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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p072(no.321-325)

No.325
Prevalence and risk indicators of dentin hypersensitivity in adult and elderly populations from Porto Alegre,Brazil.
Costa RS1, Rios FS, Moura MS, Jardim JJ, Maltz M, Haas AN.
J Periodontol. 2014 Sep;85(9):1247-58

象牙質知覚過敏症(DH )は患者にとってインパクトのある臨床症状である。しかし、一般集団におけるその出現と関与因子についてはほとんど知られていない。この研究の目的は、ブラジル、ポルトアレグレにおけるDHの有病率とリスク因子を評価することである。
35歳以上の成人1023人からなる多段階確率代表サンプルが得られた。
参加者はインタビューを受け、彼らの自宅で臨床的な診査を受けた。DHはエアーとプローブで残存全歯で二回に分けて評価された。クラウンで修復された歯、う窩のある歯は除外された。サンプル荷重を用いた調査ロジスティック回帰が人口統計学的および行動的さらに臨床的決定要因を評価するために応用された。
全体的に見ると、エアーとプローブによって診断されたDHに対する推定有病率は33.4%と34.2%であった。DHには1人あたり約1歯罹患していた。そして歯肉退縮(GR )を伴う歯のおおよそ10%がDHであった。エアーで診断されたDHに対する多変数モデルでは、女性がDHになる危険性が多かった (オッズ比 [OR] = 2.14; 95% 信頼区間 [CI] = 1.57 to 2.91)。喫煙、歯周治療、とGRもDHリスク増加と関連があった。DHの危険性は35-49歳の人よりも60以上の人で低かった(OR = 0.47, 95% CI = 0.29 to 0.76)。口腔清掃行為、社会経済学的および学歴、歯科受診と歯肉の炎症はDHと関連がなかった。
DHはブラジルの集団では関心事かもしれない。DHの低下は喫煙の中止と歯周組織の健康によって達成せれるかもしれない。
年齢、ブラジル、象牙質知覚過敏、疫学、歯肉退縮、リスク因子
「知覚過敏症に罹患歯は小臼歯が頻度高く、続いて上顎の第一大臼歯だった。60歳以上では下顎の前歯や犬歯で多かったようだ。これは臼歯が欠損していることが多いことに由来するのだろう。
DHが女性で多く、高齢者で少ないのは過去の報告にもあるが、喫煙との関連は新しい知見のようだ。
なんと言ってもDHと関連性の高かったのは、過去の報告にもあるように歯肉退縮(GR)だった。とまあ考察はこんなところだ。」
(平成26年11月12日)


No.324
Influence of endodontic treatment in the post-surgical healing of human Class II furcation defects.
de Miranda JL1, Santana CM, Santana RB.
J Periodontol. 2013 Jan;84(1):51-7.

大臼歯の分岐部欠損の治療は臨床家にとって手強い存在である。分岐部病変のマネージメントにおいて成功の程度は幅広く、これら欠損の最初の臨床状態と関連している。治療成績に影響を与える臨床パラメーターの同定は外科的歯周治療の結果を最適化するのに重要である。歯根膜の治癒能力に及ぼす歯の歯内治療の影響は議論の的になっている。それゆえ、この研究の目的はオープンフラップデブライドメント(OFD)に対し頬側クラスII分岐部病変の臨床反応を評価して、治療による臨床成績におけるETの影響を決定することである。
60人の患者が二つの治療群(n=30)に分けられた。1)OFDと2)歯内治療歯におけるOFDである。評価した臨床変数はプラーク(全顎のプラーク指数)、プロ-ビング時の出血、歯肉退縮、プロ-ビング深さ(PD )と垂直的(VAL )そして水平的(HAL)アタッチメントレベルである。再評価は術後12ヶ月後に行われた。
両処置群とも評価した臨床変数に改善がみられた。OFD 処置とOFD+ET処置部位における術後の測定結果はそれぞれ、PDが1.2 ± 1.2と1.3 ± 1.3 mmの減少、VAL獲得が0.6 ± 0.8と0.7 ± 0.6 mm、そしてHAL獲得が0.7 ± 1.1 and 0.8 ± 1.6 mmであった。群間に有意差は認めなかった。
この研究結果から、手術の6ヶ月以上前におこなわれた適切な歯内治療はヒト下顎頬側クラスII分岐部欠損の治癒の臨床パラメーターに有意な影響を与えない。
(歯髄、分岐部欠損、歯、歯内治療)
「臼歯の分岐部と歯髄腔とは解剖学的に交通が認められる。それ故に歯内治療おこなうことが分岐部病変に何らかの影響を与えることが想定される。もともと分岐部病変があって根面のSRPなどをおこなうとセメント質が除去されて歯内治療が分岐部病変に影響する可能性がますます危惧される。それで歯内治療の有無で分岐部病変に対するOFDをおこなった臨床成績を比較しのだが差はなかった
まず歯内療法が適切に行われていることが必要であろう。そして手術の1ヶ月前後だと歯周組織の治癒に影響を与えるという報告があるので歯内治療のおこなう時期も重要かもしれないと述べている」
(平成26年11月9日)


No.323
Surgical periodontal therapy with and without initial scaling and root planing in the management of chronic periodontitis: a randomized clinical trial.
Aljateeli M1, Koticha T, Bashutski J, Sugai JV, Braun TM, Giannobile WV, Wang HL.
J Clin Periodontol. 2014 Jul;41(7):693-700.

