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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p034(no.131-135)

No.135
Association between obesity and periodontal disease in young adults: a population-based birth cohort.
Dickie de Castilhos E, Horta BL, Gigante DP, Demarco FF, Peres KG, Peres MA.
J Clin Periodontol. 2012 Aug;39(8):717-24.


この研究の目的は肥満と歯周病との関連性ならびに口腔清掃、全身炎症と炭水化物摂取の媒介効果を評価することである。
ブラジルのペロタスで1982年に生まれた被験者(n=5914)が数回のフォローを受けた。24才で720人が代表的なサンプルとして口腔内の健康状態を評価された。15から23才までの肥満、腹囲と肥満エピソード数が主な暴露であった。口腔清掃、C-反応性タンパクレベルと炭水化物消費の媒介効果もまた評価された。
肥満の被験者は歯肉出血を伴う歯を2本以上有する傾向が見られた。しかしながら、交絡因子で補正すると、その関連に統計学的有意差はなくなり[OR (肥満×2本以上) 1.72 (95% CI: 0.95, 3.11)] 強いメディエーターに対しての補正はORを減少させた(OR=1.38)。肥満の被験者における歯石存在のリスクは10%高かった[PR 1.10 (95% CI: 1.02, 1.18)]。15から23才間の肥満エピソード数は歯石と関連していた。歯周ポケットと肥満に関連はみられなかった。
全身的炎症と口腔清掃は肥満と歯肉炎との関連を媒介しているように思えた。このコホート研究における若い成人については、肥満は歯周ポケットとの関連はみられなかった。
(BMI、コホート研究、C反応性タンパク、歯周病、ウエスト周囲)
(私の感想など:肥満もまた歯周病との関連論文が数多くある。ただ、それらの臨床研究が対象としている患者群は成人や初老である。じゃあ、若い人ではどうか?そんな研究はこれまで報告されていない。そこで若い人でも「肥満と歯周病」の関連性が見られるのであろうかと調べた研究である。
データを直接示すことはできなかったが、肥満はやっぱり歯周病と関連ありそう、というのがこの著者らの論調だ。
若年者では歯周ポケットと肥満に関連性はなかったが、歯石と肥満には関連があり、過去の報告でも歯石はBMIや腹囲との関連性があるという。肥満のある若年者における歯石沈着は歯周病重症化へと将来はつながるのかも知れない。)
(平成24年7月28日)


No.134
Probiotic effects of orally administered Lactobacillus reuteri-containing tablets on the subgingival and salivary microbiota in patients with gingivitis. A randomized clinical trial.
Iniesta M, Herrera D, Montero E, Zurbriggen M, Matos AR, Marin MJ, Sanchez-Beltran MC, Llama-Palacio A, Sanz M.
J Clin Periodontol. 2012 Aug;39(8):736-44.


