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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p032(no.121-125)

No.125
The effects of chronic periodontitis and rheumatoid arthritis on serum and gingival crevicular fluid total antioxidant/oxidant status and oxidative stress index.
Esen C, Alkan BA, Kirnap M, Akgul O, I??ko?lu S, Erel O.
J Periodontol. 2012 Jun;83(6):773-9.


慢性歯周炎(CP)とリウマチ関節(RA)は多くの病理学的特徴を共有しているようにみえる。そしてCPとRA両者の病因には、酸素代謝が重要な役割を果たしている。この研究の目的は、抗酸化および酸化状態に関して、これら二つの慢性炎症性疾患間の関連を評価することである。
総数80名の参加者が20人ずつの4群に分けられた:RA-CP群(RAとCPともに罹患)、RA群(歯周組織は健康なRA患者)、CP群(全身的には健康なCP患者)、C群(歯周組織にも全身的にも問題なく健康ボランティア)がこの研究に含まれた。歯周組織の評価をおこなった後、歯肉溝浸出液(GCF)サンプルが切歯、小臼歯、大臼歯で採取され、抗酸化/酸化アッセイのために-80度で血清とともに保存された。
RA-CPとCP群での全ての臨床データはCやRA群のそれと比較して統計学的に高い値を示した(p<0.001)が、CP群とRA-CP群間に差はなかった(p>0.05)。CPとRA-CP群のGCF総酸化状態(TOS)値はRA群のそれより高かった(p<0.05)。RA-CP群のGCF酸化ストレス指数(OSI)はRA群のそれより高かった(p<0.05)。血清TOSとOSI値に関しては群間に差は認められなかった(p>0.05)。
CP患者群における局所のOSI値は他より高い一方、全身的なOSI値は群間で差を認めなかった。RAの存在はCP患者における局所および全身的なOSI値に影響を与えているようには思えない。
(私の感想など:どうして、慢性関節リウマチ、歯周病、酸化ストレスか、論文のイントロから書く。
関節リウマチは、いくつかの原因が考えれれているものの、その発病機序が明確にはされていない疾患の一つである。リウマチの炎症には酸化ストレスが関与していると指摘され、酸素消費の増加、嫌気性解糖、酸素ラジカル生成が病状悪化に関わっているという。
歯周病と関連した全身的疾患として糖尿病、アテローム性動脈硬化症、心筋梗塞、や脳卒中などがあるが、RAもまたそのような歯周病との関連が指摘される全身疾患のひとつである。一般の集団に比較してRAでは歯周病罹患率が高い、RA患者では活動性の歯周炎と関連しているなども報告されている。
ごく最近ではPorphyromonas gingivalisが媒介して、細菌あるいは生体のたんぱく質がシトルリン化するメカニズムも提唱されている。シトルリン化とは、たんぱく質アルギニン残基に脱イミン反応が生じた後にシトルリン化する反応のことである。関節リウマチ患者の関節滑膜内にはシトルリン化された大量のシトルリン化タンパク質が存在し、これが自己抗原となって自己抗体の産生、免疫異常が発生ており、これが関節リウマチの病態だと考えられている。
全ての生物系は分子を酸化するために酸素を要求する。このことにより生命維持に必要なエネルギーを産生する。しかし、生物系での酸素分子が減少するとフリーエネルギーが放出されROSやフリーラジカルが生じてしまう。ある条件下では、オキシダントの過剰産生や抗酸化物質の減弱は不可避となる。そのために、オキシダントと抗酸化物質のバランスが崩れると細胞障害や有害な酸化反応が生じてしまう。酸化ストレスは歯周病の病態形成や、あるいはRAにも有害な影響を与えることが示されている。
そこで、慢性炎症たる歯周炎と関節リウマチを抗酸化と酸化状態との観点から両者の関連を検討してみようということだ。
しかし、過去には両者の関連を指摘する報告もあるが、今回の研究ではそのような結論を示唆するデータは示されなかった。
RAではしばしば近位指節関節や中手指節関節などに障害があり、口腔清掃に支障が生じる。それで、関節リウマチでは歯周病になりやすい、という意見もある。しかし、今回の研究では歯周病群とそうでない群でのプラーク指数に差が見られなかった。対象となったRA患者の年齢が比較的若いので、口腔清掃に差が出るほどに手指の関節障害が進行していないと考察されている。
結論として、1)RAは歯周炎患者の臨床パラメーターに付加的に悪影響を与えない、2)
歯周炎患者のGCF OSI値は歯周組織が健康な人より高かった、3)歯周炎がある時に、
RAは血清とGCFのOSI値に影響していないようだ、4)OSIはTASやTOSよりも意味のあるパラメーターと考えられる。)

