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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p056(no.241-245)

No.245
Effectiveness of periodontal treatment to improve metabolic control in patients with chronic periodontitis and type 2 diabetes: a meta-
analysis of randomized clinical trials.
Sgolastra F, Severino M, Pietropaoli D, Gatto R, Monaco A.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):958-73.

慢性歯周炎(CP)およびタイプ2糖尿病(DM2)患者においてスケーリングルートプレーニング(SRP)は血糖およびメタボリックコントロールを改善させるのに有用であることが、最近の研究から示唆されている。しかしながら、この役割におけるSRPの効果は未だはっきりしない。このメタ解析は、CPとDM2患者における血糖およびメタボリックコントロールを改善させることに関して、SRPの効果を評価することである。
2012年4月16日まで出版された論文に対して、電子データベースによる文献検索と幾つかの歯科ジャーナルの手検索がおこなわれた。コクラン共同計画とシステマティックレビューおよびメタアナリシスのための優先的報告項目(PRISMA声明)の勧告にしたがってメタ解析がおこなわれた。加重平均の差(MDs)と95%信頼区間(CIs)が糖化ヘモグロビンA1c(HbA1c)、空腹時血糖値(FPG)、総コレステロール(TC)、トリグリセロール(TG)と高あるいは低密度リポタンパク質コレステロール(それぞれHDLとLDL)に対して計測された。全ての治療成績はベースライン時からフォロー期間最終時点までの変化として評価された。異質性はコクランQ検定とI(2)検定で評価された。有意水準はP<0.05とした。
研究選択過程を経た後、五つの無作為化臨床研究が採用された。メタ解析の結果から、SRPはHbA1c (MD = 0.65; 95% CI 0.43 to 0.88; P<0.05) とFPG (MD = 9.04; 95% CI 2.17 to 15.9; P <0.05)の減少に効果的であることが示された。しかし、TC、TG、HDLあるいはLDLの減少にはいかなる有意差も見られなかった。異質性のエビデンスもみられなかった。
メタ解析の結果はCPおよびDM2患者における血糖コントロールの改善にSRPの有効性を支持するように思えた。しかし、これらの結果を確認するためにさらなる研究が必要だ。
(血糖値、慢性歯周炎、糖尿病、タイプ2、ヘモグロビンA、糖化、メタ解析、ルートプレーニング)
(2型糖尿病の人がかかりやすい病気の中に認知症、がん、骨折、うつ病とともに歯周病が含まれている、との新聞記事がでていたのを見た人もいるかもしれない。とかく歯周病と糖尿病の双方向性についての論議はかまびすしい。歯周病患者はより激しい歯周組織の破壊を生じやすい。糖尿病患者における歯周病の存在は患者の血糖およびメタボリックコントロールに影響を与えることが示されている。それゆえ、歯周治療が糖尿病患者におけるメタボリックコントロールに直接に影響している可能性がある。つまり糖尿病患者では歯周治療によって歯周組織の感染や炎症が減少するために、メタボリックコントロールが容易になり、インスリンの感受性が改善されることが考えられる。
しかし、上述のように歯周治療は血糖コントロールやHbA1cに対する影響は示されたが、メタボリックコントロールに対しては、今回のメタ解析では効果があるとの有意差は認められなかった。)
(平成25年8月18日)


No.244
The natural history of periodontal attachment loss during the third and fourth decades of life.
Thomson WM, Shearer DM, Broadbent JM, Foster Page LA, Poulton R.
J Clin Periodontol. 2013 Jul;40(7):672-80.

この研究の目的は年齢26、32と38才を経た完全な出生コホートで、歯周アッタチメントロス(AL)の出現変化を調べることである。
長期ニュージーランドコホート研究(N=1037)で26、32および38才時に系統立った歯周組織診査がおこなわれた。歯周炎の程度データは集団ベースの軌跡解析を用いて、参加者を歯周炎履歴へと割り当てることに使用された。
831人は全ての3時点年齢時に歯周組織を診査された。コホートが年齢を増すとともにALの発現頻度と程度は増大した。26と32才間では、被験者9人に1人が新規あるいはAL進行を示す部位が1カ所あった。その割合は32才から38才間でほぼ二倍になった。4つの歯周炎軌跡群が同定され、コホートの55.2%、31.5%、10.7%と2.5%を構成していた。これらはそれぞれ”非常に低い”、”低い”、”中等度増加”と”著しく増加”軌跡群と名付けられた。15才から38才に至までの全ての年齢を通じて喫煙していた人は”中等度増加”あるいは”著しく増加”軌跡群に存在する高リスクであった。歯周炎は成人の比較的早期に始まり、そして年齢とともに、特に喫煙者でその進行は加速する。
(カンナビス、縦断的研究、歯周病、リスク因子、喫煙)
(歯周病は年齢とともにどんな風に進行するのだろう。特に若年層ではどの程度の発症がみられるのであろう。今回の研究はニュージーランドの人を対象にしており、26才→32才→38才と縦断的に観察している。平均のCALは1.5→1.4→1.6という変化なのだが、4mm以上のCALを1カ所でも示す被験者の数(割合%)は144(17.3)→173(20.8)→281(33.8)、4mm以上のCALを示す部位の平均パーセンテージは0.9→1.8→4.8となっている。30代でも歯周病が発症進行していいる人は結構多いと言える。
今回の研究では1歯3カ所、全顎ではなく1/2顎のみの調査である。32才38才では全顎のデータもあるのだが、全顎対象データでは4mm以上のCALを1カ所でも示す被験者の数(割合%)は225(27.1)→358(43.1)である。つまり詳細に診査するとさらに罹患率が上がっている。1歯での診査部位を6カ所にすると、これらの数字がもっと大きくなる可能性もある。
CALは以前増加したところがさらに増加するパターンよりも、新規に増大するパターンの方が多くなっている。
30代のうちに半数近くの人に歯周病の初発を認めるが、ほとんどの人の進行程度は低いと言える。逆に言うと、どんどん歯周病の進行する集団がある、ということ。)
(平成25年8月15日)


