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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p071(no.316-320)

No.320
Association of gingival crevicular fluid cortisol/dehydroepiandrosterone levels with periodontal status.
Cakmak O1, Alkan BA, Ozsoy S, Sen A, Abdulrezzak U.
J Periodontol. 2014 Aug;85(8):e287-94

この研究の目的は不安や憂鬱評価尺度スコアが臨床的歯周組織状態に関して変化があるか否かについて調べることと、歯肉溝浸出液(GCF)におけるストレス関連ホルモンレベルと歯周病の程度/重症度との間の関連性を調べることである。
研究の組み入れ基準を満たした120人の参加者が選別された。慢性歯周炎患者と歯周組織の健全/軽度歯肉炎患者が含まれた。臨床診査は不安と憂鬱測定を含む心理学的評価の翌日におこなわれた。GCFサンプルはその翌日に採取された。市販の酵素結合免疫吸着測定法がGCFコルチゾールと デヒドロエピアンドロステロン (DHEA) レベルの決定に用いられた。研究群は次のように割り当てられた。群1は非歯周病、群2は局所型CP、群3は広汎型CP。
群間で年齢、性別、教育、収入、職業、喫煙歴に関しての有意差はなかった (P >0.05)。心理社会学的尺度では非歯周病群とCP群間で有意な差は見られなかった (P >0.05)。群3は群1と比較して高い平均DHEAスコアを示した (P <0.05)。しかしながら中央値コルチゾールスコアは3つの群間で統計学的な有意差はなかった (P <0.05)。
臨床的歯周組織状態に関して不安/抑鬱評価尺度とGCFコルチゾールレベルは何ら差を示さなかった。しかしながら、GCF DHEAレベルの上昇と歯周病の重症度との間には有意な関連がみられた。
( デヒドロエピアンドロステロン、抑鬱、歯肉溝浸出液、ハイドロコルチゾン、歯周炎、ストレス、心理学的)
「歯周病と心理社会的な因子との関連性が報告されている。教科書的にも歯周病の発症進行に関わる要因のひとつにストレスが記載されている。
心理社会的ストレス反応はHPA軸(視床下部ー下垂体ー副腎)を活性化して、視床下部からの副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン分泌を、下垂体からの副腎皮質刺激ホルモンACTHを、そして副腎皮質からのグルココルチコイド(コルチゾールを含む)分泌を促す。コルチゾールは炎症や免疫にネガティブに作用する。あるいはストレスが亢炎症と抗炎症反応のバランスを損ねるとの研究報告もある。これらのことから、ストレスは歯周病の炎症を修飾しうるというわけだ。
ただ、最近は急性で、短期間、低レベルのストレッサーあるいは慢性のマイルドなストレッサーによって自然免疫と適応免疫の活性化が生じて、炎症性サイトカインの遺伝子発現増加、マクロファージ数の増加、T細胞活性化するとの新知見がえられているようだ。したがって、慢性の心理的ストレスは慢性の低レベルの炎症状態や感染症に対する感受性の増加と関連している可能性があるようだ。
ストレスの客観的な指標として調べたコルチゾールと デヒドロエピアンドロステロン(ACTHー依存ホルモン)が歯周病の重症度と関連するがどうか調べると、後者に関連性が見られた。その人にストレスがかかっていると調べるのは難しそうだ。ストレスは歯周病の発症進行と関係ある、かな。」
(平成26年9月14日)


No.319
Photodynamic therapy during supportive periodontal care: clinical, microbiologic, immunoinflammatory, and patient-centered performance in a split-mouth randomized clinical trial.
Kolbe MF1, Ribeiro FV, Luchesi VH, Casarin RC, Sallum EA, Nociti FH Jr, Ambrosano GM, Cirano FR, Pimentel SP, Casati MZ.
J Periodontol. 2014 Aug;85(8):e277-86.