抗酸化、関節炎、リウマチ、慢性歯周炎、歯肉溝浸出液、酸化ストレス
(平成24年6月25日)


No.124
Er:YAG laser treatment in supportive periodontal therapy.
Ratka-Kruger P, Mahl D, Deimling D, Monting JS, Jachmann I, Al-Machot E, Sculean A, Berakdar M, Jervoe-Storm PM, Braun A.
J Clin Periodontol. 2012 May;39(5):483-9.


本研究の目的は、前向きランダム化コントロール、多施設研究デザインで、残存する歯周ポケット治療に対して音波デブライドメントと比較したEr:YAGレーザーの臨床的および細菌学的成績を評価することでる。
2カ所のポケットが残存し、サポーティブペリオドンタルテラピーを受けている78人の患者が対象となり、58人が試験期間を最後までフォローされた。根表面は音波スケーラー(Sonicflex(R) 2003 L) あるいはEr:YAGレーザー(KEY Laser(R) 3)のいずれかで処置された。臨床的アタッチメントレベル(CAL)、プロービング深さ(PD)、プラークコントロールレコード(PCR)とプロービング時の出血(BOP)がベースライン時、処置後13と26週に評価された。加えて、DNA診断テストキット(micro-IDnet Plus)が細菌学的解析のために用いられた。
プロービング深さとCALは、群間の有意差がなく(p>0.05)、両群ともに期間中に有意な減少を示した(p<0.05)。BOPは頻度値が両群内で有意に減少した(p<0.05)。PCR frequency valueは観察期間内で変化は認めなかった(p>0.05)。細菌学的検索からは治療群や期間に基づくいかなる有意差も見いだすことができなかった。
サポーティブペリオドンタル治療における音波およびレーザー治療は、臨床的および細菌学的に同程度の結果が期待できる。

(私の感想など:レーザーだとSRPに比較して根面のセメント質除去量は限定的だ。SPT期間中は根面の歯石や病原因子はすでに、SRPによって除去された後なので、最小限の根面掻爬だけでよい。そういう意味ではSPT期間中はレーザーの方が理にかなった処置であろう。
音波と比較した今回の研究からSPT期間中では、エルビウムヤグレーザーは音波スケーリングと同等の臨床効果を持つという。また細菌学的な検索結果も同等であった。でもそれなら、購入費用のかかるレーザーでなくても、音波スケーラ-で良いのじゃないかと、思ってしまう。)
アタッチメントレベル、Er:YAG laser、細菌学、サポーティブペリオドンタルセラピー
(平成24年6月21日)


No.123
A novel intraoral diabetes screening approach in periodontal patients: results of a pilot study.
Strauss SM, Tuthill J, Singh G, Rindskopf D, Maggiore JA, Schoor R, Brodsky A, Einhorn A, Hochstein A, Russell S, Rosedale M.
J Periodontol. 2012 Jun;83(6):699-706.


