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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p073(no.326-330)

No.330
Periodontal disease: modulation of the inflammatory cascade by dietary n-3 polyunsaturated fatty acids.
Sculley DV.
J Periodontal Res. 2014 Jun;49(3):277-81.

歯肉炎と歯周炎を含む歯周病は病原菌と生体の免疫反応との関係で引き起こされる。続いて生じる酸化ストレスと炎症性のカスケードは歯肉組織、歯槽骨そして歯根膜組織の破壊をもたらす。この論文は歯周病発生メカニズムと原因となる宿主-細菌相互作用およびフィッシュオイルによる栄養強化が防御効果を現す可能性についてのエビデンスをレビューする。食事と疾患との歴史的な研究は、n-3多価不飽和脂肪酸が多く含まれるフィッシュオイルの摂取と関節炎や冠状動脈疾患のような典型的な炎症性疾患の発生率が逆相関することを強調してきた。ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸などのn-3多価不飽和脂肪酸の摂取は膜リン脂質に取り込まれ、免疫反応に際して刺激後エイコサノイド産生を変化させる。これらのエイコサノイドは慢性炎症の消退を促す。その結果フィッシュオイルが炎症反応の制御因子となりえる、そして歯周病の重症度を緩和する可能性が提言された。試験的な動物研究およびヒト研究からこの効果の適応が得られた。歯周病と関連したフィッシュオイルの防御的効果の確立のためには、追加のヒト対象研究が必要だ。
(エイコサノイド、炎症、nー3多価不飽和脂肪酸、歯周病)
「せっかくだから前回話題にしたオメガ3多価飽和脂肪酸と歯周病のレビューも取り上げた。
歯周病は細菌によって引き起こされるが、その病原因子に対する生体の過剰な反応が組織破壊につながると考えられている。なので、過剰な炎症免疫反応を制御すれば、歯周病による歯周組織の抑制につながることになる。
n-3多価不飽和脂肪酸の炎症抑制メカニズムには、シクロオキシゲナーゼやリポキシゲナーゼ抑制を介したPGE2およびLTB4低下とそれに続く亢炎症性サイトカインの減少、NF-kBの抑制とそれに関わる亢炎症性メディエーター発現の減少が考えられている。またn-3多価不飽和脂肪酸由来のレゾルビンとプロテクチンをにより媒介される炎症の低下と炎症緩解の促進も観察されている。
とまあ、期待していいかな。」
(平成26年12月2日)


No.329
Docosahexaenoic Acid and Periodontitis in Adults: A Randomized Controlled Trial.
Naqvi AZ1, Hasturk H2, Mu L3, Phillips RS4, Davis RB5, Halem S6, Campos H7, Goodson JM2, Van Dyke TE2, Mukamal KJ5.
J Dent Res. 2014 Jun 26;93(8):767-773

