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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p095(no.436-440)

No.440
Influence of periodontal treatment on subgingival and salivary microbiotas.Belstrøm D, Grande MA, Sembler-Møller ML, Kirkby N, Cotton SL, Paster BJ, Holmstrup P.
J Periodontol. 2018 May;89(5):531-539.


この研究の目的は歯肉縁下細菌叢の変化が唾液中に反映されているかどうか知るために、歯周治療前後の歯肉縁下と唾液の細菌叢を特徴付けて比較することである。我々は特異的な歯周病原菌の唾液レベルは歯周治療の前後で対応する歯肉縁下レベルと関連しているという仮説をテストした。
広汎型慢性歯周炎患者25人がこの研究を遂行した。刺激唾液サンプルと歯肉縁下プラークサンプルがベースライン時、非外科的歯周治療後2,6,12週間後に採取された。歯肉縁下と唾液細菌叢はヒト口腔微生物次世代シーケンシング(HOMINGS)テクニックで処理され、相対存在量を元に特徴付けられた。スピアマンの順位相関係数が歯肉縁下および唾液サンプルにおける歯周病原細菌の相互関係を調べるのに用いられた。
歯周治療は、歯肉縁下プラークサンプル中のPorphyromonasとTreponemaを有意に減少させるとともに、Streptococcus、RothiaとActinomycesの相対存在量を有意に高めた。唾液中の全体の優勢属による相対的存在量は歯周治療の影響を受けなかった。しかしながら、Porphyromonas gingivalis (r = 0.68)、Prevotella intermedia (r = 0.72)、Filifactor alocis (r = 0.58)、Treponema denticola (r = 0.51)、Tannerella forsythia (r = 0.45) とParvimonas micra (r = 0.45)などの特異的な歯周病原細菌の相対存在量に関して、歯周治療の前後で歯肉縁下プラークと唾液サンプル間に正の関連性があった(p < 0.0001)。
歯肉縁下および唾液の歯周病原細菌量は治療の前後で関連していた。それゆえ、この研究からのデータは唾液中に同定される歯周病原細菌が歯肉縁下の細菌叢から溢出していることが示唆された。
(16S rRNA、細菌、微生物学、歯周炎、唾液)
「唾液中の優勢菌種であるstreptococcusとPrevotellaの相対存在量は歯周治療前後において変化を受けなかったのだが、その理由として、歯肉縁下細菌叢よりも他の部位(舌、扁桃、咽頭)からの供給が主であるからと考察している。
歯周病原性細菌について検討すると、ベースライン時から歯周治療後2週後における関連が増加しているので、歯周病原細菌(P.gingivalis、P.intermedia、T.forsythia、T.denticola、F.alocis、P.micra)の唾液レベルが歯肉縁下の変化反映していることが示された。それゆえ、唾液中に存在する歯周病原細菌は歯肉縁下の細菌叢から溢出したものであろう。」
(平成30年9月17日)

No.439
Effect of compliance during periodontal maintenance therapy on levels of bacteria associated with periodontitis: A 6-year prospective study.Costa FO, Vieira TR, Cortelli SC, Cota LOM, Costa JE, Aguiar MCF, Cortelli JR
J Periodontol. 2018 May;89(5):519-530.


