メニュー

難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p064(no.281-285)

No.285
The effect of long-term aspirin intake on the outcome of non-surgical periodontal therapy in smokers: a double-blind, randomized pilot study.
Shiloah J, Bland PS, Scarbecz M, Patters MR, Stein SH, Tipton DA.
J Periodontal Res. 2014 Feb;49(1)102-9.

このパラレル、二重盲検、無作為パイロット試験の目的は、成人喫煙者の選別された集団に対し、一日325mgのアスピリン(ASA)を服用した際のスケーリングルートプレーニングの臨床成績に及ぼす影響を決定することである。
歯周治療に対する喫煙者の反応は非喫煙者に比較して劣る。長期のASA服用はヘビースモーカーや糖尿病などのハイリスク集団において、歯周病の有病率や重症度を減少させる影響力を有していることが示されてきている。スケーリングとルートプレーニングによる細菌量の減少に併せて、ASAの全身投与は歯周治療の有益性をさらに改善させて、効果を持続させる可能性がある。これまでのところ、喫煙者の歯周治療の必要性を特異的に扱ってきた前向き介入臨床試験はほとんどなかった。
この研究は24人の喫煙者が含まれる。次の臨床パラメーターが術前と術後3、6、9と12ヶ月後に測定された。(i)歯肉炎指数、(ii)プラーク指数、 (iii)プロービング深さ、(iii)プロービングアッタチメントレベル、(iv)歯肉退縮と(v)出血スコア。研究被験者は数回の診療でスケーリングとルートプレーニングを受けて、二つの同等群に無作為に分けられた。コントロール群(C)はプラセボを服用し、テスト群(T)は1日325mgのASAを服用した。1年に渡る観察期間の間、他に追加の治療はおこなわなかった。
コントロール群よりもテスト群で、術前と術後のスコアーに、統計学的により有意な差がみられた(p < 0.05; one- tailed) 。すなわち、 プロービング深さ1-3mmの部位が平均パーセント増加(T: 8.78; C: 7.21);プロービング深さ4-6 mmの部位が平均パーセント減少 (T: -7.25; C: -5.09 統計学的に有意差なし(NS));プロービング深さ? 7 mmの部位の平均パーセント減少 (T: -1.42; C: -02.09); プロービングアタッチメントレベル3-4 mmの部位の平均パーセント減少 (T: -3.63; C: 0.48 NS); プロービング時の出血部位数の平均パーセント減少(T: -12.37; C: -2.59 NS) (p < 0.05, NS)
スケーリングとルートプレーニングに続いて毎日の325mgASA服用は喫煙者における治療結果を、歯肉出血の傾向無しに改善させた。ASAは浅いポケットの出現率とアタッチメントレベルの獲得をより多く促進する。
(アスピリン、歯周病、スケーリングルートプレーニング、喫煙)
「非外科的治療による臨床成績を高めるために、種々の付加的治療が模索されている。せんだっては歯周包帯コーパックを用いた論文があったが、今回は非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)のひとつであるアスピリンを用いた研究だ。SRPで細菌を除去した上に、組織破壊につながる炎症反応を抗炎症剤で抑制することで治療成績の向上を目指すという意図。
アスピリンはCOX1、COX2とプロスタグランディンE2のような主要な炎症メディエーター産生を抑制する(胃粘膜防御反応に関わるCOX-1由来のプロスタグランディンも抑制してしまうので胃障害が生じやすい)。また消炎作用のあるリポキシンやレゾルビン産生をアスピリンは誘導するという他の抗炎症作用メカニズムも考えられている。そんなこんなで、歯周病が悪化しやすく、治療にも抵抗性のある喫煙者を対象にしても、アスピリンには非外科的療法との併用効果があるということだ。
一日324mg服用し、これを1年間続ける。ちなみに解熱鎮痛剤として用いるアスピリンは1錠中500mg、心筋梗塞や脳梗塞の予防薬として用いられる低容量アスピリンは40-100mg/日である。過去に今回と同様の検討をした研究では、500mgを1日4回6週間のレシピを採用している。被験者は胃出血の増加リスクを避けるために、アルコール飲酒を謹むようにとの勧告を受けている。1年間も!人によっては辛かったろう。いや、そんな人はこの研究に参加しないか。
用いられているアスピリンはバイエル社提供)
(平成26年1月31日)


No.284
Tooth loss in individuals under periodontal maintenance therapy: 5-year prospective study.
Costa FO, Lages EJ, Cota LO, Lorentz TC, Soares RV, Cortelli JR.
J Periodontal Res. 2014 Feb;49(1):121-8.