歯周炎は細菌によって惹起される普遍的な慢性の炎症性疾患で、骨吸収、歯の喪失と全身の炎症を引き起こす。ドコサヘキサエン酸(DHA )のような長鎖オメガ3脂肪酸は動物実験では歯周炎を減少させる。ヒトにおいて低用量アスピリンを併用したDHA がヒトの歯周炎を改善するのかどうか、を明確にすることが我々の目的である。
我々は3ヶ月に渡る二重盲検プラセボコントロール対照試験をおこなった。中等度歯周炎患者55人がDHA 2000mgあるいは大豆/トウモロコシ油カプセルに無作為に割り振られた。すべての被験者は81mgのアスピリンを服用したが、他の治療は受けなかった。我々はポケット深さ5mm以上を有する歯の中から混合モデルを用いてポケット深さあたりのポケット変化を一次評価項目として解析した。広範に推測した方程式で評価した二次評価項目には歯肉炎指数、プラーク指数とプロービング時の出血が含まれた。歯肉溝滲出液サンプルはが高感度C反応性タンパク(hsCRP )とインターロイキン6と1β(IL-6 とIL-1β)での変化のために解析された。hsCRP を含む全身的炎症マーカーの変化を調べるために血漿が解析された。赤血球膜中の脂肪酸測定をおこなうことで付着を確認した。
45人の参加者が臨床研究を全うした。ベースライン時には同程度であったが、赤血球細胞原形質膜中のDHA 割合は介入群で3.6% ± 0.9%から6.2% ± 1.6%に増加し、コントロール群内では変化がなかった。DHA補助食品摂取は平均ポケット深さ (-0.29 ± 0.13; p = .03)と歯肉炎指数 (-0.26 ± 0.13; p = .04)を減少させた。プラーク指数とプロービング時の出血は変化しなかった。歯肉溝滲出液のhsCRP (-5.3 ng/mL, standard error [SE] = 2.4, p = .03)とIL-1β (-20.1 pg/mL, SE = 8.2, p = .02)両方にDHA とコントロール間に有意な補正された差がみられたが、IL-6 (0.02 pg/mL, SE = 0.71, p = .98)あるいはhsCRP (-1.19 mg/L, SE = 0.90, p = .20)には差はみられなかった。
この無作為コントロール研究において、アスピリン誘発性DHAサプリメントは歯周炎患者における歯周組織の状態を改善させる。
このことはこの補助食品が治療のために利用できる可能性を示している。。
(DHA 、臨床研究、脂肪酸、歯肉炎、炎症、オメガ-3)
「3ヶ月の臨床研究で、2,000mgのDHAと81mgの低用量アスピリン摂取は歯周病の改善をもたらした。全身的な炎症マーカーは変化していないのに、局所の炎症マーカーは変化を受け、そして臨床指数は中等度の変化となっている。
オメガ3脂肪酸は好中球により代謝され、レゾルビン、プロテクチン、マレシンと呼ばれる抗炎症作用物質へと変換される。この過程にはアスピリンが関与している。そのためか、オメガ3サプリメント(エイコサノイド3,000mg/日)やアスピリン単独摂取をおこなった報告では、歯周病の有意な改善が認められなかったようだ。
今回の研究ではアスピリンなしではどうなるか、他のオメガ3脂肪酸でも同様の傾向がみられるのかなどはわからない。しかし、服用するだけで歯周病が改善するとなると、これまでとはことなった歯周治療が開発される可能性がある。ほんとかな。」
(平成26年11月30日)


No.328
Smoking rate and periodontal disease prevalence: 40-year trends in Sweden 1970-2010.
Bergstrom J.
J Clin Periodontol. 2014 Oct;41(10):952-7.

スウェーデンにおける喫煙率と歯周病有病率との関係を検討することがこの研究の目的である。
喫煙習慣に関するスウェーデン国民統計から国民の喫煙率が検出された。1970から2010年にかけての喫煙率に基づいて、40-70歳の階層に対して、また喫煙関連相対リスクが2.0と20.0の間で、歯周病有病率推定が計算された。集団に対する喫煙の影響は人口寄与割合の概念に従って評価された。
スウェーデンにおける年齢で標準化した喫煙率は1970年の44%から2010年の15%に低下していた。喫煙の低下と歩調を合わせるように、喫煙関連相対リスクを10倍と仮定すると、計算された歯周病の推定有病率は26%から12%へと下がった。相対リスクの中等度以上の大きさの時でさえ、たとえば2から5倍、有病率の減少は明確であり、このことから現在のスウェーデンの有病率は40年前のレベルの20-50%であることが示唆された。人口寄与割合は、喫煙がなければ避けることのできるであろう疾患の部分を評価すると、10倍の相対リスクでは1970年で80%であり、2010年で58%であった。
計算された歯周病の有病率は喫煙率における変化と密接に関連している。喫煙率が低下すると、歯周病の有病率も低下するだろう。
(歯周病、人口寄与割合、有病率、喫煙)
「スウェーデンでは1950-60年に喫煙の全盛期だったそうで、その後健康志向の高まりからか喫煙率は低下している。
今回喫煙リスクを2から20倍のオッズ比で幾つか検討しているのだが、10倍をメインに据えて検討している。というのは、今回の研究と同じ歯周病の定義で、スウェーデンで行われた過去の疫学調査が喫煙リスクのオッズ比を11.8と報告しているからだ。」
(平成26年11月26日)


No.327
Vitamin D status and 5-year changes in periodontal disease measures among postmenopausal women: the Buffalo OsteoPerio Study.
Millen AE1, Andrews CA, LaMonte MJ, Hovey KM, Swanson M, Genco RJ, Wactawski-Wende J.
J Periodontol. 2014 Oct;85(10):1321-32.

