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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p012(no.040-041)

No.041
Effect of non-surgical treatment on chronic and aggressive periodontitis: clinical, immunologic, and microbiologic findings.
Rosalem W, Rescala B, Teles RP, Fischer RG, Gustafsson A, Figueredo CM.
J Periodontol. 2011 Jul;82(7):979-89. Epub 2011 Feb 10.


この研究の目的は、広汎型慢性歯周炎(GCP)と広汎型侵襲性歯周炎(GAgP)に罹患した患者に対して非外科的機械的治療を行い、その臨床的、細菌学的、免疫学的反応の差異を調べることである。
20人のGCPと14人のGAgP患者が評価の対象となった。臨床データ、歯肉溝浸出液(GCF)、と歯肉縁下のプラークサンプルがベースライン時、非外科的歯周治療の後3ヶ月で収集された。40種の歯肉縁下細菌レベルはチェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーション法を用いて測定された。GCFインターロイキン(IL)-1β、-4、と-8、そしてインターフェロン-γ(IFN-γ)はマルチプレックスビーズベースイムノアッセイ、そしてエラスターゼ活性はエンザイムアッセイを用いて測定された。経時的な変化の有意差はウイルコクスン順位和検定で検討された。治療後における臨床的、細菌学的、免疫学的パラメーターの変化が、マンホイットニーU検定を用いて群間比較がなされた。
歯周治療後、両群で臨床的パラメーターの有意な改善を認めた。またGAgP群からの浅いそして深い部位で、GCP群では深い部位でエラスターゼ活性の有意な減少を認めた。細菌学的な検索結果からは、両群ともにオレンジおよびレッドコンプレックスの有意な減少とアクチノマイセス種の比率の増加がみられた。治療後臨床的、細菌学的、免疫学的反応を両群間で比較すると、わずかなマイナーな差異しか認められなかった。
この研究では、非外科的治療に対する反応において、GCPとGAgPの重症症例間に有意な差を見いだすことはできなかった。
(私の感想:この論文の著者らは以前の研究で、GCPとGAgPの間では免疫学的あるいは細菌学的なプロファイルに差を見いだすことはできなかった、と報告している。若くして発症し、急速に進行すると考えられているGAgPが、通常の慢性歯周炎より何故早期に発症するのかの詳細なメカニズムは解明されていない。そしてGCPにせよGAgPにせよ病気が進行してしまうと、同じような病状を呈し、少なくとも臨床的に両者に特徴的な差異は見いだしにくいというのが臨床家の実感である(差があるのは年齢、そしてGAgPの方がプラークコントロールのいい場合が多いような気もするが)。このグループの以前研究(J Periodontol. 2010 Sep;81(9):1308-16.)はその実感を細菌学的、免疫学的な側面から裏付けるようなデータであった。そして今回の論文はその続報というべきものである。
両者を非外科的に処置した場合に、治療の効果に何か差があるか?結果は、殆んど変わらないということだ。細菌学的にも、生体の応答を調べるための免疫学的な検索でも著しい差を見いだせていない。診断名が違っても両者は結局同じ範疇のものなのであろうか。
歯周病といえば、中年以降の病気である。若い人に歯周病の人がいないか、いや若くても歯周病の人はいる。古い教科書には歯周症(periodontosis)と記載され、歯垢が少ないのに若いひとに生じる歯周病、みたいな書き方をされていた。その後若年性歯周炎などと呼ばれ、同じ概念の歯周病を今は侵襲性歯周炎と分類する。比較的若く発症して急速に進行する。臨床家にとっても歯周病・歯周病治療の研究家にとっても、大いなる興味の対象なのだ。そんな歯周病が生じるメカニズムがあるのだろうが、残念ながら前述したようにすっきりとは解明されていない。)

侵襲性歯周炎、慢性歯周炎、サイトカイン、病因
(平成23年9月17日追記)


コーヒーブレイク


この秋開催される日本歯周病学会学術大会のプログラムが送られてきた。「連携医療における歯周病治療」というテーマで下関でおこなわれる。特別講演では村上先生が特別講演(再生医療の最前線:歯周治療における細胞治療の標準化にむけて)で、北村先生がランチョンセミナー(歯周病と全身疾患の相互関係)で講演をされる。
村上先生は一番大きいA会場だから入れないことはないが、北村先生の講演はチケットを手に入れないといけないので聞けるかどうか。
楽しみにしよう。


No.040
Chronic periodontitis and C-reactive protein levels.
Gomes-Filho IS, Freitas Coelho JM, da Cruz SS, Passos JS, Teixeira de Freitas CO, Aragao Farias NS, Amorim da Silva R, Silva Pereira MN, Lima TL, Barreto ML.
J Periodontol. 2011 Jul;82(7):969-78.


この研究は、心血管疾患に罹患したあるいは罹患していない人において、関連変数を考慮することにより、慢性歯周炎とC反応性蛋白(CRP)間の関連を解析することである。
男女(40才以上)359人が評価の対象となった。このうち144人の被験者が急性心筋梗塞の初発のために入院していた。80人の被験者が急性心筋梗塞以外の理由で入院していた。135人の被験者はコミュニティに住んでいた。人工統計学的そしてライフスタイルの特徴を得るために質問票が適用された。全ての臨床歯周組織検査と身体計測評価がおこなわれた。感染や炎症を示唆する状態を調べるために、CRPレベル、血清グルコースレベル、脂質プロファイル、そして血液検査がおこなわれた。CRP評価はネフェロメトリーを用いて行われた。各被験者は同時に4mm以上のプロービング深さ、臨床的アタッチメントロス3mm以上そしてプロービング時の出血が1箇所以上有する少なくとも4歯を示す場合に歯周病とした。記述的分析とロジスティック解析方法が用いられた。
慢性歯周炎群では、平均CRPレベルは慢性歯周炎を有しない群のそれと比較して高かった(2.6 ± 2.6 mg/L 対 1.78 ± 2.7 mg/L)。最終モデルから、年齢、学歴、性、喫煙、高濃度リポ蛋白コレステロール、そして糖尿病の効果を考慮して慢性歯周炎被験者は高いCRPレベルを示す傾向があった。
この研究から、幾つかの交絡因子に対してコントロールした後であっても、慢性歯周炎は血清CRPレベルの上昇と関連があった。


(私の感想:C反応性蛋白(CRP)といえば血液検査でもよく出てくる検査項目で、「炎」などと書かれて分類分けされている。炎症急性期に上昇する代表的なマーカーである。この論文では、歯周炎でもこのCRPが上昇することを示している。歯周病も炎症だから炎症マーカーCRPが上昇するのは当然といえばそうなのだが、高感度で検出される程度だ。
CRPはまた心血管病変のリスクマーカーとしても注目されている。それなので、歯周炎→CRP上昇→心血管病変という関連があるのではないかと著者らは推測しての研究である。しかし、今回の研究では心血管系病変との関連が示唆されたが、十分な根拠がえられたわけではなく、継続したモニタリングの必要性を述べている。
歯周病学会のペリオドンタルメディシン委員会からの報告書を見ると、歯周病重症度別診断基準のバイオマーカーとして高感度CRPをあげている。ここでは1020ng/ml以上を炎症度重度、440ng/ml以上を中等度、それ以下を軽度と定義づけて、分類法の提案をおこなっている(人種によって変わるであろうから論文にある数値と比較はできない)。全身疾患と歯周病との関連を検討する上で、現在CRPは有用なマーカーとして注目されている。


C反応性蛋白、CRP,炎症、心筋梗塞、歯周病
(平成23年9月11日追記)



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