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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p077(no.346-350)

No.350
Long-term evaluation of periodontal parameters and implant outcomes in periodontallycompromised patients: a systematic review.
Zangrando MS1, Damante CA, Sant'Ana AC, Rubo de Rezende ML, Greghi SL, Chambrone L.
J Periodontol. 2015 Feb;86(2):201-21.

このシステマティックレビューの目的は歯周治療/メインテナンスとインプラント治療を受けている歯周炎患者の長期予後を評価することである。
歯周治療とメインテナンスを5年以上受けている、部分的な無歯顎の歯周炎患者から、臨床的および/あるいは長期インプラント成績を報告している研究がこのレビューに適格と考えられた。論文のスクリーニング、データの抽出と質の評価は独立に重複しておこなわれた。
MEDLINE、EMBASEとCENTRALのデータベース検索は959論文で、そのうち931論文がタイトル/アブストラクト評価で除外された。28の適格可能性のある論文のフルテキストがスクリーニングされたが、10論文のみが組み入れ基準に該当した。含まれた研究のほとんどが(77.8%)中等度/高度な方法論の質を示した。
結果、歯周炎と診断された患者は満足のいくインプラント成績を示した。インプラントの残存は10年のフォローを報告する研究内では高かった(92.1%)。プロービング深さ、臨床的アタッチメントレベル、と歯の周囲骨吸収に関連するパラメーターはインプラント周囲炎とインプラント喪失の発生を増加させた。歯周メインテナンスに参加しないことと喫煙習慣は好ましくないインプラント成績と関連があった。
このシステマティックレビューは、適切な治療と定期的な歯周メインテナンスを受けている、歯周炎と診断された患者において、インプラント治療は成功して用いられることを確認した。残存するポケット、歯周メインテナンスプログラムへの不参加、と喫煙は長期のインプラント成績に対する負の因子であると考えられた。
(デンタルインプラント、オッセオインテグレーション、インプラント周囲炎、歯周炎、システマティックレビュー)
「歯周炎の病歴を持つ患者はインプラント周囲炎のリスクが増加するのだろうか。部分的欠損あるいは無歯顎患者は、高い存在(合併症の有無にかかわらずインプラントが存在していること)率のインプラントによって、予知的に機能回復が可能とするレビューがある。インプラント成功(合併症なしにインプラントが存在していること)基準を評価したとき、幾つかのレビューは、慢性歯周炎治療の既往のある患者は歯周組織が健康な患者に比較して、プロービング深さや辺縁の骨吸収が有意に大きく、インプラント周囲炎の発生が高いことを結論づけている。歯周メインテナンスが提供されないと、インプラント喪失の数は歯周治療の経験患者に比較してほぼ三倍になる。しかし歯周メインテナンスを受けている歯周炎患者では、インプラント失敗率は低い。
歯周炎患者へのインプラントであってもその生存率は高く92.1%である。歯の周囲に歯周ポケットが残存していたり、BOPが高レベルであると、インプラント周囲炎やインプラント周囲の歯周ポケット、臨床的アタッチメントレベル、と骨吸収との直接的な関連が見られる。
結局のところ、歯周炎があるかないか、診断の部分は大事だけれど、歯周炎が適切に治療され、患者が歯周メインテナンスプログラムに追従しているのであれば、インプラント治療は成功すると言ってよいであろう。
歯周炎の診断部分は重要であるが、それよりも長期にわたって疾患をコントロールすることこそが、インプラントを設置された、歯周組織に感染のある患者に必須なことである。残存する歯周ポケットとフォロー期間中にメインテナンスに参加しないこと、さらには喫煙がインプラント成績に対する負の要因である。」
(平成27年4月8日)


No.349
Cardiovascular risks associated with incident and prevalent periodontal disease.
Yu YH1, Chasman DI, Buring JE, Rose L, Ridker PM.
J Clin Periodontol. 2015 Jan;42(1):21-8.

