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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p035(no.136-140)

No.140
The clinical effect of locally delivered minocycline in association with flap surgery for the treatment of chronic severe periodontitis: a split-mouth design.
Jung DY, Park JC, Kim YT, Yon JY, Im GI, Kim BS, Choi SH, Cho KS, Kim CS.
J Clin Periodontol. 2012 Aug;39(8):753-9.


この研究の目的は、慢性の重度歯周炎患者に対する治療としてフラップ手術をおこなって、局所薬物配送ミノサイクリンの付加的投与効果を決定することである。
慢性重度歯周炎患者20名に対して、フラップ手術と局所配送ミノサイクリン投与の併用(FM)、あるいはフラップ手術単独(FO)にてスプリットマウスで治療をおこなった。付加的なミノサイクリン投与は術後3ヶ月におこなった。プラーク指数、プロービング深さ(PD)、プロービング時出血(BOP)、歯肉退縮と臨床的アタッチメントレベル(CAL)の臨床評価はベースライン時と処置3および6ヶ月後におこなった。
両部位とも臨床的改善を認めたが、臨床評価は術後6ヶ月でFO部位と比較してFM部位がPD (3.34 ± 0.03 mm) と BOP (78.01 ± 11.42%)に統計学的に有意な減少を、そして、有意な CAL (1.88 ± 0.21 mm)獲得が存在することをしめした(PDと BOPの減少: 2.62 ± 0.06 mm、50.33 ± 15.01%とCAL:の獲得 1.55 ± 0.13 mm) 。
局所配送ミノサイクリンの付加的投与は慢性重度歯周炎の外科的治療プロトコールに有益と思われる。
(フラップ手術、局所薬物配送ミノサイクリン、メインテナンス期間、歯周炎、連続投与)
(私の感想など:歯周病の抗生物質治療には全身投与と局所投与がある。全身投与は副作用の問題が生じやすいので、副作用の生じにくい局所投与の有効性が検討されてもよろしかろう。今回選択した抗生物質はテトラサイクリン系の抗生物質で、この抗生剤は幅広く静菌的作用を持ち、歯面に結合することで緩やかに作用し、低濃度ではコラゲナーゼ活性の阻害効果を持つために、結果として歯周組織の破壊を抑制する。非外科的療法との併用についての研究は見られるが、外科的処置との併用効果についての報告はほとんどみられない。ということで本研究がおこなわれました、ということだ。
使用されているのは、皆さんご承知のペリオクリンだ。ペリオクリン発売当初、大学に来たサンスター社員の人に「何でペリオクリンって名前にしたん?」と聞いた。その女子社員は、「ペリオをクリーンにするお薬、ということで、、」と真面目な顔をして、クリーンに力を込めて回答してくれた。
深いポケットの歯肉縁下デブライドメント後について、歯肉縁下プラークのリコロナイゼーションには120から240日を要するという報告がある。6mm以上のPDでT.forsythia、F.nucleatum、P.gingivalis、Treponema denticolaは3ヶ月まで有意にレベル低下するが、次の3ヶ月後には徐々に増加するという。アタッチメントレベルの獲得がみられる部位では、細菌の減少があるが、ロス部位では菌の上昇がみられるという。また一方、メインテナンスではミノサイクリンをSRPと併用するとPDの減少が有意に大きくなるという報告がある。BOPの改善もある。ただ今回の研究では細菌検査をおこなっていないので、ミノサイクリン併用効果が細菌減少に依存するものかどうかの直接的な根拠はない、という考察がされていた。)
(平成24年8月14日)


No.139
Coronally advanced flap with and without connective tissue graft for the treatment of single maxillary gingival recession with loss of inter-dental attachment. A randomized controlled clinical trial.
Cairo F, Cortellini P, Tonetti M, Nieri M, Mervelt J, Cincinelli S, Pini-Prato G.
J Clin Periodontol. 2012 Aug;39(8):760-8.