ビタミンDはその免疫制御機能や全身的カルシウム濃度を維持する役割を介して、歯周病を予防するとの仮説が立てられている。著者らはWomen's Health Initiative Observational Studyに付随した研究において655人の閉経女性を対象に、血清25-ヒドロキシビタミンD [25(OH)D] レベル(1997年から2000年に回収)と、ベースライン時(1997年から2000年)からフォローアップ(2002年から2005年)までの5年間の歯周病計測値の変化との間の相関を検索した。フォローアップ時に25(OH )Dの計測値をも有する628人の女性で探索試験的な解析がおこなわれた。
歯周病における5年の変化を調べる4つの継続した測定値は歯槽骨の高さ(ACH )、臨床的アタッチメントレベル(CAL )、プロービング深さ(PD )と評価時に出血の見られた歯肉部位のパーセンテージを用いて評価した。25(OH )Dにおける10nモル/Lの差に対して、歯周病においての変化(ACH, CAL, or PD における1mmの変化あるいは出血歯肉部位のパーセンテージにおける1単位変化)に相当するベータ係数、標準誤差、P値を評価するために用いられた。モデルは年齢、学歴、歯科受診頻度、喫煙、糖尿病の状態、骨の健康に影響を与える現在の病歴、歯周病のベースライン時の測定値、肥満度指数、と余暇時のフィジカルアクティビティに対して補正した。
全対象者あるいは25(OH )D濃度 [ベースラインからフォローアップまでの25(OH)D 変化 <20 nmol/L]が安定している女性の亜集団(n=442)において、ベースライン時の25(OH)Dと歯周病測定値の変化との間に統計学的な有意差は観察されなかった。ベースライン時の歯周病の状態によって階層化した解析においても結果に有意な変化はなかった。
ベースライン時25(OH)Dと、歯周病測定値におけるその後の5年間の変化との間に関連はみられなかった。ビタミンD状態は歯周病の進行に影響しないのかもしれない。これらの結果を確認するためにはさらに研究が必要だ。
(歯槽骨喪失、疫学、歯周病、閉経、ビタミンD、女性)
「ビタミンDを持ち上げるような論文の後でこの論文を取り上げるのは意地の悪いことかも知れない。
ベースライン時重度歯周炎の人はビタミンD摂取が多いと歯周炎の進行が抑制される傾向がみられたが、残念なら統計学的な有意差がでるには至らなかったようだ。
歯周病の有病率はこれまでの種々の報告と同程度であったが、5年間の歯周病変化は小さく、これは歯周病リスク因子の低さにあると考えらた。この5年間の歯周病変化の低さがビタミンDと歯周病予防との関連を示すことができなかった理由のひとつかも知れない。歯周病の変化を検出するにはさらに観察期間が必要なのだろう。
カルシウム(1000mg/日以上)とビタミンD(400IU/日以上)のサプリメント使用者は、非使用者に比較して12ヶ月後のフォロー時の歯周病状態が良い、などビタミンDが歯周病の抑制に有益であることを示唆する過去の報告はある。今回の研究デザインではビタミンDの良さを示すことはできなかった、ということ。」
(平成26年11月23日)


No.326
Re-evaluating the role of vitamin D in the periodontium.
Stein SH1, Livada R, Tipton DA.
J Periodontal Res. 2014 Oct;49(5):545-53.

カルシウム制御を介した骨格系の健康維持に関する、ビタミンDの重要性がセコステロイドの決定的な機能として長く認識されてきている。多くの文献が口腔内骨密度と全身的骨粗鬆症の計測値の幾つかとの間に関連のあることを示し、骨粗鬆症/低骨密度が歯周疾患のリスク因子となる可能性が示唆されている。近年、ビタミンDの非骨格系機能が幾つかの理由で悪評を獲得している。カルシウム恒常性とは無関係の多くの細胞がビタミンD受容体を持っていることが証明されている。その細胞にはTおよびBリンパ球、と皮膚、胎盤、膵臓、精巣、大腸の癌細胞などがある。加えて、ビタミンD不足は世界的な流行で、疫学的なエビデンスがこのような状況と、心血管疾患と自己免疫疾患、高血圧、および種々の癌を含む多岐にわたる慢性の健康問題との関連を結びつけている。興味深いことに、血中ビタミンDレベルの減少が歯肉炎症の上昇と関連しているというエビデンスは増加しており、歯周組織を健康的に維持するための継続的なビタミンD充足という概念を支持している。宿主反応のうち、自然免疫および獲得免疫の構成要素を制御するビタミンD能力はこの過程で重要な役割を果たしているようにおもえる。
(免疫反応、歯周病、ビタミンD、創傷治癒)
「多くの研究から、ビタミンDとカルシウム摂取が歯槽骨吸収、歯肉炎症やアタッチメントロスの減少を促すことが示唆されている。たとえば血中ビタミンDレベルが低いとアタッチメントロスが多い、25(OH)Dレベルが高いと低い人に比べてプロ-ビング時の出血が20%低いなどが報告されている。さらには、ビタミンD不足は妊娠中に中等度から重度の歯周炎のリスクとなる。高齢者でビタミンD摂取が重度歯周炎の存在と逆相関するなどの報告もある。
ビタミンD特に活性型ビタミンDである1,25-(OH )2D 3は抗炎症作用や抗菌作用を有することが示されてきている。上皮における密着結合やギャップジャンクションに必要なタンパクに関わる遺伝子の亢進に重要な役割を果たし、結果として上皮の物理的なバリア機能を高めている。今ひとつは自然免疫における抗菌ペプチド強力な刺激因子としての役割である。その他免疫系への働きかけも知られている。これらのことより、ビタミンDは歯周組織の防御的な役割を支援している可能性があるようだ。」
(平成26年11月20日)


