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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p049(no.206-210)

No.210
Differences in peri-implant conditions between fully and partially edentulous subjects: a systematic review.
de Waal YC, van Winkelhoff AJ, Meijer HJ, Raghoebar GM, Winkel EG.
J Clin Periodontol. 2013 Mar;40(3):266-86.

この研究の目的は無歯顎患者(FES)と部分的な欠損のある患者(PES)間でインプラント周囲の状態を比較する事である。
システマティックレビューがおこなわれた。MEDLINE、EMBASEとCOCHRANEデータベースが2012年1月までの出版物に対して検索された。インプラント周囲粘膜炎の出血傾向を報告した研究やインプラント粘膜炎あるいは周囲炎の罹患率を報告した研究が対象とされた。46研究で55の論文が選択された。FESとPESの両方を記した研究がひとつで、他の研究は全てFESもしくはPESについての記述であった。サブグループ解析は歯の状態(無歯顎、部分的歯の欠損)、フォロー期間(5年以上と10年以上)と研究デザイン(前向き/横断的)に従って解析された。
FESはPESよりもインプラントにおけるプラークが多く堆積していた。修正出血指数はFESで有意に高かったが、プロービング時の出血、インプラント喪失、プロービングポケット深さはFESとPES間で差はなかった。インプラント粘膜炎とインプラント周囲炎罹患率についてのメタ解析はおこなわれなかった。結局、インプラント周囲炎の罹患率は5年後0-3.4%、10年後5.8%-16.9%であった。
FESとPESは同等のインプラント生存率を示した。しかし、FESとPES間のインプラント粘膜炎とインプラント周囲炎の罹患率の差に関して結論は得られなかった。
(無歯顎、歯科インプラント、インプラント周囲炎、インプラント周囲感染、インプラント粘膜炎、歯周病)。
(インプラント粘膜炎は9-14年機能しているインプラントの42%程度と報告されている。インプラント周囲炎の罹患率は、2002年のシステマチックレビューでは少なくとも5年フォローアップ後、単根で0.31%、架工義歯インプラントで6.47%、2008年の報告では12-43%と紹介されている。インプラント周囲炎にかかわる因子には、口腔清掃不良、喫煙、歯周病などが知られ、歯周病罹患履歴のある場合には、インプラント周囲炎リスクは2倍とも言われる。
無歯顎だと、口腔のいわゆる歯周病原性菌は減少していると考えられる。一方、全歯抜去の人は口腔清掃不良、社会経済的状態が低い、破壊的な歯周病に罹患しやすかったとも考えられる。で、無歯顎と部分的に歯のある人では、インプラント周囲炎の罹患率はどのような差があるや否やということ。
こん回の研究対象では、PESは上顎が53.9%であったのに対し、FESは上顎0%と症例に大きな偏りがあった。それでも両者にインプラント周囲炎罹患率には差がなかった。
プラーク量はFESの方が多かったのだが、無歯顎の人は歯が無いので、清掃する必要がない習慣になっていた可能性がある。あるいは口腔機能が低下して唾液量が少ないなど自浄作用も低下しているのかも知れない。結構決定的かもしれないのは、FESの平均年齢が57.7才(対するPESは46.1%)と高く、清掃手技が悪いや全身疾患のために唾液流出量に影響を与える薬剤を服用している可能性も高かろう。
最後にインプラント周囲炎の既往のあるPESはFESに比較して高いインプラント周囲炎罹患率を示したが、FES患者で歯周炎の既往のある、なし間を比較できるデータはなかったということだった。)
(平成25年3月9日)


No.209
Implant decontamination during surgical peri-implantitis treatment: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial.
de Waal YC, Raghoebar GM, Huddleston Slater JJ, Meijer HJ, Winkel EG, van Winkelhoff AJ.
J Clin Periodontol. 2013 Feb;40(2):186-95.

