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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介007(no.027-029)

No.029
The role of obesity as a modifying factor in patients undergoing non-surgical periodontal therapy.
Zuza EP, Barroso EM, Carrareto AL, Pires JR, Carlos IZ, Theodoro LH, Toledo BE.
J Periodontol. 2011 May;82(5):676-82.


過去の研究で、肥満と歯周炎との関連が示され、この関連がサイトカインを介していると考えられている。この研究は、非外科的歯周治療を受けた被験者の、歯周組織の臨床パラメーター、そして循環血液中の亢炎症サイトカインレベルに対して、修飾因子として肥満の影響を評価することである。27人の肥満被験者と25人の正常体重の被験者がこの研究のために登録された。両群とも広汎型の慢性歯周炎患者であった。非外科的治療の前、および3ヶ月後に評価された歯周組織のパラメーターは。プラーク指数、歯肉出血指数、プロービング時出血、プロービング深さ、そして臨床的アタッチメントレベルである。加えて、被験者は人体測定と、空腹時血糖、糖化ヘモグロビン、インターロイキン-1β、インターロイキン-6、腫瘍壊死因子-α、とインターフェロンγの血清中の解析がなされた。歯周治療をおこなうことで、両群ともにプラーク指数、歯肉出血指数、プロービング時出血、4-6mmのプロービング深さ、7mm以上のプロービング深さに有意な減少がみられた(p?0.05)。循環亢炎症性サイトカインは歯周治療後に肥満および正常体重被験者ともに有意に減少した(p?0.05)。しかしながら、インターロイキン-6と腫瘍壊死因子-αレベルは治療3ヶ月後も肥満被験者では高いレベルを維持していた(p?0.05)。肥満は、歯周病の臨床的な治療による改善や歯周治療後の循環亢炎症性サイトカインの減少を妨げるネガティブな要因にはならないと考えられる。。

(私の感想:メタボと歯周病との関連がちょっとしたトレンディのようだ。脂肪組織からは、TNFαやIL-6などの亢炎症性のサイトカインが大量に産生されるようで、それが歯周病との関連の媒介となっているのでは、という発想のようだ。この研究では積極的に関連を示すデータはでなかった。要するに、通常の歯周治療をすれば、肥満でも治るし、肥満である限り、TNFαやIL-6の数値は高いままだったのだ。
しかし著者らは今回の調査は肥満度の軽度から中等度を対象としていて、もっとすごい肥満の人ではどうかを検討する必要がある、とも述べている。
他にもちらほろ論文があるので、このテーマでの研究はしばらく続くのであろう。)
歯周病、慢性歯周炎、臨床試験、サイトカイン、肥満、歯周病治療
(平成23年7月17日追記)


No.028
Multi-centre, randomized clinical trial on the efficacy and safety of recombinant human platelet-derived growth factor with β-tricalcium phosphate in human intra-osseous periodontal defects.
Jayakumar A, Rajababu P, Rohini S, Butchibabu K, Naveen A, Reddy PK, Vidyasagar S, Satyanarayana D, Pavan Kumar S.
J Clin Periodontol. 2011 Feb;38(2):163-72.


この研究の目的は、歯周組織欠損を有する患者に対するリコンビナントヒト血小板由来増殖因子(rhPDGF)-BBとβリン酸三カルシウム(βTCP)製剤の安全性と有効性を評価し、βTCP単独使用との比較することである。
この二重盲検法、前向き、平行群間比較、実薬対照、ランダム化、多施設臨床試験では、骨欠損を有する54人がrhPDGF-BB+βTCPあるいはβTCPに無作為に割り当てられた。歯周外科処置に続いて、それぞれの材料が移植が施された。治療の一次および二次の評価項目が3ヶ月ならびに6ヶ月後に評価された。
ベースラインを基準にして6ヶ月後のrhPDGF-BB+βTCP投与群では、結果の評価項目の中で骨増殖(P<0.01)と骨充填率(P,0.004)がβTCP群に比較して有意に高い数値を示した。同様に、処置群ではβTCP単独群と比較して、0-6ヶ月で臨床的アタッチメントレベル(CAL)曲線下の面積は有意に広く(p<0.01)、βTCP単独群に比較して、3ヶ月後および6ヶ月後のCAL獲得とプロービング深さのより大きな減少が見られた。有害事象の発生は両群で同程度である、どの患者においても重篤な有害事象は見られなかった。rhPDGF-BB+βTCPは安全で歯周組織欠損の治療に有効である。この製剤は骨形成と軟組織治癒を促進する。

