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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p061(no.266-270)

No.270
Is surgical root coverage effective for the treatment of cervical dentin hypersensitivity? A
systematic review.
Douglas de Oliveira DW, Oliveira-Ferreira F, Flecha OD, Goncalves PF.
J Periodontol. 2013 Mar;84(3):295-306.

歯頚部象牙質知覚過敏症は根面の露出から生じる歯の疼痛で特徴付けられる。このシステマティックレビューの目的は歯肉退縮の場合にCDHを消退させるためにおこなった外科的根面被覆術の効果について文献を概観することである。
PubMed、Web of ScienceとCochrane Libraryデータベースでオンライン電子検索がおこなわれた。それぞれのデータベースの開始から2011年11月までのランダム化臨床試験が選択された。18才以上を対象にCDHと関連した歯周形成術成績の臨床パラメーターと変数を扱う研究が含まれた。その研究は二人の独立したレビューヤーによって評価された。おのおのの論文は方法の質、効果量、計測した歯周パラメーター、研究デザイン、方法、と結果が解析された。
9つの妥当な論文がこのレビューで解析された。根面被覆のための歯周外科の後、CDHの減少が認められた。バイアスリスクは2論文で低いと考えられ、効果量はひとつの研究で大きいと考えられた。
外科的根面被覆法がCDHを予知的に減少させるという結論づける科学的に十分なエビデンスはなかった。CDHのための治療として歯周治療専門医に根面被覆の適応を認めるほどの科学的エビデンスを確立するために、十分によく練られた臨床研究が必要だ。
(臨床研究、象牙質知覚過敏症、歯肉退縮、レビュー、歯根)
(ここにも象牙質過敏症の論文あるやん、しかもレビュー。と思って読んだのだが、残念ながら臨床的に興味を引くようなことはあまりなかった。
せっかくだから、9論文に示されている、象牙質知覚過敏症が減少したパーセンテージを並べてみる。100、94.44、86.36、83.33、78.57、71.42、69.23、61.53、55.55%で平均77.83%になる。このレビュー的には、確固たるエビデンスとしては不十分だそうよ。)
(平成25年12月1日)


No.269
Cyanoacrylate versus laser in the treatment of dentin hypersensitivity: a controlled, randomized,double-masked and non-inferiority clinical trial.
Flecha OD, Azevedo CG, Matos FR, Vieira-Barbosa NM, Ramos-Jorge ML, Goncalves PF, Koga Silva EM.
J Periodontol. 2013 Mar;84(3):287-94.

象牙質過敏症(DH)は冷刺激、甘味やブラッシングなどの正常な刺激で悪化する疼痛性の反応である。このコントロール化、ランダム化、二重盲検、非劣性臨床試験は低強度レーザーの適応と比較して、DHの治療におけるシアノアクリレートの効果を評価することである。
両群ともDHに有意な減少がみられた。しかし、6ヶ月の観察期間で2群間に有意差は認められなかった。群内解析では24時間後に得られたシアノアクリレートの効果はエアーによる試験反応では90日間、冷スプレー試験では30日間継続して有効であった。いずれの診査時点間での比較においても統計学的に有意差がみられた(p<0.001)。
シアノアクリレートはDHを改善させるのに低強度レーザーと同程度に効果的であると結論された。加えて、この方法はより操作しやすく、低コストな方法で、DHの治療に用いるのに安全と言える。
(シアノアクリレート、象牙質知覚過敏症、レーザー治療、低出力、ランダム化コントロール試験)
(歯周治療に際して象牙質知覚過敏症はなかなかやっかいな代物である。
ここで用いられている両処置方法ともにDHの改善がみられるのであるが、24時間後でレーザよりもシアノアクリレートの方が改善度が高い。シアノアクリレートは象牙細管を封鎖して、管内の組織液移動を防ぐことで効果を発揮するので、即効性が高い。レーザーは象牙芽細胞の代謝を刺激して細管閉塞と三次象牙質の添加を促すことで作用を発揮すると考えられるので効果が発揮されるのに時間がかかるのであろう。
レーザーは効果的かも知れないが、高価だ。この研究では、シアノアクリレートでは有害事象等起こらなかったが、レーザーでは1症例で自発痛が生じたようだ。シアノアクリレートはレーザーに劣らず効果的な上に安価で安全と著者らはご執心である。
ところで使われているシアノアクリレートは何だろう。用いられているのはヘンケル、ロックタイト スーパーボンダ。そうアロンアルファと同じ瞬間接着剤だね。)
(平成25年11月29日)


No.268
Four-year follow-up of combined surgical therapy of advanced peri-implantitis evaluating two methods of surface decontamination.
Schwarz F, Hegewald A, John G, Sahm N, Becker J.
J Clin Periodontol. 2013 Oct;40(10):962-7.

