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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p013(no.042-043)

No.043
Effect of environmental tobacco smoke from smoker parents on gingival pigmentation in children and young adults: a cross-sectional study.
Sridharan S, Ganiger K, Satyanarayana A, Rahul A, Shetty S.
J Periodontol. 2011 Jul;82(7):956-62. Epub 2010 Dec 13.


間接吸煙(ETS)に暴露された非喫煙者は、喫煙者が吸引するようにニコチンや他の化合物を吸収し、そして、ETSへの暴露が増加すると、体内有害物質のレベルも増加する。ETSの悪影響は歯肉の着色から肺ガンや致死にまで及ぶ。ETS暴露は定量的に測定することが困難で、主には配偶者の喫煙歴の自己申告評価によってその暴露量を近似してきた。しかしながら、非喫煙者での歯肉着色の文献は乏しく、議論の余地があるのが現状である。我々は、子供や青少年における歯肉着色に対する、喫煙両親からのETSの影響について評価し、被験者の尿中コチニンレベルを検索することを目的とした。
少なくとも片親が喫煙者である、153人の非喫煙者がインド バンガロールBangalore Institute of Dental Sciences and Postgraduate Research Center 歯周治療外来から選別された。これら被験者は年齢によって3群に分けられ、両親の喫煙履歴が被験者と両親とに対するインタビューで確認された。被験者の歯肉着色の程度は歯肉着色指数と標準化したデジタル口腔内写真を使用して評価した。評価者間の一致度はκ係数で、統計解析はカイ二乗とフィッシャーの正確確率検定を用いた。
受動喫煙者の歯肉色素沈着頻度は統計学的に有意であり(P <0.05)。グループ3(19から24歳)で最も高く、3群全てで尿中コチニンの増加が観測された。
この研究から、ETSが歯肉メラニン沈着に影響していることが示された。

(私の感想など:受動喫煙による影響が指摘されて久しい。この論文では、受動喫煙の影響を歯茎への色素沈着に注目して調べている。受動喫煙の期間と歯茎の色素沈着の程度とは関連がみられている。日本の研究では、歯茎に色素沈着のある子供の両親が喫煙習慣を持つ割合は70-71%と、歯茎の色素沈着がみられない子供の両親の喫煙率35%より高い結果が報告されている。
タバコの成分ニコチンやベンツピレンが色素沈着の原因となるメラノサイトへ影響するようだ。受動喫煙によるタバコ成分のメラノサイトへの経路としては、口腔粘膜と血流が考えられるが、間接喫煙はその殆どが鼻腔を通して吸引されるようで、粘膜を介してよりも血行性の関与が強いようだ。
色素沈着だけではなくタバコの害は色んなところで色んな分野で言われてるので今更だが、本人にも周囲にも悪影響があるので、まあ禁煙した方がいいですよね。)
メラニン、ニコチン、タバコ煙害、尿検査

(平成23年9月25日追記)


コーヒーブレイク


p010 No.037でVan Dyke先生の論文を紹介した。そのVan Dyke先生が歯周病学会で講演をしておられた。resolvinE1が直接的にはP.gingivalisの抗菌作用はないが、歯周ポケット内のPgを抑制するようなことを話ししてはったので、そのうち論文もでてくるのだろう。
また女子医大の先生が再生医療の話で、患者さんから採取した組織からの細胞は、高齢だからといって、増殖が悪いというわけではない、、エネルギッシュな人はよく増えるなんて話してました。そして喫煙の既往歴のある人の増殖は悪いと言ってましたねえ。タバコ吸ってる人はやっぱ禁煙しなきゃ。

No.042
Association between calcium channel blockers and gingival hyperplasia.
Kaur G, Verhamme KM, Dieleman JP, Vanrolleghem A, van Soest EM, Stricker BH, Sturkenboom MC.
J Clin Periodontol. 2010 Jul;37(7):625-30.


この研究の目的は、歯肉増殖リスクに及ぼすカルシウム拮抗剤(CCBs)の濃度およびタイプの影響を検討し、その関連を定量化することである。
この研究はオランダにおけるIntegrated Primary Care Information Projectでおこなわれた。CCBsあるいはレニンーアンジオテンシン系(RAS)に関わる薬剤を新規に服用する全ての被験者の、コホートによるネスティッドケースコントロール研究がデザインされた。症例群は歯肉増殖と診断された全ての個人であった。コントロールは年齢、性と指標データをマッチさせた。
研究集団内で、歯肉増殖として103症例が同定され、7677がコントロールとしてマッチした。歯肉増殖のリスクは、RAS薬剤使用者でのリスクよりもCCBsの使用者で高かった(調整オッズ比 (OR(adj)) 2.2, 95%信頼区間(95% CI): 1.4-3.4)、特にdihydropyridines (OR(adj) 2.1, 95% CI: 1.3-3.5) と benzothiazepine derivatives (OR(adj) 2.9, 95% CI: 1.3-6.5) であった。このリスクは、推奨される一日の濃度を越えて使用している患者(OR(adj) 3.0, 95% CI: 1.6-5.5) と持続的使用が1ヶ月以内であるとき(OR(adj) 5.2, 95% CI: 2.1-12.6)に増加していた。
この研究から、RAS薬剤の使用者においてよりもCCBs使用者は2倍の歯肉増殖のリスクがあることが示された。この関連は濃度依存的で、ジヒドロピジン系とベンゾチアゼピン系で最も強かった。
(私の感想:一般にはあまり知られていないが、ある種の薬剤の副作用として歯茎が腫れるという現象がある。この研究の対象として取り上げているのは、降圧剤、冠動脈拡張剤として知られるカルシウム拮抗剤である。カルシウム拮抗剤は英語で表記するとcalcium channel blockers(CCBs)であり、その表現の示す通りその作用機序はカルシウムチャンネル阻害剤である。歯周病を気にするような年代の人が服用していることは多い。カルシウム拮抗剤は、商品名でいうとノルバスク、アムロジン、アダラートなどが有名である。実は私も飲んでいる。数年前検査入院した時、薬剤部から薬剤師さんがきてお薬の説明をしてくれた。最後に「何か質問はありますか?」と聞かれたので、意地悪く「副作用にはどんなことがありますか」と聞いてみた。すると、一瞬間をおいて「ありません」と回答された。薬だから副作用が無いなんてあれへんやろう、という意味と歯科では超有名な副作用「歯肉増殖」も医科では知られていないんだなあ、という両方の意味で、苦笑いした記憶がある。
薬物性歯肉増殖症の原因薬剤のひとつにカルシウム拮抗剤があるということを知らなければ、歯学部の学生が歯周病学の試験に通る可能性は低いであろうとまで思うが、一般の人々だけでなく、この薬剤を処方する医科分野でも薬剤による歯肉増殖にまではあまり気にしていないように思う(まあそらそうかな)。
人種差はあると思うが、レニンーアンジオテンシン系関連薬剤よりはカルシウム拮抗薬の方が歯肉増殖のリスクは高いようである。カルシウム拮抗剤の方が使用者は多いと聞くが最近はレニンーアンジオテンシン系関連薬剤が処方されることが多くなってきているようだ。
カルシウム拮抗剤は歯肉線維芽細胞のコラゲナーゼ(歯茎の線維成分を分解する酵素)産生に影響し、これを抑制するために歯肉が肥大するとのメカニズムが考えられている。)
カルシウム拮抗剤、歯肉増殖、歯肉肥大
(平成23年9月18日追記)




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