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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p054(no.231-235)

No.235
Evaluation of supracrestal gingival tissue after surgical crown lengthening: a 6-month clinical study.
Arora R, Narula SC, Sharma RK, Tewari S.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):934-40.

手術時に得られる歯冠長の安定性に関して、これまでの歯冠長延長(CL)についての研究は相反する結果を報告している。数十年来「3-
mmルール」がCL手術の際に除去する歯槽骨の量を規定してきた。歯槽骨縁上組織(SGT)径には幅広いバリエーションがあることが昨今理解され、骨削除は状態に応じてカスタマイズされうる。この研究の目的はCL手術6ヶ月後の歯周組織の変化を調べ、長期間得られるCLの安定性に影響を与えうる因子を評価することである。
64歯のCL手術が必要とされた64人の患者がこの研究に含まれた。臨床パラメーターが処置歯と隣在歯の6面で記録された。部位は処置部位、隣在部位、非隣在部位に分類分けされた。骨はおのおのの部位で修復目的に対する必要性に応じて残存歯質量とSGT径に基づいて切除された。患者は3と6ヶ月後に再評価された。
CL手術6ヶ月後に有意な軟組織リバウンドが観察された (0.77±0.58 mm)。このリバウンドは歯周組織のバイオタイプ(r = 0.325, P = 0.000)と縫合術後のフラップ位置(r = -0.601, P = 0.000)に関連していた。SGTは6ヶ月後までに術前の径までに後戻りすることはなかった(P = 0.001)。
手術で得られた歯冠長は術後6ヶ月で有意に減少した。歯槽骨頂から3mm以下にフラップを適合させて縫合することや厚い直線状の歯周バイオタイプはリバウンドが大きくなることと関連していた。
(骨、歯冠長延長、歯肉、ステント、外科処置、フラップ手術)
(生物学的幅径は歯槽骨を感染や刺激から防御するのに必要とされ、Garguiloらの研究から上皮付着が0.97mmで結合識性の付着が1.07mmと報告され、この和が生物学的幅径の大きさとされている。そして、修復物のマージンから歯槽骨頂まで3mmであれば歯周組織の健康が維持されるという研究がなされた。
歯肉のバイオタイプが術後のリバウンドに影響するようである。歯肉が厚くて直線状だとリバウンドしやすく、対して歯肉が薄くスキャロップ状だとしにくい。もともと結合識が厚くなりやすいタイプだからなのだろうか。また臼歯の方が若干リバウンドしやすいようだ。
フラップ弁の位置が歯槽骨頂からフラップマージンの距離が小さいほど歯冠長は長くなるが、今回の研究結果を踏まえるとそれでは歯冠長の安定性に欠けリバウンドしやすくなるということだ。軟組織を根尖側へ移動させるよりは骨を削った操作の方が安定性のよい結果が得られるようだ。また軟組織が分厚い人は、歯冠長を安定して確保したいのなら、同じく骨を削れということ。)
(平成25年7月15日)


No.234
Hyaluronic Acid as an adjunct after scaling and root planing: a prospective randomized clinical trial.
Eick S, Renatus A, Heinicke M, Pfister W, Stratul SI, Jentsch H.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):941-9.

この研究はスケーリングルートプレーニング(SRP)後の初期の創傷治癒時に、ヒアルロン酸含有ゲルを投与することによってもたらされる、臨床変数、歯肉縁下細菌と局所の免疫反応への影響を決定するために企画された。
このランダム化臨床研究では、慢性歯周炎患者34人からのデータが全顎SRPの後に評価された。テスト群(n=17)では、二種類の分子量を持つヒアルロン酸ゲルがSRPの後最初の2週間付加的に投与された。コントロール群(n=17)ではSRPのみの処置が施された。プロービング深さ(PD)と臨床的アタッチメントレベル(CAL)はベースライン時、3および6ヶ月後に記録され、歯肉縁下プラークと歯肉溝浸出液サンプルが細菌学的および生化学的解析のために採取された。
両群ともにPDとCALが有意に減少した(P <0.001)。PDの変化とPD>5mm以上を有するポケットの数の減少は3ヶ月後 (P = 0.014と0.021) および 6ヶ月後 (P = 0.046と0.045)にテスト群で有意に高かった。SRP後6ヶ月のTreponema denticola 数は両群で有意に減少し(両群ともP = 0.043)、テスト群でのみCampylobacter rectus数も同様に減少していた。Prevotella intermedia とPorphyromonas gingivalisはコントロール群で増加していた。
ヒアルロン酸の付加的応用はPD減少に有利な効果を有している可能性があり、歯周病原性細菌による再コロニー形成を抑制するのかも知れない。
(慢性歯周炎、ヒアルロン酸、白血球エラスターゼ、細菌学、ルートプレーニング、創傷治癒)
(ぐるぐるぐるぐるグルコサミン。そうヒアルロン酸はグルコサミノグリカンの一種で、生体では関節や皮膚などに分布する。「ぷるるん、ヒアルロン酸配合!」などの化粧品や「関節の痛みに!」、などの宣伝文句に多く登場するのでお目にかかることも多かろう。
このヒアルロン酸は骨の再生、創傷治癒に好ましい影響があることや、抗炎症作用を有することが報告され、歯周治療にも登場することとあいなった。
この研究ではSRP直後に分子量1,800kDaの0.8%ヒアルロン酸(HA)をテスト群ポケット内に施術者が投与して、その後一日2回14日間分子量1,000kDaの0.2%HAを患者自身が歯肉辺縁に塗るというプロトコールだ。コントロールはSRPのみ。
過去にも同様に研究があるのだが、そこではHAに臨床的効果なしと報告されている。今回の結果との差は、用いたHAの分子量の違いが反映しているのではと考察している。というのもHAは分子量の違いで、創傷治癒や炎症反応への作用が異なるという報告があるからだ。
HAには静菌的な作用があるとの報告もある。今回の検索細菌種でHAによる歯周病原性菌の抑制はあまりないようだが、Pi、Pg、やC.rectusについては多少それをうかがわせる結果にはなっている。)
(平成25年7月15日)


