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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p051(no.216-220)

No.220
Splinted and unsplinted short implants in mandibles: a retrospective evaluation with 5 to 16 years of follow-up.
Sivolella S, Stellini E, Testori T, Di Fiore A, Berengo M, Lops D.
J Periodontol. 2013 Apr;84(4):502-12.

この後ろ向き研究の目的は骨吸収のある、部分的あるいは全顎無歯顎患者にショートインプラント処置をおこなった場合の中長期予後を検索することである。
下顎に埋入された280本のインプラントで患者は109人がこの研究の対象である。インプラントは7あるいは8.5mm長で3.75あるいは4mm径であった。インプラント表面は機械研磨(M; n = 176)か粗造面(R; n = 104)であった。患者はレントゲン的および臨床的経過観察を受診したかを尋ねられ、過去の臨床記録やレントゲンが評価された。インプラントに関連した補綴物の不成功と合併症が調査記録された。
平均の経過観察期間は9年であった(5-16年)。インプラント存在率(SSR)と成功率(SR)はMとRの両方のショートインプラントに対して生命表解析を用いて計算された。Mインプラントは16年SSRが95.7%で相当するSRは93.9%であり、対してRインプラントに対する16年SSRとSRはそれぞれ97.2%と95.2%であった。全てのインプラントに対する平均±SD骨吸収は1.37±0.5mmであった。辺縁の骨吸収については2種類のインプラント長(P = 0.38) あるいは直径 (P = 0.34)間、またMとRのインプラント表面が違う群間(P = 0.47)で統計学的な有意差はなかった。
異なるインプラント長、直径と表面処理はインプラントの予後に影響しないように思われた。ショートインプラントのほとんどがロングインプラントとスプリントされていたという限られた条件下であるが、フィクスチャーの長さを減少させることは、インプラント支持固定性補綴物の長期存在率を悪化させなかった。
(オッセオインテグレーション、ショートインプラント)
(利用できる骨量に限界があるときにショートインプラントは有用であろう。文献的にはショートインプラントの定義について明確なコンセンサスは得られていない。種々のレビューでは7、8あるいは10mm以下と言われ、また骨内長が8mm以下とも定義されている。
とあるレビューでは、粗造面を有する8あるいは10mm以下のショートインプラントは10mm以上の従来型インプラントと比べて同程度の効果があると報告されている。また両者は同様のSSRであることも示されている。他に408本(7mm131本、8.5mm277本)のショートインプラントで5年SSRが97.1%とする報告や平均81ヶ月SSRが10mmインプラントでは92.82%、ショートインプラントで92.5%などの報告もある。ただ、これらは経過観察年数が長期ではないし、今回の研究ではショートインプラントの66%がロングインプラントと固定されている。ショートインプラントの有望性を示しつつ、長期観察研究の必要性を述べている。)
(平成25年4月28日)


No.219
Biologic width dimensions - a systematic review.
Schmidt JC, Sahrmann P, Weiger R, Schmidlin PR, Walter C.
J Clin Periodontol. 2013 May;40(5):493-504.