歯牙喪失(TL)、歯周病進行の最も明白な結果の一つ、は患者に身体的および精神的な影響を引き起こす。この前向き研究は5年経過歯周メインテナンス治療(PMT)のプログラムにおいてTL出現に対する発生率、その潜在的理由とリスク予測因子の影響を評価することを目的とする。
アクティブな歯周治療を終え、慢性の中等度から重度歯周炎と診断された212人からなるサンプルがPMTプログラムに参加した。被験者は次の二つの群に分けられた:96人の規則的な応諾者(RC)と116人の不規則な応諾者(IC)である。全顎の歯周組織診査がおこなわれた。社会的、人口統計学的、行動学的、関心のある生物学的変数が全てのPMT診察時に採取された。リスク予測因子やTLに対する交絡因子の影響はTLの潜在的理由と同様に単変量および多変量解析によって評価された。
TLはIC(0.36 喪失歯/年; p < 0.01)に比較して、RC(0.12 喪失歯/年)で有意に低かった。>55才、男性、喫煙者は両群(そしてIC>RC)で有意に多くの歯を喪失した。歯周病が原因の喪失歯の数は両群ともに(p < 0.01)他の理由よりも有意に高かった。TLに対する線形とロジスティックモデルには次の項目が含まれた:男性、喫煙、部位の10%までがプロービング深さ4-6mmと不規則なコンプライアンスである。
PMTを受けているIC患者はRC患者と比較してTLの割合が高いことが示された。この知見は不規則なコンプライアンスの影響と、喫煙、男性、PMT中のプロービング深さの重症度などのTLに対する他のリスク予測因子をモニタリングすることの重要性を証明している。
(コンプライアンス、歯周メインテナンス、歯周炎、歯牙喪失)
「メインテナンスプログラムにちゃんと従う人とそうではない人、その予後経過は?という研究は少なくないが、前向き研究はそう多くない。
RCの受診回数は11.7±2.8回/5年で最大受診間隔が6ヶ月、ICは5.4±1.3回/5年で最大の受診間隔が18ヶ月である。RCは半年以内のメインテナンスを定期的に受けたが、ICは1~1.5年の間メインテナンスをさぼることがあった、ということか。このIC群は歯の喪失だけでなく、PIや平均のBOP%、プロービング深さやCALも悪化していた。
歯の喪失は55才以上の50%と高い割合で認められている。また上顎の大臼歯、小臼歯はより高い頻度で見られている。それに対して単根歯の予後は良好だったようだ。そして歯の喪失に関して男性は女性の二倍のリスクがあるようだ。メインテナンス中の歯の喪失割合は、RCで4年目まで少しずつわずかに増加していく。それに対してICは3年目から急に増加している(3-5年目は、1-2年目のほぼ倍)。
メインテナンスをちゃんと受けようという心構えの人、あるいは実行出来る人、がメインテナンス成績に影響しているような気がする。」
(平成26年1月26日)


No.283
One-stage full-mouth disinfection combined with a periodontal dressing: a randomized controlled clinical trial.
Keestra JA, Coucke W, Quirynen M.
J Clin Periodontol. 2014 Feb;41(2):157-63.

