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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p058(no.251-255)

No.255
Treatment of supra-alveolar-type defects by a simplified papilla preservation technique for access flap surgery with or without enamel matrix proteins.
Di Tullio M, Femminella B, Pilloni A, Romano L, D'Arcangelo C, De Ninis P, Paolantonio M.
J Periodontol. 2013 Aug;84(8):1100-10.

この研究では、骨縁上タイプの欠損に対する外科的処置に際し、単純歯間乳頭保存フラップ(SPPF)と組み合わせてエナメルマトリックスディリバティブ(EMD)を用いた場合の効果をSPPF単独と比較することである。
4本以上の隣接歯周囲に水平性の骨欠損を持つ患者で、最初に選択された54人中から50人の患者がSPPF法で治療を受けた。25人はEMD処置(テスト群)も受け、25人はフラップ手術のみ(コントロール群)を受けた。臨床的およびレントゲン的診査はベースライン時と処置12ヶ月後におこなった。術前術後のプロービング深さ(PD)、臨床的アタッチメントレベル(CAL)、歯肉退縮(GR)とレントゲン的骨レベル(BL)は処置間で比較した。
12ヶ月後、両群ともPD、CALとGRがベースラインとは有意な差を示した(P<0.001)。12ヶ月後BLスコアは群間で差は認められなかった。1年後テスト群はコントロール群(PD, 2.2 ±0.8 mm; CAL, 1.0±0.6mm; GR, 1.2±0.7 mm.) と比較して、PD減少3.4±0.7mm)とCAL獲得(2.8±0.8 mm)の有意な改善がみられ、GR増加(0.6±0.4 mm)もより少なかった。BL変化は実験群間で有意な差はみられなかった。
この研究の結果は骨縁上欠損の治療にEMDとSPFFを組み合わせることで、SPPFに比較してより大きな臨床改善が見込まれることが示唆された。
(アメロジェニン、臨床研究、歯周炎、再生、外科フラップ、創傷治癒)
(歯周組織再生治療において、水平性骨吸収は予知性が低いと考えられている。しかしながら、水平性吸収においてでもEMDは効果ありとする報告がある。ある報告では平均CAL獲得0.97mm、PD改善が1.55mm、別の報告では同様に2.16-2.27mmと2.87-2.94mmとなっている。これらは通常のフラップデザインで、それに対して今回のSPPFは2.80と3.48と著しく成績がよい。これはSPPFが、歯間部の安定した閉鎖性のある治癒環境を作り出すことが可能だからという考察だ。このことは、コントロールを比較しても同様の結果を得られていることからも支持される。
水平性の骨吸収でもEMDは結合織性付着の促進作用があることが示唆された。しかし骨の再生は今回の研究では認められていない。フラップ下に骨が再生するスペースがないためかも知れない。過去の通法のフラップデザインを用いた研究では、水平性の骨吸収に対してEMDのあるなしで、骨レベルに差が生じている。しかし通法によるフラップ手術では少なからずの骨吸収が生じる事が知られている。なので、コントロール群ではフラップ手術により骨吸収が生じたのに対して、EMD投与群ではフラップ手術そのものによる骨吸収を抑制した結果、両群間に術後の骨レベル差が生じたではないか。SPPFでは手術そのものによる骨吸収がほとんど生じないので、EMDによる骨吸収抑制作用が目立たなかったのでは、と考察されている。)
(平成25年10月13日)


No.254
Oral microbial colonization in laryngectomized patients as a possible cofactor of biofilm formation on their voice prostheses.
Bertl K, Zatorska B, Leonhard M, Rechenmacher-Strauss J, Roesner I, Schneider-Stickler B.
J Clin Periodontol. 2013 Sep;40(9):833-40.