このランダム化臨床試験(RCT)の目的は、歯間部臨床的アタッチメントロスが頬側面アタッチメントロスと同等かより少ない場合に、歯肉退縮の治療としておこなう歯冠側移動術(CAF)および結合識移植(CTG)の付加的効果を評価することである。
1カ所の歯肉退縮のある29人の患者が募集された。15人の患者に対してCAF+CTG処置が、14人に対してCAF単独処置がランダムに割り当てられた。測定はブラインドでかつ較正された試験者によっておこなわれた。結果の測定項目には完全な根面被覆(CRC)、退縮の減少(RecRed)、根面被覆美容(Res)スコア、術中術後の罹病率と根面過敏症が含まれた。
6ヶ月後CRCについて、CAF+CTGはCAF単独に比較してより良好な結果を示した(調整OR = 15.51、p = 0.0325)。ベースライン時歯間部CAL量が3mm以下の際に、CAF+CTGで治療した症例の80%を越える割合でCRCが見られた。RecRedについては有意差はみられなかった。CAF単独に比較して、CAF+CTGは 手術時間がより長く(p<0.0001)、術後の罹患率日数が長く(p=0.022)そして鎮痛剤のより多量の服用が必量だった(p=0.0178)。最終的なResスコアに有意差は認められなかった(p=0.1612)。
両治療とも歯間部CALロスを伴う単一の歯肉退縮でCRCを提供することができる。CAFにCTGを応用すると、歯間部CALが<3mmの際にはCRCを予知可能である。
(歯肉退縮、歯周組織アタッチメントロス、ランダム化コントロール研究、外科、組織移植)
(私の感想など:根面被覆の成績は多分にICALに左右されると報告されている。ICALロスが大きいと、RecRedやCRCがの最終成績が悪くなるのだ。今回はそのICALロスのある症例での検討だ。
今回の研究でもICALが大きくなるとCAF単独もCTG併用もCRC比率が低下している。しかし、CAF単独ではICALが2mmあたりからガクっと大きく成績が下がる(2mmでは70%程度なのが、3mmになると25%以下)一方、CTGを併用すると3mmでも75%以上を維持し、4mmでも60%程度だ。5mmとなると両群とも10%以下にみえる。
ということで、上顎前歯のICALロスがある歯肉退縮であってもCRCは可能。ICALが3mm以下でCTGを併用すればCRC80%以上の良好な結果が得られる。ただし、CTG併用はCAF単独に比較して20分手術時間も長く、術後の疼痛も増えるというデメリットもある。術後の腫脹は1週間後でCTG+CAFが93%に対しCAF86%、2週間後でCTG+CAFが40%に対し、CAFが14%だ。ただ4週間後には両群とも腫脹がなかったとのこと。)
(平成24年8月11日)


No.138
Investigation and quantification of key periodontal pathogens in patients with type 2 diabetes.
Field CA, Gidley MD, Preshaw PM, Jakubovics N.
J Periodontal Res. 2012 Aug;47(4):470-8.


