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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p053(no.226-230)

No.230
Change of periodontal disease status during and after pregnancy.
Xie Y, Xiong X, Elkind-Hirsch KE, Pridjian G, Maney P, Delarosa RL, Buekens P.
J Periodontol. 2013 Jun;84(6):725-31

この研究は妊娠中と妊娠後に歯周病状態に何らかの変化があるかどうかを検索することである。我々はまた妊娠糖尿病(GDM)既往のある女性とない女性との間に変化の差異があるかもまた調査した。
バトンルージュ(ルイジアナ州)産婦人科病院で追跡調査がおこなわれた。妊娠期間中ケースコントロール研究で以前募集された39人が出産後平均22ヶ月追跡調査がなされた。歯周組織の状態は妊娠期間中と妊娠終了後に歯科診査を通じて評価された。臨床歯周パラメーターにはプロービング時の出血(BOP)、平均プロービング深さ、と平均臨床アタッチメントレベル(CAL)が含まれた。歯周炎はPD>=4mmもしくはCAL>=4mmを示す部位が1カ所以上と定義した。歯周組織の状態変化を診査するために一般化推定方程式を用いた。
BOP部位の平均数とパーセントは妊娠期間中の10.7 ±11.6 (mean ± SD)と6.5% ± 7.0%から、分娩後22ヶ月7.1 ± 8.8と4.3% ± 5.3%にそれぞれ減少した(P <0.05)。PDとCALレベルは1.8 ± 0.4 mmと1.9 ± 0.3 mmから1.6 ±0.3 mmと1.6 ± 0.3 mmにそれぞれ減少した (P <0.01)。歯周炎の罹患率は66.7%から33.3%へと減少した (P <0.01、adjusted risk ratio = 2.1、95%信頼区間= 1.3 to 3.4)。妊娠期間中GDMである女性とそうでない女性間で歯周組織状態変化に差はなかった。
妊娠は歯周病のリスク増加と関連しているかもしれない。妊娠中にGDMに罹患している女性とそうでない女性との間に、歯周病との関連性に差はなかった。
(糖尿病、妊娠性、歯周病、妊娠)
(エストロゲンとプロゲステロンを含むホルモンレベルが妊娠期に上昇する。これらの結果、歯肉組織の血管透過性が亢進し、妊娠性歯肉炎が生じる。この歯肉の炎症反応の増加が嫌気性菌の増殖を誘導すると説明されている。
一方、ホルモンレベルの上昇が歯周病原性菌の増加や変異性を誘導する可能性も考えられる。多くの研究から、内服避妊薬が歯周病原性菌の増加を伴う歯周病と関連することを報告している。しかし妊娠中における、歯周炎と直接関連した細菌による歯肉縁下濃度の変化は未だ確認されていない。例えばある研究では、妊娠中の歯肉縁下細菌叢を継続して調べた。しかし歯周炎と関連するような、歯肉縁下細菌レベルの統計学的に有意な変化は見いだせなかった。ということで、多くの研究が妊娠と歯肉炎や歯周炎との関連を指摘するのだが、その因果関係については未だ明確にはされないままだ。)
(平成25年6月23日)


No.229
Ten-Year Results Following Treatment of Intrabony Defects With an Enamel Matrix Protein Derivative Combined With Either a Natural Bone Mineral or a β-Tricalcium Phosphate.
Dori F, Arweiler NB, Szanto E, Agics A, Gera I, Sculean A.
J Periodontol. 2013 Jun;84(6):749-57.