喉頭切除患者の発声リハビリのために用いられる人工喉頭に、形成されるバイオフィルムはこの装置不成功の主要な原因となっている。この研究の目的は人工喉頭バイオフィルム上の歯周病原性菌の存在が口腔内の歯周病原性細菌や患者の歯周組織状態と関連しているかどうかを評価することである。
有歯顎者全て歯周治療が必要だった(CPITN-3: n = 4, CPITN-4: n = 8):残りの6人は無歯顎だった。人工喉頭で検出された病原菌の多様性(すなわち検出された細菌種の数)は口腔内病原性菌の多様性および臨床パラメーターと有意に正の相関を示した。さらに病原菌の多様性は有歯顎者と無歯顎者で有意に異なっていた。
今回の結果は人工喉頭のバイオフィルム形成に際し、重要な細菌源としての口腔を強調するものであった。これらの病原性菌がバイオフィルム形成を増加させて装置の寿命を減少させるのかどうか、シリコン悪化のリスクを増加させるのかどうかについてはさらなる研究が必要である。
(細菌、バイオフィルム、喉頭摘出患者、歯周炎、人工喉頭(ボイスプロテーゼ)
(喉頭癌は呼吸器系で2番目に頻度高く発生する癌で、ヨーロッパでは1万人に10人という割合らしい。5年生存率63%。進行した喉頭癌の標準的な治療法は全喉頭摘出であるが、声帯も含むので発声が損なわれる。その後のリハビリのために欧米では9割以上の人が留置型の人工喉頭を用いているそうだ(この研究ではプロボックスという商品利用患者を対象にしている)。しかし、この声帯補綴には問題点があって、清掃方法がないためにバイオフィルムが付着形成され、その機能が低下する。そのような不具合が生じた際には、新しい人工喉頭に置換する必要がある。このバイオフィルムの源として注目するのが口腔内である。そこでこの人工喉頭を使用している患者の口腔内細菌と人工喉頭バイオフィルムの細菌存在とを比較検討するというのが研究の目的だ。
A.actinomycetemcomitans、P.gingivalis、T.denticola、T.forsythia、P.intermedia、P.micros、F.nucleatum、C.rectus、E.nodatum、E.corrodens、C.sppなど調べているが、有歯顎者の場合、これらの細菌が口腔内で検出された時には人工喉頭にも検出されることが多くなっていた。その割合は、例えばF.nucleatumは91.7%、Capnocytophaga spp.は75%、P.microsでは66.7%、T.forsythia、T.denticola、C.rectusなどは50%となっている。ただ無歯顎者では舌背をサンプリング部位にしているのであるが、これらの細菌はすべて検出限界以下であった。無歯顎者の人口喉頭からは2菌種が6人中の2患者のみから検出されるだけであった。ということで、人工喉頭のバイオフィルム形成の由来は歯周組織からである可能性が高いということ。)
(平成25年10月6日)


No.253
Suppuration-associated bacteria in patients with chronic and aggressive periodontitis.
Silva-Boghossian CM, Neves AB, Resende FA, Colombo AP.
J Periodontol. 2013 Sep;84(9):e9-e16.

