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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p062(no.271-275)

No.275
Factors affecting treatment decisions and outcomes of root-resected molars: a nationwide study.
Yuh DY, Cheng GL, Chien WC, Chung CH, Lin FG, Shieh YS, Fang WH, Mau LP, Fu E, Huang RY.
J Periodontol. 2013 Nov;84(11):1528-35.

分岐部病変が関わる臼歯の治療は課題が多い。この研究は全国集団ベースのデータセットを用いて根切除の治療決定と成績に影響を与える人口統計学的パラメーターを後ろ向きに検索した。
471人の適格患者から匿名化したデータが100万人の台湾人集団で構成される代表的なコホートから得られた。根切除歯の治療決定と成績に影響を与える人口統計学的因子が調べられた。
歯根切除歯の総生存率は91.1%であった。抜去歯および残存歯の生存期間はそれぞれ 303.0 ± 274.6と551.8 ± 327.2 日であった(P<0.001)。居住区、都市化レベル、医療機関、月収などの解析された患者関連因子は処置決定に著しい影響を与えていた。しかし、フラップ手術を受けた根切除臼歯と外科処置を受けなかった臼歯間の生存率に統計学的な有意差はなかった(P = 0.504)。他の因子で補正した後、 >74 才の患者は若い患者群よりも3.3倍高い臼歯の抜歯率であった(hazard ratio = 3.33; 95% CI = 1.04 to 10.66; P = 0.043)。
歯根切除臼歯の総生存率は満足のいく結果であった。高齢患者 (>74才)は根切臼歯の抜歯に高いリスクを有していた。患者関連因子は臼歯がフラップ手術を受けるかどうかの処置決定に影響を与える可能性があった。人口統計学的な因子が根切除臼歯の予後に影響を与える可能性があることから、歯根の切除処置をおこなう前後にこれらの因子を注意深く評価すべきであると、今回の所見は示している。
(コホート研究、分岐部欠損、臼歯、歯周病学、歯の喪失、治療成績)
(大規模集団なのだが患者関連の因子はあっても口腔内の局所的なデータはないので臨床家にとってはあまり面白みはない。性別、年齢はまだしも居住地(台北、台中、台南、台東の4地域だよ)、治療を病院で受けたかプライベートオフィスか、月収などのデータと根切後の生存率を関連づけされても、、、って、正直思うけど。まあいい。
骨整形を伴うようなフラップ手術をおこなった方がプラークコントロールに適した、生理的な組織形態を付与しやすい。著者らはそう述べるが、この研究では手術のあるなしで、根切後の歯の生存率に差がみられていない。
74才を越える集団に根切をおこなうとその成績は、他の年齢集団に比較すると著しく劣っていた。高齢者で成績が悪くなる事への踏み込んだ考察はない。他の年齢群では1000日後でも全て90%程度の生存率を維持しているのに、75才を越える集団は70%程度にまで落ちている。何故だろう。もともとの歯の状態が悪かったんじゃないだろうか。根切しなかってもその歯の予後は悪かったのかもしれない。75才を過ぎたら、わざわざ根切除までしなくても、ってぐらいの解釈かな。)
(平成25年12月14日)


No.274
Treatment outcome in patients with peri-implantitis in a periodontal clinic: a retrospective study.
Lagervall M, Jansson LE.
J Periodontol. 2013 Oct;84(10):1365-73.