歯科保存学において生物学的幅径を考慮することは歯周組織の健康を維持するために重要だと考えられる。
この研究の目的はヒトにおける生物学的幅径の大きさを評価することである。
5つの異なる電子データベースを用いて2012年9月28日までの出版物に対して系統だった文献検索がおこなわれた。また手検索による補足もおこなわれた。2人のレビューヤーが研究の選択、データ収集と妥当性の評価をおこなった。PRISMA評価が適応された。検索手順によって同定された615タイトルから、14の出版物が選別され、6つがメタ解析に適切であるとされた。
含まれた研究は1924年から2012年までに出版されたものであった。それらは生物学的幅径の測定法に関して異なっていた。2つのメタ解析から得られた生物学的幅径の平均値は2.15から2.30mmであったが、研究内あるいは研究間内の大きな差異(被験者サンプルレンジ0.2-6.73mm)が観察された。歯種、部位、修復物の存在と歯周病/外科処置が生物学的幅径の大きさに影響を与えていた。方法と結果測定に関して研究間には著しい不均質性が存在した。
生物学的幅径の普遍的な大きさは存在しないように思えた。再構築歯学的立場から言うと、歯周組織の健康保持が生物学的幅径の評価に先立つように思われる。
(生物学的幅径、付着上皮、結合識性付着、クラウンマージン、歯冠延長)
(修復物のマージン位置は歯周組織の健康に重要で、歯周病の発症進行に対するリスク因子の一つである。最新のシステマティクレビューではクラウンと歯周組織との関係で、縁上マージンが歯周組織の健康には最も良いことが示されており、歯肉縁下あるいは歯肉縁マージンはプラークの蓄積増加、より強い歯肉の炎症、組織破壊や歯周ポケット形成へとつながることがわかっている。
これらの炎症過程と関連していると言われるのが、生物学的幅径の傷害である。生物学的幅径は歯の周囲にある上皮付着と骨縁上の結合識性付着として定義されるもので、歯根膜や歯槽骨に対し、防御的な機能を果たす生理的な位置づけがなされている。
a)歯周病既往の無い場合
生物学的幅径は平均で1.5から2.7mm、メタ解析では平均2.15mm(CO95% 2.01、2.29)であった。上皮付着幅の平均は0.57mmから1.14±0.49mmであり、前歯より臼歯の方が大きく、頬舌側より隣接面部の方が大きい(隣接面は>1mm、頬舌側は<0.9mm)。修復歯の方が非修復歯より大きいという。
次に結合識性の付着はというと、平均0.77±0.29から1.1±0.13mmで、前歯で0.71±0.24に対し小臼歯0.77±0.31mm、大臼歯0.89±0.31mmという報告があるが、歯種で差が無いという報告もある。隣接面が0.95±0.13mmから1.05±0.09mmに対し、頬舌側が1.13±0.13から1.31±0.12mmという。修復物のある歯では0.84±0.26なのに対し、非修復物0.76±0.29とのこと。
頬舌側では結合識性付着>上皮性付着 なのに対し、隣接面では結合識性付着<上皮性付着だという。隣接面の方が、付着破壊が起こりやすいということかも。

b)歯周病既往のある場合
生物学的幅径の平均は1.25±0.19mmから3.95±1.04mm、(最小0.5mmから最大6.4mm)。アタッチメントロスやPD深化と関係している。アタッチメントロスのない場所では2.43mmに対し6.08mmまでのアタッチメントロスのある場所は1.71mmと生物学的幅径は減少する。アタッチメントロスが6mm以上の場合は3.05±0.96mmなのに対し、2mmまでなら5.35±1.50mmという報告もある。歯周ポケットが深化している場合も同様に生物学的幅径は減少するようである。
平均アタッチメントロスが6mm以上の部位に外科的歯冠長延長術を施すと生物学的幅径は増加するようだ。外科手術後3ヶ月で1.96±0.05mmが6ヶ月後には2.19±0.06mmへと増加していた、という報告がある。他の研究でも平均アタッチメントロスが3-6mmの部位に対して外科的歯冠長延長術をおこなうと術後3ヶ月1.67±0.62mmが6ヶ月後1.87±0.83mmとなっていた。そのため、歯冠長延長術後の組織再構築には少なくとも6ヶ月は必要だろうと述べている。メタ解析ではアタッチメントロス3mm以上の被験者の平均生物学的幅径は2.3mm(CI95% 2.19,2.41)に達するようだ。
以上のように、部位や修復物の有無で生物学的幅径は相対的な変化を示すようだが、絶対的に提示できるような数値はないようだ。生物学的幅径を気にするよりは歯周組織の健康維持を考えましょうということか。)
(平成25年4月20日)


No.218
Histological responses of the periodontium to MTA: a systematic review.
Katsamakis S, Slot DE, Van der Sluis LW, Van der Weijden F.
J Clin Periodontol. 2013 Apr;40(4):334-44.