この研究の目的は、口腔経由で投与したプロバイオティックの口腔細菌叢への影響を検討することである。
40人の歯肉炎被験者、8週間でプラセボ-コントロール、パラレルデザインの研究がおこなわれた。lactobacillus reuteriあるはプラセボを含有したタブレットを毎日投与した。無刺激唾液と歯肉縁下サンプルが回収されて培養法とPCRにより解析された。臨床的および細菌学的な治療成績の変数が群間と群内で比較された。臨床成績に関しては群間と群内に有意な差はみられなかった。唾液では4週間後の嫌気性菌総数(p=0.021)と8週間後のPrevotella intermediaの菌数(p=0.030)がテスト群で減少を示した。歯肉縁下サンプルでは、ベースライン時から4週間後の変化で、P.gingivalis菌数に有意な減少が見られた(p=0.008)。PCRでは、L.reuteri ATCC-PTA-5289はL.reuteri DSM-17938よりも頻度高く検出された。
タブレットに含有したL.reuteriの効果は、歯肉縁下細菌叢の検索結果から、選択した歯周病原性菌数の減少をもたらしていることが明らかとなったが、関連する臨床データには影響しなかった。
(歯肉炎、lactobacillus reuteri、プロバイオティック、唾液細菌叢、歯肉縁下細菌叢
(私の感想など:歯周病はプラーク細菌が原因なので、プロバイオティクを応用すれば、歯周病を改善あるいは予防できるかもしれない。
lactobacillusを含んだプロバイオティクタブレットは、唾液や歯肉縁下プラーク中の歯周病原性菌に影響を与えるという結果だった。しかし臨床的な効果は認められなかった。
今回の研究では歯学部の学生を用いている。腐っても歯学部の学生だ。一般人より磨いているだろう。ましてや研究に参加した時点で、より口腔清掃に気をつかうだろう。でも研究では磨き方は従前と同じようなやりかたにするように、指導したと書いてはいるが、実際のところはどうだろう。口の中を調べられるんだよ。なにがしかのバイアスはかかってもおかしくない。つまり、試験薬の効果はかすみがちになりやすい。
プロバイオティク効果がないのは期間が短いからかもしれないと考察している。細菌叢の変化があるから、時間が経過すれば臨床効果が現れるということかもしれない。でもさ、4週間経過しているんだすでに。ブラッシング指導をすれば、通常の歯肉炎なら、数日~1週間で歯肉からの出血などおさまってくるよ。プロバイオティクスはそれより効果が無いわけだ。逆か、適切なブラッシング効果は強力ということだ。
実験のプロトコールをうまく組めば臨床効果の有用性を確認できるのかもしれないが、このプロバイオティクタブレットはどんな時に、何を期待して使うのだろう???。ブラッシングをどうしても上手くできない人がこの世の中にはいる。そんな人に使ってみますか。
歯周病メインテナンスをしていて、プラークコントロールが良好であっても歯周ポケットに深化の見られることがある。このタブレットはそんなリスクを低下させることができるのかもしれない。そんなことを期待したい。
言い忘れていた。用いたタブレットはバイオガイア社のロイテリ菌含有タブレットと同一のものだ。バイオガイアはスエーデンの会社だが、バイオガイアジャパンもあって、タブレットは日本でも手に入る。このタブレットの商品説明は微妙かつ巧妙だ。「歯周病に効く!」なんてストレートな効能はうたっていない。でも何かそれらしい文言はしっかりと組み込まれている。口内管理タブレット、30粒3000円内税。ライオンからも乳酸菌は販売している。
口からばい菌を取るなんて、と思う人には朗報がある。lactobacillusは乳酸菌の事で、スーパーで普通に売っているチチヤスヨーグルトにはロイテリ菌ヨーグルトがある。)
(平成24年7月26日)


No.133
Combined surgical therapy of peri-implantitis evaluating two methods of surface debridement and decontamination. A two-year clinical follow up report.
Schwarz F, John G, Mainusch S, Sahm N, Becker J.
J Clin Periodontol. 2012 Aug;39(8):789-97


この研究の目的は、進行したインプラント周囲炎の欠損に対し外科的な切除療法と再生治療を組み合わせておこない、その際に用いた2種類の表面デブライドメント/汚染除去(DD)方法を比較し、得られた2年後の結果を評価することである。
24人の患者(n=26:縁上と骨内の複合欠損)に対して、フラップ手術、肉芽組織の除去をおこない、さらに頬側と骨頂上に露出したインプラント体についてはインラントプラシティを施して24ヶ月のフォローアップまで治療を継続した。インプラントプラシティ未処置残存面に対して、(i)エルビウムヤグレーザーあるいは(ii)プラスチックキュレット+綿球+滅菌生食(CPS)のいずれかの処理方法をランダムに選択して、続いて骨ミネラルで補填され、コラーゲン膜で被覆された。
24ヶ月後ERL処置部位はCPS群と比較して、平均BOPの減少(ERL: 75.0 ± 32.6% vs CPS: 54.9 ± 30.3%)やCAL値 (ERL: 1.0 ± 2.2 mm versus CPS: 1.2 ± 2.2 mm)において有意な改善を示さなかった。両群とも平均CAL値はベースライン時と比較して有意な差を示さなかった。
進行したインプラント周囲炎において、外科的治療後に得られた臨床成績の長期安定性は表面のデブライドメント/汚染除去の方法以外の要因に影響を受けているようだ。
(骨移植、コラーゲン膜、インプラントプラシティ、インプラント周囲炎、外科的再生療法 )
(私の感想など:インプラント周囲炎に対する非外科的治療(メカニカルデブライドメント、クロルヘキシジングルクロネイトを用いた抗菌治療、エルビウムドーピングヤグレーザー、エアーあるいは超音波装置など)は効果的でないことが確証されている。そこで外科的処置の登場となる訳だ。
ところでここで言うインプラントプラシティだが、インプラント体の表面を切削器具で一層ガンガン削っている。骨吸収が生じて露出したインプラント体はネジ山だからその山がなくなるまで削るということになる。インプラント表面のコーティングなんてのはどこかへ飛んでっている。
今回インプラント表面に対する、2種類のデブライドメント方法(ERLとCPS)の効果を比較したが、調べた臨床指数(プラーク指数、BOP、プロービング深さ、粘膜退縮、臨床的アタッチメントレベル)はいずれもERLとCPS間で差がなかった。
ERL処置後はプラークバイオフィルムの残存が5.8%で、プラスチックキュレットではプラークバイオフィルム残存面積が58.5から61.1%でああることが報告されている。ERLの殺菌作用は強力なのだ。しかし、バイオフィルムで汚染されたチタニウム表面にこれだけの差があるのに、臨床データには反映されていない。
またベースライン時と12ヶ月後間ではプラーク指数以外すべてで有意差があったのに、24ヶ月後となるとベースライン時の間ではBOPはCPSとERLともに有意差があるが、プロービング深さ(PD)ではCPSだけの有意差となっている。ERLの方が感染源除去効果が高いと考えられるのにだ。もっと言えば、インプラントプラシティをして、デブライドメントまでする外科的なこの一連の処置は12ヶ月後までは有効だが、その治療効果も24ヶ月後にはなくなってきているという悲しい結果だ。
インプラント周囲炎に対して今回おこなった処置では、バイオフィルム除去の有無が直接に臨床成績に反映されるわけではない、という結論だった。じゃあ何が影響するのか、に対してはきっとこの次に別の観点から何か報告をしてくれるのだろう。)
(平成24年7月22日)