この無作為二重盲検プラセボコントロール臨床研究の目的は、クロルヘキシジン(CHX)/セチルピリジニウムクロライド(CPC)を用いたインプラント表面デコンタミネーションの、細菌学的および臨床パラメーターに及ぼす影響を検討することである。
30人(79本のインプラント)が根尖側移動術、骨整形と表面のデブライドメントとデコンタミネーションからなる切除療法で治療された。患者は0.12%CHX+0.05%CPC(テスト群)あるいはプラセボ溶液(CHX/CPC、プラセボ群)でデコンタミネーションをおこなう処置にランダムに振り分けられた。細菌学的パラメーターは外科処置時に検索された。臨床的およびレントゲン的パラメーターは術前(ベースライン)と術後3、6、そして12ヶ月後に検索された。
プラセボ群の2人の患者で、9本のインプラントが重度の持続するインプラント周囲炎のために失われた。両デコンタミネーション処置ともにインプラント表面の細菌の有意な減少がみられたが、テスト群はプラセボ群に比較してより大幅で有意な減少であった(log 4.21±1.89VS log 2.77±2.12, p=0.006)。マルチレベル分析から、経時的に出血、排膿、プロービングポケット深さ、レントゲン的な骨吸収に及ぼす介入の影響について、両群間に有意差は認められなかった。
インプラント周囲炎の切除療法において、0.12%CHX+0.05%CPCを用いたインプラント表面のデコンタミネーションは、プラセボ溶液に比較してインプラント表面の嫌気性菌の速やかでより効果的な抑制作用を示したが、臨床的に優れた効果を示したわけではなかった。長期の細菌学的な影響は不明である。
(アセチルピリジウムクロライド、クロルヘキシジン、デコンタミネーション、細菌学、インプラント周囲炎、切除療法)
インプラント周囲炎に対して、非外科的な対応が功を奏しないときには外科的な処置がなされる。この外科的処置におこなわれる、デコンタミネーションには、色々あって、10%過酸化水素、テフロンキュレット+研磨剤炭酸ナトリウムエアーパウダー、チタンコートキュレット+生食浸漬外科用ガーゼ、メトロニダゾールゲル+塩酸テトラサイクエイン、エアーパウダー研磨剤単独あるいはCO2レーザー併用、超音波スケーラ-+クロルヘキシジン使用ラバーカップなどである。しかしそれぞれの方法を比較した研究もなく、どの対応法が効果的かはよくわかっていない。
インプラント周囲炎に対するデブライドメント+デコンタミネーションを伴う外科的な対応方法について、無作為コントロール試験研究がおこなわれているが、いずれも細菌学的な検索がおこなわれていない。そこで本研究ではインプラント周囲炎に対するインプラント表面のデコンタミネーションを伴う外科処置の効果を、細菌学的な検索を含めて検討したわけだ。
本研究で、BoP、PPD、骨吸収いずれもテスト群とコントロール群に有意差はなかった。12ヶ月後69本のインプラントのうち66本は少なくとも1カ所はBoPであり、15本はさらに排膿もあった。治療不成功の基準を、出血か排膿のなる残存ポケット5mm以上とすると、治療成功は被験者レベルで38%、インプラントレベルで49%となる。CHX+CPCで細菌は駆逐された。しかし、臨床成績には差が見られない。
インプラント周囲炎に細菌は大きく関与するのかもしれないが、細菌を排除したからといって、インプラント周囲組織が十分に治癒しうるわけではないようだ。だから、組織治癒に関する他の因子検索が必要となるのであろう。歯周病の場合には天然歯にセメント質や歯根膜組織が残存して、歯周組織の回復が期待できる。しかし悲しいかな、インプラント周囲炎の場合にはそれに該当する組織がないから、といえるのかも。)
(平成25年3月5日)


No.208
Changes in inflammatory and metabolic parameters after periodontal treatment in patients with and without obesity.
Altay U, Gurgan CA, Aabaht K.
J Periodontol. 2013 Jan;84(1):13-23.