 歯周メインテナンス治療(PMT)期間の定期的なコンプライアンスはアクティブな歯周治療(APT)の後に得られた歯周臨床パラメーターの安定を維持することが立証されている。しかしながら、PMT期間中のコンプライアンスは縁下細菌レベルと関連はしていなかった。それゆえ、この研究は6年以上経過PMT患者を追跡し、コンプライアンスの歯周病関連細菌レベルと、細菌の歯周組織状態との関連に及ぼす影響を縦断的に評価した。
 PMT患者212人の6年経過前向きコホート研究から、91人が適格であると決定された。この全てから、28人の定期的な遵守者(RC)が無作為に選別され、28人の不規則な遵守者(IC)と年齢と性別を適合させた。完全な歯周組織診査と細菌学的サンプルが5回得られた:T1(APT以前)、T2(APT後)、T3(2年)、T4(4年)とT5(6年)である。総細菌数とActinomyces naeslundii、Porphyromonas gingivalis、Tannerella forsythiaとTreponema denticolaレベルが定量的 ポリメラーゼ連鎖反応により評価された。
 RCはICと比較したとき、歯の喪失が少なく、そして時間経過とともに臨床的および細菌学的状態が良くなっていた。ICは総菌数がより高く、T. denticolaレベルも高かった。さらに、IC内では、総菌数はプラーク指数とプロービング時の出血と正の相関があったのに対し、RC内ではA. naeslundii、T. forsythiaとT. denticolaレベルはアタッチメントロス(4から5mm)と負の相関があった。
 コンプライアンスは歯肉縁下の細菌に正の影響を与え、歯周組織の臨床状態に寄与していた。PMT期間中の定期的な受診は6年の期間にわたり、APTで提供された細菌学的な恩恵を持続させた。
(コンプライアンス、メインテナンス、細菌学、歯周炎)
「RC群とIC群の受診回数はそれぞれ12.5±1.1回と4.9±0.8回であった。両群間でメインテナンス期間中アタッチメントレベルに差は無かったが、プラーク指数、ポケットデプス4-5mmの割合、5mmを越えるポケットデプスとBOPはRC群の方が改善がみられていた。そしてIC群は歯の喪失も有意に多く見られた。
 メインテナンス期間中のBOP陰性は歯周組織安定の良い予知因子として知られる。IC群と比較して、RC群はP.gingivalisやT. denticolaなど、BOPや歯周病の活性と関連している種のレベルが低かった。またT.denticola数は歯周病進行の可能性を、特にIC群で、増加させた。」
(平成30年9月3日)

No.438
Ageing effects on humoral immune responses in chronic periodontitis.Ebersole JL, Al-Sabbagh M, Gonzalez OA, Dawson DR 3rd.
J Clin Periodontol. 2018 Jun;45(6):680-692.


 歯周病は年齢とともに増加する全世界的に顕著な感染症である。
 この報告は歯周病の獲得免疫反応に焦点をあてた。実験的モデルや歯周炎と診断されたヒトは特定の口腔細菌に対する抗原的な特異性を示す一方で、(i)疾患の病状発現に先立つ数十年の間に、口腔に慢性的に定着している細菌に対する獲得免疫に、加齢がどのように影響しているか、(ii)疾患の悪化期間に細菌の生態系内で出現する病原菌と、免疫反応の大きさと特異性がどのように相互作用しているのか、の理解は限定的である。
 病原性および片利共生口腔細菌と集団に対する血清抗体は21歳から74歳の集団で測定され、歯周組織の臨床状態、喫煙および性別を基に階層化された。
臨床パラメーターは年齢に関連して、健康、歯肉炎、あるいは歯周炎内で有意な差はなかった。口腔細菌と片利共生細菌に対する抗体は、歯周炎患者に顕著な年齢の相互関係はなく、臨床的な分類のそれぞれで、異なる年齢集団で類似していた。
 口腔に慢性的に定着する口腔細菌に対する獲得免疫は概して年齢の影響を受けないように思えるが、病気の程度とは明らかに関連している。
(加齢、抗体、口腔細菌、歯周炎)
「加齢は歯周病の発生と重症化に何らかの影響を与えているとおもわれるが、今回の検討から少なくとも、口腔細菌に対する抗体レベルに年齢は影響していないように思えた。結論はこれが全てである。
 35歳以下の若い集団では、歯周病の重度群で抗体レベルと歯周ポケットの深い部位率とに関連が見られたのに、50歳を越える集団では逆に負の関連がみられていた。
喫煙者では非喫煙者に比較して歯周病原性菌であるPgやTdに対する抗体レベルが高かったが、年齢による差は無かった。そもそも喫煙者では歯周病がより重度であった、などの結果もあるが、解釈がなかなか難しい。」
(平成30年7月29日)

No.437
Moderate- to long-term therapeutic outcomes of treated aggressive periodontitis patients without regular supportive care.
Goh V, Nihalani D, Yeung KWS, Corbet EF, Leung WK.
J Periodontal Res. 2018 Jun;53(3):324-333.