このシステマティックレビューの目的は歯内歯周病変に対して応用されたMTA修復が隣接する歯周組織の再生を誘導するか否かについてを検討することである。
2012年7月まで、MEDLINE-PubMed,、Cochrane-CENTRALとEMBASEが検索された。MTAに対する歯根膜の組織学的な反応が報告されたin vivoの研究が選別された。
文献のタイトルアブストラクト98をスクリーニングして、フルテキスト査読と手検索から24論文が残った。これらはすべて動物実験であった。ヒトの組織学的な報告論文はみられなかった。処置部位、介入方法、報告成績について研究プロトコールには多様性がみられた。動物研究の組織学的な結果から、炎症反応は最小限であり、骨治癒、歯根膜の存在とそれに一致してセメント質形成が示された。混和後の経過時間、細菌混入、根管の感染と炎症がMTAのセメント質伝導性に影響を与えていた。
非均一な研究プロトコールと実験方法の質の低さという選択論文に限界はあるが、その所見はMTAの生体親和性とセメント質形成能に関して、一致していた。実験的動物研究によりMTAが再生に至る治癒を促進することが示されている。良好にコントロールされた前向きヒトコホート研究でMTAの臨床成績を検討する明確な必要性がある。
(セメント質、ミネラルトリオキサイドアグリゲートMTA、歯根膜、歯周組織)
(歯髄と歯根膜の交通は根尖孔や副根管など解剖学的に特徴ある経路だけではない。破折線や穿孔といった医原性あるいは病的な理由によるものも存在する。後者の場合は歯周組織に感染や組織破壊が生じるために、歯周組織本来の構造に修復させる必要がある。そのような目的のための歯科材料として注目されるのがmineral trioxide aggregate(MTA)である。
MTAは逆根充剤として主に利用されるが、穿孔修復や覆髄剤としても用いられる。MTAは建築材として通常用いられるポートランドセメントにX線不透過性を付与する酸化ビスマスを添加した混和物である。成分はケイ酸三カルシウム、アルミニウム三カルシウム、カルシウム三酸化物、ケイ酸酸化物などだ。この材料は混和後水和が生じて酸化物が溶解、局所で水酸化イオンとメタルイオンが放出される。これによりpHが劇的に上昇し、カルシウムイオンが供給され、組織中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウム結晶が生じる。あるいは放出されたカルシウムイオンは組織液中のリンイオンと反応してハイドロキシアパタイト結晶レイヤーを生じるとも考えられている。
MTAの特徴として、細胞組織毒性のないことがあげられる。歯周組織線維芽細胞はMTAと付着して、正常な増殖と機能を果たしうることなどがビトロの実験から示されている。さらにMTAはヒト歯根膜線維芽細胞を刺激して、BMP-2遺伝子、アルカリフォスファターゼ、コラーゲンタイプIなどの刺激発現誘導も報告されている。
MTAと接する組織にはセメント質が形成されうることがvitroおよびvivoの実験から明らかにされている。これは石灰化物形成に必要とされる水酸化イオンやカルシウムイオンがMTA混和直後から4日間に渡って放出されていることとも関係しているようだ。
細菌感染があるとMTAによるセメント質形成量も減少するとされる。
MTAの応用で良好な歯槽骨添加のあることが報告される一方、線維性の被覆形成も報告されている。線維性の反応はセメント質形成欠如という否定的な解釈と炎症のない生体親和性の表れであるとする解釈もあるようだ。全てが良好でもなく、象牙質吸収やアンキローシスの報告もあるようだ。)
(平成25年4月14日)


No.217
A systematic review of the use of growth factors in human periodontal regeneration.
Darby IB, Morris KH.
J Periodontol. 2013 Apr;84(4):465-76.

細胞や動物実験モデルを用いて歯周組織再生における増殖因子の効果を示したエビデンスが数多くみられる。しかしながら、ヒト歯周組織再生を他の治療や手法との比較で増殖因子の効果を比較した文献は限定的に思える。そこで、この研究の目的は歯周組織再生に対して増殖因子を用いたヒト対象研究のシステマティックレビューをおこなうことと、増殖因子の効果を他の受け入れられているテクニックをと比較することである。
文献レビュー用の歯周治療における増殖因子の使用を同定するために、第一検索者と第二検索者間で同意した検索フレーズを基に電子および手検索がおこなわれた。システマティックレビューによって同定された論文は詳細に解析された。解析には、組み入れと除外基準、治療成績評価項目決定と解析、バイアスリスク、有害事象、一般集団に対する増殖因子の有効性についての結論あるいは推論などが含まれた。
5論文が組み入れ基準を満たしていた。2論文はその治療成績のメタ解析が可能である十分に類似の研究デザインであると判定された。選択論文から報告されている治療成績のほとんどは記述的であった。その論文はそれぞれのポジティブコントロールに少なくとも匹敵する歯周組織再生を立証していた。わずか2論文がそれぞれのポジティブコントロールに比較して有意に大きな治療成績を実証していただけであった。組織学的なエビデンスは他の再生治療法に比較して増殖因子を用いた時にはより優れた歯周組織再生と、ヒト対象研究で他の再生および骨増生技術に比較して優れた治癒と骨成熟を示していた。
システマティックレビューの限られた範囲ではあるが、リコンビナントヒト血小板由来増殖因子-BB(rhPDGF-BB)の使用は、骨伝導コントロールβ-リン酸三カルシウム(β-TCP)と比較して1mm程度優れた臨床的アタッチメントレベル獲得があった。rhPDGF-BBの使用は骨伝導コントロール、β-TCPと比較して40%程度のより優れた骨増生パーセンテージであった。最後に、rhPDGF-BBの使用は骨伝導コントロール、β-TCPと比較して2mm程度の骨増生増加割合であった。
(組織学、歯周治療学、血小板由来増殖因子、再生、レビュー、ティッシュエンジニアリング)
(前回に関連してレビューがあったので紹介する。
増殖因子と銘打ってはいるが、文献がそうだから仕方ないのだが実質PDGF-BBのみが対象となっている。前述の論文にもあったが、濃度が高ければよいと言うわけではなく、高濃度は抑制的に作用するようである。またPDGF-BBが治癒を促進させるのは確かなようであるが、CAL獲得、PD減少や骨増生など歯周組織再生を必ず生じさせているのかどうかは不明である。またその長期経過観察予後についてもまだ詳細は不明な点が多い。
統計学的には有意差があるのだが、コントロールと比較して増殖因子のCAL獲得の優位性は1mm程度である。)
(平成25年4月7日)