この研究はサポーティブペリオドンタルセラピー期間に、単独治療としての光線力学療法(PDT)の効果を調べることである。
プロービング時の出血 [BOP]があり、少なくとも3カ所の残存ポケット(プロービング深さ [PD] ?5 mm)を有する慢性歯周炎患者(N=22)で、スプリットマウス、ランダム化コントロール臨床試験がおこなわれた。選択された部位はランダムに次の処置が施された。1)PDT、2)光感受性物質(PS)、あるいは3)スケーリングルートプレーニング(SRP)である。ベースライン時、3ヶ月と6ヶ月後に臨床的、細菌学的(リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応解析)、サイトカインパターン(マルチプレックスビーズ免疫アッセイ)、と患者本位(有病率に関して)評価がおこなわれた。
PSプロトコールにおいてBOPが減少しなかった(P>0.05)ことを除いて、研究期間中全ての治療は臨床パラメーターを同程度に改善させた。 3ヶ月後PS プロトコールと比較して、Aggregatibacter actinomycetemcomitansの低いレベルがPDTとSRPプロトコールで観察された (P <0.05)。ベースラインから3と6ヶ月後でPDTプロトコールにおいて、そして6ヶ月後SRPプロトコールにおいてPorphyromonas gingivalisの低いレベルの検出が観察された。加えて、他の処置法に比較して、3ヶ月後PDTプロトコールはP.gingivalisの低い検出頻度を示した (P <0.05)。研究期間を通じてPDTプロトコールの患者は唯一、抗炎症炎症インターロイキン(IL)-4のレベルの亢進と、亢炎症的IL-1βとIL-6の減弱を示した(P<0.05)。群間解析からフォロー期間中他の治療と比較した時、PSプロトコールにおいてIL-10の減少とインターフェロンガンマとIL-1βの増加を認めた(P <0.05)。SRP処置部位で麻酔の必要性は高かった(P <0.05)が、処置間において有病率の有意な差は観察されなかった(P >0.05)。
単独治療としてのPDTはサイトカイン調整に有利で、残存ポケットを処置するにあたって非侵襲性な手段と考えられるかも知れない。 
(慢性歯周炎、サイトカイン、細菌学、疼痛、歯周ポケット、光化学療法)
「メカニカルデブライドメントとPDTでその臨床的効果に差はあまりない。ベースラインから6ヶ月のPD変化はPDT、PSとSRPでそれぞれ1.60、1.29と1.88であり、RCALの変化は同様に0.95、0.69と1.21であった。この結果では、PSでもそれなりの効果が示されている。メチレンブルーやトルイジンブルーOなどのフェノチアジン色素は抗菌効果を示すので、その作用に起因するのかもしれない。BOPについてはベースライン時100%とした時に、6ヶ月後でPDT、PSとSRPのそれぞれ28.57、61.90、28.57%であった。5mm以上のPD残存はそれぞれ14.28、42.85と19.04%であり、さずがにPSの効果は弱い。
低レベルレーザーが組織にフォトバイオモデュレーションを提供して、抗炎症組織修復的に働くことが考えられる。それゆえ、原因除去治療としてのSRPをおこなってもPDが残存するあるいは改善しない例があるので、原因除去的SRPとは異なったメカニズムで作用するPDTは、SRPに効果が無かった部位に対する処置法として検討すべき治療法の一つではないかという考察だった。」
(平成26年9月1日)


No.318
Coffee consumption and periodontal disease in males.
Ng N, Kaye EK, Garcia RI.
J Periodontol. 2014 Aug;85(8):1042-9.