糖尿病は歯周炎のリスク因子と認識されている。歯周組織の健康な糖尿病患者あるいは慢性歯周炎の糖尿病患者が、糖尿病ではない人に比較して歯肉縁下細菌叢に差異があるか否かについてのデータには相反がある。この研究の目的はTaqMan定量性PCRを用いて、糖尿病患者の歯肉縁下プラークについて、選択された歯周病原性菌の定量的な差を検出することにある。
歯周炎(n=9)あるいは歯周炎でない(n=15)2型糖尿病患者がリクルートされ、非糖尿病患者であるコントロール被験者(n=12歯周組織が健康、n=12慢性歯周炎)とマッチさせた。歯肉縁下プラークサンプルが深い(>4mmプロービング深さ)と浅い部位(3=<プロービング深さ)からペーパーポイントを用いて採取された。そして、Aggregatibacter actinomycetemcomitans,、Fusobacterium nucleatumと Porphyromonas gingivalisが定量された。
48人の被験者(69サンプル)がリクルートされた。歯周組織の健康状態に従属して、総菌数に比較した3菌種全てのレベルには著しい差が見られた。リアルタイム定量性PCRを用いて検索した結果、歯周組織の健康な被験者と比較して糖尿病と非糖尿病の深いポケットには、P.gingivalisに対する細菌数が有意に高く見られた(p<0.05)が、糖尿病と非糖尿病間では有意な差はみられなかった。A.actinomycetemcomitansは全ての群で検出されたが、低いレベルであった。菌数は群間で有意差を認めなかった。F.nucleatumは全ての群に多量に存在したが、群間に明瞭な差はなかった。P.gingivalisは歯周組織の健康な被験者よりも歯周病患者で高いレベルで検出された(p<0.05)。ポケットと調べた全ての菌種数間には統計学的な正の相関がみられた(p<0.05)。
A. actinomycetemcomitans,、F. nucleatumとP. gingivalisは歯周病の病態に応じて、歯肉縁下プラーク中に有意に異なった量と割合で存在していた。非糖尿病被験者と比較して、2型糖尿病患者の歯肉縁下細菌叢との間に有意な差は見いだせなかった。
(歯周炎、歯肉縁下プラーク、TaqManリアルタイムPCR、2型糖尿病)
(私の感想など:歯周病と糖尿病の相互関係の研究は、炎症や免疫、つまり生体応答側の観点から研究されることが多い。これはそれに対して糖尿病の有無で、歯周病の原因たる細菌叢に差があるかないかをみた研究だ。結論としては少なくとも調べた菌種では差がなかった。
糖尿病によって、ポケット内の嫌気度が上昇している可能性のあることや歯肉溝浸出液中のグルコース濃度亢進がみられる。そのために歯周ポケット内の細菌棲息環境に変化が生じていると考えられる。それなのに、糖尿病患者の細菌叢(少なくとも対象となった歯周病原性菌3菌種)に差が無いのはむしろ驚くべき事だ!と著者らは述べておられる。ただ過去の研究では差があるという報告もあるので、対象となった被験者やサンプリング時期や方法などが影響するのかも知れない。
もちろん調査対象とする菌種を増やせば、糖尿病で増加している菌がいてもおかしくないだろうし、それが歯周病の状態に関わることだってあるだろう。これからの検討課題ということか。)
(平成24年8月7日)


No.137
Expression of MMPs and TIMP-1 in smoker and nonsmoker chronic periodontitis patients before and after periodontal treatment.
Mouzakiti E, Pepelassi E, Fanourakis G, Markopoulou C, Tseleni-Balafouta S, Vrotsos I.
J Periodontal Res. 2012 Aug;47(4):532-42.


非外科的歯周治療は歯周組織の炎症をコントロールする。マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)とその組織インヒビター(TIMP)は組織破壊と歯周組織の治癒に関わりをもっている。この研究の目的は慢性歯周炎の歯周初期治療前後における、MMP-1、 -3、 -8、 -9 と -13、および TIMP-1のmRNA発現を比較することである。
非外科的治療の前後慢性歯周炎患者30人(非喫煙者15人と喫煙者15人)と歯周組織が健康なコントロール被験者30人(非喫煙者15人と喫煙者15人)から90の歯肉サンプルが採取された。臨床パラメーターは治療の前後で評価された。トータルRNAが抽出され、MMPsとTIMP-1のmRNA発現がRT-PCR法にて評価された。
歯周治療はTIMP-1発現を有意に上昇させ、MMPs/TIMP-1の比率を減少させた。治療後歯周炎患者の非喫煙者は歯周組織健常者の非喫煙者よりMMP-8とTIMP-1発現が有意に高かった。そして、歯周炎患者の喫煙者は歯周組織健常者の喫煙者より有意に高いMMP-13とTIMP-1発現であった。
(慢性歯周炎、マトリックスメタロプロテアーゼ、RT-PCR、喫煙、組織メタロプロテアーゼ阻害物質-1)
(私の感想など:MMPとその阻害物質であるTIMP、両者のバランスの崩れが組織破壊と関連しているのかも知れない。本研究から、歯周治療はTIMP発現を上昇させて、MMPs/TIMPの比率を減少させている。TIMP発現上昇は組織の治癒に伴って上昇しているのだろう。喫煙者や歯周炎ではそれぞれの対象に比較してTIMP発現が高かったのであるが、これは何故だろう。歯周炎では炎症がありMMP上昇があるので、これをさらに抑制させようとしているのか。現象の記述はあるのだが、あまりしっかり考察はされていない。またTIMPを上昇させることで、治療上のメリットが生じるかもかもしれないと述べているが、過剰発現が歯周組織に及ぼす影響に対しても検討がなされていないので、今後の課題ということだ。)
(平成24年8月4日)