No.132
Association of serum and crevicular visfatin levels in periodontal health and disease with type 2
diabetes mellitus.
Pradeep AR, Raghavendra NM, Sharma A, Patel SP, Raju A, Kathariya R, Rao NS, Naik SB.
J Periodontol. 2012 May;83(5):629-34.


歯周組織が健康な被験者、歯周病あるいは歯周病でない2型糖尿病患者(t2 DM)における血清中および歯肉溝浸出液中(GCF)のビスファチンレベルが検索され、歯周病患者ではその上昇がみられ、さらに歯周組織の臨床的パラメーターと関連していることが示された。
DMと慢性歯周炎(CP)は双方向性に関連している。アディポカイン、特にビスファチンは
脂肪細胞から産生され、インシュリン抵抗性発生の原因と考えられている。この研究の目的はCP患者のうち、t2 DM罹患している患者の血清とGCFにおけるビスファチンの存在を決定し、もしあるのならばそれらの関連性を見いだすことである。
30人の被験者(15人男性と15人の女性)がその臨床パラメーターを基に選択され3群に分けられた。グループ1(健常人10人)、グループ2(CP患者のうちよくコントロールされたt2 DM 10人)、と糖尿病に罹患していないCP患者10人)である。エライザを用いてビスファチンレベルを評価するために血清およびGCFサンプルが回収された。
CP罹患t2 DM患者では血清とGCFともに平均ビスファチン濃度が上昇していた。また、血清とGCF中のビスファチンは全ての歯周組織パラメータと正の関連がみられた。
各群の全てのサンプルでビスファチン陽性だった。t2 DMであるCP患者とt2 DMではないCP患者の両群ともに血清およびGCF中のビスファチン濃度が全ての臨床パラメーターと正の相関を示した。この正の関連性を確証するためには追加の大規模研究がおこなわれるべきだ。
(アディポカイン、心血管系疾患、糖尿病、ニコチンアミドフォスフォリボシルトランスレラーゼ)
(私の感想など:背景が述べられている。脂肪組織は多様な炎症性因子(ビスファチン、アディポネクチン、リジスチン、レプチン、TNF-β、IL-6、 TNF-α、単球走化性タンパク質-1など)を産生する。これらの因子はインスリン抵抗性や炎症免疫反応に影響する。ビスファチンは脂肪細胞から産生されて、感染や炎症の際にIL-1β、TNF-α、IL-6の産生を促すとされている。著者らはGCFや血清中のビスファチンレベルが歯周病の進行と相関して上昇することを既に報告している。
ヒトビスファチンは脂肪組織から分泌されるが、好中球や単球からも産生される。健康な
歯周組織を持つ健常人よりも歯周炎患者の方が血清中もGCF中もビスファチンレベルが高くなっている。さらに歯周炎患者は糖尿病に罹患していない人より糖尿病に罹患した人の方が、同様にビスファチンレベルが高くなっている。
血清とGCFを比較すると、いずれの群でもGCF中のビスファチンレベルが高く、歯周病の
疾患程度に比例してその濃度が高くなっているという。したがって、歯周病の病巣局
所で、歯周病の進展に伴った局所産生量の亢進が考えられる。もっと言えば、このことが全身へ影響している可能性もあるという(歯周病から糖尿病への影響の一因かも知れないということ)。
ただこの研究では、健康な歯周組織で糖尿病という群がない。健康な歯肉組織で糖尿病なら、ビスファチン血清レベルが高くて局所の産生を示すGCFでは低くなっているハズ、ではなかろうか。でもデータはない。
といった内容の論文だった。
(平成24年7月19日)


No.131
Bone remodeling-associated salivary biomarker MIP-1α distinguishes periodontal disease from health.
Al-Sabbagh M, Alladah A, Lin Y, Kryscio RJ, Thomas MV, Ebersole JL, Miller CS.
J Periodontal Res. 2012 Jun;47(3):389-95.