No.216
Platelet-derived growth factor promotes periodontal regeneration in localized osseous defects: 36-month extension results from a randomized, controlled, double-masked clinical trial.
Nevins M, Kao RT, McGuire MK, McClain PK, Hinrichs JE, McAllister BS, Reddy MS, Nevins ML, Genco RJ, Lynch SE, Giannobile WV.
J Periodontol. 2013 Apr;84(4):456-64.

(リコンビナントヒト血小板由来増殖因子(rhPDGF)は安全で6ヶ月に渡る短期間研究で示されるように歯周組織欠損治療に有効である。我々は限局型重度歯周組織欠損を有する患者において、PDGF-BBの効果と長期の安定性を評価するための、多施設、無作為、コントロール臨床治験をおこない、36ヶ月に及ぶ研究成果をここで提示する。
延長治験のために6臨床施設から135人の被験者が募集された。83人が36ヶ月間研究の最終段階まで参加し、解析に含まれた。この研究では局所の歯周組織骨欠損を1カ所有する患者において、2種類の濃度のPDGF (0.3あるいは 1.0 mg/mL PDGF-BB)を含む、あるいは含まないβ-リン酸三カルシウム足場マトリックスの局所投与を検討した。治療成功の臨床的およびレントゲン的エビデンスに対する合成解析は臨床的アタッチメントレベル(CAL)2.7mmと新生骨再生(LBG)1.1mmの生じた症例のパーセンテージとして定義した。
合成治療成績ベンチマークを越える被験者はrhPDGF-BB群で12ヶ月で62.2%から、24ヶ月で75.9%から、36ヶ月で87.0%であり、同じ時期のコントロールは比較するとそれぞれ39.5%、48.3%と53.8%であった(P <0.05)。全ての群で36ヶ月におけるCALとLBGに有意な増加はなかったが、CAL獲得、LBGと骨新生のパーセンテージの増加は期間中継続していた。これらのことは再生反応の安定性を示唆するものである。
合成足場マトリックスル中のPDGF-BBは、局所の歯周組織欠損を有する患者に対して、CAL獲得とLBGにおける合成成績によって評価される長期の安定した臨床的およびレントゲン的改善を促進する。
(骨再生、歯周病学、血小板由来増殖因子、無作為抽出臨床治験、再生治療、ティッシュエンジニアリング)
(PDGF-BBは歯根膜細胞や骨細胞に対して増殖、ケモタキシス作用を有して、臨床的に歯周組織再生作用のあることが多くの論文から示されている[100近い臨床および前臨床研究がある]。
今回は喫煙、骨欠損の深さ、骨欠損状態などの要因と骨再生との関連も調べているが、それぞれの要因で分類していくとサンプルサイズが小さくなって統計的な処理に耐えられなくなっているために、統計学的に有意な差のある結果は得られていない。ただ1,2壁性と3壁性の結果をみていると、1,2壁性では、時間が経過してもコントロールとPDGF-BB投与との差はあまり開かないが、3壁性ではコントロールでも時間と共に骨の再生量が増加して、PDGF-BB利用群との差が少なくなってきているようにみえる。やはり、残存骨壁が大きければ、その理由だけで再生可能性が高まるということか。
この研究ではPDGF-BB濃度0.3と1.0mg/mLを用いているのだが、0.3mg/mLを用いた場合によい成績(PD減少やCAL獲得)が得られている。高濃度の方が効果の少ない結果となることに関して理由は不明だが、高濃度のためにPDGF-BB受容体の発現に対してフィードバック制御がかかっているのかもしれないと考察されている。)
(平成25年4月4日)


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