この研究の目的は慢性歯周炎患者に1回法全顎ディスインフェクション(OSFMD)の後に歯周包帯を応用した際の臨床的な有益性を処置後3ヶ月まで比較することである。
この無作為コントロールスプリットマウス研究では24人の患者が含まれていた。OSFMDの後にテスト部位とコントロール部位がコンピューターによる無作為リストに従って選択された。テスト側は7日間歯周包帯(コーパック(R) )が置かれ、コントロール側は歯周包帯をおこなわなかった。7日後歯周包帯を除去し痛みの有無が記録された。3ヶ月後臨床歯周パラメーターが記録された。
歯周包帯群はコントロール群に比較して、単根歯と複根歯の中等度の歯周ポケットに対して、付加的に有意な歯周ポケット減少と有意な臨床的アタッチメント獲得(p<0.05)を示した。プロービング深さが5mm以上の部位は、コントロール群に比較して歯周包帯群で有意に低いパーセンテージであった(2.7 ± 16.3% versus 4.8 ± 21.4%)。痛みの強さは歯周包帯の使用時の方が有意に減少していた (5.13 ± 0.89 versus 3.42 ± 1.27)。
OSFMDの後に応用した7日間の歯周包帯の使用は短期間の付加的な臨床的改善と痛みの強度低下をもたらす。
(慢性歯周炎、フルマウスディスインフェクション、非外科的治療、歯周包帯)
「全顎のSRPは通常1/4顎単位でおこなわれる。Quirynenらは通法を上回る方法としてOne-stage full mouth disinfection(OSFMD)を紹介導入した。この研究で用いた方法は、
・超音波とハンドインスツルメントによる全顎のSRP(24時間以内に2回に分けて)
・患者によるクロルヘキシジン1%ゲルで60秒間舌ブラッシング
・0.12%クロルヘキシジン溶液で1分間2回洗口
・0.12%クロルヘキシンジンスプレーで咽頭に吹きかける
・1%クロルヘキシジンゲルをシリンジで、10分以内に3回全ての縁下ポケット洗浄
さらにさらに
・0.12%クロルヘキシジン溶液で1分間1日2回の洗口を2ヶ月間患者はおこなう
というプロトコールだ。
4-6mmのPD:3ヶ月のPD変化はコントロールが-1.87mmに対し、テスト群が-2.2mmで有意差あり。CALはコントロールとテスト群はそれぞれ-1.20mmと-1.53mmで同様に統計学的な有意差がある。
>6mmのPD:3ヶ月のPD変化はコントロールが-3.27mmに対し、テスト群が-3.56mmであり、CALはコントロールとテスト群はそれぞれ-4.83mmと-2.10mmであるが、これらに統計学的な有意差はない。
重度のPDでもテスト群の方が改善した数値を示すが統計学的に有意差がないのは、例数が少ないためではないかと考察されている。
さて、歯周包帯コーパックを用いることで、付加的な臨床効果が生じるのは何故だろう。創傷の保護、組織の安定化、血餅の有効性、あるかも知れない抗菌作用(lorothidol、chlorothymol)などの理由が考察されている。特に強調されるのが、血餅の機能(損傷組織の保護、細胞遊走のための暫間的なマトリックス、と増殖因子やサイトカインのリザーバー)である。歯周包帯があることで、唾液や頬粘膜などの可動による血餅の減少を防ぎ、結果として血餅の安定化と血餅がより多く残存しやすくなる。
歯周包帯は7日も必要なのかについては、他の文献結果を示している。歯周包帯が3-4日の場合はPD減少が0.7mm、CAL獲得が0.7mmだったのに対し、7-8日の場合はPD減少とCAL獲得がともに1.8mmとのこと。この期間では、短いより長い方がよいようです。」
(平成26年1月19日)


No.282
Immunological and microbiological findings after the application of two periodontalsurgical techniques: a randomized, controlled clinical trial.
Kyriazis T, Gkrizioti S, Tsalikis L, Sakellari D, Deligianidis A, Konstantinidis A.
J Clin Periodontol. 2013 Nov;40(11):1036-42.

この研究の目的は2種類の歯周外科処置の後に生じる細菌学的および免疫学的変化を6ヶ月に渡って調べることである。
総勢30人の慢性歯周炎患者がこの無作為コントロール臨床研究に参加し、そして2群に無作為に割り振られた。ウィドマン改良フラップ手術(MWF)はコントロール群として、骨への介入のない根尖側移動術(APF)は実験郡とした。外科処置部位から歯肉溝浸出液サンプルと歯肉縁下プラークサンプルがベースライン時、術後6、12、24週に回収された。
MWFあるいはAPFを受けた患者の6ヶ月間の免疫学的および細菌学的プロファイルに主要な差異は認められなかった。
歯周外科処置の選択は慢性歯周炎患者の免疫学的および細菌学的プロファイルに影響を与えないように思える。
(サイトカイン、細菌、歯周外科処置、歯周炎)
「非外科的処置後に細菌叢がこう変化したとか、サイトカインがどうのこうのって論文は数多あるけど、著者らが述べているように外科処置前後の細菌学的、免疫学的変化を調べた研究は珍しい。
アブストには細菌学的な変化も免疫学的な変化にもMWFとAPFとで大きな差はなかった、と愛想のない書き方をしている。もう少しみてみよう。
サイトカインだが、IL-4とIL-10は術前から術後6ヶ月まで両群ともほとんど変化していない。IL-8は術後少し下がる傾向であるが、群内では減少に有意差はない。ただ6ヶ月後に両群間に有意差がでている。IL-1betaは両群とも低下傾向で、群内でベースラインに比較して有意差のでている時がある。TNFαは両群とも同じく低下傾向でAPFにベースラインと比較して有意差のある時期がある。IL-6は唯一、術後に上昇傾向がみられ、APF群でベースラインと有意差のある時点がある。サイトカインごとによる傾向は認められるものの、処置法による傾向は不明瞭である。炎症がなくなるだろうからサイトカインも全て減少するのかと思いきやIL-6が、特にAPFで上昇していた。その理由に外科的侵襲のためだと考察されていたが、そんな影響6ヶ月も続くかしらん。
細菌に関しても同様で、P.gingivalis、T.forsythiaは減少傾向で両群ともベースラインと比較して有意差がある時点がある。T.denticola(APFで増加に有意差あり)、S.mitis(両群とも有意差あり)、A.naeslundii(APFで有意差あり)は術後上昇傾向となっている。まあとりとめない結果だが、両処置とも剥離して明視下でSRPと掻爬するのだから、プラーク細菌叢が異なって変化するとは考えにくいよね。」
(平成26年1月12日)