歯周病罹患と心血管疾患リスクとの関連が指摘される一方、歯周病発症が将来の心血管リスクにどのように影響するかについてはほとんど知られていない。我々は主要な心疾患(CVD)、心筋梗塞(MI)、虚血性脳梗塞と総CVDの発症における、歯周病の発症と歯周病罹患の影響を比較した。
39,863人の前向きコホートにおいて、ベースライン時45才以上で心血管疾患のない主に白人女性が平均15.7年の追跡を受けた。時間によって変化する歯周組織の状態 [罹病 (18%),発症 (7.3%) 対 無病 (74.7%)]で コックス比例ハザードモデルが将来の心血管リスクを評価するために用いられた。
全てのCVD経過の発症率は歯周病罹患あるいは歯周病発症の女性で高かった。歯周病発症女性に対して、リスク因子調整危険率(HRs)は主要CVDに対して1.42(95% CI, 1.14-1.77)、MIに対して1.72 (1.25-2.38)、虚血性脳梗塞に対して1.41 (1.02-1.95)で、総CVDに対して1.27 (1.06-1.52)であった。歯周病罹患女性に対しては、調整HRsは主要CVDに対して1.14 (1.00-1.31)、MIに対して1.27 (1.04-1.56)、虚血性脳梗塞に対して1.12 (0.91-1.37)、総CVDに対して1.15 (1.03-1.28)であった。
すでに存在する歯周病だけではなく、新規歯周病症例は、将来的な心血管イベントに対して有意に上昇するリスクを女性にもたらす。
(C反応性タンパク、心血管系疾患、糖尿病、脳梗塞の家族歴、喫煙、生存率分析)
「これまでの研究では、対象とした人に歯周病があるやなきやで群分けをおこなって、心血管系疾患との関連を調べていた。ここではそれだけではなく、経年的に調べて、歯周病が発症した場合を群分けの基準として、同様の検討をおこなっている。結果、前者の場合と同様に、数値的にはむしろ高い危険率で関連性が認められている。
歯周病発症群の方が、歯周病罹患群よりもハザード比が高いのは何故か。歯周病罹患者の方は治療を受けてもいるだろうし、口腔清掃意識も高まっているだろう、それゆえ歯周病発症群よりもハザード比が低くなっているのではないかと、考察している。
今回の群内をサブグループ分けても、同じような関連性だったが、喫煙女性と非肥満女性では関連性が高くなる傾向を示したようだ。
ちなみに歯周病の発症罹患については、患者への質問票から決定されていて、直接の診査による評価ではない。質問票に対する回答形式を用いた患者自身による申告は、臨床診査によって定義される歯周病と高い関連性があるとの報告もあるが、果たしてどうだろう。」
(平成27年3月28日)


No.348
Effects of scaling and root planing on clinical response and serum levels of adipocytokines in patients with obesity and chronic periodontitis.
Gonçalves TE, Feres M, Zimmermann GS, Faveri M, Figueiredo LC, Braga PG, Duarte PM.
J Periodontol. 2015 Jan;86(1):53-61.

肥満が歯周病のリスク因子であることを示唆する幾つかの研究があるにも関わらず、肥満の歯周治療の反応に及ぼす影響についてはほとんど知られていない。この研究の目的は、慢性歯周炎(CP)の肥満患者における、臨床パラメーターとレプチンおよびアディポネクチンの循環レベルに及ぼすスケーリングとルートプレーニング(SRP)の影響を評価することである。
肥満のCP患者24人と肥満のないCP 患者24人がSRP を受けた。臨床パラメーターはベースラインと治療後3および6ヶ月後に評価された。レプチンとアディポネクチンの血清レベルは全ての時点で、酵素免疫測定法を用いて評価された。
SRPにより3および6ヶ月後に、両群とも臨床パラメーターの改善があった (P < 0.05)。そうではあったが、肥満のない患者は全顎の解析(主要評価項目)と最初の時点で深い部位において、治療6ヶ月後に、より低い平均プロービング深さ(PD)とベースラインから6ヶ月後にPDの著しい減少を示した(P < 0.05)。治療後、肥満のある患者群およびない患者群いずれも、血清のレプチンとアディポネクチンレベルについては変化がなかった (P > 0.05)。
肥満のあるCP患者は肥満のない患者よりも、SRP6ヶ月後時点におけるPDの減少が低かった。さらにいずれの群においても治療はレプチンおよびアディポネクチンの循環レベルに影響を与えなかった。
(アディポカイン、アディポネクチン、慢性歯周炎、レプチン、肥満、ルートプレーニング)
「肥満と歯周炎との関連性についての報告がなされている。肥満が慢性の全身炎症状態を引き起こして、歯周炎の発症進行に影響を及ぼす一方、歯周炎が亢炎症に傾く方向に、アディポサイトカインの全身レベルに影響を与えている可能性が指摘されている。肥満が歯周治療の反応に及ぼす影響についての研究は少なく、その結果については相反している。
さて、今回の研究では、肥満のあるなしに関わらずSRPによって、治療の効果は得られたが、肥満の人はその治療効果が低かった。これまでの同様の研究では、前述したように差があるという報告、ないという報告がある。同じようなプロトコールではないので、単純な比較はできないようだ。
脂肪組織は亢炎症あるいは抗炎症性サイトカインの内分泌器官として機能している。レプチンは前者、アディポネクチンが後者の代表的なサイトカインである。今回の研究では肥満の患者では期間中ずっとレプチン濃度が(歯周病のあるなしに関わらず)高かった。歯周炎と、高レプチンおよび低アディポネクチンは関連があるという報告があるので歯周治療によってこの全身的なレプチンおよびアディポカインレベルの変動が予測されたが、歯周治療をおこなっても全身的なレプチンおよびアディポネクチンレベルに変化は生じなかった。その理由として、メインテナンス時の深いPDの残存をあげている。肥満患者ではPD>5mmの割合がベースライン時と治療6ヶ月後でそれぞれ、22.3±10.4%と9.9±9.4%であったのに対し、非肥満患者では同様に 25.4±11.8%と11.6±8.2%であった。PD>5mmの部位が減ってはいるけれど、少なからず残存し、歯周組織の炎症持続がレプチンやアディポネクチンレベルを変化させるに至らなかった、という考察だった。」
(平成27年3月17日)