コーヒーは抗酸化に加えて他の抗炎症因子の毎日の主要な食物源である。歯周炎においてそのような因子の好ましい影響があると仮定して、成人男性を対象に飲用と歯周炎との間に関連があるかどうかを調査した。
成人男性で、前向き、年齢口腔健康状態が閉鎖系コホートから収集されたデータが用いられた。1968年から1998年まで包括的医科歯科診査のために参加した退役軍人管理局(VA)歯科縦断研究における有歯顎者1152人が対象に含まれた。ベースライン時の平均年齢は48才であった。男性は30年フォローされた。参加者はVA患者患者ではなく、民間部門で医科および歯科ケアを受けている。歯周組織状態はプロービング深さ(PD)、プロービング時の出血、とレントゲン的歯槽骨吸収(ABL)によって評価された。ABLは修正シャイのルーラー方法で口腔内単純撮影レントゲン上で測定された。中等度から重度歯周疾患は PD ?4 mmあるいはABL ?40%を示す歯の累積数として定義された。コーヒー摂取量はコーネル医学指数と食物摂取頻度調査票を用いて参加者の自己申告から得られた。多変量反復測定一般化線形モデルは、コーヒー摂取量レベルにより、それぞれの診査時に中等度から重度疾患で歯の平均数を評価した。
高いコーヒー飲用は歯槽骨吸収のある歯の、小さいが有意な数の減少と関連があった。コーヒーの消費は歯周組織に為害性があるというエビデンスは見いだせなかった。
コーヒー飲用は成人男性で、歯周組織骨吸収に対して防御的であるかもしれない。
(歯槽骨吸収、コーヒー、コホート研究、栄養学、歯周炎)
「コーヒーと歯周病!こりゃなんだろうね。歯周病に対してリスクのある栄養学的因子って存在するのかどうかはよくわかっていない。一方、歯周病における抗酸化あるいは抗炎症因子の役割については比較的よく研究されている。コーヒーにはポリフェノールなどの抗酸化物質が含まれているので、歯周病に対して防御的に作用する可能性がある。
カフェインには免疫制御機能のあることがわかっている。カフェインは好中球や探求のケモタキシスや亢炎症サイトカインTNFalphaの産生などを抑制する。またT細胞増殖やTh1、Th2やTh3サイトカインの産生機能など、リンパ球機能も抑制する。そして、通常のコーヒー飲用量でこれらの免疫調整作用は発揮されうるという。
さらにコーヒーあるいはカフェインが、ヒトあるいは動物実験で骨代謝にも影響しうることが示されている。これらのことからコーヒー飲用はヒトの歯周病を含めた疾患に対して有益とも為害性があるとも、両面からの作用が考えられる。
今回の結果から、コーヒー飲用は歯周病の抑制に効果があるかも、であった。ただそれはABLを指標にした場合で、PDやBOPを指標にした場合には、そのような効果は認められていない。著者らはコーヒーやカフェインが歯周病の抑制に効果があるかも、ということよりも歯周病を悪化させる食品(リスクのある食品)ではない、の方を強調したいようだ。」
(平成26年8月23日)


No.317
Influence of the utilization time of different manual toothbrushes on oral hygiene assessed during a 6-month observation period: a randomized clinical trial.
Schmickler J1, Wurbs S, Wurbs S, Lange K, Rinke S, Hornecker E, Mausberg RF, Ziebolz D.
J Periodontol. 2014 Aug;85(8):1050-8.

このランダム化臨床研究(RCT)の目的は、異なるタイプの手用歯ブラシ(TBs)を6ヶ月間継続利用した場合に、4週間ごとの使用に比較してプラーク除去や歯肉炎症の程度に影響を与えるかどうかを検索することであった。
総数96人の参加者が二群にランダムに割り当てられた:6ヶ月間継続使用する群(非交換群)あるいは6ヶ月の間に4週ごとにTBを交換する群(交換群)である。各群は用いたブラシのヘッドサイズ(ノーマルかショート)と毛の硬さ(ふつうかやわらかい)に従ってさらに四つの群に細分化された(A群からH群、n=12)。
修正Quigley-Hein plaque index (QHI)、papilla bleeding index (PBI)と歯肉炎指数 (GI)がベースライン時とベースライン後2、8、12、16と24週後に記録された。24週後、各参加者は新しいTBを受け取り、26週後に最後のQHI、PBIとGIが決定された。統計学的な評価は共分散から構成された。
時間経過とともに QHI、PBIと GIは交換群と非交換群間に有意な差があった (QHI: P = 0.02; PBI: P = 0.04;GI: P<0.01)。非交換群では、ベースライン時と比較して、16週までと16週で有意な減少がみられた (P <0.01)。交換群では、PBIはベースライン時と各フォロー受診期間に有意な差はなかった(P >0.05)。非交換群では、標準ヘッド/やわらかいタイプ群のみが24週後に有意に増加した。交換群におけるGIはベースライン時と全てのフォローアップ受診時間に差がなかったのに対し、非交換群では12週までと12週を含み有意に減少した(P<0.05)。
6ヶ月の連続使用はプラーク除去に関してTBの効果を減弱させ、そして歯肉炎症は増加するように思える。
(臨床研究、歯科デバイス、歯垢、プラーク、歯肉炎、口腔清掃、ブラッシング)<br>
「イントロから今回のテーマの背景をひろってみる。適切な口腔清掃と効果的な歯垢除去のためには、TBの使用期間は最大1-3ヶ月程度(特に頻度高く用いているならば)にすべきであろう。アメリカ歯科医師会の公式コメントとして、TBは3、4ヶ月ごとに交換してください、とあるが、オーストラリアやアメリカでほとんどの歯科医は2-3ヶ月ごとのTB交換を勧めている。加えて、植毛が曲がってくるような、歯ブラシ消耗の兆しがみえたら、TBの交換がのぞましいともされる。またスイスやドイツでの歯ブラシの売り上げからすると、新しい歯ブラシは6ヶ月毎であることが示されている。
じゃあ、その6ヶ月も使い続けた歯ブラシの歯垢除去効果たるやいかに??
毎月交換なら、観察期間の24週後まで安定してプラーク除去効果が維持されたが、同じ歯ブラシを使い続けると16週までがせいいっぱいで、24週には歯垢除去効果がはっきりと失われていた。後者の非交換群でプラーク除去効果が失われる24週後に呼応するように、GIの上昇が認められている。
逆にいうと16週までは、歯ブラシの大きさと植毛タイプには関係なく、非交換群でプラークは除去されている。この結果から歯ブラシを交換せず16週まで使っても良いのだ、という結論になるのかどうかは何とも言えない。ご存じの通り、日本のメーカーは通常1ヶ月ごとの交換をうたっている。
16週時点で歯ブラシの毛がどのようにどの程度変形していたのか知りたいところだが、それは調べられていない。他の論文結果を引用するだけである。
使われている歯ブラシはDr.BEST flex(GlaxoSmithKline) で植毛部と柄の間にくねくねがついたやつだろう。」
(平成26年8月19日)


