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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p050(no.211-215)

No.215
Enamel matrix derivative, alone or associated with a synthetic bone substitute, in the treatment of 1- to 2-wall periodontal defects.
De Leonardis D, Paolantonio M.
J Periodontol. 2013 Apr;84(4):444-55.

この研究では、1壁性から2壁性の骨内欠損に対して外科的に対応する場合に、ハイドロキシアパタイトとβ三リン酸カルシウム(HA/β-TCP)移植と組み合わせたエナメルマトリックスデリバティブ(EMD)の影響をEMD単独あるいはオープンフラップデブライドメント(OFD)と比較する。
異なる1/4顎に3カ所以上の骨内欠損を有する34人の患者がそれぞれの欠損に対してOFD、EMDあるいは EMD + HA/β-TCPによる治療がおのおのおこなわれた。ベースライン時、12ヶ月、24ヶ月に全ての臨床的およびレントゲン的診査がおこなわれた。異なる治療に対して治療前と治療後の臨床的(プロービング深さ[PD]、臨床的アタッチメントレベル[CAL]と歯肉退縮[GR])とレントゲン的(欠損骨レベル[DBL]とレントゲン的骨再生[RBG] )パラメーターが比較された。
12ヶ月と24ヶ月にほとんど全ての臨床的およびレントゲン的パラメーターが各群内でベースライン時から有意な変化があった(P<0.001)。12ヶ月後と24ヶ月後に3群内でPD、CALとDBLスコアにおける差がみられた(P<0.001)。12ヶ月と24ヶ月後に、EMD + HA/β-TCP群はOFDとEMD群に比較して、有意なPD減少(4.00 ±0.42 mm; 4.25 ± 0.63 mm)、CAL獲得(3.47 ± 0.65 mm; 3.63 ± 0.91 mm)、RBG (3.17 ± 0.69 mm; 3.35 ± 0.80 mm)とGR増加(0.56 ±0.37 mm; 0.63 ±0.42 mm)を示した <0.05)。
我々の研究から、EMDと組み合わせたHA/β-TCP移植の応用は予後不良とされる骨内欠損の外科的治療の臨床的およびレントゲン的成績を向上させる可能性がある。
(臨床治験、エナメルマトリックスデリバティブ、組織再生誘導法、歯周、歯周病、移植)
(対象としているのが1、2壁性であるが、EMDはなかなか頑張っているといえる。著者らは、外科的な手法に結構気をつかったからだと、つまり歯間乳頭や歯槽骨縁上の軟組織を保存して、軟組織の一次創を獲得維持できるようにしたからだと言う。でもね、CAL獲得について言えば、従来法では2.2から6.45mmの報告がある一方で、歯間乳頭保存法では1.8から4.7という報告があり、この研究では2.8mmだ。
用いた外科手法だけでは臨床成績の差を説明できないと指摘している人もいるようだ。それよりもスペースメイキング(フラップの落ち込みや歯肉退縮を防ぐこと)が重要かもしれないと述べている。
HA/β-TCPを含めて、骨代替材をEMDと組み合わせたときの、その付加的な有効性ついては効果あり、なしと結果は相反している。その理由については、手術法、観察期間など様々考えられるが、明確な回答は得られていない。今回の結果ではHA/β-TCPの付加効果が得られているようだが、EMDに何かを組み合わせてさらに良好な結果を得られるかどうかは、まだ今後の研究を待たないといけないようだ。)
(平成25年3月31日)


No.214
1% Alendronate Gel as Local Drug Delivery in the Treatment of Class II Furcation Defects: A Randomized Controlled Clinical Trial.
Pradeep AR, Kumari M, Rao NS, Naik SB.
J Periodontol. 2013 Mar;84(3):307-15.

アレンドロネイト(ALN )、アミノビスフォスフォネイト、は骨芽細胞の前駆細胞を刺激して、骨芽細胞形成を促進することが知られている。この研究の目的はクラスII分岐部欠損の治療に対して、スケーリングとルートプレーニング(SRP)の付加的処置として、局所ドラッグデリバリーシステム応用1%ALNゲルの効果をプラゼボゲルと比較して検索することである。
下顎クラスII分岐部欠損の69症例が無作為に1%ALNあるいはプラセボゲルで処置された。臨床パラメーターがベースライン、3ヶ月、6ヶ月と12ヶ月後に記録され、レントゲン的パラメーターがベースライン時、6ヶ月後と12ヶ月後に記録された。ベースライン時、6ヶ月後と12ヶ月後の骨欠損がイメージ解析ソフトを用いて規格化レントゲン上で計測された。平均プロービング深さ(PD)の減少と平均相対垂直(RVCAL)と水平(RHCAL)臨床的アタッチメントレベルについて、3,6,12ヶ月後にプラセボに比較してALN群で有意な獲得が得られた。さらに、ALN群における平均骨再生率(32.11% ±6.18%, 32.66% ± 5.86%)が、6ヶ月12ヶ月ともにプラセボ群のそれ (2.71% ± 0.61%, 1.83% ±1.51%)と比較して有意に大きかった。
この研究の結果は、SRPの付加的治療としてクラスII分岐部欠損への1%ALNの局所投与がプラセボゲルと比較してPD減少、RVCALとRHCAL獲得と骨再生改善を有意に促進していることを示した。ALNは分岐部治療において新しい方向性を示してくれる。
(アレンドロネイト、臨床試験、ドラッグデリバリーシステム、分岐部欠損、X線撮影)
(ALNは骨に取り込まれると吸収面に結合する。骨吸収活性化の間局所で放出されて局所濃度が上昇する。
ビスフォスホネートの作用機序としては、破骨細胞に対する作用、IL-6の産生抑制、MMP活性の抑制などがある。ご存じの通り全身投与では顎骨壊死をはじめとする幾つかの副作用が知られている。ただ、この研究のような局所投与での副作用についての報告はほとんどないということだが、長期の観察が必要となろう。
ここでも紹介したことがあるが、このグループからはALNについて同様の報告が何報かある。今後はどう展開するのだろう。)
(平成25年3月27日)