No.347
Association between alcohol consumption and periodontal disease: the2008 to 2010 Korea National Health and Nutrition Examination Survey.
Park JB, Han K, Park YG, Ko Y.
J Periodontol. 2014 Nov;85(11):1521-8.

アルコール消費と歯周病との正の関連性が報告されている。それゆえ、本研究は韓国国民健康栄養調査(KNHANES)を使って韓国人集団の大規模確率集団における、アルコール摂取と重度歯周病との関連を評価するためにおこなわれた。
韓国疾病対策センターと韓国厚生省による慢性疾患調査部門で、2008から2010年におこなわれたKNHANESからのデータがこの研究に用いられた。
参加者の人口統計学的変数と 身体計測的および血液学的特性に従って、歯周治療の必要度の存在が平均と標準誤差として提示された。多変量ロジスティック回帰分析が、歯周治療の必要度とアルコール摂取量あるいは喫煙や一日何回ブラッシングをするかなどを含む他の変数との関連性を評価するために用いられた。
変数で補正した後、アルコール飲酒と歯周治療の必要度間の関連性が、男性で認められた。男性における調整オッズ比(ORs)と95%信頼区間(CIs)は、年齢、喫煙、肥満度指数、運動、教育、収入、白血球数、糖尿病、高血圧、メタボリックシンドローム、一日の歯磨き回数でコントロールした後、飲酒量の多い人に対して1.271 (1.030 to 1.568)であった(モデル3)。モデル3のアルコール使用障害特定テスト (AUDIT) レベル ?20に対して、男性のORsとその95% CIsは1.569 (1.284 to 1.916)であった。ORsはアルコール消費レベルとAUDITレベルの増加とともに上昇した。飲酒と歯周治療必要度との統計学的な有意な関連性は女性の大量飲酒者やAUDITレベル ?20の女性飲酒者ではみられなかった。
多量のアルコール摂取男性は、その年齢、社会経済的な要因、全身状態(糖尿病、高血圧、メタボリック症候群を含む)、と一日のブラッシング回数に関連なく、多変量調整モデルにおいて治療必要性の高い有病率を有してる傾向であった。対照的に女性では、アルコール飲酒は歯周治療の必要性と独立して関連していないように思えた。アルコール消費はこの研究対象となった男性において、歯周治療の必要性に対する重要なリスク指標であることが見いだされた。
(アルコール飲酒、横断的研究、疫学、歯周疾患指数、歯周炎、歯ブラシ)
「飲酒と喫煙は結びつきが強そうな事象だ。それなので、喫煙が交絡因子ではないか。ということなのだが、、、、男性喫煙者のうち50.7%が歯周治療の必要性があり、非喫煙者では46.1%であったのに対し、一方女性の喫煙者と非喫煙者ではともに6.6%であった、と述べられてはいるが、それ以上の考察はない。
飲酒がどう歯周病に関わるのか。好中球の機能を損なわせるとともに単球の炎症性サイトカイン(IL-1 、6やTNFαなど)産生を増加させる、その結果、細菌の増殖と組織内への侵入を許すために歯周病が悪化する。あるいはアルコールは単球によるプロスタグランディンE2産生を上昇させ、直接的に骨吸収を促進するというコメントだった。」
(平成27年3月15日)

