繊維性支持組織の破壊と関連したメカニズムや経路に関わりを持つ可能性が示された。
(慢性歯周炎、生検、シクロオキシゲナーゼ-2、歯肉炎、画像処理、免疫組織学、コンピューター支援)
(追加:COXはプロスタグランディンの合成酵素としてしられ、恒常的に発現しているCOX-1と炎症などにより誘導されるCOX-2の二つのアイソザイムが存在する。
歯周組織の結合識はコラーゲンやプロテオグリカンなどで構成され、その組織破壊にはMMPの関与することが知られる。プロスタグランディンはそのMMP制御に関わり、COXはプロスタグランディンを産生する酵素ということで、炎症によって誘導されるCOX-2が間接的に歯周組織破壊に関連しているという理論展開だ。動物実験ではCOX-2の阻害剤で骨吸収の抑制がみられるという文献を引用してはいる。でもこのCOX-2の発現はCPとGVであまり差が無い。この点、あまり面白みがないような。)
(平成25年1月13日)


No.189
Bone tissue response to BMP-2 adsorbed on amorphous microporous silica implants.
Chaudhari A, Cardoso MV, Martens J, Vandamme K, Naert I, Duyck J.
J Clin Periodontol. 2012 Dec;39(12):1206-13.

アモルファス微小孔構造シリカ(AMS)に吸着させた骨形成蛋白質-2(BMP-2)の骨再生誘導能を評価した。4種類のインプラント[コントロールとしたチタニウム(CTR)、AMSコーティングチタニウム(AMS)、BMP-2吸着チタニウム(CTR+BMP)とBMP-2吸着AMS(AMS+BMP))が20匹のニュージーランドホワイトウサギの頸骨にランダムにインプランテーションされた。インプラント埋入後2/4週にインプラントを含む骨標本が回収され、組織学的および組織形態計測的に解析された。骨画分は最初に骨組織のなかった部分(骨再生面、BRA)と骨-インプラント接触面[骨接地面(BAA)](BF(BRA)とBF(BAA))が計測された。キャリア表面の影響を評価するためにin vitroにおけるBMP-2遊離プロファイルが決定された。統計解析には混合モデルが用いられた。
BMP-2遊離プロファイルはCTR+BMPとAMS+BMPで異なっていた。AMS、CTR+BMPとAMS+BMPの2週間後の結果に比較して、BIC(BRA)とBF(BRA)は4週後に有意に増加した。しかしながら、両者の治癒期間中インプラントタイプ間に差は認められなかった。CTR+BMPに対してBF(BAA) は4週間後のCTRとAMS+BMPに対するBF(BAA)より小さかった。徐放性のBMP-2にもかかわらず、AMS+BMPは骨再生を誘導刺激しなかった。CTR+BMPは骨インプラント境界面で骨の吸収を生じさせた。
インプラント表面の機能的BMP-2は骨再生やオッセオインテグレーションを促進しなかった。
(微少孔構造シリカ、骨形成蛋白質-2、骨吸収、インプラント、オッセオインテグレーション)
(インプラントによる骨との結合、オッセオインテグレーションを促進させるために、生物活性を有する物質を利用するというアイデアがある。ここでは骨の形成を誘導する能力のあるBMP-2をインプラント表面にまぶして、骨の形成促進を誘導してみようというこころみである。さらにインプラント体の表面を微小孔処理することにより、生理活性物質が徐放性に遊離することを期待している。ところが、結果はそうはならず、BMP-2をインプラント表面に吸着させると逆に骨の吸収がみられるという悲しい結果が得られた。
BMP-2は異所性に骨を誘導する程の生理活性があり、歯周病治療にも応用が試みられたが、骨再生の実験では骨もできるが、アンキローシスというやっかいな現象も生じる。しかし、歯根膜組織のない、インプラント/骨では骨がガンガンできるのは、とってもウエルカムだろう。で、BMP-2はインプラントに相性がいいんじゃない、と思っていたが、今回の結果はそうでもないようだ。
実は、osteoclastにもBMP-2レセプターがあり、濃度によってはBMP-2が骨吸収を引き起こすこともある。高濃度でBMP-2は骨吸収を起こすという報告があるという。今回の結果はそれを反映したものではないかと考察されている。骨吸収が生じたのはCTR-BMPで、in vitroではCTR-BMPはAMS-BMPよりの高い濃度でBMP-2が遊離していていた。)
(平成25年1月8日)


No.188
Impact of local and systemic alendronate on simvastatin-induced new bone around periodontal defects.
Killeen AC, Rakes PA, Schmid MJ, Zhang Y, Narayana N, Marx DB, Payne JB, Wang D, Reinhardt RA.
J Periodontol. 2012 Dec;83(12):1463-71.