No.233
Photodynamic therapy in the treatment of class II furcation: a randomized controlled clinical trial.
Luchesi VH, Pimentel SP, Kolbe MF, Ribeiro FV, Casarin RC, Nociti FH Jr, Sallum EA, Casati MZ.
J Clin Periodontol. 2013 Aug;40(8):781-8.

この研究の目的は分岐部に対するメカニカル治療の付加的治療として光線力学療法の効果を調べることである。
二重盲検、無作為コントロール臨床研究がクラスII分岐部病変を持つ被験者に対しておこなわれた。被験者は無作為にテスト群(PDT; n=16)とコントロール群(非活性化レーザー/光増感剤のみ; n=21)に割り当てられた。ベースライン時、3および6ヶ月時、臨床的、細菌学的、サイトカインパターンの評価がおこなわれた。臨床的アタッチメントレベルが一次評価項目として定義された。
臨床的パラメーターは両処置(p<0.05)後に改善したが、いずれの時点においても群間に差はみられなかった(p>0.05)。リアルタイムPCR評価で、6ヶ月後PDT群でのみPorphyromonas gingivalisとTannerella forsythiaに減少がみられた(p<0.05)。サイトカインに関しては、IL-4とIL-10レベルが6ヶ月後両群ともに上昇したが、群間には差はなかった。GM-CSF、IL-8、IL-1βとIL-6レベルが3ヶ月後にPDT群においてのみ減少した(p<0.05)。6ヶ月後、PDT群では低下したIL-1βレベルのままであった(p<0.05)。
光力学的治療はクラス分岐部に対して臨床的に有効な効果を促進しなかったが、局所のサイトカインレベルや歯周病原性細菌の減少には有利に作用することが示された。
(慢性歯周炎、サイトカイン、分岐部欠損、細菌学、歯周ポケット、光化学療法、ルートプレーニング)
(クラス分岐部病変に対して、SRPに加えて光力学療法をおこなってもCALで評価する限り、有効な効果は認められなかった。細菌学的な検索では、PDT群では6ヶ月後PgやTfでベースライン時に比較して減少がみられている(但し群間に差はない)。PDT群では、IL-1βのような亢炎症的なサイトカインは低下するような傾向を示している。BoPはPDT群ではベースライン時に比較して3、6ヶ月とも減少している(コントロール群でも3ヶ月で低下、いずれの時点でも群間に差はない)。これらのことからPDTは分岐部病変に対して、臨床的アタッチメントレベルに差を見いだせるほどの効果はないが、細菌減少や生体の炎症抑制には効果は部分的ながらあるといえる。またアタッメントレベルに変化はないが、臨床的にBoPの割合も低下させる傾向がみられている。これは細菌への作用や炎症抑制の結果か、はたまた”photomiomodulation”の効果か。
今回は6ヶ月までの追跡だが、もっと長期間観察を続ければ差が生じるのかもしれない。またPDTがワンショットだが、他の研究では繰り返しのPDTが有効との報告もあるので、これらの点を踏まえた研究がなされれば、PDTの歯周治療における有効な利用法が見いだせるのかも。)
(平成25年7月14日)


No.232
Periodontitis and chronic kidney disease: a systematic review of the association of diseases and the effect of
periodontal treatment on estimated glomerular filtration rate.
Chambrone L, Foz AM, Guglielmetti MR, Pannuti CM, Artese HP, Feres M, Romito GA.
J Clin Periodontol. 2013 May;40(5):443-56.

