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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p075(no.336-340)

No.340
Moderate and severe periodontitis are independent risk factors associated with low cardiorespiratory fitness in sedentary non-smoking men aged between 45 and 65 years.
Eberhard J1, Stiesch M, Kerling A, Bara C, Eulert C, Hilfiker-Kleiner D, Hilfiker A, Budde E, Bauersachs J, Kuck M, Haverich A, Melk A, Tegtbur U.
J Clin Periodontol. 2014 Jan;41(1):31-7.

この研究の目的はデスクワークの人を対象にした横断的研究で、歯周病の重症度と心肺持久力(CRF)との関連性を検索することである。
スポーツ活動をせず、どちらかというと着座して働く72人の健康男子(45-65才)がリクルートされた。歯周病の状態が記録され、CRFは自転車エルゴメーターでテストした、運動中の酸素取り込みピーク(VO2ピーク)によって測定された。身体活動度は有効と認められたアンケートにより評価され、データは作業スコアの代謝当量に変換された。関連を検索するために単および多変数回帰分析がおこなわれた。
歯周炎がみられない、あるいは軽度歯周炎被験者と中等度あるいは重度歯周炎被験者間におけるVO2ピークの差は統計学的に有意であった(p=0.026)。VO2ピーク値が低い個人は高いBMIスコア、高感度C反応性タンパクの高い濃度、高い高密度リポタンパク質コレステロールを示し、高いVO2ピークレベルの個人と比較してより多くのグルココルチコイドを利用した。多変量回帰分析は高年齢 (p = 0.090), 高BMIスコア(p < 0.001)、肉体的活動量の低さ(p = 0.031)、そしてそれぞれ中等度(p = 0.087)と重度歯周炎(p = 0.033)はVI2ピークレベルの低さと有意な関連があった。
この研究から、45と65才の間のデスクワークである男性においては中等度および重度歯周炎は低レベルCRFと独立して関連があった。
(心肺持久力、歯周炎、肉体的活動、リスク因子、全身的健康)
(CRHが歯周炎と関連性があるという。そのCRFは肉体的活動度の程度によって基本的には決定されるものだ。なので、肉体的活動は交絡因子となりうる。
肉体的活動は抗炎症をもたらし、その結果として歯周炎が抑制されうる。また肉体的活動が盛んになると、高血圧のリスクが減少する。高血圧や過体重は歯周病との関連が見られているために、これもまた交絡因子の理由となり得るというわけだ。それでもなお、対象とした集団において、心肺持久力は歯周病と独立して関連があるという。)
(平成27年1月25日)


No.339
Subgingival air-polishing with erythritol during periodontal maintenance: randomized clinical trial of twelve months.
Muller N1, Moene R, Cancela JA, Mombelli A.
J Clin Periodontol. 2014 Sep;41(9):883-9.

本研究の目的は0.3%クロルヘキシジンを含む新しいエリトリトールパウダーを用いて、残存ポケットに対し繰り返しおこなう歯肉縁下エアーポリッシングを評価することである。
2群、被験者内並行デザインで、12ヶ月の単一施設、検査者盲検、無作為臨床研究であった。
歯周治療メインテナンスの50人が3ヶ月間隔でモニターされた。0、3、6、9ヶ月時点で、>4mmのプロービング深さ(PD)の部位は全て歯肉縁下エアーポリッシング(テスト側)あるいは超音波デブライドメント(コントロール側)を受けた。一次エンドポイントは12ヶ月後PD >4mmの有無とした。
ベースライン時総数6918部位がモニターされ、そのうち457部位が PD >4 mm (range5-9 mm)であった。被験者あたりポケット4>mmの数、PDとプロービング時の出血は12ヶ月後有意に低かった。テスト側とコントロール側間に有意差はなかった。痛み/不快感の感覚に対してエアーポリッシングに有利な有意差があった。ベースラインと12ヶ月間で、6菌種の >1000と>100,000細胞数/mlにおける頻度の差に有意差はなかった。12ヶ月後テスト側はコントロール側に比較して>1000細胞数/mlにおけるAggregatibacter actinomycetemcomitans陽性が有意に低く、細胞数は100,000を越えなかった。
歯肉縁下エアーポリッシングの繰り返しは超音波デブライドメントと同程度に>4mmポケットの数を減少させた。それは安全で痛みのより少ない方法であった。
(エアーポリッシング、臨床研究、メインテナンス、歯肉縁下プラーク除去)
「PD>4mmの部位数を指標にして、縁下のエアーポリッシングでも従来的なデブライドメントとの効果を比較すると、両者同等の効果があるという。
そしてエアーポリッシングの方が、患者の感じる痛みも少ないという。以前におこなわれた同様の研究から今回は用いるパウダーをエリトリトール(粒子平均14ミクロン)に変更している。新しく用いられたエリスリトールは糖アルコールで、食品添加物にも用いられる代
物だ。ビトロの実験からエリスリトールは炭酸水素ナトリウムやグリシンパウダーに比較すると象牙質の損傷度合いが最も低かった。BOPの有無を指標にして、SRPとの比較実験でもその効果は両者変わらなかった。
用いたパウダーにはクロルヘキシンが含有されているのだが、その殺菌的な効果については不明だ。ただ、このクロルヘキシジン添加の本来の目的は治療効果を期待したものではなく、パウダー自体に対する防腐的役割だそうだ。
有害事象はないようだが、気腫のことについては触れられていなかった。」
(平成27年1月17日)


