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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p044(no.181-185)

No.185
The incidence of peri-implantitis for two different implant systems over a period of thirteen years.
Renvert S, Lindahl C, Rutger Persson G.
J Clin Periodontol. 2012 Dec;39(12):1191-7.

この研究の目的は2種類の歯科インプラントを比較して13年間のインプラント周囲炎の発病率を研究することである。
インプラント発病とは、1年後にBOPか排膿を伴う、1mm以上の骨吸収の存在がある場合と定義とした。アストラテック(AT)を用いた19人の被験者とブローネマルクノーベルバイオケア(NB)を用いた22人の被験者が対象となった。インプラント周囲炎の発病率は、1から7年、および7から13年の間でそれぞれATインプラントは26.2%と7.1%で、NBインプラントでは30.4%と11.5%であった(有意差なし)。歯周炎の既往はインプラント周囲炎の発病を予知するリスク因子であった(尤度比:4.1, 95% CI: 2.0, 8.4, p < 0.001)。全身疾患を有する被験者はインプラント周囲炎の発病率が高かった(P<0.05)。
インプラント表面性状やデザインによる13年間のインプラント周囲炎発病率の差は認めなかった。インプラント埋入後最初の7年間の骨吸収量は、その後の骨吸収量より大きかった。7年後における細菌学的な検索結果から13年後におけるインプラント周囲炎の発病は予知できなかった。過去に歯周炎がありそして全身疾患のある患者はインプラント周囲炎の発病リスクが高かった。
(骨吸収、健康、インプラント、発病率、インプラント周囲炎)
(表面荒さや化学的性状などインプラントの表面性状はインプラント体と骨の結合に影響を与えるが、また一方で口腔細菌の侵入リスクにもまた影響を与えると考えられる。
ブローネマルクノーベルバイオケアのsmooth machine-etched surfaceとアストラテックのmedium rough TioBlastという表面性状の異なるインプラント間におけるインプラント周囲炎の発病率を比較している。しかし両インプラントとも細菌学的な検索では細菌数などに差はなく、また発病率にも差がなかった。インプラント体よりもそれ以外の要因(ここでは歯周病の既往や全身疾患の有無を指摘しているが、思うにメインテナンスケアの有無なども要因の一つだろう)の関与が大きいようだ。)
(平成24年12月29日)


No.184
Azithromycin as an adjunctive treatment of generalized severe chronic periodontitis: clinical,microbiologic, and biochemical parameters.
Han B, Emingil G, Ozdemir G, Tervahartiala T, Vural C, Atilla G, Baylas H, Sorsa T.
J Periodontol. 2012 Dec;83(12):1480-91.

