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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p023(no.076-080)

No.080
Tooth loss in periodontally treated patients: a long-term study of periodontal disease and root caries.
Ravald N, Johansson CS.
J Clin Periodontol. 2012 Jan;39(1):73-9.


この研究の目的はアクティブな歯周治療の後11-14年の間で歯周組織状態、根面カリエス、喪失歯の数、喪失歯の原因を研究することである。
64人の患者がフォローアップ研究に参加した。歯牙喪失の理由が過去の記録、レントゲンと臨床写真から同定された。歯の喪失に寄与する因子を同定するために、マルチレベルロジスティック回帰分析が用いられた。
喪失歯数は211であった。その主な理由は歯周病であった(n=153)。根面カリエスと歯内疾患による理由では、それぞれ28と17本の歯が失われた。13本は他の理由であった。ベースライン時に歯の本数(p=0.05)とプロービング深さ、4-6mmの有病率、メインテナンス期間時の喫煙(p = 0.01) と歯科衛生士への訪問数(p = 0.03)は、歯の喪失を説明できる変数として 有意に寄与した。
歯周病専門医で治療を受けた患者は一般開業医や歯科衛生士でメインテナンス治療を受けていたにもかかわらず、歯を失うことになった。一番の歯の喪失理由は歯周病であった。歯の喪失は非喫煙者よりも喫煙者の中で有意に罹患頻度が高かった。歯に関連したリスク因子は、喫煙、残存歯の少なさ、と歯周ポケットが4-6mmの歯であった。

(私の感想など:この論文のタイトルを見たとき、最初何が言いたい論文なのかわからなかった。
これは歯周病専門医の嘆きの論文である。歯周病専門医がアクティブな治療をおこない、メインテナンスを一般開業医や歯科衛生士がおこなっている。ところが11-14年後の状態を調べてみると、たくさんの歯が失われているではないか(ベースライン時23.4本だったのに20.8本だよ。しかもその原因のメインは歯周病)。せっかく歯周病専門医が治療をおこなったのに、一般開業医や歯科衛生士がおこなうメインテナンスでは予後が良くないじゃないかという、嘆きである。確かに、プラークコントロールは最初が23%だったのに、メインテナンス時には39%と悪化している。BoPも17から21%へ。何やってるんだ、というような声が聞こえてきそうだ。おかしいのは歯科衛生士への受診回数と歯の喪失とに関連がみられることだ。歯科衛生士が診る回数が多い人ほど歯の喪失本数が増える!?もちろんこれは病状が悪いので、歯科衛生士も頻度多く受診させているのだろう。
最後にこの論文は、歯科衛生士に対して、可能なら歯周病専門医と密にコンタクトすべきだと、苦言を呈している。)

抜歯、歯周病、根面カリエス、喫煙

(平成24年2月7日)


No.079
Peri-implant disease in subjects with and without preventive maintenance: a 5-year follow-up.
Costa FO, Takenaka-Martinez S, Cota LO, Ferreira SD, Silva GL, Costa JE.
J Clin Periodontol. 2012 Feb;39(2):173-81.


この研究の目的は、5年フォローアップ研究で、粘膜炎を有する被験者がインプラント周囲炎へと移行する頻度を決定することである。
212人の部分的な欠損部位にデンタルインプラントで補綴された症例に対し、2005年(ベースライン)に歯周組織およびインプラント周囲の検査を受けた。5年後、ベースライン時に粘膜炎と診断された80人が再診査を受けた。これらの被験者は2群に分けられた。一つは、研究期間に予防メインテナンスを受けていた群(GTP; n = 39)で、もう一方はこれを受けていなかった群 (GNTP; n = 41)である。以下のパラメーターが臨床的に評価された:プラーク指数、歯周組織とインプラント周囲のプロービング時の出血、歯周とインプラント周囲深さ、排膿とインプラント周囲の骨吸収。インプラント周囲縁の出現と関連する生物学的、行動学的リスク変数の影響を単変数と多変数ロジスティック回帰分析を用いて解析された。 全体でインプラント周囲炎の発現頻度は31.2%であった(GNTP = 43.9% と GTP = 18.0%)。
インプラント周囲粘膜炎を有する被験者で、予防メインテナンスをおこなわないことは、インプラント周囲炎の高い出現頻度と関連があった。インプラント周囲のプロービング時出血、歯周ポケット深さ、歯周炎の存在などの臨床的パラメータはインプラント周囲炎悪化に至る高いリスクと関連していた。
(私の感想など:インプラントの予後については、インプラントが単に存在しているかどうかという評価基準が多い。この研究ではインプラント周囲粘膜に炎症がある場合に、インプラント周囲変への以降がどの程度なのか、そしてその事に影響を与える因子について検討している。インプラント周囲炎の人はメインテナンスを受けていないと43.9%の割合で骨吸収を伴うインプラント周囲炎へと移行した、という研究結果だ。
初期のインプラント失敗は、その手順や施術方法などの要因が大きいが、長期ではメインテナンスの有無などが大きく関与する。インプラントをすれば、手入れの必要がなく、ずっと持つと思っている人は考えを改めないとね。)

メインテナンス、インプラント周囲粘膜炎、インプラント周囲炎、リスク因子

(平成24年2月6日)


No.078
Early microbial succession in redeveloping dental biofilms in periodontal health and disease.
Teles FR, Teles RP, Uzel NG, Song XQ, Torresyap G, Socransky SS, Haffajee AD.
J Periodontal Res. 2012 Feb;47(1):95-104.