No.338
The effect of the thermal diode laser (wavelength 808-980 nm) in non-surgical periodontaltherapy: a systematic review and meta-analysis.
Slot DE1, Jorritsma KH, Cobb CM, Van der Weijden FA.
J Clin Periodontol. 2014 Jul;41(7):681-92.

歯周治療の初期治療期間において、歯周組織炎症を反映する臨床パラメーターに及ぼす、非外科的歯周デブライドメント(SRP)後におこなうダイオードレーザー(DL)の付加的影響はいかなるものであろうか。
MEDLINE-PubMed、 Cochrane-Central Register of Controlled TrialsとEMBASE databasesが2013年9月まで検索された。プロービングポケット深さ(PPD)と臨床的アタッチメントロス(CAL)が結果因子として選択された。またプラークスコア(PS)、出血スコア(BS)と歯肉指数(GI)が結果測定で考慮された。データ抽出とメタ解析(MA)が必要に応じておこなわれた。
416論文の独立したスクリーニングの結果、9つの適格な論文が選別された。PPD、CALとPSを評価したMAは有意な効果を示さなかった。DLの唯一の有意な好ましい付加的使用は結果のパラメーターGIとBSに対して観察された。
SRPとのDLの付加的利用に関して集合的なエビデンスは、併用治療がSRP単独の成果に相当する効果を提供していることを示した。これはPPDとCALに対してである。DLの付加的な使用を検討しているエビデンスの本体は、PPDとCALにおける変化に対して”中等度”と判定された。BSに関しては結果が少なかったが、DLが好ましいとの有意な効果を示した。しかしながら、この差の臨床的な妥当性については未だ疑問が残る。システマティックレビューは歯周炎患者の歯周治療において、伝統的な機械的手段と併用した、DLによる付加的使用に疑問を投げ掛ける。
(デンタルスケーリング、レーザー、半導体、歯周病、歯周炎、レビュー)
「他にも同じテーマのレビューがあって、PPD(1.70mm vs 1.14mm)、CAL (1.52mm vs 1.34mm)BOP(68% vs 53%) 平均差ではPPD 0.10 mm [p = 0.35, 95% CI (0.11;0.31)]、CALが0.02 mm [p = 0.91, 95% CI (0.39;
0.44)]と報告されている。
アメリカ歯周病学会による、歯周病治療におけるレーザーの効果についてのコメントはというと、歯肉縁下デブライドメントの目的においても、単独あるいはSRPとの併用療法においても、その使用をサポートするエビデンスはごくわずかしかないということだ。このレビューではそのコメントを支持する結果であった。」
(平成27年1月9日)


No.337
Effects of photodynamic therapy on clinical and gingival crevicular fluid inflammatorybiomarkers in chronic periodontitis: a split-mouth randomized clinical trial.
Pourabbas R, Kashefimehr A, Rahmanpour N, Babaloo Z, Kishen A, Tenenbaum HC, Azarpazhooh A.
J Periodontol. 2014 Sep;85(9):1222-9.

通常のスケーリングルートプレーニング(SRP)の補助として、光線力学療法(PDT)が歯周炎の臨床的および生物学的特徴に及ぼす影響を調べる臨床研究は限定的である。
この臨床研究では、SRP単独あるいはSRP+PDTを用いて治療した中程度から重度慢性歯周炎(CP)患者の、臨床パラメーターと歯肉溝滲出液中のサイトカインプロファイルを比較する。
中等度から重度CPに罹患した2本の対側歯を有する22人の患者が選別された。SRP後、被験者の歯はさらなる治療を受けないか、638nmレーザーとトルイジンブルーを使用したPDT単回の適応治療か、に無作為に振り分けられた。プロービング深さの変化を一次結果としたが、プロービング時の出血、臨床的アタッチメントレベル、歯肉退縮、インターロイキン-1β、腫瘍壊死因子(TNF)-α、とマトリックスメタロプロテアーゼ8と9もまたベースライン時と3ヶ月の介入後に評価された。口腔洗口アッセイもまた、術前と治療後3ヶ月後に、多形核白血球(PMNs)の全手ベルを決定するためにおこなわれた。
ベースラインと比較して3ヶ月フォロー時におけるすべての因子が各群内で有意な改善がみられた (P <0.001) 。唯一TNFαがPDT+SRPとSRP群間で有意な改善があった。PMNsのトータルレベルはベースラインレベルと比較して全ての患者で減少した。CP患者において、PDT (638-nmレーザーとトルイジンブルー)単回適応は介入後3ヶ月の臨床パラメーターと炎症マーカーに関して、付加的ないかなる利点も提供しなかった。
(臨床研究、サイトカイン、歯肉溝滲出液、歯周炎光化学療法)
「著者らはこれまで660-690nmレーザーでメチレンブルーを用いたシステムを用いていたらしい。だからよい成績がでなかったわけでもなく、TNF-αで差が出たことを前向きにとらえることなく、これまでのシステマティックレビューと同じ結論を述べている。そう、歯周治療に光線力学的(光殺菌)療法を用いても、臨床的かつ生物学的パラメーターの改善において何ら付加価値効果は得られなかった。ちなみに有害事象もなかったとのこと。
それでもレーザータイプ、パワー、エネルギー、治療回数、光増感剤の種類を変えて、条件が整えば何か良い結果がでるかも、と期待を持たせた締めくくりだ。」
(平成27年1月2日)