この研究の目的は、重度広汎型慢性歯周炎(CP)患者に対して非外科的治療と組み合わせておこなうアジスロマイシンの、6ヶ月にわたる臨床的および細菌学的パラメーターならびに歯肉溝浸出液マトリックスメタロプロテアーゼ-8(MMP-8)レベルに及ぼす影響を検討することである。
重度広汎型CP患者36人中28人がこの無作為、二重盲検、プラセボコントロールパラレル研究の対象となった。彼らはアジスロマイシンあるいはプラセボ群(500mg、1日1回3日間)に無作為に割り当てられた。プロービング深さ(PD)、臨床的アタッチメントレベル、歯肉縁上プラークの有無、そしてプロービング時の出血が記録された。GCFサンプルはPD6mm以上の単根歯から採取され、細菌学的検査はPD6mm以上の二つの単根歯から採取された。細菌学的パラメーターは、Aggregatibacteractinomycetemcomitans, 、Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythia、Fusobacterium nucleatum、Prevotella intermediaと総菌数に対して、半定量的リアルタイムPCR法によって解析された。GCF中MMP-8レベルは免疫蛍光法によって決定された。
アジスロマイシンあるいはプラセボ群は全ての臨床パラメーターにおいて同様の有意な改善を示した。actinomycetemcomitans,、P. gingivalis、 T. forsythia、P. intermediaと総菌数は両群ともに6ヶ月後に有意な減少をしめす一方で、F.nucleatumは全ての検索時点で、アジスロマイシン群がプラセボ群に比較して有意に低い値を示していた(P<0.05)。アジスロマイシンおよびプラセボ群は治療後および2週時点でGCF中MMP-8レベルで有意な減少を示した(P<0.05)。
現在の所見から、重度広汎型CP患者において検索した臨床パラメーターについて、非外科的歯周治療に付加的なアジスロマイシンの効果はないと結論づけられる。
(抗生物質、アジスロマイシン、慢性歯周炎、歯肉溝浸出液、マトリックス メタロプロテアーゼ8、細菌学)
(コメント:上述の通りでアジスロマイシンを使用しても、非外科的治療に追加の恩恵はえられなかった。
今回の研究ではSC/SRP終了時点での抗生剤投与プロトコールであり、アジスロマイシン投与時にはすでに細菌の除去が徹底的になされていたためにアジスロマイシンの効果が見られなかったのでないか、という理由になるようなならないような考察がされている。ちなみにベースライン時のPDで細分化してもアジスロマイシンの付加的有効性は見られない。
同じグループが侵襲性歯周炎でも同様の臨床研究をおこなって別報を報告しているが、結論はやはりアジスロマイシンに効果なしだ。Effect of azithromycin, as an adjunct to nonsurgical periodontal treatment, on microbiological parameters and gingival crevicular fluid biomarkers in generalized aggressive periodontitis.
Emingil G, Han B, Ozdemir G, Tervahartiala T, Vural C, Atilla G, Baylas H, Sorsa T.
J Periodontal Res. 2012 Dec;47(6):729-39.)
(平成24年12月24日)


No.183
Metronidazole alone or with amoxicillin as adjuncts to non-surgical treatment of chronic periodontitis: a 1-year double-blinded, placebo-controlled, randomized clinical trial.
Feres M, Soares GM, Mendes JA, Silva MP, Faveri M, Teles R, Socransky SS, Figueiredo LC.
J Clin Periodontol. 2012 Dec;39(12):1149-58.

本研究の目的は広汎型慢性歯周炎(ChP)治療におけるメトロニダゾール(MTZ)あるいはMTZ+アモキシシリン(AMX)の付加的使用の効果を評価することである。
118人の被験者がスケーリングとルートプレーニング(SRP)単独、あるいはMTZ [400 mg1日3回 (TID)]あるいは MTZ+AMX (500 mg/TID) を14日間投与併用処置を受けた。各群における被験者の半数は2ヶ月間1日2回(BID)0.12%クロルヘキシジンで洗口をおこなった。被験者はベースライン時、処置後3、6、12ヶ月に臨床的にモニタリングされた。
2種類の抗生剤投与群は、1年後プロービング深さ(PD)5mm以上の部位の平均数がより低く、これらの部位が9カ所以上を示す被験者がより少なかった。ロジスティック回帰分析は、抗生物質が1年後にPD5mm以上の部位が4カ所以上を示す被験者の唯一の有意な予知因子であることを示していた(MTZ+AMX: OR,、13.33; 95%CI, 3.75-47.39/p = 0.0000; MTZ: OR, 7.26; 95%CI、2.26-23.30/p = 0.0004)。副作用の頻度は2つの抗生物質治療間で有意差はなかった(p>0.05)。クロルヘキシジン洗口亜群は1年後にプラセボ亜群と比較して5mm以上の残存部位数が少ない傾向をしめした(p>0.05)。
広汎型ChPの治療はMTZ+AMXとMTZの付加的使用によって有意に改善する。
(アモキシシリン、慢性歯周炎、メトロニダゾール、歯周病、歯周治療、スケーリングルートプレーニング)
(またメトロニダゾールかと言われそうだが、チョロチョロでてくるので仕方ない。実は、次にアジスロマイシンの論文を紹介しようと思うので、その前座(こちらが真打ちかも)みたいなもんだ。
この研究で一次評価項目として注目しているのは5mm以上のPD数(割合)だ。というのも最近のあるグループの研究から、メインテナンス中における歯周病再発リスクの指標として最も重要な指標だと報告されているからと述べている。その報告では、5mm以上のPD存在数が9以上、5-8、4以下の場合をそれぞれ、高、中、低度のリスク患者と分類している。今回の研究ではベースライン時は全て高いリスク患者であったが、処置後にSRP単独群が22.5%で、SRP+MTZ群が61.6%、SRP+MTZ+AMX群は66.7%に低下していた。
抗生剤の併用療法を用いても反応の悪い患者集団がいる。これを詳細に検討してみると、反応の悪い人の特徴とは平均のPDが最も深い集団に属していた。さらなるPD減少には、外科的な処置が必要だろうと述べている。反応の悪さもPDが影響している、なんて言われると再発リスクも治療に対する反応性の悪さも結局はPDということなのかと思ってしまう。
この臨床研究ではメトロニダゾールだけではなく、クロルヘキジンの含嗽も組み合わせている。メトロニダゾール(MTZ)+アモキシシリン(AMX)+クロルヘキシジンが最も有効かも~、などという結果を示しているのだが、本邦ではメトロニダゾールもクロルヘキシジンも利用できないのでなんかシャクだ。
(平成24年12月16日)