この研究の目的はスケーリングとルートプレーニングの有無で、歯周外科治療の成績を比較する事である。
24人の重度慢性歯周炎患者がこのパイロット、無作為コントロール臨床研究に募集された。患者は2群に等しく割り当てられた。コントロール群はスケーリングとルートプレーニング、再評価、修正ウイドマンフラップ手術を受けた。テスト群はスケーリングとルートプレーニングなしに同様に外科的処置を受けた。臨床的アタッチメントレベル、プロービング深さ、とプロービング時の出血が記録された。規格レントゲンがベースライン時から6ヶ月後の一次元的骨変化として解析された。創傷浸出液の炎症バイオマーカーも評価された。
両群はベースライン時に比較して3および6ヶ月後に、臨床的アタッチメントレベルとプロービング深さに統計学的に有意な差を示した。3および6ヶ月後にプロービング深さの減少に関して、二群間にはコントロール群に好ましい統計学的に有意な差が見られた。バイオマーカーについては、群間に統計学的に有意な差はなかった。
スケーリングルートプレーニングと外科処置を組み合わせると、最初にスケーリングとルートプレーニングをおこなわなかった歯周外科処置に比較すると、より大きなプロービング深さの減少を生じた。
(初期治療、修正ウイドマンフラップ、歯周外科、歯周治療、歯周炎、スケーリングルートプレーニング、創傷治癒)
「以前に歯周基本治療をおこなわずに歯周外科処置をおこなった方がメインテナンスを含めても安上がりだ、という論文があった。これは、治療としては歯周基本はやっぱり大事でしょ、という向きの論文だ。
SC/SRP+外科処置が外科処置単独よりも歯周ポケットの減少が大きかった。しかしアタッチメントレベルでは差がなかった。このことから、歯周ポケット減少の差異は歯肉退縮によるものと考えられる。また2度のインスツルメンテーションも寄与しているのかもしれない。最初にSC/SRPを行うことで歯肉の炎症が減少するので、後でおこなう歯周外科の処置時間を減少させることもできるであろう。
さらに4mm以下になるプロービング深さの割合がSC/SRPと外科処置と外科処置単独ではそれぞれ40%と60%となっていた。
そもそものことを言うと、SRP単独でプロービング深さの改善が図られて、外科処置の必要性そのものがなくなる可能性も大である。歯周基本治療たるSC/SRPは重要なエレメントであると著者らは強調している。
この世にはいきなり歯周外科処置をおこないたい人もいるようだが。
バイオマーカー(VEGFやIL-1 )は外科処置後に上昇している。その後は群間に差はなく、臨床成績を説明できるほどのデータにはならなかったようだ。」
(平成26年10月9日)


No.322
Risk factors associated with the longevity of multi-rooted teeth. Long-term outcomes after active and supportive periodontal therapy.
Salvi GE1, Mischler DC, Schmidlin K, Matuliene G, Pjetursson BE, Bragger U, Lang NP.
J Clin Periodontol. 2014 Jul;41(7):701-7.