No.213
Periodontal disease in men.
Haytac MC, Ozcelik O, Mariotti A.
Periodontol 2000. 2013 Feb;61(1):252-65.

歯周病と性ステロイドホルモンとの関連性に関して、男性は忘れられた性である。女性の一生において特定の期間に生じる著しく劇的な変化を考えると、男性における性ステロイドホルモンの影響について精密な調査がなされてほとんどなされてこなかったのは驚くに当たらない。女性で報告される歯肉炎症の変化にもかかわらず、男性は破壊的な歯周病の高い罹患率が報告されている。このレビューで提示された情報は歯周病に対する男性の感受性についての最新評価である。

(男性で疾患罹患率が高くなる理由に、ひとつは生物学的な差、今ひとつは行動的あるいは心理社会学的な因子、という考え方がある。
はたして歯周病の罹患感受性に性差はあるのか。最近の性差と歯周病というテーマのレビューでは、免疫機能(自然免疫と獲得免疫とも)における差が歯周病に対する男性の感受性を増加させている、異なる遺伝子制御の結果であるとの仮説が提唱されている。
歯周病に関する文献に現れている、最近のテーマとその主張をまとめてみると
歯肉炎:横断的研究からは男性>女性、縦断的な研究からは男性=女性
歯肉退縮:炎症性因子 男性>女性、外傷性因子 男性<女性
破壊的歯周病の発症:男性という性がリスク因子であるかどうかは不明
破壊的歯周病の進行:男性は重度の歯周炎へと移行する傾向がある
歯の喪失:男性=女性
1.男性が歯肉炎や歯周病の発病に対するリスク因子である、と考えるにはデータは不十分なものしかない
2.歯周病が確立すると、女性に比べて男性はより重度な病状へ移行しやすい。このことは口腔清掃レベルや喫煙習慣など、行動的あるいは環境因子的な要因の結果であろう。
3.男性がより重度な歯周病になりやすいことは、女性と比較して高い歯の喪失レベルを必ずしも示すものではない。

男性は女性よりも健康に気をつかったりせずに、お医者さんにかかることも嫌がる。生物学的な差なんかと違って、このような男性によく見られる特有の行動に起因して歯周病も悪化しやすいのだろう、というのが著者らの考えのようだ。
最後に男女の差についてマザーグースの一節を引用している。
「男の子は、カエル、カタツムリ、小犬の尻尾でできている」
「女の子は、砂糖、スパイス、素敵な何かでできている」
あまりピンとこないがね。
(平成25年3月23日)


No.212
Sex and the subgingival microbiome: do female sex steroids affect periodontal bacteria?
Kumar PS.
Periodontol 2000. 2013 Feb;61(1):103-24..