この研究の目的は天然の骨ミネラル(NBM)あるいはβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)を併用して、エナメルマトリックスタンパク(EMD)を骨内欠損の治療に応用した際の10年後の成績を評価することである。
深い骨内欠損を有する進行した慢性歯周炎患者22人が無作為にEMD + NBMあるいはEMD + β-TCPで処置を受けた。臨床評価はベースライン時、1年後および10年後におこなわれた。次の臨床パラメーターが評価の対象となった。プラーク指数、プロービング時の出血、プロービング深さ、歯肉退縮、そして臨床的アタッチメントレベル(CAL)である。一次評価項目はCALであった。
EMD+NBMで処置した欠損は、平均CALが8.9 ± 1.5 mmから、1年後および10年後にそれぞれ5.3 ± 0.9 mm (P <0.001)と5.8±1.1 mm(P <0.001)に変化した。EMD + β-TCPは平均CALが9.1 ± 1.6 mmから1年後5.4 ± 1.1 mm (P <0.001)に 、10年後に6.1 ± 1.4 mm (P<0.001)へと変化した。10年後EMD+NBM群における2欠損は1年後に得たCALの2mmを喪失し、さらに別の2欠損で1mmの喪失があった。EMD+βTCP群では、1年で獲得したCALが3欠損で2mmの喪失、他の2欠損で1mmの喪失がみられた。ベースラインと比較して、10年で3mm以上のCAL獲得が、EMD+NBM群で欠損の64%(11例中7)となり、またEMD+β-TCP群で欠損の82%(11例中9)となることが認められた。2群のいずれでも1年の成績と10年の成績間では統計学的な有意差はなかった。
限定された条件下ではあるが、この研究の所見からEMD+NBMあるいはEMD+β-TCPを用いた再生治療で得られた臨床的改善は10年間に渡って維持されることが示された。
(骨移植、エナメルマトリックスルプロテイン、歯周炎、無作為化比較試験、再生医療)
(EMDに移植剤を組み合わせると良好な成績を得られ、とりわけEMD+NBMが最もよい成績を示すという。これがこの論文の前提だ。そして他の移植剤としてβ-TCPがこのNBMと比較してどうか、ということを調べている。結論は両者に差はなし。この研究ではEMD単独のコントロールがないので、EMDに移植剤を組み合わせたときに付加的な効果が本当に得られているかは確認されていない。
PDはEMD+NBM群ではベースライン時8.0±1.2mm、1年後3.5±0.9mmそして10年後4.1±0.9mm、EMD+NBM群では同様に8.1±1.4mm、3.3±0.7mmと4.1±0.9mmであった。CALでも似たような傾向なのだが、10年後は1年後に比較すると数値的にはやや悪化している。但し、1年後と10年後では統計学的な有意差はない。10年という長き期間を考えるとやはり良好と言うべきなのだろう、症例は少ないが。)
(平成25年6月13日)


No.228
Progression of periodontitis and tooth loss associated with glycemic control in individuals undergoing periodontal maintenance therapy: a 5-year follow-up study.
Costa FO, Miranda Cota LO, Pereira Lages EJ, Soares Dutra Oliveira AM, Dutra Oliveira PA, Cyrino RM, Medeiros Lorentz TC, Cortelli SC, Cortelli JR.
J Periodontol. 2013 May;84(5):595-605.

歯周メインテナンス治療(PMT)中において歯周炎の進行と歯の喪失に対する血糖コントロールの影響を調べた前向き研究はこれまで報告されていなかった。この研究の目的はPMT中の被験者を対象に血糖コントロール状態と、歯周病の進行および歯の喪失との関連を評価することである。
PMTを受けている238人の被験者からなる前向きコホートから92人がこの研究に参加した。糖尿病コントロールは糖化ヘモグロビン(HbA1c)のパーセントで評価された。各被験者は性別と喫煙状態でマッチさせて、3つの群に分けられた:血糖コントロール不良の糖尿病患者(PGC)23人、血糖コントロール良好な糖尿病患者23人(GGC)、と非糖尿病コントロール46人(NDC)。プロービング時の出血(BOP)、プロービング深さ(PD)と臨床的アタッチメントレベルを含む全顎の歯周組織診査が、5年間各の全てのPMT受診時におこなわれた。
歯周炎の進行と歯の喪失はGGCとNDCに比較してPGC内で有意に高い値を示した。最終診査時における最終ロジスティックモードは1)歯周病の進行に対して、HbA1c >=6.5% (オッズ比[OR] = 2.9), 喫煙 (OR = 3.7), と 30%以上の部位におけるBOP(OR = 4.1)であり、2)歯の喪失に対して、HbA1c 6.5% (OR = 3.1)、喫煙(OR = 4.1)と10%以下の部位におけるPD 4 to 6 mm(OR = 3.3)であった.
PGC被験者、特に喫煙者はNDCやGGCと比較して歯周炎の進行や歯の喪失が増大することが示された。この結果から、良好な歯周状態を維持するに際して血糖値コントロールの重要性は強調されるべきであろう。
(糖尿病、メインテナンス、歯周アタッチメントロス、歯周炎、リスク因子、歯の喪失)
(この研究では、PMTは4-6ヶ月ごとで5年以上経過症例が対象に含まれ、PGCの基準はHbA1c6.5%以上で、GGCの基準は6.5%未満としている。
期間中2診査間で臨床的AL3mm以上の歯が少なくとも2本あれば歯周病の進行と定義され、PGC、GGCとNDCにおいてる歯周病の進行が認められた割合が、それぞれ39.1、21.7および23.9%であった。GGCとNDCに差がなかったことから、糖尿病であっても血糖コントロールが良好であれば歯周病予後は非糖尿病患者とかわらない、と考えられるようだ。)
(平成25年6月9日)


No.227
Effects of smoking cessation on the outcomes of non-surgical periodontal therapy: a systematic review and individual patient data meta-analysis.
Chambrone L, Preshaw PM, Rosa EF, Heasman PA, Romito GA, Pannuti CM, Tu YK.
J Clin Periodontol. 2013 Jun;40(6):607-15.