プロフェッショナルプラーク除去の後にデンタルバイオフィルムの発育は大変早い。しかしながら歯周組織の健康な、そして歯周炎患者におけるほとんどの細菌種は同程度の速さで戻るのか、歯周組織の健康な部分と病気の部分における歯肉縁上および歯肉縁下間の再細菌叢形成に差があるかどうか明らかではない。
プロフェッショナルクリーニング直後に38人の健常人と17人の歯周病患者の28歯から別々に、歯肉縁上および歯肉縁下プラークサンプルが採取された。口腔清掃をおこなわずに1、2、4、そして7日後にランダムに選択された1/4顎の7本から再度サンプルが採取され、チェッカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーション法を用いて解析された。DNAプローブカウントの割合は各経過時点に被験者ごとに平均された。
生態遷移は修正変動ウインドウ解析を用いて決定した。歯周炎患者と健常人から採取された歯肉縁上バイオフィルムにおける遷移は類似していた。1日後にはStreptococcus mitis とNeisseria mucosa がその割合を増加させ、1から4日後にはCapnocytophaga gingivalis、 Eikenella corrodens,、Veillonella parvulaと Streptococcus oralisが続いた。4ー7日後にはCampylobacter rectus、Campylobacter showae、Prevotella melaninogenica と Prevotella nigrescens が増加した。歯肉縁下プラークの再発育はゆるやかで、歯肉縁上プラークの発達とは異なっていた。増加する割合は、最初はS. mitisで、これに続いてV. parvulaとC. gingivalisであり、7日後はCapnocytophaga sputigenaとP. nigrescensであった。臨床群や部位で歯周病原性菌の割合に有意な増加は見られなかった。 プロフェッショナルクリーニング後に生じる初期の歯肉縁上および歯肉縁下バイオフィルムの再発育には、細菌種遷移に明確な順序がある。

(私の感想など:プラーク除去後に菌叢はどのような菌種がどのような順序で発育していくのか。歯周病の発症進行を考える上で重要な事なのに、これまで明確な研究は少ない。特に歯周病の人とそうではない人ではどのように異なるのか、とてもシンプルな疑問。で、結果は歯周病の有無にかかわらず、縁上は同様で、縁下では異なるという結論。そして歯周病原性菌には、少なくとも調べたような初期には目立つような変化はなかった。
考察にちょっと触れてみよう。一日目に上昇するS.mitisとN.mucosaは、ハイドロキシアパタイトや硬組織を覆う唾液由来の糖タンパクへの付着能、酸素存在下でも増殖しえる、食物や炭水化物の唾液を代謝する能力が初期菌叢形成に重要な役割を担っているのではと考察している。その後に上昇するC.gingivalis、E.corrodenceは生物由来の資源を増やすのに貢献していると考えられる。Veillonellaは、唾液が主要な栄養源であるときには多種共同体の発育をガイドする重要な菌種ということだ。
病原性菌といわれるE.nodatum、T.forsythia、P.gingivalis、t.denticolaなどは上昇はみられていない。これらは生育するのに厳しい条件が必要で、クリーニングの結果、菌叢や生育環境が変化したために少なくとも初期には増殖できないのであろう。これらの菌の増殖環境が整うのには7日以上かかるのだろうと考察している。
経時的なサンプリングって実はとても難しい。サンプリングするということは、プラークを除去するということで、菌叢に変化を及ぼす(治療行為と同じだ)。だから同じ場所の菌叢遷移に変化をほとんど及ぼさないような経時的なモニタリングはほぼ不可能。ではということで、同じ場所からまず1日後にサンプリング。再クリーニングして2日後にサンプリング。またクリーニングして4日後てなやり方もあるが、この方法だと再三クリーニングするので1回目のクリーニング後と複数回クリーニング後では菌層の変化は異なるであろう。結局この実験では同じ人の口の中ではあるが、クリーニング後1,4,7日後で別の部位からサンプリングしている。まあこれでは部位特異性などの問題はどうするのか、と言いたくなるが理想的なサンプリングがないから仕方がない。菌叢に変化を及ぼさずに写真を撮るようにモニタリングできれば良いのだけれどねえ。)

細菌、バイオフィルム、生体、遷移、歯周、歯肉縁上

(平成24年2月4日)


No.077
Clinical performance of access flap surgery in the treatment of the intrabony defect. A systematic review and meta-analysis of randomized clinical trials.
Graziani F, Gennai S, Cei S, Cairo F, Baggiani A, Miccoli M, Gabriele M, Tonetti M.
J Clin Periodontol. 2012 Feb;39(2):145-56.