No.243
Are Short Dental Implants (<10 mm) Effective? A Meta-Analysis on Prospective Clinical Trials.
Monje A, Chan HL, Fu JH, Suarez F, Galindo-Moreno P, Wang HL.
J Periodontol. 2013 Jul;84(7):895-904.

この研究は機能的な負荷のかかったショート(<10mm)インプラントと標準的な(>=10)粗造表面デンタルインプラントとを比較するのが目的である。
PubMedとMedlineデーターベースを用いて電子文献検索がおこなわれた。1997年から2011年まで英語で出版された、12ヶ月フォローで10mm未満のデンタルインプラントを検索した前向き臨床ヒト対象研究がメタ解析の対象となった。選択された文献から次のようなデータが検索された:インプラントの数、インプラントの直径、インプラントの位置、補綴のタイプ、フォロー期間とインプラント生存率である。カプランマイヤー生存推定値と危険率が解析され、ショートインプラントと標準インプラント間で比較された。
13研究が選別され、1,955のデンタルインプラントを調べ、そのうち914本がショートインプラントでだった。ショートデンタルインプラントは168ヶ月で88.1%の生存率であったのに対し、標準インプラントが同様に86.7%であった(P=0.254)。ショートデンタルインプラントの不成功率のピークは機能後4-6年で生じていることが明らかとなった。標準インプラントの不成功ピークが6-8年であることと比較すると早期に生じている。
この研究から、長期間の予後に照らして<10mmのインプラントはより長いインプラントと同様に予知性があるといえる。しかし、標準インプラントと比較するとより早い段階で不成功となるようだ。
(歯槽骨喪失、デンタルインプラント、エビデンス-に基づいた、縦断的研究、生存率)
(インプラント、短くてよいのならそれにこしたことはなかろう。5mm長であっても2年後93.1%の残存率をうたう報告もある。
さてショートインプラントという言葉であるが、ショートインプラントとは?については広くコンセンサスの得られた定義はない。7、8あるいは10mmm以下等々、人によって種々定義されているようだ。今回の論文では10mm未満だと定義している。
ショートインプラントの不成功を低減させるために、インプラント直径を大きくしたり、ネジ山を深くしたり、表面処理をしたり、ネジ山ピッチを短くしたりなど工夫が凝らされてきている。
直径を太くすることについては恩恵があるとも、不具合を高めるとも両者の報告があるようだ。径を太くすることで周囲骨へのストレスが減少しインプラントの成功率が高くなるという報告がある一方、径を太くしても長さを短くしたことを代償しないという報告もある。
インプラント表面性状はインプラントと骨との相互影響において重要で、機械研磨処理よりも粗造な処理の方がインプラントの不成功が低くなることが示された報告はある。ところが、システマティックレビューでは、どのような処理に関しても、特殊なインプラント表面処理がインプラント生存率を高める、という証明はなされていない。
ショートインプラントはトータルの骨とインプラントとの接触が当然減少しているので、骨密度が低い場所では負荷が大きくなりやすく、不成功となるケースの場合には、このことがショートインプラントの早い時期の喪失につながるのだろう、という考察だった。)
(平成25年8月14日)


No.242
Periodontal status and hyperlipidemia: statin users versus non-users.
Sangwan A1, Tewari S, Singh H, Sharma RK, Narula SC.
J Periodontol. 2013 Jan;84(1):3-12.

