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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p059(no.256-260)

No.260
Clinical effectiveness of diode laser therapy as an adjunct to non-surgical periodontal treatment: a randomized clinical study.
Dukic W, Bago I, Aurer A, Roguljic M.
J Periodontol. 2013 Aug;84(8):1111-7

このランダム化臨床研究の目的はスケーリングルートプレーニング治療の付加的治療として応用する980nmダイオードレーザーの効果を評価することである。
慢性歯周炎患者35人がスプリットマウスデザイン臨床研究のために選別された。SRPは音波装置と手用インスツルメントを用いておこなわれた。1/4顎を左右側間で等分に分けられた。対象歯は2つのコントロール1/4顎(コントロール群[CG])でSRP処置がおこなわれ、対照側1/4顎(レーザー群[CG])ではSRPに加えてダイオードレーザーが用いられた。ダイオードレーザーはSRP処置後1、3、7日に歯周ポケットに応用された。隣接面プラーク指数(API)、プロービング時出血(BOP)、プロービング深さ(PD)、と臨床的アタッチメントレベル(CAL)などのベースラインデータが治療前、治療後6および18週間後に検査記録された。PDとCALの変化は治療前中程度(4-6mm)と深い(7-10mm)ポケットに分けて解析された。
深いポケットにおけるAPI、BOP、PDとCALに関して結果は両群ともに同程度であった。レーザー群はベースライン時から18週(P<0.05)と6週から18週の間(P<0.05)で中等度ポケットにおいて唯一のPD改善の有意差がみられたが、残りの臨床パラメーターではLGとCG間に有意差は認められなかった(P>0.05)。
この研究からSRP単独に比較して、SRPと併用して980nmダイオードレーザーの頻回の付加的使用は中等度の歯周ポケット(4-6mm)においてのみPDの改善がみられることが示された。
(デンタルスケーリング、レーザー、レーザー治療、歯周病、歯周炎)
(歯周病治療におけるダイオードレーザーの効果についての報告を見ると、これまでのところ概ね鳴かず飛ばず、といえる。今回の研究でもテスト群(すなわち付加的にレーザーを用いた群)が臨床的なパラメーターに良い影響を与えたのはPDのみ、しかもベースライン時4-6mmの症例のみである。これとても6週後には差が認められていない。効果は非常に限定的だ。過去の同様の研究と比較した考察でも、効果なし、あり、両方の報告を列挙しているが、効果ありの報告でも限定的な条件下でのみが多い。効果なしとの差に関しての考察を読むと、レーザー応用が今回の研究では1、3、7日なのに対し、レーザーの付加的効果が無いとした研究では1、7日だったからかもしれないと述べられていた。ふむ。また臨床的に効果なしとした研究でも細菌学的検索では、レーザーの付加使用によって有意な細菌数減少が認められると言うから、レーザー応用で何も起こっていないわけではないようだ。色々条件をかえて、またぞろの研究がでてくるのだろう。)
(平成25年11月2日)


No.259
Association between periodontitis and gestational diabetes mellitus: a case-control study.
Esteves Lima RP, Miranda Cota LO, Costa FO.
J Periodontol. 2013 Sep;84(9):1257-65.

妊娠性糖尿病(GDM)と歯周病との関連が報告されている。この研究の目的はこの関連性の可能性とGDMに関係したリスク変数の影響について解析することである。
このケースコントロール研究では90人のGDMと270人のコントロールを含む360人の女性が参加した。被験者はフルマウス歯周組織診査でプロービング時の出血(BOP)、プロービング深さ(PD)、と臨床的アタッチメントレベル(CAL)検査を受けた。歯周病はPD4mm以上を1部位示す歯が4本以上でBOPを伴うCAL3mm以上の存在で定義された。GDM発症におけるリスク変数の影響は単変量解析と多変量ロジスティック多項回帰によって検討された。オッズ比(ORs)とおのおのの信頼区間(CIs)が計算された。
ケース群(GDM)における歯周病の罹患率は40%でコントロール群は46.3%であった。歯周病とGDM間に関連性はなかった (OR = 0.74; 95% CI = 0.40 to 1.38)。多変量最終ロジスティック回帰モデルはGDMと関連する有意な変数として次のような項目を提示した。母親の年齢(OR = 2.65; 95% CI = 1.97 to3.56)、慢性の高血圧(OR =3.16; 95% CI = 1.35 to 7.42)と肥満度指数 (OR = 1.99; 95% CI = 1.41 to 2.81)である。
ケース群とコントロール群で歯周病の高い罹患率が認められたが、歯周病とGDM間に関連性は無かった。この研究から妊娠女性の歯周組織ケアに向けた、医療政策の実施の必要性が示された。
(糖尿病、妊娠性、口腔健康、歯周炎、妊娠、リスク因子)
(歯周病と糖尿病の相互関連や歯周病が出産時合併症のリスク因子であることなどが指摘されている。じゃあ、妊娠性糖尿病と歯周病なら、もっと高い関連性がみられるんじゃないか、と考えても不思議ではない。妊娠時糖尿病のリスク因子としては肥満、高年齢、糖尿病家族歴に加えて全身的な炎症や感染も可能性があるとされている。そしてその感染、炎症の一つとして歯周病もあげられるのだ。ところが、今回の研究では関連なし、であった。過去の報告では関連ありとの報告も今回の研究と同様に関連なしとの報告も見受けられる。その違いについては、その理由の一つとして、それぞれの研究で用いるGDMや歯周病の定義が異なるためではないかと考察している。
関連性がなかったものだから、話はGDMのリスク因子や妊娠期の歯周病ケアなどに向けられている。)
(平成25年10月26日)