 治療を受けた侵襲性歯周炎(AgP)患者の悪化リスクは未だはっきりしないところがある。後ろ向きコホート研究が7-26年の歯周組織成績と若い進行した歯周炎患者の口腔関連QOL(OHRQoL)を調べた。
 89人の、以前に治療を受けたAgP患者を再診査した。治療中断前と再診査時の臨床的およびレントゲン的パラメーターが比較された。再診査時のOHRQoLは簡易版Oral Health Impact Profile (OHIP-14S)で評価された。
 被験者の誰一人として、提案された歯周治療とメインテナンスを遵守していなかった。再診査時プロービングポケットデプス(PPD) ≥6 mmの平均部位率は4.5 ± 5.9%であった。経時的に総数182本が失われていた。歯の喪失率は0.14/患者/年であった。調査で得られた好ましい治療成績の被験者68人の中で、再診査時PPD ≥6 mmの部位の割合が高いこと、隣接面のレントゲン的な骨吸収が著しい者は再診査時の喫煙状態と関連があった。再診査時20歯未満のAgP患者は20本以上歯のある者よりOHRQoLが悪かった。全顎の平均PPDが深い患者もまたOHRQoLが低いと報告された。
 喫煙をする、そして適切なサポーティブケアを怠るAgP患者には歯周病進行リスクがある。相当な歯の喪失と全顎の平均PPDが深くなると、この集団では低OHRQoLとなる。
(侵襲性歯周炎、口腔健康、QOL、歯の喪失)
「メインテナンスを含めた積極的な継続治療をしなかったAgPの人は、もともと6mm以上のポケットなんてなかったのに7-26年後の再診査で4.5%生じていた。過去の報告では5-12年で3.1%だから、今回はちょっと高い。
 LagPは病気の進行が遅いと言われている。LgP47人のうち13人が再診査の時には6mm以上のPPDがなかった。GAgPではそれが42人中6人だった。そしてLgP47人の4人がGAgPに移行していた。
 今回の被験者では、上顎の組織破壊が、左右差が無くより進行的であった。ただ下顎は右下の方がより悪化していた。これは利き手の問題かもしれないとのこと。」
(平成30年7月26日)

No.436
Influence of tongue brushing and scraping on the oral microflora of periodontitis patients
.Laleman I, Koop R, Teughels W, Dekeyser C, Quirynen M.
J Periodontal Res. 2018 Feb;53(1):73-79.

歯周炎患者における舌スクレーパー(TS)と舌ブラシ(TB)による舌清掃の影響を調べることが目的である。
歯周炎患者において、舌は歯周組織の細菌叢(再)形成に対する貯蔵所となりうる。今日まで歯周炎患者の舌クリーニングが舌苔に及ぼすえいきょうについては知られていない。
18人の全身的に健康な、舌苔を有する未治療の中等度から重度歯周炎患者が舌のクリーニングのためにTSあるいはTBの使用を無作為に割り当てられた。唾液と舌背の細菌量、舌苔量と舌クリーニングについての患者の感覚がベースライン時と2週間後に調べられた。
TBあるいはTSでの舌クリーニングの2週間は、舌苔は有意に減少したにもかかわらず、唾液中においても舌苔においても細菌学的な菌数には影響しなかった。患者自身は舌クリーニングの2週間後に口臭や味覚に差を経験しなかった。しかしながら、彼らは、ベースライン時と比較して研究終了時に舌がよりクリーンになったと感じてはいた。TSとTBの使用間で差はみられなかった。
歯周炎患者において、舌クリーニングは唾液や舌背中の細菌量に影響を与えなかった。
(細菌学、歯周炎、舌クリーニング、舌苔)
「口臭症のある患者で舌クリーニングは口臭や目に見える舌苔の量を減少させる方法として確立されている。機械的な舌苔のクリーニングは舌苔の基質は減少させても菌数は減少させないことが過去の報告でも示されている。
舌表面は複雑で、溝や 凹窩があり、菌にとっては付着しやすく潜みやすい、理想的なニッチな場所になっている。そのために舌のクリーニング行為や唾液の洗浄作用によっても除去されにくくなっている。
今回の対象患者は歯周炎患者で、そもそも細菌量が多い、その上に未治療患者でもある。歯も細菌の貯蔵庫になっている。これらも舌クリーニングの効果に差が無かったことに影響している可能性がある。
舌クリーニングを行っても菌量がかわらず、細菌の貯蔵庫としての役割を維持しているので、1/4顎や1/6顎ずつルートプレーニングを行っていく治療の際に、舌クリーニングは菌の供給源としての舌から他の部位への菌移動を抑制することはできない。」
(平成30年6月29日)


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