No.136
Er:YAG laser in the treatment of periodontal sites with recurring chronic inflammation: a 12-month randomized, controlled clinical trial.
Krohn-Dale I, Boe OE, Enersen M, Leknes KN.
J Clin Periodontol. 2012 Aug;39(8):745-52.


ランダム化コントロール臨床試験の目的は、メインテナンス患者において、エルビウムヤグレーザー(Er.YAG)を用いたポケットデブライドメントによる臨床的および細菌学的効果を従来のデブライドメント処置と比較することである。
残存歯周ポケット(PD)5mm以上が少なくとも4本ある、全て喫煙者である15人が募集された。四分の二顎につき二カ所のポケットに対して、Er.YAG(試験群)あるいは超音波スケーラ-/キュレット(コントロール群)を用いた3ヶ月ごとの歯肉縁下デブライドメントがランダムに割り当てられて処置がおこなわれた。比較アタッチメントレベル(RAL)、PD、プロービング時出血と歯垢はベースライン時、6と12ヶ月後に記録された。細菌歯肉縁下サンプルは臨床診査と同じ時期に採取され、チェカーボードDNA-DNAハイブリダイゼーション法により解析された。
両治療においてベースライン時から12ヶ月時点までに至るPDの有意な減少がみられた(p<0.05)。コントロールにおいて、平均の初期PDは5.4mmから4.0mmへと12ヶ月後に減少した。テスト群でも、同様の減少がみられた。どの時点においても、治療間の有意差はみられなかった。平均RALは群間あるいは群内に有意差を示さなかった(p>0.05)。歯肉縁下細菌叢あるいは総歯周病原性菌に治療間の有意差はみられなかった。
今回の結果は、慢性の再発性炎症を有する喫煙者の治療において、Er:YAGレーザーが優れていることを支持することに失敗した。臨床的にこのことは、再発性の歯周ポケットに対して繰り返しのEr:YAGレーザーがインスルメンテーションと相当期間比較した初めての研究である。
(慢性歯周炎、臨床研究、エルビウムヤグレーザー、メインテナンス、歯周病原性菌、スケーリング、ルートプレーニング、喫煙)
(私の感想など:臨床研究の被験者全員が喫煙者という珍しいパターンだ。メインテナンスの患者でレーザーか従来型の治療か、いずれが優れているか。これまでの報告では、同等だという研究とレーザー治療の方が優れているという研究とに二分される。このことについて、取り立てて言うほどの考察はない。
喫煙は歯周病の悪化リスクあるいは治癒への悪影響因子だ。それが、本研究でレーザー治療の優位性が見られなかった理由かも知れないと述べている。
この著者らはレーザーが従来型の治療と同等の効果がある、あるいは匹敵するとは表現していない。~no evidence for claiming superiority of the Er:YAG laser compared with SRP procedure~
SRPに比較してヤグレーザーの優位性を主張するエビデンスはなかった、と表現している。
(平成24年7月31日)



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