設置されたインプラントの数は過去10年間の間に増え続け、そしてインプラント周囲炎の有病率が増加した。この研究の目的はインプラント周囲炎の治療成績を検索し、治療成功率に影響を与える因子を同定することである。
この研究は紹介患者集団についての後ろ向き縦断的研究としておこなわれた。対象は150人の患者で、インプラント周囲炎を有する382人が含まれた。インプラント周囲炎は5mm以上のポケット深さの存在、プロービング時の出血/排膿、とインプラントのレントゲン的骨吸収が3mm以上の存在、あるいはインプラントの少なくとも3カ所のスレッドに達する骨吸収がインプラント周囲炎と定義された。分散分析、カイ二乗検定、ロジスティック回帰分析がエータ解析に用いられた。
ベースライン時、登録者の平均年齢は64才であった(22-87才)。フォローアップ期間の平均±SDは26±20ヶ月で、インプラント埋入とベースライン間の平均期間は6.4年(1-20年)であった。骨整形を伴う歯周外科治療は治療の最もありふれた処置で(47%)、骨代替材を利用した再生外科治療は症例の20%で選択されていた。患者レベルで平均の成功率は69%であった。ロジスティック回帰分析の結果、重度歯周炎と診断された患者、インプラント周囲に重度の辺縁骨吸収が存在する場合、口腔衛生不良、と低いコンプライアンス患者について平均成功率は有意に低かった。
インプラント周囲炎治療の効果は重度歯周炎、インプラント周囲の重度の辺縁歯槽骨吸収、口腔清掃不良、と低コンプライアンスによって損なわれる。
(歯槽骨、デンタルインプラント、インプラント周囲炎、歯周病、後ろ向き研究)
(これまでの報告されているインプラント周囲炎と関連したのリスク指標は、歯周炎歴、喫煙、遺伝形質、糖尿病、アルコール消費、口腔清掃とコンプライアンスレベルなどがあり、システマティックレビューによれば口腔清掃不良、歯周病歴、喫煙がインプラント周囲炎に対するリスク指標であることが見いだされているという。
今回の研究は後ろ向き研究であるために、治療法の選択基準やおこなった処置、メインテナンスや口腔清掃レベルも様々である。
この研究のインプラント治療における成功の定義はPDが4mm以下で、プロービング時の出血/排膿がないことである。今回の調査における成功率は69%(重度インプラント周囲炎は57%)で過去の報告では、45%(重度92%)、77%や58%などが示されている。
抗生剤投与を併用しても治療後の成功率に影響を与えてはいない。過去のコンセンサスレポートでもこの点は結論は出せておらず、今後の研究課題のようだ。今回の研究では、外科処置が医学的に禁忌のために非外科的処置が選択されたという症例がほとんどのために、非外科的治療についてのコメントが控えられている。過去の報告では非外科的処置が有効で無いとも、期待できる可能性もあるとも言われているようだ。)
(平成25年12月9日)


No.273
Predictors of tooth loss during long-term periodontal maintenance: a systematic review of observational studies.
Chambrone L, Chambrone D, Lima LA, Chambrone LA.
J Clin Periodontol. 2010 Jul;37(7):675-84.

この研究の目的は長期歯周治療メインテナンス(PM)における歯の喪失に、影響を与える因子を体系的に評価することである。
CENTRAL、MEDLINEとEMBASEを用いて2009年9月まで検索された。歯周治療を受けて少なくとも5年間メインテナンスプログラムに従う歯周炎患者に限定した研究がこのレビューの対象適格基準とした。PM中、歯の喪失に関するデータが報告されている場合に研究を組み入れ対象と考えた。
検索により527の適格論文が同定された。そのうち13の後ろ向き研究がこのレビューに組み込まれた。ニューキャッスル・オタワ・スケールによって評価されたバイアスアセスメントのリスクは8論文において方法が中等度のレベルで、5つが低いレベルを示した。歯周病が理由で歯を失うパーセンテージ、歯を喪失しなかった患者のパーセンテージは1.5%から9.8%と36.0%から88.5%と幅があった。研究のそれぞれの結果は異なる患者関連因子(たとえば、年齢や喫煙)と歯に関連した因子(歯種、位置、と最初の診断)がPM中の歯の喪失と関連していることを示した。
研究間でみられたかなりの多様性のために明確な結論をだすことはできなかった。年齢、喫煙、と最初の歯の診断がPM期間中の歯の喪失と関連していることが見いだされた。結局、患者は定期的なPMに従い、喫煙をやめるように(喫煙者)指導を受けるべきである。歯周病が理由で歯を失う予知因子を確定するためには前向きコホート研究が必要である。歯周病の病型や喫煙頻度に従って患者をサブグループに分けることでさらに正確な評価をできるようになるであろう。
(長期メインテナンス、歯周病、サポーティブペリオドンタルセラピー、システマティックレビュー、歯の喪失)
(歯の喪失に影響を与える予知する因子にはどんなものがあるだろう。ある論文では、60才以上、高いプラークコントロールレコード、PMの不規則な受診、喫煙、性、最初の診断、IL-1多形性などとしている。でも同じ著者らが、別の論文ではIL-1多形性、最初の診断、喫煙、性については、歯の喪失に関わる統計学的に有意な因子として提示できていなかった。
その他歯の喪失に関わる因子を列挙すれば性、60才以上、喫煙、他には分岐部の存在、最初のアタッチメントロス、最初のプロービング深さ、等々。でもアブストラクトにあるように、システマティックレビュー的にはすっきりした結論をだせないようです。悲しいね。)
(平成25年12月9日)


No.272
Frequency of mechanical removal of plaque as it relates to gingival inflammation: a randomized clinical trial.
Pinto TM, de Freitas GC, Dutra DA, Kantorski KZ, Moreira CH.
J Clin Periodontol. 2013 Oct;40(10):948-54.