No.再掲
The impact of vitamin D status on periodontal surgery outcomes.
Bashutski JD1, Eber RM, Kinney JS, Benavides E, Maitra S, Braun TM, Giannobile WV, McCauley LK.
J Dent Res. 2011 Aug;90(8):1007-12.

ビタミンDはカルシウムと免疫機能を制御している。ビタミンD欠乏が歯周炎と関連していると言われる一方で、創傷治癒や歯周外科成績に及ぼす影響に関しての知見はほとんどみられない。この縦断的臨床研究は、ビタミンD充足あるいは欠乏被験者における歯周外科成績とテリパラチド服用の影響を評価した。重度慢性歯周炎患者40人が歯周外科処置を受けて、骨の治癒期間に相当する6週間、毎日カルシウムとビタミンDサプリメントを摂取し、そしてテリパラチドあるいはプラセボを自己投与した。血清25(OH )Dはベースライン時、手術の後6週間後と6ヶ月後に評価した。臨床的およびレントゲン的な成績は1年後以降に評価した。ベースライン時ビタミンD欠乏 [serum 25(OH)D, 16-19 ng/mL] であったプラセボ患者はビタミンD充足患者に比較して、臨床的アタッチメントレベル (CAL)獲得(-0.43 mm vs. 0.92 mm, p < 0.01) やプロ-ビング深さ (PPD)減少 (0.43 mm vs. 1.83 mm, p < 0.01)が有意に低かった。1年後のテリパラチド患者において、ビタミンDレベルはCALやPPD改善に有意な影響を与えなかったが、骨内欠損の改善はテリパラチド治療のビタミンD充足被験者において、欠乏被験者に比較するとより大きかった (2.05 mm vs. 0.87 mm, p = 0.03)。歯周外科処置時にビタミンD欠乏であることは1年後まで治療成績に負の影響を与える。これらの結果解析から、ビタミンD状態は外科処置後の治癒に重要と考えられる。
(ビタミンD、テリパラチド、副甲状腺ホルモン、歯周炎、歯周外科成績、骨治癒)
「ビタミンDはそのままの形では有効ではなく、活性型のビタミンD(1,25-ジヒドロキシビタミンD)に代謝される必要がある。この活性型ビタミンDへの変換はカルシウム、リンそして副甲状腺ホルモンの影響を受ける。
低ビタミンDレベルと歯周病との関連について言及すると、これまでにビタミンD不足が歯肉の炎症増加、歯の喪失、臨床的アタッチェメントロス、妊娠時の歯周病などと関連するとの報告がなされている。今回の研究では、外科処置時にビタミンDが不足していると、ビタミンD充足の患者と比べて歯周外科後の治癒成績がよろしくないことがわかった(12ヶ月後の時点でCAL獲得およびPD減少にそれぞれ1.35mmと1.4mmの差がある。これは過去の横断的な同様の研究によるCALの差0.21-0.39以上である)。
そして興味深いことに、手術時点からビタミンDサプリメントを摂取していたにも関わらず、ベースライン時のビタミンD欠乏と関連した歯周外科処置後における臨床成績の不良が見られている。なおビタミンDレベルは、術後6週後にはベースライン時に見られたビタミンD欠乏群と充足群間の有意差はなくなっている。ただ6週間ビタミンDサプリメントを服用し、その後摂取をやめると術後6ヶ月後にはもとと同じビタミンDレベルに戻っていた。
ところがテリパラチド群では事情が異なる。6週間ビタミンDを摂取し、その後摂取をやめた術後6ヶ月後でも、テリパラチドを自己投与している外科処置時ビタミンD欠乏群はビタミンDレベルが低下していない。このことが、テリパラチド群でビタミンD欠乏と充足群間に術後成績の差がなかった理由なのかもしれない。」
(平成26年11月18日)


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