No.336
Comparison of glycated hemoglobin levels in individuals without diabetes and with and without periodontitis before and after non-surgical periodontal therapy.
Perayil J, Suresh N, Fenol A, Vyloppillil R, Bhaskar A, Menon S.
J Periodontol. 2014 Dec;85(12):1658-66.

糖尿病に罹患していない人を対象に、歯周病と糖化ヘモグロビン(HbA1c)との関連を調べた研究はごくわずかしかない。この研究の目的は糖尿病に罹患していない被験者において、HbA1cと歯周病の有無との関連を非外科的歯周治療の前後で比較することである。35-65才の糖尿病に罹患していない被験者を対象に比較研究が行われた。A群は歯周炎のない30人、B群は歯周炎患者30人からなる。全ての被験者の肥満度指数、簡略化口腔清掃指数(OHI-S)、歯肉炎指数(GI)、プロービング深さ(PD )、臨床的アタッチメントレベル(CAL)を含む臨床パラメーターとHBA1cレベルが記録された。全ての被験者は非外科的歯周治療(スケーリングとルートプレーニング)を受けた。3ヶ月後全ての被験者は再診査を受けて、臨床パラメーターとHbA1cレベルが評価されてベースライン値と比較した。
ベースライン時 OHI-S、GI、PDとHbA1cはA群とB群との間に有意差があった (P <0.05)。ベースライン時においてあるいは3ヶ月後において、A群には臨床的アタッチメントロスはなかった。3ヶ月後に、B群は全ての臨床パラメーター の改善(P <0.05)とHbA1cレベルが有意に減少を示した(P <0.05)が、臨床パラメーター各値はA群のそれに達することはなかったが。
糖尿病に罹患していない、歯周炎被験者(B群)のHbA1cレベルは、糖尿病のない、あるいは歯周炎のない被験者(A群)の値と同レベルに達することはなかったが、非外科的歯周治療3ヶ月後に有意に減少した。
(糖尿病、炎症、インスリン抵抗性、非外科的歯周デブライドメント、歯周炎、ルートプレーニング)
「歯周病により局所ではTNFα、IL-6,IL-1β、IFN-γなどの炎症メディエーターが過剰に産生されC反応性タンパクなどの急性期タンパクレベルも上昇する。これらのメディエーターは糖や脂質代謝に影響する。例えばTNF-αはインスリンのアンタゴニストであり、IL-6 やIL-1 βもインスリン作用に拮抗的に作用する。CRPレベルの上昇はインスリン抵抗性につながる。IFN-γは膵臓β細胞に対しアポトーシスを誘導する。とまあよくあるイントロ。
歯周組織の感染がDM患者の血糖コントロールに悪影響を及ぼし、歯周治療により血糖コントロールが改善されうるかも知れない。しかし、DMではない被験者の血糖レベルに及ぼす歯周炎の影響を検討した研究はごく少数しかない。ということで本研究の登場だ。
歯周病/歯周組織の炎症とHbA1cレベルの関連がどのようなメカニズムによるものかの詳細は不明である。ヘモグロビンの非酵素的な糖化は炎症では生じず、インスリン抵抗性によって生じる高血糖症の結果と思われる。また低インスリンレベルによって、炎症が生じそして創傷治癒が妨げられる。このことが歯周炎患者でHbA1cとなる理由かもしれない。
確立した糖尿病患者では歯周治療だけではHbA1cレベルを改善させるのは難しいが、糖尿病がない今回の被験者だから歯周治療によってHbA1cレベルを低下させるのが生じやすかったのではないかと考察している。
前回の論文でもそうだったが、歯周治療をおこなうことでHbA1cが下がる、とどうしても言いたいようだ。」
(平成27年1月1日)



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