非外科的な歯周治療は肥満のあるいは肥満でない患者の炎症サイトカイン血清レベルを減少させる。しかし、歯周治療によってもたらされる炎症マーカーレベルの減少と関係する、メタボリックパラメーターの変化は肥満患者については評価されてこなかった。この研究の目的は歯周治療後における、肥満の人の全身的炎症、脂質および糖パラメーターの短期間の変化を評価することである。
広汎型慢性歯周炎で、肥満の脂質異常患者22人と、肥満のない健常人24人とが本研究の対象となった。歯周組織パラメーター、人体測定値、トリグリセリド、総コレステロール、高密度リポ蛋白質コレステロール、低密度リポ蛋白質コレステロール、リポ蛋白質(a)、高感度C反応性蛋白、空腹時血糖、インスリン、インターロイキン-6(IL-6)、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)とレプチンの血清レベルが計測された
両群とも歯周組織のパラメーターは歯周治療により良好な反応を示した。治療はまた肥満群における血清TNF-αとIL-6レベルおよびHOMA-IRスコアの減少と、そして肥満ではない人におけるIL-6レベルの減少と関連した。逆に、肥満患者の脂質プロファイルや血清空腹時血糖には有意差のない減少がみられた。
非外科的な歯周治療は循環亢炎症サイトカインのレベルの幾つかを減少させ、肥満集団のインスリン抵抗性減少と関連する可能性がしめされた。
(脂質代謝異常、インスリン抵抗性、レプチン、肥満、歯周炎)
(肥満はメタボリックあるいは免疫マーカーを介して全身的な炎症状態を誘導しうるために、歯周病への感受性も高まると考えられている。さらにBMI、腹囲、血清脂質レベル、皮下脂肪率などが歯周炎リスクの増加と関連しているという報告がある。また肥満の人はそうでない人に比較して血中TNF-αやIL-6レベルが高いという報告や、体重の低下とともにこれらのサイトカインレベルが減少するという。
今回の研究では、肥満であっても非外科的な治療により、歯周病の良好な改善が認められた。つまり肥満は歯周病治療抵抗性を高めているわけではないと言える。肥満の人に対する非外科的治療は、脂質パラメーターを変化させなかったが、HOMA-Rの減少をともなうTNF-αとIL-6レベルの有意な減少をひきおこした。肥満状態は変化しなかったのに、局所の歯周炎症が治療されることで炎症やHOMA-IR低下が認められたことから、この低下は歯周病治療の結果であると推察される。)
(平成25年3月2日)


No.207
Effect of nonsurgical periodontal therapy on serum and gingival crevicular fluid cytokine levels during pregnancy and postpartum.
Fiorini T, Susin C, da Rocha JM, Weidlich P, Vianna P, Moreira CH, Bogo Chies JA, Rテカsing CK, Oppermann RV.
J Periodontal Res. 2013 Feb;48(1):126-33..

歯周組織の感染に由来する低レベル全身的炎症状態が、歯周病と産科的有害事象を含む全身状態との関連を説明できると提唱されている。この研究の目的は歯周病と早産に関連した6種類のサイトカインの、歯肉溝浸出液レベルや血清レベルに及ぼす妊娠期間中での歯周治療の影響について評価することである。
大規模臨床研究で募集された被験者のうち妊娠20週までの60人(18ー35才)がこの研究に参加した。参加者は妊娠24週前に包括的な非外科的歯周治療を受ける群(n=30)あるいは歯肉縁上の歯石除去のために1度きりの治療受診群(n=30)に無作為に割り当てられた。臨床データ、血液サンプルと歯肉溝浸出液サンプルがベースライン時、妊娠26-28週、と出産後30週に採取された。インターロイキン(IL)-1β、IL-6、IL-8、IL-10、IL-12、IL-12p70と腫瘍壊死因子αがフローサイトメトリーにて解析された。
処置後テスト群では歯周組織の炎症が著しく消退し、プロービング時の出血部位は49.62%から11.66%に減少した(p<0.001)。歯周治療は歯肉溝浸出液中のIL-1βとIL-8のレベルを有意に減少させた(p<0.001)。しかしながら、血清中のサイトカインレベルについては、治療による有意な影響は観察されなかった。出産後、テスト群の歯肉溝浸出液中のIL-1βレベルはコントロール群のそれより有意に低い値であった(p<0.001)が、血清サイトカインレベルについてはテスト群とコントロール群間で有意な差はみられなかった。
妊娠期間中の歯周治療は歯周組織の炎症や歯肉溝浸出液サイトカインレベルを減少させたが、血清バイオマーカ-に対しては有意な影響力を示さなかった。
(サイトカイン、炎症、炎症メディエーター、非外科的歯周治療、歯周医学、全身的宿主効果)
(局所にある歯周組織の炎症が全身に影響しうるという仮説がある。歯周炎患者は健常人に比較して白血球数が高い、あるいはC-反応性タンパクの血漿レベルが高い、さらにはIL-1β、IL-6、TNF-αと、IL-10およびIL-12レベルが高いなど多くの報告がされてきている。しかし、歯周治療の全身的な影響については相反するような報告がなされている。
妊娠期の女性に対する歯周治療の、全身的な種々のメディエーターに及ぼす影響はどうだろう。C-反応性蛋白、プロスタグランディンE2、MMP-9、フィブリノーゲン、エンドトキシン、IL-1β、IL-6、IL-8とTNF-αの血清レベルを調べた報告ではどれも有意差はなかったようだ。
今回も研究でも、歯周治療によって局所のサイトカインレベルの減少はみられたものの、全身的なレベルでは歯周治療の影響は見られていない。さらに、今回の調査対象女性の出産時の早産率は、テスト群11.72%でコントロール群は9.09%であり、有意差はない。低体重児出産については例数が少なかく、比較できるようなものではなかったようだ。
今回の結論としては、歯周炎を持つ妊娠女性に歯周治療をおこなってもその早産率を減少させることはできず、それは全身的なサイトカインレベルに変化を与えることができなかったためかも知れない、と考察している。)
(平成25年2月26日)