No.316
Tooth loss, periodontitis, and statins in a population-based follow-up study.
Meisel P, Kroemer HK, Nauck M, Holtfreter B, Kocher T.
J Periodontol. 2014 Jun;85(6):e160-8

脂質低下療法でしばしば処方されるスタチンは歯周炎と歯の喪失に付加的な好ましい効果を有する可能性がある。もしこれが真実なら、スタチンによる慢性治療の結果、長期間の反応として歯の喪失を減じることになるはずである。
スタチンで治療を受けている参加者(n=134)と薬剤を用いていない参加者(ポメラニアにおける健康に関する研究)とを比較した5年集団ベースの歯の喪失追跡研究がおこなわれた。歯の喪失に対するリスクとコレステロール代謝の測定値を含む成績の変数を解析するために、負の二項分布回帰モデルが用いられた。
年齢と性別に対して補正したとき、スタチンは追跡期間で歯の喪失減少と関連があった (発生リスク比 [IRR] = 0.70, 95% confidence interval [CI] = 0.50 to 0.99, P = 0.04)。さらに歯周組織破壊のリスク因子で補正すると、IRRは0.72であった (95% CI = 0.52 to 1.01)。ベースライン時低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-c)との有意な関連があった。LDL-cで階層化した後、スタチンは歯の喪失減少と関連がみられ、その結果 LDL-c濃度?100 mg/dLと>100 mg/dL (2.58 mmol/L)では、それぞれ IRR = 0.89 (95% CI = 0.44 to 1.83) と0.64 (95% CI = 0.43 to 0.95) P = 0.03であった。また歯の喪失減少が、mmol/L基準で、スタチンとは独立して、LDL-cレベルの5年減少と関連を示していることがデータから示された (IRR = 0.87, 95% CI = 0.80 to 0.96, P = 0.004)。
全身的スタチン投与による長期治療は歯の喪失を保護する有益な効果をもたらすのかもしれない。
(抗コレステロール薬、C反応性タンパク、コレステロール、LDL、ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムA還元酵素阻害薬、歯周炎、歯の喪失)
「スタチンはコレステロールを下げる薬だから、薬を飲んでいる人のコレステロールは下がる。スタチンを服用している人の歯の喪失が抑制されることになったのは何故だろう。全身的な代謝障害が局所の炎症に影響を与える、という考え方がある。それで、スタチン服用によってコレステロールが低下し、歯周組織の炎症状態に悪影響を及ぼさなくなった、という考察が一つ。あるいはスタチンが歯周組織で生じる炎症性サイトカインなどの刺激因子の増加を抑制する、という考察もある。
また動物実験でスタチンが炎症性骨吸収を抑制することや、全身的あるいは局所的投与で歯周炎の骨形成促進や吸収抑制が報告されていることを引用して、スタチンが骨代謝にも影響しているために、このことを通じてスタチンが歯の保存に一役かっているのではという考察もおこなっている。」
(平成26年8月12日)



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