No.182
Treatment of peri-implantitis using multiple applications of chlorhexidine chips: a double-blind, randomized multi -centre clinical trial.
Machtei EE, Frankenthal S, Levi G, Elimelech R, Shoshani E, Rosenfeld O, Tagger-Green N, Shlomi B.
J Clin Periodontol. 2012 Dec;39(12):1198-205.

インプラント周囲炎を管理する標準的な戦略は未だ確立していない。この研究の目的はインプラント周囲炎部位に クロルヘキシジン含有チップを集中的に投与するプロトコールを検証することである。
1から2本のインプラント周囲でプロービング深さ(PD)が6-10mmと2mm以上の骨吸収が認められる60人の患者(イ ンプラントは77本)がこの多施設、無作為、二重盲検、2群臨床試験に選抜された。SRPの後1から2週間に、インプラントデブライドメントに続いてベースラインの測定がなされた。患者はマトリックス(MatrixC)あるいはクロルヘキシジン(PerioC)処置が無作為に割り当てられた。診査とチップ投与が2、4、6、8、12、18週に繰り返しおこなわれた。6ヶ月後に患者は最終の診査がおこなわれた。
PerioCによるプロービング深さの減少(2.19 ± 0.24 mm) はMatrixC (1.59 ± 0.23 mm)に比較して有意に大きかったp= 0.07。PerioC投与インプラントの70%とMatrixC投与の54%が2mm以上のPD減少であった。同様に部位(PeriC)の40%と24%(MatricC)は3mm以上のPD減少であった。両群の臨床的アタッチメントレベル獲得は有意差があったが、PerioC群における変化はMatrixC群のそれよりも有意に大きかった[それぞれ2.21 ± 0.23 mm.と1.56 ±0.25 mm, p = 0.05]。プロービング時の出血は両群とも半減していた。
インプラントデブライドメントと組み合わせたPerioCとMatrixCの頻回投与はインプラント周囲炎を著しく改善させた。この治療のメカニズムを十分に理解するためにはさらなる研究が必要であろう。
(抗炎症剤、抗菌剤、臨床試験、遅効性製剤、歯科インプラント、インプラント周囲炎、治療)
(コメントなど:クロルヘキシジン、インプラントときたので、こんな論文を選んでみた。
あるシステマティックレビューによれば、インプラントの50%、患者の80%がインプラント粘膜炎であり、インプラントの12-43%、患者の28-56%がインプラント周囲炎に罹患しているという。ところが、別のレビュー、メタ解析ではインプラント周囲炎は10%以下であると報告されている。この差はなんでだろう。この疑問に回答するような論文が取り上げられている。それは164本8年経過症例を対象に、異なる臨床的レントゲン的基準で評価すると、インプラント周囲炎の罹患率は11.3から47.1%間で変化したという。要するに定義の問題だという。インプラント周囲炎って、何なんだろうね。
インプラント周囲炎に対する非外科的処置の有効性は確認されていない。例えばハンドあるいは超音波インスツルメンテーションはわずか0.2mmで有意差がない。Er:YAGレーザーしかり、ミノサイクリンの局所投与しかりである。この著者らはクロルヘキシジン含有マトリックス(PerioCはDexcel Pharma社製、2.5mgクロルヘキシジングルクロネイト含有チップ。)の頻回投与が慢性歯周炎に対して有効であった(PD2.1mm、CAL1.7mm)ということで、今回インプラント周囲炎への応用を試みている。
これまでの非外科的治療に比べると、かなり有効だと自画自賛。手用器具やエアーアブレイシブによるデブライドメントあるいは抗生剤の局所投与に比較すると、PD2.13mmの減少は2倍程度の減少量となっている。
これはクロルヘキシジンの効果か、というとそう単純ではない。なぜならクロルヘキシジン非含有のマトリックスでもPD減少やBOP減少などが認められるからだ。基剤の分解の際にも抗菌作用が発揮されるという。グルタルアルデヒドで架橋されたゼラチンマトリックスが加水分解するのだが、この際に放出されるグルタルアルデヒドや分解に関わるネイティブなコラゲナーゼが抗菌作用を持っている(基剤分解は7-10日ほど続くらしい)ということだ。PD、CAL,BOP%などのグラフを見ると、クロルヘキシジンのあるなしに関わらず、両群とも確かに同様に改善している。)
(平成24年12月16日)