No.258
Periodontal disease and pregnancy hypertension: a clinical correlation.
Pralhad S, Thomas B, Kushtagi P.
J Periodontol. 2013 Aug;84(8):1118-25.

歯周病は全身疾患のリスク増加と妊娠時合併症、例えば妊娠高血圧症(PH)と関連していると考えられている。この研究の目的は地域医療機関におけるPH患者の女性において歯周病の罹患率を検索することである。
この症例コントロール研究はPHの女性100人とPHでない女性100人からなる200人の女性を対象におこなわれた。出産のための入院中に72時間以内に出産前の歯周組織スクリーニングがおこなわれた。評価された歯周組織パラメーターはoral hygiene index-simplified、歯肉炎指数、平均プロービング深さ、とアタッメントロスである。
歯周病罹患率は65.5%で、HPの女性で (relative risk = 1.5; 95% 信頼区間 [CI] = 1.3 to 1.9) 有意に高い値を示した(P <0.0001)。社会経済状態、教育、職業、と肥満度指数は二変量の多重ロジスティック回帰分析に基づくと、歯周病とPH間の関連性に影響しないように思えた。出産未経験者は歯周病進行とPHに高いオッズ比 (オッズ比 = 1.7; 95% CI = 0.5 to 6.1)であった。歯周病の重症度が中等度から重度に進むと、高血圧の程度も中等度から重度に増加した(r(2) = 0.8 and 0.5) 。
歯周病はPHを伴う女性により発生しやすい。
(高血圧、歯周病、妊娠、罹患率)
(妊娠性高血圧の機序は不明であるが、多因子関与と考えられている。正常な状態の妊娠中においても全身的には炎症反応が穏やかながら亢進している。そして感染がPHの病因の一つになることが指摘されている。そいうわけで歯周病と妊娠高血圧との関連が論じられるわけである。
PH女性の歯周病罹患率は88%であったのに対しそうでない女性は43%であった。過去には、PHと歯周病との関連がない、との報告もあるのだが、歯周病の定義が異なるためではないかとの考察であった。ただ単純にPDで比較しても、PH患者は5.99mmに対し、そうでない患者は3.67mmであるし、PDが7mm以上の割合がPHでは36%とコントロールに比較して有意に高くなっている。さらにALにおいても3.5vs2.2だ。そして、歯周病が進行するにつれてPHの重症度も増加する傾向もあるようだ。その両者の関連メカニズムについてはよくわからないけれども。)
(平成25年10月21日)


No.257
Locally delivered 1% metformin gel in the treatment of smokers with chronic periodontitis: a
randomized controlled clinical trial.
Rao NS, Pradeep AR, Kumari M, Naik SB.
J Periodontol. 2013 Aug;84(8):1165-71.