プロービング時排膿(SUP)は活動性歯周組織破壊の指標と言えるかも知れない。この研究の目的は慢性(CP)と侵襲性(AgP)歯周炎患者においてSUPと関連した歯肉縁下細菌種を解析することである。
156人のCP患者と66人のAgP患者が全顎の歯周組織診査と歯肉縁下バイオフィルムサンプリング(14部位/患者)を受けた。44細菌種のカウントがチェッカーボードによって決定された。群と部位間の比較はマンホイットニーウイルコクソン検定でそれぞれ解析した。SUPの頻度と細菌種との関連はスペアマン順位相関係数によって解析された。
CP患者におけるSUP出現率は24.4%であり、AgP患者におけるそれは30.3%であった。そして各群におけるSUP部位のパーセンテージはそれぞれ5.72%±1.06%と6.96%±1.70%であった(P>0.05)。慢性歯周炎患者のSUP部位ではAgP患者のSUP部位よりもVeillonella parvula、Dialister pneumosintes、Tannerella forsythiaとPrevotella nigrescensが高いカウント数を示した(P <0.005)。CP患者ではSUPの高い頻度とActinomyces spp、Streptococcus spp.、オレンジコンプレックスのメンバー、Acinetobacter baumanniiとPseudomonasaeruginosaには高い相関がみられた(P <0.05)。AgP患者においてはActinomyces oris、Propionibacterium acnes、P. aeruginosa、Staphylococcus aureusとStreptococcus sanguinisはSUPと正の関連がある一方でPrevotella intermedia pはSUPと負の相関を示した(P <0.05)。
慢性歯周炎患者のSUP部位はAgP患者のSUP部位に比較して、幾つかの歯周組織関連細菌種の有意に高いカウントを示していた。Actinomyces spp.、Streptococcus spp.、オレンジコンプレックスのメンバー、T. forsythiaとある種の非口腔病原性細菌はSUP部位の高発現と関連があった。
(侵襲性歯周炎、細菌、バイオフィルム、慢性歯周炎、細菌学的手法、排膿)
(歯周膿瘍に関わる細菌学的な検討は多いが、プロービング時の排膿部位における検討はあまりない。今回の研究では慢性歯周炎と侵襲性歯周炎での比較なのだが、AgPの方が組織破壊は進んでいるのだが、SUP部位の出現頻度は同程度であった。
AgP患者と比較すると、CP患者のSUP部位で上述のようにstreptococci、V.parvula、D.pneumosintesが多く検出されている。そしてCP患者では、SUP部位ではそうでない部位に比較してT.forsythiaが有意に高く検出されている。一方過去の歯周膿瘍を対象として報告ではF.nucleatum、P.micra、P.gingivalis、P.intermedia/nigrescens、T.forsythia、C.rectusなどの検出頻度が高く、A.actinomycetemcomitansは検出頻度が低かった。ここで著者らが興味深いこととして指摘しているのが、AgPではSUPの有無に関わらず、検出される細菌種に有意な差が無かったことである。AgPの急速な組織破壊は多因子あるいは遺伝学的因子に修飾されている、と言われるので細菌側の要因はことSUPに関しては低いのかも。)
(平成25年9月29日)


No.252
Beneficial effects of hormone replacement therapy on periodontitis are vitamin D associated.
Jonsson D, Aggarwal P, Nilsson BO, Demmer RT.
J Periodontol. 2013 Aug;84(8):1048-57.

女性ホルモンとビタミンD間の相互作用が歯周病の病因におよぼす可能性については評価されていない。ここで著者らは集団ベースサンプルを対象として、エストロゲン、プロゲステロンとビタミンDの歯周炎への影響を検索し、また集団ベースで得られた所見のメカニズムを説明できるように、細胞を用いた解析研究をおこなった。
疫学解析はNational Health and Nutrition Examination Survey国民健康栄養調査2001から2004の横断的データを使用した。この横断的集団は年齢40から85才で1230人の女性であった。彼女らは歯周組織診査を受け、ホルモン補充療法(HRT)に関する質問票に回答し、血清ビタミンD評価のために血液サンプルを提供した。メカニズム解析のための細胞培養研究では、ヒト単球がリポポリサッカライド(LPS)、エストラジオール、プロゲステロン、と1,25-ハイドロキシビタミンD3の存在あるいは非存在下で刺激され、インターロイキン(IL)-6、IL-1β、Bリンパ球走化因子、とregulated on activation normal T-cellexpressed and secreted (RANTES) が評価された。
HRTをおこなうこと(vs治療せず)はビタミンDが充足している(>20ng/mL)被験者内でのみ、高いアタッチメントレベルと歯の本数が多いことと関連していた。HRT実施者内で中等度/重度歯周炎に罹患していることのオッズ比はHRTを受けていない被験者に対して、ビタミンD基準値以上の被験者内で0.69であり、ビタミンD欠乏の被験者では1.19であった。LPS誘導性 IL-6、 IL-1BとBLC発現はエストロゲンとプロゲステロンで処理したヒト単球で減弱した。エストロゲンとプロゲステロンによるIL-6の低下はビタミンD存在下で強まった。ビタミンD処理でLPS誘導性のIL-6とRANTES発現は減少し、BLC発現は回復した。
高いビタミンDレベルの女性ではHRTと臨床歯周組織状態の関連は強かった。この関連は部分的には抗炎症転写性メカニズムに媒介されているかも知れない。
(エストロゲン、ホルモン補助療法、単球、歯周炎、プロゲステロン、ビタミンD)
性ホルモンやビタミンDが歯周組織に対して健康促進効果を有する可能性が指摘されている。さらに閉経後の女性へのホルモン補助療法(HRT)に歯周組織の改善がみられるという。閉経後にHRTを受けていない人に比べると、HRTを受けている人は歯周病罹患率が低いという。また血清ビタミンDレベルが歯周病の重症度パラメーターと逆相関するという報告もみられる。エストロゲンとビタミンDには骨形成促進作用や抗炎症などの共通の生物学的作用があり、エストロゲンは結合型や遊離1,25-ジヒドロキシビタミンD3レベルを増加させ、ビタミンDはエストラジオールの産生刺激作用を有する、あるいはエストロゲンがビタミンD受容体の発現を制御するなどのことから、生物学的機能発現には両因子の協調が必要なことが考えられる。
それでこの研究ではHRTと血清ビタミンDとの関連が臨床的な歯周組織への影響を検討したということ。)
(平成25年9月23日)