この研究の目的は進行したインプラント周囲炎に対する外科的切除/再生治療後の長期成績におよぼす、二種類の表面除染治療法の影響を検討することである。
17人の患者(n=17水平性骨内複合欠損)が、フラップ手術、肉芽除去、と露出したインプラントの頬側び骨縁上でインプラントプラスティをおこなった後、48ヶ月後フォローアップした。残りの処理をおこなわないインプラント表面はランダムに振り分けられて(i)Er:YAGレーザー(ERL)、あるいは(ii)プラスチックキュレット+綿球+生食(CPS)のいずれかで処理されて骨ミネラル+コラーゲン膜で補填された。
48ヶ月後、CPS処理部位はERL群と比較して平均BOP (CPS: 85.2±16.4% versus ERL: 71.6±24.9%)とCAL値 (CPS: 1.5±2.0 mm versus ERL: 1.2± 2.0 mm) についてより良好な減少を示す傾向であった。両群とも臨床成績は最初の欠損形態に直接的には影響を受けなかった。
進行したインプラント周囲炎の外科的切除/再生療法の後に得られた4年臨床成績は表面の除染方法によって影響を受けなかった。
(骨移植、コラーゲン膜、インプラントプラスティ、インプラント周囲炎、外科的再生療法)
(インプラント周囲炎に対する外科的対応で、病巣部の肉芽除去とインプラントの除染は大事なステップだが、機械的デブライドメントや超音波では完全なプラークバイオフィルムの除去が困難である。コンベンショナルなCPSと優れた除染効果があるのではないかと期待されるERLの効果を比較したが、結果は上述の通りで差はない。統計学的な有意差はないがむしろCPS群の方が良好な経過を示している。過去の同様な研究では観察期間が異なるが、同様にCPSに軍配があがったり、ERLに軍配があがったりしていたようだ。
除染の方法にエアーパウダーポリッシングと炭酸ガスレーザーを用いて、両者の臨床成績を比較研究もあるが、差が無いとの報告があり、著者らの結論は除染に用いる方法はあまり重要な因子ではなかろう、ということ。)
(平成25年11月28日)


No.267
Effects of full-mouth scaling on the periodontal health of Indigenous Australians: a randomized
controlled trial.
Kapellas K, Do LG, Mark Bartold P, Skilton MR, Maple-Brown LJ, O'Dea K, Brown A, Celermajer DS,
Slade GD, Jamieson LM.
J Clin Periodontol. 2013 Nov;40(11):1016-24.

単純化した歯周治療はオーストラリア先住民成人を対象とした公衆健康プログラムとして実用的な戦略かもしれない。このランダム化コントロール臨床研究の目的は、未治療と比較して、一回診療でおこなう非外科的歯周治療の口腔健康におよぼす影響を評価することである。
この平行群、ランダム化、非盲検臨床研究では18才以上の歯周炎に罹患したオーストラリア先住民を募集した。介入した被験者は一回の診療で全顎のスケーリングとルートプレーニングを受けたのに対して、コントロール群は治療を受けなかった。エンドポイントは治療前および3ヶ月後にプロービング深さ、臨床的アタッチメントロス、プラーク、歯石と歯肉出血の臨床評価から導かれた要約変数とした。
エンドポイントはフォローアップデータのある169人の参加者に対して計算された。コントロール群と比較して浅いポケットの範囲では統計学的に有意な減少がみられた:PD>=4 (mean difference -2.86,[95% CI -5.01 to -0.71], p = 0.009)と歯肉出血(mean difference -0.25, [95% CI -0.43 to -0.08], p =0.005)、しかし深いポケットではPD >=5 mm (mean difference -0.48, [95% CI -1.78 to 0.82], p = 0.468)あるいはプラーク指数では有意差はなかった。
歯周治療はオーストラリア先住民において、浅い歯周ポケットと歯肉出血については改善をもたらした。
(フルマウススケーリング、オーストラリア先住民、非外科的歯周治療、ランダム化コントロール臨床試験、喫煙、歯肉縁下スケーリング)
(アボリジナルおよびトレス海峡諸島民と呼ばれるオーストラリア先住民(オーストラリア二千二百万人のうち2.5%)は非先住民に比較して平均余命が12年短く、感染や慢性疾患に罹患しやすく、また糖尿病罹患率は非先住民に比較して3.4倍、15才以上の喫煙率は50%以上である。歯周病に対してリスクが高いと考えられる集団である。
さてこの集団に集中的な歯周治療をおこなうと、一回こっきりの治療であっても、軽度の歯周ポケットの改善が期待できる。ただし、深いポケットには効果的で無かったようだ。また口腔衛生指導はおこなっているが、プラーク指数の改善がみられず、結果が変わるほどにプラークコントロールが身についていないようだ。また3ヶ月で認められた今回の効果がどれほどの期間続くのかについては不明である。
リスクのある先住民集団に対する1度の治療であっても、口腔衛生が変わらなくても歯周治療は何かしらの効果を生むようだ。)
(平成25年11月26日)