No.281
Tooth loss in aggressive periodontitis: a systematic review.
Nibali L, Farias BC, Vajgel A, Tu YK, Donos N.
J Dent Res. 2013 Oct;92(10):868-75.

侵襲性歯周炎(AgP)は慢性歯周炎よりも進行速度が速いと考えられている。しかし、AgPにおける疾患の進行と歯の喪失を系統立って検索した研究は欠落している。疾患の急速な進行を示すAgP(かつてperiodontosis、juvenileあるいはearly-onset' periodontitisと知られた)患者を含む縦断的研究に対して、独立した二人のレビューヤーによって系統だった文献検索がおこなわれた。Ovid MEDLINEとEmbase databases を利用して、AgP患者について少なくとも5年経過の縦断的なヒト対象研究に対して検索がおこなわれた。1601タイトルの最初の検索からトータルで16の研究がこのレビューに含まれた。 疾患の定義や報告している臨床データには不均質性が認められたので、メタ解析は客観的な計測値「歯の喪失」に対してのみ実行可能であった。全AgP症例に対する平均歯の喪失は0.09 (95% C.I. = 0.06-0.16)/年/患者であった。診断に従った数値は、LAgP、GAgPと非特異的AgPに対してそれぞれ0.05、0.14と0.12喪失歯/年/患者であった。観察期間(初期治療時に抜歯した場合を除く)中の歯の喪失について報告した研究を対象にすると、AgPの平均歯の喪失は0.09/患者/年であった。これらの解析に対して、高い不均質性が見られた。結論として、ほとんどの研究は治療後のAgP症例について長期の良好な安定性を報告している。
(歯周病、歯周骨吸収、歯周ポケット、疾患の進行、メタ解析、メインテナンス)
「AgPってどんな病気なんだろう。大昔、学生時代の教科書に、歯周症(periodontosis)という病名があった。若い、プラーク少ない、炎症所見もほとんどないのに、歯周組織の破壊が進行しているってかいてあった。その後若年性歯周炎の名称が登場して、侵襲性歯周炎になった。また名前変わるかもね。ほら、普通と何か違う、何か特別なタイプに思える歯周病ってあるやんか、あるある。そんな風に語られる、明確には定義出来ないほわほわっとした概念の歯周炎が名前を変えて”特別な歯周病”として歯周疾患の一角を占めている。
メインテナンスにおける慢性歯周炎、あるいは病型を特定していない歯周炎を対象に、歯の喪失を検討した過去の論文では、0.1、0.13、0.15、0.18、0.13歯/患者/年などの数字が並ぶ。これは今回の研究対象としたAgPの数値とは内容が異なるので、著者らは横並びで比較できないと但し書きをつけているが参考にはなる数字だ。
AgPは治療しないでいるとどうなるのか。aggressiveと称される歯周病の病型だから、ガンガン進行するのかと思いきや、そうでもないようだ。ある報告では、初期治療をうけないあるいは不定期にしか治療を受けない歯の喪失はLAgPで0.18歯/患者/年、GAgPでは0.08歯/患者/年となっている。そして全ての症例で歯周病の進行がみられわけではないとのこと。また別の報告では、AgP患者の1/3が喪失歯の91%を占めていたという。つまりAgPと診断されていてもごくわずかの集団だけが急速に進行する、高い疾患感受性をもっているというわけだ。もちろんSPTをきちんとうける人は確かに歯の喪失は減少するようだが。
慢性歯周炎と同様に、AgPも年齢、喫煙と最初の歯の診断予後などが歯の喪失と関連するという。こうつらつら見てくるとAgPは慢性歯周炎と同じような特徴を持っている。慢性歯周炎のうち進行の早い、先に述べたある特定の集団がAgPならわかりやすいが、そうでもないようだ。これはAgPの定義の不明確さ、あるいは疾患の進行速度を明確にとらえることの出来る検査法が未だ確立していない、などが反映しているのかも知れない。」
(平成26年1月6日)



癒しのクスリ箱、息抜きにブログをどうぞ