メトホルミン(MF) (1,1-dimethylbiguanide HCl) は2型糖尿病の治療に最も一般的に用いられる経口抗高血糖薬のひとつである。近年、MFが骨密度増強作用を持つことが示された。この研究は広汎型慢性歯周炎(CP)に罹患した喫煙者の垂直性欠損に対する治療に際し、スケーリングルートプレーニング(SRP)の併用療法として独自に調整した生体分解性のある徐放性ゲル中1%MFの効果を検討するために企画された。
50人の患者が2つの治療群に分けられた。ひとつはSRP+1%MFで今ひとつはSRP+プラセボである。臨床パラメーターはベースライン時と3および6ヶ月後に記録された。パラメーターにはプラーク指数(PI)、修正歯肉溝出血指数(mSBI)、プロービング深さ(PD)、と臨床的アタッチメントレベル(CAL)が含まれた。ベースライン時と6ヶ月後には骨内欠損(IBD)の骨再生がコンピュターソフトウエアを用いてレントゲン的に評価された。
全ての診査時点で、MF群の平均PD減少と平均CAL獲得はプラセボ群よりもより大きな改善がみられた。さらに骨充填の平均パーセントがプラセボ群(3.75%±8.06%) よりMF群(3.75%± 8.06%)で有意に大きい値を示した (P <0.001)。
広汎型CP患者の喫煙者では、SRP+プラセボに比較して、SRPに加えて局所のMF投与処置を受けた垂直性欠損部位は、有意なIBD再生を伴うmSBIとPDの改善とCAL獲得がみられた。
(慢性歯周炎、デンタルスケーリング、メトホルミン、再生、ルートプレーニング、喫煙)
(メトホルミンは、ビグアナイド系薬剤(グアニジンが二個結合している)に分類される経口糖尿病治療薬。世界、というレベルでは最もよく使用されているが、日本では不人気のようだ。その薬理作用は、肝糖産生の減少、末梢糖取り込み上昇、インスリン分泌の改善などの作用機序が提出されているが、詳細はあまりハッキリしていないようである。この薬はインスリンの分泌を促進させることなく、血糖値を下げる。
この糖尿病薬に骨代謝作用があることが報告され、著者らはランダム化コントロール研究で0.5から1.5%MF局所投与の実験をおこない、1%MFに歯周治療に効果のあることを報告し、引き続きの研究としてこの研究をおこなっている。今回は喫煙者を対象にしているのだが、ことさらに喫煙者を対象にした背景や結果に対する喫煙の影響などの考察はない。
PDはベースライン時7.63mmが6ヶ月後6.77mmになったプラセボ群に対し、MF群は7.50mmが4.33mmに改善している(p<0.001)。CALはプラセボ群のベースライン時6.43mmが6ヶ月後4.97mmに、MF群は同様に6.63mmが3.37mmであった(p<0.001)。

(平成25年10月14日)


No.256
Increased levels of serum and gingival crevicular fluid monocyte chemoattractant protein-1 in
smokers with periodontitis.
Anil S, Preethanath RS, Alasqah M, Mokeem SA, Anand PS.
J Periodontol. 2013 Sep;84(9):e23-8.

喫煙は血管機能、好中球/単球活性、細胞接着分子発現、抗体産生、とサイトカインや炎症メディエーター産生を含む宿主反応を変化させる。宿主の単球走化性タンパク質1(MCP-1)は感染部位への炎症性および免疫細胞の活性化や浸潤に関与して、そのことにより多様な病態生理学的状態を媒介する。 血清および歯肉溝浸出液(GCF)中のMCPレベルの評価は歯周病活性の確かなインディケーターとなりうるだろう。それゆえ、この研究の目的は歯周組織の健康なヒトと比較して歯周炎患者の喫煙者および非喫煙者の血清およびGCF中のMCP-1レベルを解析することである。
総勢90人(30人の歯周組織健常人、歯周炎のある30人の非喫煙者、と歯周炎のある30人の喫煙者)がこの研究の対象患者群である。血清およびGCFサンプルが回収され、MCP-1レベルがエライザ法を用いて評価された。
血清およびGCF中の平均MCP-1レベルは歯周炎患者の喫煙者で最も高く、続いて歯周炎群、そして健常コントロール群であった。値は統計学的に有意であった (P<0.001)。
血清およびGCFともに喫煙者で認められたMCP-1の高いレベルが喫煙者の歯周炎の重症度を説明できるかもしれないという結論が導かれた。さらに縦断的、予知的研究が今回の研究の結果を追認しうるだろう。このような方向のさらなる研究がリスクの高い集団における歯周炎の進行を予測する確実性の高いマーカーを示してくれるかもしれない。
(ケモカインCCL2、歯肉溝浸出液、歯周アタッチメントロス、歯周炎、血清、喫煙)
(喫煙が歯周病の進行や治療への反応性の悪さに影響しているのはよく知られたことであるが、そのメカニズムについての詳細はまだまだ不明な点が多い。侵襲性歯周炎や慢性歯周炎患者の歯肉溝浸出液中に高いレベルのMCP-1が検出され、GCF中のMCP活性上昇が歯周疾患の重症度増加とともに上昇する、といった報告があることから、喫煙の歯周病に及ぼす悪影響の一翼をMCP-1が担っているのではないかということだ。
まず、歯周炎患者の血清およびGCF中MCP-1が歯周組織健常人と比較して高いことが、これまでの研究と同様に確認された。それで??喫煙とMCP-1についての考察は???ってあまり(ほとんど)書かれていなかったのです。う~~ん。)
(平成25年10月14日)




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