このシステマティックレビューの目的は歯周炎と慢性腎臓病(CKD)との関連性や歯周治療(PT)の推算糸球体濾過量(eGFR)に及ぼす影響を評価することである。
MEDLINE、EMBASEとCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL) データベースにより、歯周炎とCKDとの関連性について報告した観察研究(S1)と介入研究(S2)について、2012年9月30日までを含む検索がおこなわれた。
eGFRを報告している場合に検索対象に適格とされた。検索は二人の独立したレビューヤーよっておこなわれた。観察研究の方法の質は、このレビューに適合したニューキャッスルオタワスケール(NOS)とコクラン共同計画バイアスリスク評価ツールを用いて評価された。変量効果オッズ比メタ解析が歯周炎とCKD間の関連性の程度を評価するためにおこなわれた。
研究ストラテジーにおいて可能性のある2456の適格論文を同定した。このうち、4つの横断的、一つの後ろ向き、三つの介入試験が対象として含まれた。4つのS1で、80%が歯周炎とCKD間にいくらかの関連性を報告していた。同様にそのような成績は併合推定値により支持された (OR:1.65, 95% 信頼区間: 1.35, 2.01, p<0.00001, カイ(2) =1.70, I(2) =0%)。全ての介入試験は治療と関連して正の結果を示した。
歯周炎とCKD間には正の相関、同様にPTのeGFRに対する正の効果を支持する一貫したエビデンスがある。
(慢性、腎、腎疾患、歯周疾患、歯周炎腎不全、システマティックレビュー)
(プラーク起因性の歯肉炎/歯周炎と他の全身疾患との関連性が種々研究されているが、CKDは糖尿病などに比べると露出度が少ない。
両者の関連性で注目されるのは、(1)歯周炎によって引き起こされる全身的な炎症負荷と局所で産生されるIL-1、IL-6、PGE2やTNF-αなどの炎症メディエーター、(2)血流中に存在する細菌とその産生物、である。
前者の説明:歯周炎患者ではC-反応性蛋白の上昇、マイルドな急性期全身炎症反応が生じる。歯周炎が永続的な炎症源となってCKDに
寄与するというメカニズム。後者:血流を循環する歯周病原性細菌が腎内皮を傷害させるというメカニズム。)
(平成25年7月8日)


No.231
Adjunctive photodynamic therapy to non-surgical treatment of chronic periodontitis: a systematic review and meta-analysis.
Sgolastra F, Petrucci A, Severino M, Graziani F, Gatto R, Monaco A.
J Clin Periodontol. 2013 May;40(5):514-26.

慢性歯周炎患者に対するスケーリングルートプレーニングの付加的治療として、抗菌光線力学療法の効果を検索することが本研究の目的である。
PRISMA声明とコクラン共同計画勧告に従いメタ解析がおこなわれた。二人の独立したレビューヤーが7つのデータベースについて広範囲な文献検索と手検索をおこなった。平均差(MD)と95%信頼区間(CI)が臨床的アタッチメントレベル(CAL)獲得、プロービング深さ(PD)減少に関して算出された。研究間の不均質性に対してはI(2) testが用いられた。出版バイアスはEgger's regression testとrim-and-fill methodによって調べられた。
14のランダム化臨床試験(RCTs)の感応度分析は、不均一性にエビデンスはなく、PD減少 (MD 0.19, 95% CI 0.07-0.31, p=0.002)とCAL獲得(MD 0.37, 95% CI 0.26-0.47, p<0.0001) について、SRP+aPDTに有利な差を示した。サブグループ解析はPD減少とCAL獲得に対してバイアスの高いリスクを伴っており、RCTに不均一性が存在しないことを示した。出版バイアスにエビデンスは認められなかった。
通法のSRPに付加的aPDTの使用は短期には有益と思われる。この臨床的中期/長期の有効性を支持するエビデンスは不十分である。付加的aPDTの有効性について強力な交絡因子の影響を調べるために、さらに質の高いRCTが必要だ。
(慢性歯周炎、スケーリング、メタ解析、光化学療法)
(3ヶ月後の成績では、aPDTには有意差のある付加的効果がみられる。PD減少が0.19mmでCAL獲得は0.37mmだ。しかし著者らは、有意差はあるが、臨床的な改善としての妥当性はほとんどない、と述べている。その上6ヶ月では有意差はなくなっている。ただし6ヶ月までフォローしている研究数が少ないことを付記している。
aPDTに期待する研究は少なくないようだが、期待するほどの結果がでていないように思える。考察もそれを反映しているように思えた。)
(平成25年7月1日)



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