シンバスタチンはラット顎における新生骨増殖を促すことが示されているが、骨の多くが時間と共に喪失もする。この研究の目的はラット歯周組織欠損内あるいは隣接する場所でシンバスタチンによって誘導された骨形成に対して抗骨吸収薬剤(アレンドロネイト)の局所的あるいは全身的投与の影響を評価することである。
開窓欠損が65匹のSprague-Dawleyメスラットの下顎臼歯根部分に作成された。2週後に8から9匹ずつ8つの群に分けられた。1)エタノール溶解0.5mgシンバスタチン (SIM-EtOH)、2)シクロデキストラン結合アレンドロネイト中に0.5mgシンバスタチン(SIM-ALN-CD)、3)EtOH単独、4)ALN-CD単独、5)投与せず。最後の投与の後21日(短期経過観察群)に24匹が欠損周囲の新性骨幅を評価され、48日(長期経過観察群)に41匹が同様に評価された。長期ラットの3つのSIM-EtOH群は、SIM-EtOH投与期間あるいはその後3から4週間後に、ALNか生理食塩水の全身投与も毎日2週間受けた。欠損部分の脱灰、ヘマトキシエオジン染色の横断標本が新生骨幅のために解析され、混合模型の分散分析を用いて群間が比較された。
短期群間では有意差がなく、全ての群がほぼ100%の骨充填がみられた。しかしながら、長期ラットでは、局所のSIM/ALN-CD薬剤(0.32± 0.10 mm) あるいは短期間SIM-EtOH投与(0.35 ± 0.10 mm)と比較して、SIM-EtOH投与の後全身的ALNを用いた欠損周囲には2から3倍の新生骨幅(<=0.004)がみられた(初期と後期全身ALNで、それぞれ0.93 ±0.12と0.78 ± 0.11 mmであった)。有意な新生セメント質形成やアンキローシスは明らかではなかった。
骨タンパク同化SIM投与後の治癒期間中に短期間の全身的ALNの使用は局所の骨増殖を亢進させる可能性があった。
(アレンドロネイト、骨再生、ドラッグデリバリーシステム、組織学、シンバスタチン、創傷治癒)
(動物実験だけど、欲張った複雑な実験系だ。21日後に屠殺群は5群。骨欠損作成2、3、4週後に3回、SIM-EtOH、EtOH、SIM-ALD-CD、ALN-CDをそれぞれ局所投与する4群と無投与群だ。残りの3群はというと、骨欠損作成2、3、4週後にSIM-EtOHを同様に局所投与するが、骨欠損作成の2週から4週まで毎日ALNを全身投与する群、骨欠損作成の6から8週まで毎日ALNの全身投与する群と生食を同様の期間全身投与するする群だ。
フラップ手術をするだけで骨吸収が生じることが知られているが、このことに着目した術後の対応についての研究というのはあまりみられない。SIMでも骨粗鬆薬ALNでも局所投与で骨形成促進する、あるいはALNにより骨吸収量が減少するという報告がある。そこで今回は動物実験で、SIMが骨形成を促進させ、さらに骨吸収抑制するALNの効果がみられるのではないかと期待した。前述の様にSIM局所投与で骨の再生が促進されるという報告があるが、今回の研究では再現がとれなかった。というのもコントロールや無投与群でも骨欠損がほぼ再生してしまっていた。そのためにあったとしても実験群の促進効果確認しにくい実験系だったといえる。またALNの局所投与についても、処置後の骨吸収量を減少させるという過去の報告を再現する結果を得ていない。これも同様の理由と考えられる。
今回の実験で注目すべき結果は局所のSIM投与に全身的ALN投与を組み合わせると著しい骨形成促進効果がみられたということ。ALNの局所投与と全身投与の結果の差については理由はよくわからない。そもそも局所と全身ではALNの濃度や投与方法が異なるので単純な比較はできない。投与方法をかえれば局所応用でも何らかの効果の見られる可能性はある。
ALNの全身投与の際の骨壊死については少し触れていて、こんかいのような短期間では骨壊死のような影響はほとんどないのではないかと述べている。)
(平成25年1月4日)


No.187
Clinical Efficacy of Subgingivally Delivered 1.2-mg Simvastatin in the Treatment of Individuals With Class II Furcation Defects: A Randomized Controlled Clinical Trial.
Pradeep AR, Priyanka N, Kalra N, Naik SB, Singh SP, Martande S.
J Periodontol. 2012 Dec;83(12):1472-9.