ヒト女性における性ステロイドホルモンの変動は初潮に始まり閉経で終息する、歯肉炎と全身的性ステロイドとの関連は数多く報告があり、鮮紅色の強い炎症状態を説明する生物学的なメカニズムは数世紀に渡って研究されてきた。このレビューの目的は女性性ホルモンの口腔細菌叢に及ぼす影響に関する文献エビデンスを批判的に検討することである。
(PubMedで検索すると、periodontology2000はこれまでabstractナシだったが、体裁が変更されたようだ。
思春期、生理周期、妊娠など性ホルモンが特定の細菌の増殖に関与している、ということを示唆する報告が少なからずある。このレビューで紹介されている一つの論文内容は次のようなものである。42人の子供10年以上に渡って調査Black-Pigmented Bacteroidesは思春前期lに多く見られ、この菌レベルは歯肉炎の程度と相関していた。思春期は歯肉からの出血と関連していた。思春期の開始とともに、少年ではP.intermediaやPrevotella melaninogenicaが頻度高く検出され、Actinomyces odontolyticusが少女で頻度高く検出された。しかし初期にみられた菌の増加は思春期の間継続して続くわけではなかった。一方で、性ホルモンレベルは思春期期間中上昇していると考えられる。したがって菌の増減と性ホルモンレベルが必ずしも一致して相関しているとは考えにくい。
思春期、月経周期、妊娠、閉経は有意なホルモン変動をきたす。歯肉炎症の増加は増加するホルモンレベルの上昇時期と関連して、性ステロイドが歯肉縁下細菌叢に加えて歯肉の微少環境を変化させることにより病因に関係していると考えられている。初期の研究では女性の性ステロイド増加がBlack-Pigmented Bacteroides(特にP.intermedia)による選択的なコロニー形成を誘導していることが示唆されてきた。その理由は以下の通りである。
1.Black-Pigmented Bacteroidesは非妊娠女性よりも妊娠女性で高いレベルで検出された。
2.Black-Pigmented Bacteroidesは避妊薬(要するに女性ホルモンである)を用いた女性でより高いレベルで検出された。
3.エストロゲンやプロゲステロンはBlack-Pigmented Bacteroidesの重要な栄養素として、ビタミンKの代用物質となりうる。
しかしこれら過去の報告では、交絡因子が問題で、歯肉縁下の細菌は環境因子、特に炎症により影響を受ける。卵巣ホルモンは歯肉に対して亢炎症的に作用するので、歯肉細菌叢への炎症を介しての作用{歯肉組織には性ホルモンに対する受容体があることが知られる。性ホルモンによってまず炎症が惹起され、炎症の生じた環境故に増殖しやすい細菌が増加するという構図}と直接的な作用を分けることは困難である。
現在のところ、卵巣ホルモン上昇が特定の歯肉縁下細菌の選択的変化に関連しているという決定的なエビデンスはない、と締めくくられている。)
(平成25年3月16日)


No.211
A systematic review on the effects of local antimicrobials as adjuncts to subgingival debridement, compared with subgingival debridement alone, in the treatment of chronic periodontitis.
Matesanz-Perez P, Garcia-Gargallo M, Figuero E, Bascones-Martinez A, Sanz M, Herrera D.
J Clin Periodontol. 2013 Mar;40(3):227-41.

この研究の目的は、慢性歯周炎治療において歯肉縁下デブライドメントに併用する局所抗菌薬の効果に対して、科学的エビデンスをアップデートすることである。
52の異なる研究者から報告された、56論文が選択さた。研究は全てプロービングポケット深さ(PPD)と臨床的アタッチメントレベル(CAL)とほとんどの場合、プラーク指数(PlI)/プロービング時の出血(BOP)の変化を報告していた。組み入れ基準を満たす研究から取得されたデータを基にメタ解析がおこなわれた。
抗菌薬の歯肉縁下への投与効果はPPDとCALの両変化ともに統計学的に有意な差があり、それぞれ-0.407と-0.310mmの加重平均の差(WMD)であった。BOPとPlIにおける変化に対しては有意な差が生じなかった。テトラサイクリンファイバー、持続放出性ドキシサイクリンやミノサイクリンの歯肉縁下の投与はPPD減少(WMD 0.5ー0.7mm)において有益性のあることを示した。他の試験成績は不均一性が著しかった。クロルヘキシジンとメトロニダゾールの局所投与はプラセボと比較してわずかの効果を示した(WMD 0.1-0.47)。
科学的なエビデンスは深いあるいは再発性の歯周組織部位において、デブライドメントに局所の抗菌薬の併用する効果を支持する。それは多くの場合実績のある持続放出性抗菌薬を用いていた。
(慢性歯周炎、局所抗菌薬、メタ解析、スケーリングルートプレーニング、システマティックレビュー)
(今回のメタ解析では局所抗菌薬を用いた際のPPDとCALの変化量はそれぞれ-0.407と-0.310mmであり、過去2003、2005年の報告は0.3から0.6mmの間であり、まあ同程度であった。今回のメタ解析について薬剤別にPPDをみると、テトラサイクインファイバーが0.727mm、ドキシサイクリン0.573mm、ミノサイクリン0.472mm、CHXチップとメトロニダゾールチップは0.4mm以下であった。さめた見方をするとこの数値が臨床的にどれ程のものだろう、とは思うが、まあ統計学的には有意差がある数字だ。
しかし、CHXを異なった担体で調べた研究があり、その結果から薬剤の種類よりも担体がいかに薬剤を持続して放出するかの性質が重要と考えられるようだ。
全身投与では種々の副作用が問題となりやすいが、局所抗菌薬では副作用についての報告はほとんどみられない。
臨床家はこれらの局所薬剤の使用に際しては、操作性、投与にかかる時間、コストなども考慮すべきと忠告している。
科学的なエビデンスは深いポケットや再発性罹患部位に対するSRPの併用療法として、局所抗菌薬の有用性を支持していると述べられている。)
(平成25年3月15日)



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