この単盲検ランダム化臨床研究は機械的プラーク除去(MRP)の頻度と歯肉の炎症との関連を評価することである。
54人の患者(歯肉出血の部位が最大5%で歯周炎の既往は無い)が異なるMRP頻度に無作為に割り当てられた:頻度は12、24、48と72時間。プラーク指数と歯肉炎指数(GI)がベースライン時、15と30日後に評価された。群内と群間の差はそれぞれ反復のある分散分析と混合モデル分散分析の後にTukeyの検定により解析された。
12 時間群 (0.51 ± 0.17 versus 0.63 ± 0.23, p = 0.137)と24時間群(0.43 ± 0.19 versus 0.59 ± 0.21, p = 0.052)におけるベースラインと30日後の平均GIは統計学的に変化のないままだったが、48 時間群 (0.48 ± 0.18 versus 0.84 ± 0.21, p = 0.001)と72時間群(0.55 ± 0.20 versus 0.94 ± 0.25, p = 0.000)では有意な上昇がみられた。30日後、GIスコアが1と2を示す部位の平均パーセンテージは12時間群と24時間群よりも48時間群と72時間群で有意に高い値を示した(p < 0.05)。
機械的プラーク除去が24時間までの頻度であれば、歯周炎の既往のない患者において30日間にわたって歯肉の炎症の重症化を防ぐことが可能と思われる。
(歯垢、歯肉炎、歯周病、ブラッシング)
(歯垢が蓄積すれば歯肉に炎症が生じる。それを防ぐにはどの程度の頻度で磨けばよいのか。素人的な聞き方をすると、「一日何回磨けばいいですか?」てなことですね。歯周病の既往のない患者という前提はあるが、今回の研究から、一日最低でも一回磨けば歯肉炎の悪化は防げる、ということになる。ただし、歯周病患者についても同様のことが言えるのかどうかはわからない。
これまでの同様の研究で48時間間隔でも歯肉炎の悪化を防ぐことができるという報告がある。しかし、そこでは歯学部の学生を対象にして、衛生士のスーパーバイズ付きだった。ようするに完璧に近いようなブラッシングがなされていた可能性が高い。その差が結果の違いに反映されたのだろう、という考察がされている。今回の研究は歯学部で無い学生だった。)
(平成25年12月7日)


No.271
Nitric oxide production, systemic inflammation and lipid
metabolism in periodontitis patients:
possible gender aspect.
Andrukhov O, Haririan H, Bertl K, Rausch WD, Bantleon HP,
Moritz A, Rausch-Fan X.
J Clin Periodontol. 2013 Oct;40(10):916-23.

一酸化窒素(NO)は循環血圧調整に重要な役割を果たし、歯周病の病因とも関連している。この横断的研究では、歯周疾患における血清と唾液のNOレベルならびに、血清C反応性蛋白(CRP)、脂質代謝と歯周病の重症度との関連を検索することである。
非喫煙広汎型重度歯周炎患者(n=89)と健常なコントロール(n=56)から血清および唾液が回収された。NO代謝産物の血清および唾液レベル、高密度リポタンパク(HDL)、低密度リポタンパク(LDL)、トリグリセリド、コレステロールとCRPの血清レベルが測定された。データは全体の集団、そして性別に分けて解析された。
歯周炎患者はコントロール患者に比較してNO代謝産物の血清および唾液レベルが有意に低い値を示し、LDL、コレステロールとCRPレベルは有意に高い値を示した 。同様の所見は男性で観測されたが女性では観測されなかった。血清NO代謝産物レベルは全集団 および男性集団でCRPと負の相関を示した。血清NO代謝産物レベルはHDLと有意な正の相関が全集団で認められた。
NO産生は、特に男性集団において、歯周炎で減少していた。性差は歯周炎における心血管疾患のリスク評価に重要な因子かもしれない。
(冠血管疾患、C-反応性蛋白、一酸化窒素、歯周炎、血清脂質)
(一酸化窒素は生理学的なメッセンジャーで血圧や血小板凝固抑制に関与する。この気体は生体内半減期は環境にもよるが、2秒を越えることはない。代謝されてNO2さらにはNO3へと変化する。NO測定は安定した代謝産物であるNO2+NO3の測定をおこなうことで、NO産生を定量化する。
局所のNOは病原因子に対する殺菌的な作用と考えられるが、歯周病唾液中のNOは上昇、低下の両者が報告されている。過去の多くの研究では歯周炎では歯肉組織のiNOS産生上昇と関連していると報告している。しかしこれは局所のNO産生であり、全身的なNOの変化には反映しないのではないか、と考察している。
一方、歯周病はCVDのリスク上昇との関連が指摘されるが、このことはNO産生に関与する酵素の一つendothelial NOS(eNOS)の機能不全を通常伴っている。歯周病患者ではeNOSによるNO産生が減少している、というのがこの著者らの仮説である。)
(平成25年12月5日)




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