No.181
A 10-year evaluation of implants placed in fresh extraction sockets: a prospective cohort study.
Covani U, Chiappe G, Bosco M, Orlando B, Quaranta A, Barone A.
J Periodontol. 2012 Oct;83(10):1226-34.

新鮮な抜歯窩にインプラントを埋入する方法は予知性のあるテクニックとして認識され、補綴修復物によるリハビリテーションのために必要な時間を短縮させる。この治療法は科学的文献で広く報告されている。しかしながら、長期成績や骨再生誘導法(GBR)の必要性については未だ議論の余地がある。この前向き研究の目的は、即時埋入インプラントの、GBRを伴うあるいは伴わない10年追跡症例から、臨床的およびレントゲン的所見を評価することである。
この研究では91人の患者で159本のインプラントが対象となった。101本のインプラントは埋入とともにGBR処置が必要だった。全てのインプラントは単冠補綴処置がなされた。臨床的/レントゲン的計測が10年経過観察の間毎年繰り返しおこなわれた。10年経過時に歯間乳頭指数、頬側中央軟組織の根尖-歯冠側位置が記録された。
10年累積成功率は91.8%であった(非GBR群では87.9%でGBR群は94.1%であった)。臨床的アタッチメントレベル(CAL)測定は研究期間中安定しており、インプラントの82%は辺縁骨吸収が10年後に0.6から1.5mmの範囲であった。さらにこれら二つのパラメーターはGBR群と非GBR間で有意差がみられなかった。インプラント部位の70%は歯間乳頭状態に関して良好な成績を示した。頬側歯肉レベルはGBR群においてよりも非GBR群においてより根尖側に位置していた (P <0.05).。
現在の前向き臨床研究は、新鮮抜歯窩へのインプラント埋入が高い累積成功率、すなわち10年後に91.8%、を有することを示した。GBR処置のあるなしにかかわらず、インプラントの生存あるいは成功率に有意差は見られなかった。CAL、MBLと軟組織のマージンレベル測定値は10年間を通じて安定していた。
(骨再生、歯科インプラント、骨内、審美的、歯科、即時荷重歯科インプラント、前向き研究)
(論文の考察や私の感想など:今回の研究で10年経過後の辺縁骨吸収は、82%の症例で0.6~1.5mmの範囲におさまっていた。過去の報告から2.8mmの骨吸収は生理的なものであるとされているので、10年経過しても全て2.0mm以内におさまっている今回の研究は100%成功と言えよう。
GBR処置群と非処置群はインプラント埋入時の解剖学的な術前状態が異なる。というのは頬側骨欠損とインプラントとの間に2mm以上ギャップがある場合にGBRを行っているからだ。GBR処置の有無で10年の長期経過成績に差がないのは、そもそもGBR処置群と非処置群の術前状態が異なっていたためかもしれない。GBRをおこなうことで術前のハンデ条件をカバーできたからではないかと考察している。)
(平成24年12月15日)


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