No.266
Destructive periodontal disease in adult Indians from Northeast Brazil: cross-sectional study of
prevalence and risk indicators.
Figueiredo A, Soares S, Lopes H, Dos Santos JN, Ramalho LM, Cangussu MC, Cury PR.
J Clin Periodontol. 2013 Nov;40(11):1001-6.

この横断的研究の目的はブラジル北東部居留の成人Kiriri Indianにおける破壊性歯周病罹患率とそのリスク指標を評価することである。
215人のインディアン(>19才)について全顎の歯周組織診査がおこなわれた。二変量解析とロジスティックモデルが歯周病とその想定されるリスク因子間の関連性を評価するために適応された。
臨床的アタッチメントロスが3>、>5、>7mm以上の罹患率はそれぞれ97.8%、63.8%と30.8%であった。臨床的アタッチメントロスが>3、>5と>7mmを示す、一人当たりの歯のパーセンテージはそれぞれ49.8%、18.4%と8.0%であった。共変数で補正した後の検討では、35才以上(OR = 5.83,95% CI:3.09-11.00; p < 0.001)、男性(OR = 2.18, 95% CI: 1.15-4.11; p = 0.02)と糖尿病(OR = 3.92、95% CI1.03-14.99; p = 0.05) がCDC/AAPの定義に従った破壊性歯周炎、に対する高いリスクであった。
KIriri インディアンで歯周病は高い罹患率であったが、進行性の疾患を示した歯はほんの数本であり、歯周炎は高齢、男性と糖尿病という因子との関連がみられた。高リスク群をターゲットに予防と治療のプログラムを含む公共健康行動は集団の歯周病状態を改善させるために重要だ。
(横断的研究、疫学、インディアン、歯周病、リスク因子)
(このKiririインディアンはブラジル北東部Bahia州に居住する部族である。居住区へのアクセスは困難で、外部の影響はごく限定的である。そのため集落は孤立した、流動性のない農村集落である。このインディアンはブラジル人社会に隣接はしているが、前述の理由もあり独特の社会、文化、遺伝的背景を維持している。特徴的なのは、歯科サービスを拒否する文化的な信念があることである。また、彼らはその居住生活環境から基本的な口腔衛生サービスあるいは口腔衛生商品を利用することはない。彼らの食生活は、豆、キャッサバ、トウモロコシを基本とし、砂糖を大量に含む食事がしばしば好まれる。
そんなKiriri集団では40%の人が破壊性の歯周病(中等度~重度)に罹患して、83.5%の人が4mm以上のCALを示す歯が1本以上であり、重度歯周病は29%という調査結果であった。歯周病罹患率は高いが、驚くことに発展途上国における歯周病罹患率よりは低かった。(CALが4mm以上の人はブラジルで93%、ケニアで90%)。しかし欧米先進国との比較ではアタメントロスの罹患率は高くなる(アメリカではCALが4mm以上の人が16.2%、英国ではCAL3.5mmを越える人は43%、フランスではCALが5mmを越える人が19.7%である)。
今回の調査研究では喫煙はリスク因子ではなかった。50%の人が喫煙者であったが、平均1日3.7本でライトスモーカーであること、また喫煙は儀式のあるときにしか吸わないという人も多いからと考察であった。
遺伝子的な背景や、食生活、文化などさまざまな違いはあるにせよ、口腔衛生習慣がなければ、やはり多くの人が歯周病にはなるようだ。ただ全ての人において歯周病が重度にまで進行するわけではなく、同じように口腔衛生が無視されていても歯周病リスクの高いごく小さな集団が存在するのは興味深い。)
(平成25年11月24日)



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