この研究の目的は歯周治療を受け、サポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)に登録されている患者において、多根歯(MRT)喪失のリスク因子を検索することである。
総数172人はアクティブな歯周治療(APT)前(T0)と後(T1)、そして平均11.5 ± 5.2 (SD)年SPT後(T2)に診査を受けた。MRTの喪失とリスク因子の関連はマルチレベルロジスティック回帰によって解析された。歯が解析単位であった。
APT前の分岐部病変(FI)=1は FI = 0に比較して歯を失うリスク因子ではなかった (p = 0.37)。T0とT2間で、FI=2のMRT(OR: 2.92, 95% CI: 1.68, 5.06, p = 0.0001)とFI = 3のMRT (OR: 6.85, 95% CI: 3.40, 13.83, p < 0.0001) はFI=0の歯と比較して有意に歯の失うリスクが高かった。SPT期間中喫煙者は非喫煙者に比較して有意に多くのMRTを失った (OR: 2.37, 95% CI: 1.05, 5.35, p = 0.04)。T1時に、非喫煙者とFI=0/1のSPT遵守被験者は FI = 2 (OR: 10.11, 95% CI: 2.91, 35.11, p < 0.0001)やFI = 3 (OR: 17.18, 95% CI: 4.98, 59.28, p < 0.0001) のSPT非遵守喫煙者に比較して、SPT期間中MRTを失うことは有意に低かった。
FI=1は FI = 0と比較して、歯を失うリスク因子ではなかった。FI = 2/3、喫煙と定期的なSPT遵守の欠如は歯周炎治療患者においてMRTを失うリスク因子であることが示された。
(分岐部病変、歯周炎、喫煙、サポーティブペリオドンタルセラピー、歯の喪失)
「今回の研究でアクティブな歯周治療フェイズで多根歯の14.4%、SPT(平均11.5年)期間中では同じく13.7%が抜歯に至った。
歯周治療を行う人の実感通り、分岐部病変(FI)は予後不良の一因とする報告が多い。そして、FIの程度に依存している。例えば、とある報告では、FIを有する歯の抜歯に対するオッズ比は根切の複根歯に比較して7.3、FI=0の臼歯に比較して20.6である。
分岐部病変のある臼歯の生存率は43.1から96%と報告されているが、ルートアンプテーションやヘミセクションなどの根切除術を受けてプラークコントロールが適切に行えるようになった歯の生存率は93%(観察期間が平均10年)と大きい。根切除術の不成功理由の多くは歯周病ではなく、歯内や修復処置に関わったことである。
ある報告では22年のSPTで分岐部病変を持つ多根歯は上顎で33%、下顎で29%歯を失っていた。これらは全歯牙の歯の喪失率が8%に比較するとやはり高い。
SPTに従う人ほど歯を失うリスクが減るのだが、歯周病再発リスク要因の高い人ほどSPTに対するコンプライアンスが下がるのは皮肉なものだ。」
(平成26年9月30日)


No.321
Sense of coherence and incidence of periodontal disease in adults.
Kanhai J1, Harrison VE, Suominen AL, Knuuttila M, Uutela A, Bernabe E.
J Clin Periodontol. 2014 Aug;41(8):760-5.

この研究の目的は首尾一貫感覚(SOC)が成人における歯周病の4年後の発生を予知できるかどうかを調べることである。
フィンランドの成人口腔健康の健康2000調査と追跡研究の両方に参加した成人848人から得られたデータが解析された。ベースライン時、参加者は人口統計学的特徴、教育レベル、SOC尺度、糖尿病既往、と歯科に関する習慣についての情報を提供した。臨床成績は4年以上で、 ? 4 mmのポケットを有する歯の数の変化とした。縦断的解析の、二つの別々の研究がおこなわれた。最初の研究は両調査に参加した848人すべてでおこなわれ、二つ目の研究はベースライン時 ? 4 mmのポケットを持たない被験者305人でおこなわれた。
全てのサンプルでベースライン時SOCは4年以上ポケットの存在した歯の数の変化と関連はなかった (coefficient from linear regression: -0.28; 95% CI: -0.74 to 0.18)同様に、ベースライン時SOCは、ベースライン時ポケットのなかった歯の中で、4年後にポケットが生じた歯の数と関連はなかった (Rate Ratio: 0.94; 95%CI: 0.80 to 1.11)。
4年の前向き研究から成人で測定されたSOCは ? 4 mm歯周ポケットを持つ歯数の変化を説明できないことが示唆された。
(フィンランド、成人、コホート研究、歯周病、首尾一貫感覚)
「続いて精神世界的な話しである。
健康体に何らかの病気を起こすような原因が発生することで、病気が生じてしまう。それで、原因を取り除いたり、原因が生じないようにして病気を治す、あるいは予防する。そのことで、健康な状態に回復させる、あるいはこれを維持する。これが通常の医学的な考え方である。
それに対し、健康と病気を連続的なものと考え、健康を保持増強させようとする因子を活性化して、健康を獲得しようとする考え方が健康生成論(アントノフスキー)である。そして、健康を害する因子(ストレッサー)に適切に対応して、より健康的に維持させようとする感覚が首尾一貫感覚(SOC)と呼ばれる。
SOCには 
・ストレッサーとの対決で生じる情動的な緊張の制御
・健康を促進させようとする行動選択
・神経ー免疫や内分泌系の中心経路を介した生理学的な帰結
の3経路で健康が促進されると考える。
強いSOCを持つ者は毎日ブラッシングをするであろうし、定期的に歯科も受診するであろうし、喫煙習慣も避けるであろう。
その一方でSOCは、歯周病と関連する、情緒状態や炎症マーカーとも関連する。果たしてSOCは歯周病の発症進行と関連あるかと調べたが、関連性は見られなかった。。
その理由として、今回の研究ではアタッチメントレベルではなく歯周ポケットを指標にしている。4年の経過観察は短い。観測間隔が長すぎて、短期間のburstをとらえきれていないかも、そして最後に単純にSOCは歯周病と関連がない、などの理由が考察されている。」
(平成26年9月15日)


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