(私の感想:歯周病で失われた骨が再生されるのであれば、それは理想的な治癒形態である。再生治療はそんな夢をかなえてくれる治療方法の一つといえよう。
この研究は、サイトカインの一つPDGFにβTCPを組み合わせた製剤が、歯周病で失われた骨を再生させるゾと、示した論文だ。確かに有効で、しかも骨の欠損の形態が、1、2、3壁性のいずれも対象として含んでいる。どの骨欠損形態でも同じように有効なのか記載がないので不明だが、骨の再生が起こりにくい1壁性でも有効なら、優秀。たださすがに分岐部病変3度の症例はなく、1度ないしは2度しか含まれていない。
ただ冷や水を浴びせるようだが、このPDGFというサイトカインでいったいどれほどの骨増殖が認められたかというと、6ヶ月後でコントロールに比較して平均0.9mmである。0.9 mmでも骨が増せば、骨を再生させる凄い薬なのである。歯の根っこって、10数ミリ程度の世界である。だから0.9mmとはいえ、骨ができたならそれなりの量なのだ。歯周病で場合によっては骨は簡単に溶けちゃうけど、骨ができるのはなかなかなのだ。でもやっぱり、「薬で0.9mm骨ができます」、と言われると、なんか寂しいかも。
このrhPDGF-BB+βTCP組み合わせ製剤はアメリカではGEM21S(osteohealth)という商品名で数年前から販売されている。残念ながら日本では認可されていない。
日本では塩基性線維芽細胞増殖因子b-FGF、FGF-2を用いた研究がなされ、動物実験だけでなく、ヒトでも有効性が確認され、歯周病治療薬として製品化に向けて努力がなされている。大学に在籍中、とある製薬会社から、歯周病の再生治療としてこのサイトカインを研究して欲しい、という話が研究室に持ち込まれてからもう15年以上になったであろうか。早く世に出て欲しいものだ。)
歯周病、歯周病治療、β-TCP、歯周病骨欠損、platelet-derived growth factor
(平成23年7月12日追記)


No.027
Patient-related risk factors for tooth loss in aggressive periodontitis after active periodontal therapy.
Baumer A, El Sayed N, Kim TS, Reitmeir P, Eickholz P, Pretzl B.
J Clin Periodontol. 2011 Apr;38(4):347-54.


この研究の目的は、侵襲性歯周炎(AgP)に罹患した患者について初期治療後10.5年経過時に、歯の喪失や歯周炎の再発に寄与している、患者に依存したリスク因子を評価することである。174人の患者のうち84人が被験者となった。再評価時には患者の履歴、臨床検査、とインターロイキン(IL)-1遺伝子多型のための検査がなされた。メインテナンスの規則性や最初の診断のために患者の病歴が調べられた。統計解析はポアソンおよびロジスティック回帰分析でおこなわれた。
再評価に応じた人の割合は48%であった。84人中13人は局所型の侵襲性歯周炎で、68人が女性、29人が喫煙者であった。2154本中113本が治療後に抜歯となった(1.34本/人)。年齢 (p=0.0018), IL-1複合遺伝子の欠如 (p=0.0091)と学歴 (p=0.0085)が歯の喪失に対する統計学的に有意なリスク因子と同定された。20人の患者は再評価時に歯周病が再発していた。喫煙 (p=0.0034)と平均歯肉出血指数 (GBI) (p=0.0239)が歯周炎の再発に有意に寄与していた。定期的にサポーティブペリオドンティブセラピー(SPT)を受けていた患者で再発のみられた患者はいなかった。年齢、IL-1遺伝子多型の欠如そして社会的地位の低さという因子は、歯の喪失におけるリスク因子であった。定期的なSPTが再発防止因子として働いているのに対し、喫煙と高い平均GBIは歯周炎再発のリスク増加と関連していた。

(私の感想:侵襲性歯周炎は急速進行性歯周炎などと呼ばれ、かつて若年性歯周炎と分類されていたタイプの歯周炎に概念上は相当する。医学的な疾患も認めないのに、比較的若くから歯周炎の進行している人がいるのは、臨床的にはかなり明白なのだが、実は定義が難しい。この論文では、レントゲン的に隣接面の骨吸収が50%以上ある歯が2本以上、医学的な既往がなく、初診時35歳以下、あるいは40歳未満で過去のレントゲン写真と比較して急速な骨吸収が確認される40歳未満、などの基準を満たす人を侵襲性歯周炎とした、と述べている。通常は40-50代でみられるような所見が、30代以下ですでにみられるような人が侵襲性歯周炎といえる。
通常の成人性の慢性歯周炎と比較して、歯の喪失にかかわるリスク因子が異なるか、というと考察では、いや変わらんと述べている。成人性歯周炎で言われている喫煙もリスク比が高かったが、今回の研究では統計学的な有意差はでなかったようだ。
積極的な歯周病治療が終わってから、SPT(定期的に検査、歯石除去クリーニングを受ける治療)を定期的におこなっていると、歯周病の再発が防げる、という結果は、この研究に限らず数多くの報告にみられる。この研究では定期的な受診を継続した人では全く歯周病の再発が起こっていなかった(ただ再発の定義が、再評価時点で全歯の30%以上で5mm以上の歯周ポケットが見られた場合、としているので、自分の感覚的では甘い基準に思えた)。定期的な受診は5~17年(平均10.5年)で、年に最低2回は受診したようだ。何年にもわたって定期的に受診する、粘り強い意識のある人だから、きっと病気を治したいという意識が高く、頑張って一生懸命磨いてもいるのだろう。患者さんのブラッシングでどれぐらい磨けているかの成果は、PCRという指標をもちいる。解析では、平均PCRのオッズ比はかなり高かった(有意差のあった平均GBIが31.1であったのに対しPCRは63.81)のだが、バラツキが大きかったためであろう、有意差はでていない。ただ継続して定期的に通えた人の割合は少なく28.6%である。歯周病再発を防ごうとすると、ドクター、歯科衛生士による治療だけでなく、禁煙、定期受診やブラッシングなど患者さん自身の努力も相当に必要です。それぐらい歯周病はやっかいな病気ということか。)

歯周病、サポーティブペリオドンタルセラピー、リスク因子、喫煙、侵襲性歯周炎
(平成23年7月10日追記)



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