局所的に投与した時、シンバスタチン(SMV)は骨の再生を促し、抗炎症効果を持つ。クラスII分岐部病変の治療における、スケーリングルートプレーニングの付加的治療として,、局所薬剤配送システムを用いた1.2mgSMVの効果を検討するためにこの臨床研究は企画された。
下顎頬側クラスII分岐部欠損を持つ72人の患者が無作為にそして2つの治療群に分けられた。すなわちSRP+プラセボ(グループ1)とSRP+1.2mgSMV(グループ2)である。臨床パラメーターはSRP前のベースライン時と3および6ヶ月後に診査、記録された。診査項目には改変歯肉出血指数(mSBI)、プロービング深さ(PD)、そして相対的垂直(RVAL)と水平(RHAL)アタッチメントレベルが含まれた。ベースライン時と6ヶ月後に、骨欠損再生のレントゲン評価がされた。
両治療群とも有意な改善がみとめられた。6ヶ月時点でのmSBIの減少はグループ1(1.80 ± 0.22)に比較してグループ2 (2.02± 0.23) が大きかった。6ヶ月時点でのPD平均減少はグループ1と2でそれぞれ 1.30 ± 1.0 と 4.05 ± 1.31 mmであった。平均RVALとRHALの有意な獲得が、グループ1に比較してグループ2で認められた (P <0.05)。さらに、グループ1(1.54%)に比較してグループ2(25.16%)では有意に大きな骨欠損部の平均再生率であった。
SMVによる局所ドラッグデリバリーシステムは臨床パラメーターを改善させ、そして骨形成を亢進させる目的で非常に扱いやすくよい方法である。
(慢性歯周炎、スケーリング、骨再生、ルートプレーニング、シンバスタチン)
(考察感想など:スタチンはコレステロールを下げる薬物としてよく知られる。体内でコレステロールをつくる酵素(3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル‐コエンザイムA、HMG-CoA)に作用してコレステロールを下げる。日本人がその薬としての開発に大いに貢献していた、と聞く。スタチン類の薬にはアトルバスタチン(リピドール)、ビタパスタヒン(リバロ)、ロスバスタチン(クレストール)、プラバスタチン(メバロチン)などあり、シンバスタチンもスタチン類のひとつで商品名リポバスがよく知られる。
局所に応用したシバスタチンはBMP-2の産生誘導を介して骨代謝に関与し、また抗炎症作用もあるという。動物実験やvitroの実験で、アルカリフォsファターゼやコラーゲンタイプI、骨シアロプロテイン、骨芽細胞の石灰化などの亢進作用、IL-6やIL-8の抑制などが報告されている。
SMVは100μゲルカニューレでシリンジを用いて分岐部に投与するだけである。過去にSMVを用いた動物実験があるが、外科的な処置による骨吸収もあったようで、今回は非外科的な方法を用いている。それで(それでも?)、SMVをSRPの付加的治療としてクラスII分岐部病変に応用すると付加的効果が見られている。)
(平成25年1月3日)


No.186
Effect of periodontal therapy on prevention of gastric Helicobacter pylori recurrence: a systematic review and meta-analysis.
Bouziane A, Ahid S, Abouqal R, Ennibi O.
J Clin Periodontol. 2012 Dec;39(12):1166-73.

このレビューの目的は胃ヘリコバクターピロリ菌(H.pylori)感染再発予防におよぼすデンタルプラークコントロールと歯周治療の影響を評価することである。
我々は電子データーベース検索をおこない、胃ピロリ菌の再発予防に対して、除菌療法単独の場合と除菌療法に加えて歯周病治療をおこなった場合とを比較した臨床研究を選択した。胃ピロリ菌の残存リスクを決定するための評価として最初の3ヶ月後に胃ピロリ菌の再発が認められない事象を用いた。我々はQ統計量そしてI(2)統計量を用いて臨床結果間の不均一性の程度を評価した。
298人を含む3つの臨床研究が我々の選択基準に合致した。Q統計量(p=0.04)とI(2)(69%)により有意な不均一性が示されたので、データの統合のためにランダム効果モデルを用いた。除菌療法単独と比較して、歯周治療の併用は胃疾患患者における胃ピロリ菌の持続相対リスクを63%有意に減少させた(0.37 [95% CI 0.21-0.64], p = 0.0004)。
ヘリコバクターピロリと関連した胃疾患を有する患者において、除菌療法単独に比較すると除菌療法に併用する歯周治療は、胃ピロリ菌の再発を減少させるように思える。このメタ解析の結果は、元々のオリジナルデータに限界があるために慎重に解釈すべきである。
(胃粘膜、ヘリコバクターピロリ、メタ解析、歯周病、歯周ポケット、歯周処置、システマティックレビュー)
(論文の考察や私のコメントなど:ピロリ菌って、口腔内にもいるとの報告がある。プラーク中のピロリ菌はバイオフィルム内にいるってことになので、胃内だけを想定したピロリ菌の除菌療法「プロトンポンプ阻害剤+抗生物質」では駆除されにくく、ピロリ菌除菌をおこなっても口腔内のピロリ菌は継続して存在する。そのために歯周ポケット内プラークのピロリ菌が胃ピロリ菌再感染の感染源となりうるリザーバーの役割を果たすことになってしまう。だもんで、除菌とともに歯周治療をおこなった方が再感染のリスクは少なくなるだろうと考えて、いくつかの研究がなされている。メタ解析をすると歯周治療はピロリ除菌治療単独よりも効果的だという結論がでるようだが、まださらなる研究が必要だということ。)
(平成24年12月30日)



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