血清脂質と歯周病との関連性は主に高脂血症患者の歯周組織状態に関して、利用できる限定的なデータを有する、慢性歯周炎患者において研究されてきた。その一方、そのような集団の歯周組織健康に及ぼすスタチンの影響もまたほとんど検索されていない。この研究の目的は高脂血症とスタチンユーザー患者内の歯周組織状態を評価することである。
この横断的研究では、高脂血症患者94名(スタチン治療を受けている50人と非薬物療法を受ける44人)と非高脂血症のコントロール46名が歯周組織診査(プラーク指数、歯肉指数 [GI]、プロービング深さ [PD]と臨床的アタッチメントレベル[CAL]))を受けた。測定された生化学的パラメーターには中性脂肪 (TG)、総コレステロール (TC)、低密度リポタンパク質 (LDL) コレステロール、と高密度リポタンパク質コレステロールが含まれた。
非スタチン使用者である高脂血症患者のPD とGI は正常リポ蛋白者 (P <0.001 [PD] and P <0.05 [GI])やスタチン群 (P = 0.001 [PD] and P <0.05 [GI])と比較して、統計学的に高い値を示した。スタチン使用者と正常リポ蛋白群間の歯周パラメーターに有意な差はなかった。交絡因子で補正した後に、PDとTG間、およびTCとLDL間には正の有意な関連性が認められたが、その一方CAL は、TCとLDL との関連を共有した。回帰分析の結果、TC はPDと有意な関連があり (P <0.001),、LDL はCAL と有意な関連性を示していた (P = 0.013)。TGはGI と有意な関連を示した(P = 0.020)。
我々の所見から、一般集団に比較して高脂血症患者は歯周病に罹患しやすいと考えられる。また、この研究の範囲内のことではあるが、スタチンは歯周組織の健康に正の影響を与える。
(コレステロール、スケーリング、ヒドロキシメチルグルタリルCoAレダクターゼ阻害剤、高脂血症、歯周炎)
「高脂血症群は非高脂血症群に比較してPDやCALが高い値を示して、高脂血症群のうちスタチンを服用していない群はスタチンを服用していない群に比較してPDもCAL も高くなっている。
そのスタチンがどう作用しているのか?一つの考えられる理由が、脂質レベルが低下して歯周組織の亢炎症状態が改善したため。二つ目はスタチンの持つ抗炎症作用が直接的に作用したという解釈である。両方が相乗的に作用している可能性もある。
高脂血症でスタチン服用群の血清脂質レベルは高脂血症非スタチン群に比較して低いために、単純に解釈すると脂質レベルが低くなったためだと考えられる。しかし、高脂血症でスタチン服用群の脂質レベルは非高脂血症群に比較すると血清脂質レベルは高いのにも関わらず、歯周組織状態は同等なので、スタチンの抗炎症作用が関与している可能性も否定できないと述べられている。」
(平成25年8月12日)→(平成26年10月11日)


No.241
Periodontal bacterial invasion and infection: contribution to atherosclerotic pathology.
Reyes L, Herrera D, Kozarov E, Rolda S, Progulske-Fox A.
J Periodontol. 2013 Apr;84(4 Suppl):S30-50.

このレビューの目的はアテローム性動脈硬化症の原因因子として歯周細菌を取り上げた、現在までの科学的エビデンスを報告している文献をレビューした。
集められたデータはエビデンスの七つの証明に分類された。それは1)歯周病細菌が口腔から播種され、全身的に血管組織へ到達していること、2)歯周病細菌が病巣組織に見出されること、3)歯周病細菌が病巣部位で生存していること、4)歯周病細菌がin vitroで病気に関わる細胞に侵入すること、5)歯周病細菌が疾患の動物モデルでアテローム性動脈硬化症を誘導すること、6)歯周病細菌の非侵入性ミュータントはin vitroやin vivoで病原性が有意に低くなること、そして7)ヒトのアテロームからの歯周組織
単離細菌が動物感染モデルで疾患を起こしうること、である。
証明1)から6)に対しては相当のエビデンスが見いだされた。しかし、証明7はそれが果たされていない。
ヒトのアテロームから得られた歯周細菌が感染動物モデルでアテローム性硬化症を引き起こすというエビデンスが欠如はしていたが、証明1から6は達成されており、このことは歯周細菌がアテローム性硬化症に寄与していることを支持する。
(アテローム性硬化症、自己融解、細菌、内皮細胞、感染、侵入、口腔、歯周、レビュー)
(コッホの原則に準じてアテローム性動脈硬化症の原因因子としての歯周病関連細菌について論述している。
この著者らの細菌関与アテロームモデルは次のとおりである。菌血症や貪食由来により炎症部位に細菌が到達し、菌血症由来の細菌が血管内皮層へ侵入した後により深部へと広がる。感染した内皮細胞が活性化して、MCP-1のような亢炎症性ケモカインが管腔内に放出され血流内の単球やマクロファージが活性化されて接着や血管外遊走を促進される。加えて、管腔壁を通過遊走した白血球が細胞内部に取り込んだ生きた細菌をかくまうことになる。このことが遠隔地へ細菌を播種することになる。細菌は内皮細胞に付着侵入し、移送に関わる内皮細胞過程を損なわせる。アテロームがマクロファージが分泌する増殖因子のために増大し、平滑筋細胞が増殖する。細菌は宿主細胞の死とともに放出され別の細胞に再感染する。)
(平成25年8月11日)



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