唾液を診断に利用しようとする考え方はあるが、歯槽骨改変に関して許容できるような価値あるバイオマーカーは未だ見いだされていない。このことを解決するために、ケースコントロール研究を用いて、慢性歯周炎患者における骨改変の生物学的様相と特に関連した唾液バイオマーカーレベルを検索した。
80人被験者(40人の中等度から重度歯周炎患者と性年齢をマッチさせたコントロール40人)において、全唾液中のマクロファージ炎症性タンパク質(MIP-α)、オステオプロテグリン、βⅠ型コラーゲン C 末端テロペプチドとピリジノリン架橋I型コラーゲンカルボキシ末端テロペプチドがエライザ法を用いて測定された。プロービング深さ、臨床的アタッチメントロス、とプロービング時の出血を含む臨床診査の前に唾液は採取された。
慢性歯周炎患者のMIP-α平均レベルは健常被験者の18倍であった(p<0.0001)。臨床的歯周組織の各指数はMIP-αレベルと有意な相関があった(p<0.0001)。曲線下面積(0.94)および歯周病の判別と回帰ツリー分析(感度94%、特異性92.7%)によって決定された方法により、バイオマーカー検査のうち、MIP-αは歯周疾患と健常状態とを最も優れて区別可能であることが示された。オステオプロテグリンレベルは1.6倍(p=0.055)に上昇したが、ピリジノリン架橋I型コラーゲンカルボキシ末端テロペプチドとβⅠ型コラーゲン C 末端テロペプチドは被験者の大部分で、検出限界以下であった。
これらの所見はケモカインMIP-αが歯周炎の同定に有用である可能性を示していた。さらに、このバイオマーカーが歯周疾患患者における骨吸収進行確認のための一助となるかどうかを検討するためには、縦断的研究が必要である。
(バイオマーカ-、骨リモデリング、macrophage inflammatory protein-1α、オステオプロテグリン、歯周治療、健康歯周組織、唾液、ピリジノリン架橋I型コラーゲンカルボキシ末端テロペプチド 、βⅠ型コラーゲン C 末端テロペプチド)
(私の感想など:唾液を用いて、歯周病に関する診断ができるのなら便利だ。唾液の採取は簡単だからね。
骨の吸収は破骨細胞により担われるが、破骨細胞形成は様々な因子により活性化する。それら因子群の上流にはIL-1β、プロスタグランディンE2、TNF-α、MIP-1α、IL-6、IL-11などがある。さらにRANKLやOPGなどは破骨前駆細胞の分化に関与することで骨吸収を制御する。最終的にはMMPやカテプシンKなどタンパク分解酵素が、骨の破壊に際して、タイプIコラーゲンを分解し、最終的な安定産物であるピリジノリン架橋I型コラーゲンカルボキシ末端テロペプチド(ICTP)やβⅠ型コラーゲン C 末端テロペプチド (beta-CTX) が血清、唾液や尿中に放出される。これらの因子は組織破壊のマーカーの候補となるであろう。そこで、これら因子に注目して、歯周炎の組織破壊(骨吸収)のよいバイオマーカーを見つけたい、というのが著者らの目的である。
著者らを含めて唾液を診断に応用しようという試みでは、これまでに色んなマーカーを検討してきている。例えば、granulocyte-macrophage colony-stimulating factor、IL-1beta、IL-2、IL-4、 IL-5、IL-6、IL-8、IL-10、IFN-gamma 、TNF-α 、hepatocyte growth factor、osteonectinなどである。TNFαやIL-1βは報告によって歯周炎と健常歯周組織間で差があったり、なかったりしている。
bone remodelingと言いながら、骨吸収の評価はしていないので疑問に思ったのだが、過去の報告では骨吸収の評価をしている。また縦断的な研究もおこなっている。将来の骨吸収を予測できるようなマーカーが見つかればよいのだが、過去の一連の報告をみていると、結果が収束してきているようには見えない。
(平成24年7月15日)



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