この研究の目的は、文献を系統的にレビューし、骨内欠損(ID)の治療に対して保存的外科療法(CS)の臨床成績を決定することである。
電子データーベースおよび手作業ジャーナル検索を通じて12ヶ月のフォローを伴うID治療に関するランダム化コントロール臨床試験が同定された。主要評価項目は歯の保存状態、臨床アタッチメント(CAL)獲得j、プロービング深さ(PD)減少と歯肉退縮の増加(REC)であった。加重平均とフォレストプロットが外科処置12ヶ月後の各評価変数から計測された。長期間の安定性は少なくとも24ヶ月フォローアップのRCTにて検索した。フラップのタイプに従ってサブグループ解析がおこなわれた。
647被験者と734欠損を報告する27の臨床試験が同定された。CSの後12ヶ月後、歯の保存は 98% (IQ: 96.77-100), CAL獲得は1.65 mm (95% CI: 1.37-1.94; p < 0.0001)、PD 減少は 2.80 mm (CI: 2.43-3.18; p < 0.0001) そしてREC増加は1.26 mm (CI: 0.94-1.49; p < 0.0001)であった。長期フォローアップも同様の所見を示した。CALのCIは近年導入された歯間乳頭保存フラップに対して1.44-3.52であり、アクセスフラップに対しては1.25-1.89mmであった。
骨内欠損に対するCSによる治療は、高い歯の保存率と歯周臨床パラメーターの改善に関連していた。臨床的成績は用いた外科フラップのタイプにより変化するかもしれない。
(私の感想など:前回歯周外科の論文をみたので、今回歯周外科のシステマティックレビューを取り上げてみた。昨今の歯周外科と言えば、再生療法一色の感がある。従来的な歯周外科に関するシステマティックレビューはほとんど見られない。ということで著者らはこのテーマで論文をいっちょ仕上げたようだ。
結論的には、骨内欠損に対する処置として、CSのパフォーマンスは悪くない、という結論。この人たちが後半特に強調するのは歯間乳頭保存フラップ術の、治癒機転にに対する優位性とその成績の良さである。ただ、従来型の外科処置と歯間乳頭保存法との比較研究はないようだ。わざわざ指摘しているので、そんな論文を出してくるのだろうか。)

アクセスフラップ、骨内欠損、メタ解析、歯間乳頭保存フラップ

(平成24年2月2日)


No.076
Single-flap approach for surgical debridement of deep intraosseous defects: a randomized controlled trial.
Trombelli L, Simonelli A, Schincaglia GP, Cucchi A, Farina R.
J Periodontol. 2012 Jan;83(1):27-35.


シングルフラップアプローチ(SFA)は、歯周組織骨欠損へ頬側あるいは口腔側面から外科的にアクセスできるように、限局した粘膜骨膜弁を翻転挙上する方法である。このことで、隣接面骨頂上の歯肉組織を外科的に変化させずに保存することができる。
今回のランダム化コントロール試験は、深い骨内欠損に対し外科的な郭清をおこなう頬側からアプローチするSFAの効果を、ダブルフラップアプローチ(DFA)と比較して評価することである。
14人の患者はSFA原理に従って処置し、14人はDFAを受けた。全ての患者で、根表面と欠損は徹底的に郭清し、最初の治癒と血餅を安定させるために適切なフラップデザインと縫合方法で対応した。臨床的アッタチメントレベル(CAL)、プロービング深さ(PD)そして歯肉退縮(REC)が術直前と術後6ヶ月に評価された。
研究結果から、(1)SFAとDFAは術後6ヶ月で有意なCAL獲得とPD減少が見られた。2)CAL獲得とPD減少に関して、SFAはDFAに比較して同様の有効性であった。
骨内歯周組織欠損の外科的郭清をおこなうことで、欠損へのアクセスをSFAあるいはDFA用いた時には、術後の歯肉退縮が増加するが限定的で、両者匹敵しえる相当のCAL獲得やPD減少を得ることができる。

(私の感想:ミニマム侵襲性フラップ手術の類である。低侵襲で、手数が減るので術者の楽だし時間が短縮するから患者さんも楽だろう。それで通常のフラップど同様の効果があるなら言うことないよね。そして歯間部組織を保存して切開し掻爬をおこなうので、治癒に重要な術後の血餅安定化がはかられる。
著者らはメリットを強調するのだが、残念なことに適応症例が限られる。2から3壁性で欠損が口蓋側へ及ばない症例。大臼歯での処置は難しかろう。事実、今回の28例中大臼歯は1例だけだ。フラップを大きく開けないので、明視下における部分が狭く、複雑な骨欠損では対応が困難になる。
シングルフラップをダブルフラップフラップと比較しているのだが、ダブルフラップも歯間乳頭保存する切開法を用いているので両者に差がないのだろう。)

歯槽骨吸収、歯周炎、再構築外科処置、外科手術

(平成24年2月1日)



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