No.206
Early and late studies of EMD use in periodontal intrabony defects.
Mueller VT, Welch K, Bratu DC, Wang HL.
J Periodontal Res. 2013 Feb;48(1):117-125.

歯周組織の骨内欠損の治療に対してエナメルマトリックスディリバティブ(EMDs)の臨床的効果が報告されている。しかし、最近の報告では、初期の結果の妥当性に疑問が投げかけられている。そこで、この研究の目的は外科処置時にヒト骨内欠損治療に際してEMDが併用される場合、初期および最近得られた結果を比較する事にある。このメタ解析の目的は、最近の研究成果と比較して初期の研究で報告された結果の妥当性を評価することにある。
PubMedとMEDLINE検索がおこなわれた。評価期間は1997から2010の間で、同じ長さの二つの期間に分けた。つまり初期研究(1997-2003)と最近の研究(2004-2010)である。評価された臨床パラメーターは臨床的アタッチメントレベル(CAL)、プロービングポケット深さと骨再生量(BG;パーセントあるいはmm)である。
初期の研究 (1997-2003)と最近の研究 (2004-2010)から得られた結果間に、 CAL獲得、プロービング深さ、とプロービング深さの減少、BGに関して、統計学的に有意な差は認められなかった。それでもなお、両研究期間ともフラップ手術に際し、EMDを用いない群に比較して、歯周組織の骨内欠損治療にEMDを用いることの有用性が示された。
この研究結果は、歯周組織骨内欠損の治療に際して用いられるEMDの臨床的有効性に関して、初期の研究成果と最近の研究成果間で、大きな差を示せなかった。
(生物学的試薬、エムドゲイン、エナメルマトリックスデリバティブ、歯周骨内欠損)
(初期と最近の報告で差があるやなしや、という検討だったので、そのことについてディスカッションしているのかと思ったが、そのようなことはあまり書かれていない。EMDを用いると、今回のメタ解析ではCAL獲得3.04mmでプロービング深さの減少は4.05mmであった。これは過去のメタ解析(2002年)と同程度である。またレントゲン的なBGは43.02%(2.35mm)という結果であった。
GTRとの比較では臨床的な成績に差が無いという報告もあるが、EMDは骨に十分囲まれた欠損(2壁性や3壁性)でより効果的で、そうでない欠損ではGTRの方が有利と述べられている。ただ、GTRは術後75%に膜の露出など合併症がみられる(対するEMDの合併症は6%)のは、GTR利用に不利な事項だ。BGもGTRに比較するとEMDの効果はやや劣るようだ。)
(平成25年2月23日)


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