No.251
A randomized, double-masked clinical trial comparing four periodontitis treatment strategies: 1-year clinical results.
Preus HR, Gunleiksrud TM, Sandvik L, Gjermo P, Baelum V.
J Periodontol. 2013 Aug;84(8):1075-86.

スケーリングルートプレーニングについてフルマウスディスインフェクション(FDIS)の有効性については未だ不確実なままであり、付加的な抗生物質の使用はFDISの効果を高めるのかどうかについても不明なままである。この研究の目的は2、3週間かけておこなう通法のSRP、あるいは同日におこなうFDISが、付加的なメトロニダゾール投与のあるなしと組み合わせて処置をおこなった場合の患者群において、1年の臨床予後に差がない、という仮説を試験することである。
中等度から重度歯周病患者184人が4つの治療群のひとつに無作為に割り当てられた。1)FDIS+metronidazole; 2) FDIS+placebo; 3)SRP+metronidazole; あるいは 4) SRP+placeboの4群である。プラーク、プロービング時の出血、プロービング深さ(PD)、と臨床的アタッチメントレベル(CAL)の記録はベースライン時、3および12ヶ月後に1歯あたり4部位でおこなわれた。
ベースライン時と治療3および12ヶ月後に4実験群間の平均CALあるいはPD値に有意差は認められなかった。4群全てで全てのパラメーターは有意な改善を示した。しかし、治療成功の基準として5mm以上のポケットが存在しない場合を採用すると、付加的にメトロニダゾール投与を受けた2群はプラセボ2群よりも有意な改善であった。
メトロニダゾールはCAL、PDと5mm以上のポケットがないこと、を指標にするとメトロニダゾール感受性歯肉縁下細菌叢を有する患者に有意な付加的効果を示した。
(抗菌剤、スケーリング、メトロニダゾール、歯周アタッチメントロス、無作為コントロール試験、ルートプレーニング)
(全顎を一度にSRPするフルマウスディスインフェクションは分割しておこなう通常のSRPより有効か?特に抗生剤併用した時にどうであろうか。抗生剤併用治療にはこれを有効だと支持する結果とそうでない研究とがある。
今回の研究では深いポケット5カ所から採取された歯肉縁下プラークの細菌学的検索をおこない、メトロニダゾール抵抗性あるいは低感受性であるenterococci、A. .actinomycetemcomitans、Psudomonas、Escherichia coli、Serratia、Shigella、あるいはAcinetobacter seciesが検出された患者は被験者から除外している。従って、メトロニダゾールの併用効果が認められたのは、理にかなっているということになる。でもこれらメトロニダゾール抵抗性の菌が検出された患者に対しても同様の検討をおこなっていたらどうなっていただろう。本当に、これらの患者ではメトロニダゾールの効果が無かった、であろうか?検討して欲しかったなぁ。
メトロニダゾール併用の有無に関わらず、FDISは通常におこなうSRPの効果を大きく上回ることはなかった。その点についての考察はあまりみられない。日本では歯科で用いることのできないメトロニダゾールの効果云々についてよりはFDISと通法SRPについての考察に興味があったのだが、う~ん仕方がない。)
(平成25年9月18日)


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