No.346
Smoking decreases structural and functional resilience in the subgingivalecosystem.
Joshi V1, Matthews C, Aspiras M, de Jager M, Ward M, Kumar P.
J Clin Periodontol. 2014 Nov;41(11):1037-47.

特に喫煙者においては、共生バランスが崩れた微生物群は幾つかの口腔疾患の原因論の根拠となる。バランス失調状態から回復して、健康状態に匹敵するコミュニティへ再構築する生態系の能力は、回復力として知られる特徴のことであるが、将来の疾病に対する感受性に重要な役割を果たしている。この研究は縁上および歯肉縁下バイオフィルムにおけるコロニー形成動態と回復力に及ぼす喫煙の影響を調べるためにおこなわれた。
縁上と歯肉縁下プラークおよび歯肉溝滲出液サンプルが、ベースライン時、炎症の消散後、介入を受けないプラークが形成されたから1,2、4,7,14と21日後、そして炎症の消退後に採取された。16Sクローニングとシークエンシングが細菌の同定に用いられて、マルチプレックスビーズフローサイトメトリが27の免疫メディエーター定量に用いられた。
喫煙者は初期に病原的コロニーが形成されることが示された。このコロニーは歯周組織と呼吸器系病原菌を豊富に含んで持続し、著しい免疫反応が引き起こされた。喫煙者はまた、病原種がより多く、歯肉縁上縁下の生態系間に組成の関連性が少なく、第二の疾患発症が消退した後に有意に高い亢炎症反応を示した。
歯肉縁下の微生物群ゲノムが疾患発症の後にリセットされる能力は喫煙者では減少している。それゆえに生態系の回復力は低められ、将来の病気に対する抵抗力は減少する。
(16S DNA、細菌、実験的歯肉炎、宿主細菌相互作用)
「喫煙は共生バランス失調を促進して、微生物群のバランス回復力を減少させ、それが故に、宿主ー細菌の平衡状態を崩すことによって、病気に対するリスクを増加させる、というのが基本の考え方です。
この研究では、まず歯肉炎の状態(最初の疾患状態)があって、TBIとプロフィラキシスをおこなうことで炎症の消退をはかる(R1)。そして7-10日後に健康な歯肉状態が維持されているのを確認する(healthy Phase)。その後プラークを21日まで蓄積させて実験的歯肉炎状態(第二の疾患状態)を作る。そして、再びTBIとプロフィラキシスをおこなって消炎をはかる(R2)。というのが実験プロトコールだ。
非喫煙者ではどうなったかというと、R1とR2の細菌プロファイルはhealthy phaseとほぼ同じだった。この健康的な歯肉状態ではStreptocicciとVeillonella(両細菌は栄養共生)が優勢であった。そしてプラークの蓄積とともに両細菌は減少している。またStreptococcus、ActinomycesとSelenomonasも相利共生関係にあるらしい。ある被験者で早期に高いレベルでSelenomonas(このとき、StreptococcusとActinomycesとの高い相関がみられている)が検出されて、また歯肉炎も早くに発症していたという。これらのことより、StreptococcusとActinomycesが高いレベルは病的状態への予知因子と考えて良いかも知れない。というのも、Selenomonasは歯周病原生菌として注目されており、そのSelenomonasが増加して歯肉炎が惹起されると考えるからである。
一方喫煙者はどうかというと、早期に歯周病関連細菌が増加するようだ。その理由として、喫煙の作用として、1)酸素分圧を減少させる、2)歯肉縁下温度を上昇させる、3)酸化還元電位を減少させる、4)遊離鉄量を増加させる などがあり、これが歯周病関連細菌を好んでコロニー形成させうると考察している。
喫煙が初期のコロニー形成菌による微小環境を支持しない環境を作るために、菌叢は高度な多様性があり、病原性豊富で、非安定的なコミュニティとなり、破壊と亢炎症状態を生じやすくする。」
(平成27年3月6日)

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