この研究の目的は慢性歯周炎患者の非外科的治療後の臨床成績に及ぼす禁煙(SC)の影響を評価するために個々の患者データ(IPD)メタ解析をおこなうことである。
MEDLINE、EMBASEとCENTRALが2012年8月まで検索された。少なくとも6ヶ月期間の前向きコホート研究は、参加者が次の評価基準を満たした場合に含まれた。(1)喫煙習慣を中止するのに興味を示した喫煙者、(2)歯周病の診断がなされた。研究は二人のレビューヤーによっておこなわれた。5つの異なる従属変数へのSCの影響を評価するために重回帰分析、またはポアソン回帰分析を用いてIPDメタ解析がなされた。
2455の基準を満たした可能性のある論文2455のうち、2論文が選択された。2研究は非外科的歯周治療の後に、SCがプロービング深さ(PD)を減少させて、アタッチメントレベルを改善させるのに付加的な好ましい影響を促進する可能性のあることを見いだした。IPDアプローチはデータの結合を可能にしたが、このレビューでデータに強度を付加するほどに有用ではなかった。
SCは歯周治療に重要な要素であるように思える。喫煙者は全ての歯周治療管理のひとつとして、禁煙を奨励されるべきである。しかし解析に有用なエビデンスは限定的である。
(歯周病、歯周炎、喫煙、禁煙、システマティックレビュー)
(言わずもがな、喫煙は歯周病治療の大敵である。喫煙者は非喫煙者の2-8倍歯周病に罹患しやすく、メインテナンスの間に歯周病が原因で5倍も歯を失いやすくなるという報告がある。
この手の研究は難しいようだ。被験者の脱落率が高いことや、検査の時に喫煙者は喫煙臭がするので、盲検が成立しにくいなどの問題点があるようだ。
結局2論文のみが対象となって、一方の結論が、禁煙することは12ヶ月後非外科的な処置後PD減少に付加的で有益な影響を与える、ということで、今一方は禁煙はアタッチメント獲得を亢進するということだった。
両論文から重回帰分析によって導き出された結果は、禁煙者はPD2mm以上減少した部位が、非喫煙者よりも30%多かった。禁煙者は非禁煙者に比較して4mm以上のPD残存部位が22%少なかった、ということだった。
臨床的にはどの程度の喫煙者が、禁煙したらどれぐらい期間からどの程度の効果影響があらわれるのかなど興味が尽きないのだが、この論文はIPDとについての方法論的な記述が多いのだ。)
(平成25年6月7日)


No.226
Subgingival Aggregatibacter actinomycetemcomitans associates with the risk of coronary artery disease.
Palvi Mantyia, Buhlin K, Paju S, Persson GR, Nieminen MS, Sinisalo J, Pussinen PJ.
J Clin Periodontol. 2013 Jun;40(6):583-90.

我々は血管造影的に確認された冠状動脈疾患(CAD)と歯肉縁下Aggregatibacter actinomycetemcomitans、Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythia と Treponema denticolaとの関連性について検索した。
横断的研究対象群(n=445)は171 (38.4%) 人の安定したCAD、158 (35.5%)人の急性冠動脈症候群(ACS)と116 (26.1%)人の明らかなCADのない人 (No CAD)から構成された。
全ての群でP. gingivalis、T. forsythiaとT. denticolaの存在は歯槽骨欠損(ABL)と有意に比例的な関係を示したが、 A.actinomycetemcomitansはそうではなかった(p=0.074)。1x10(5) 細胞数の閾値レベルでは、A. actinomycetemcomitansは非CAD群(30.2%)(p=0.040)と比較して安定CAD群 (42.1%) で有意に存在率が高かった。この閾値を用いておこなったマルチ調整ロジスティック回帰分析から、A.actinomycetemcomitansは安定したCADと正の相関があった(OR 1.83, 95% CI 1.00-3.35, p=0.049)が、そのレベルあるいは他の菌のレベルはそうではなかった。
歯肉縁下A. actinomycetemcomitansの存在は、歯槽骨吸収とは独立して安定したCADとほぼ二倍でリスク関連があった。
(Aggregatibacter actinomycetemcomitans,血管造影、冠状動脈疾患、DNA-DNAハイブリダイゼーション、歯肉縁下細菌)
(P. gingivalis、T. forsythiaとT. denticolaは歯周炎の進行(ABLを指標)と関連する傾向がみられたが、Aaはそうではなかったという。一方Aaの存在は安定CADとの正の相関がみられている。
歯周病の進行にはP. gingivalis、T. forsythiaとT. denticolaなどの菌が関わっているようだが、歯周病と安定CADとの関連では、歯周病の進行に関わるP. gingivalis、T. forsythiaとT. denticolaではなく、Aaの存在がキーになるようだ。)
(平成25年6月3日)



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