このパイロット研究は、歯周治療の際に歯肉溝からの出血(GCB)を用いた糖尿病の新しいスクリーニング方法が、ヘモグロビンA1c(HbA1c)に対する試験として用いることができるかどうかを検索することである。
120人の患者から指先血(FBS)サンプルとプロービング時出血(BOP)の利用可能な患者からGCBサンプルが特殊な血液回収カードで回収され、検査室でHbA1cのために解析された。75の対応のあるFSBとGCBサンプルに対して、FBSとGCBのHbA1c値間相関を測定するためにピアソン相関係数が用いられた。
75の対応サンプルに対してピアソン相関係数は0.842であった。ROC解析は高い感度(0.933)と高い特異性(0.900)を有し、FSB HbA1c値6.5%(糖尿病を示す値)に相当する値として、GCB HbA1c試験では6.3%という判断基準値を同定した。27の追加対応サンプルに対してGCB HbA1c判断基準値を用いると、検査でそれらのサンプル中にはGCB HbA1cの溶出枠内に、共溶出する未同定の成分が観察されたが、両サンプル値は糖尿病基準値範囲内あるいは範囲外かどうかに従って判断すると、対応する24サンプルに対しFSBとGCB間に一致をみた。
6.3%の判断基準値を用いると、GCBサンプルはGCB回収部位でBOPを伴うほとんどの患者で、糖尿病のためのスクリーニングHbA1c試験として目的にかなうものである。
(私の感想など、歯周病と糖尿病の関連性が言われる。それで、糖尿病なら歯周病もチェックしてもらいなさいよと言い、歯周病なら糖尿病かどうかも診てもらいなさい、ということになる。ただその時、歯科医師の側からするとできれば客観的に糖尿病を強く示唆する検査値があった方がより説得力が増す。採血すればハッキリするだろうが、歯医者に行って血をぬかれる、というのはなじみがないので、する方もされる側もかなり抵抗がある。そこで、このパイロット研究の登場だ。口の中を触って、糖尿病の検査値がでるようならあまり気にならないだろう。
この研究の対象患者はアクティブな歯周病治療を受けているか、メインテナンスという患者さんなのだが、歯周病の状態がどの程度か、臨床データがないのでよくわからない。それでも120人中102人は口腔内からプロービング時の出血を用いてサンプル採取が可能だったという。治療前や歯周病のひどい人は歯肉からの出血も多いだろうから、一般論としてサンプル採取の可能性は高い。サンプルをラボへ送らないといけないので、少し手間がかかるのと検査結果がすぐにはわからないというのが欠点だが採血よりはましだろう。指先血も検査は可能だが、通常の患者さんにはなかなか協力してもらいにくい。
データをみるかぎり、この方法による検査結果の信頼性は高いように思える。検査はHPLCを用いているのだが、一部のサンプルにはHbA1c溶出にかぶって共溶出する雑共物の存在があるようだ。歯肉溝あるいは歯周ポケットからの出血サンプルなので、唾液やプラーク由来なのだろうが、サンプル採取部位や方法の工夫で混入が減らせるのか、サンプル採取後の処理で解消できたりするのだろうか、今後検討されるのであろう。
ちなみにこの研究の対象患者では16.7%が糖尿病、55%がプレ糖尿病という検査結果だったそうだ。
この検査方法はまだ確立されていないようだが、指先のHbA1c検査と比較して、どうだろうね。一長一短があるので、どちらも利用できて使い分けることができるのがいいだろう。歯周病で、糖尿病についても、と考えるときに、より簡便な抵抗感の少ないのはどちらの方法だろうね~、とは思う。)
糖尿病、歯周炎、保健歯学
(平成24年6月17日)


No.122
Inflammatory biomarkers in saliva: assessing the strength of association of diabetes mellitus and periodontal status with the oral inflammatory burden.
Yoon AJ, Cheng B, Philipone E, Turner R, Lamster IB.
J Clin Periodontol. 2012 May;39(5):434-40.


この研究の目的は唾液中の炎症マーカーで評価した際に、タイプ2糖尿病と口腔炎症負荷を持つ歯周炎との関連性の強さを決定することである。
タイプ2糖尿病を有するあるいは有しない192人の被験者から無刺激唾液が集められた。βグルクロニダーゼ(βG)は比色定量法で、インターロイキン-1β(IL-1β)は酵素免疫測定法で測定した。両メディエーターの濃度は臨床パラメーター、歯周病と糖尿病の重症度との関連で評価された。
回帰分析から、糖尿病と歯周病は、唾液中のβGの濃度上昇と独立して正の相関が見られた(p < 0.01)。さらに、歯周炎の唾液中βGレベルに対する関連性は、糖尿病状態が持つ関連性の強さよりも大きかった。唾液中のIL-1βは主に歯周病の重症度と関連がみられたが(p<0.01)、糖尿病の存在との関連性はなかった(p=0.50)。
この研究は唾液中の炎症マーカーによって評価し、口腔内における炎症反応の性質を調べた。歯周病と糖尿病は共に口腔内炎症負荷と独立して関連しており、そして歯周病の影響の方がより顕著であった。
(私の感想など:唾液中のβGは歯周炎と強い相関があった。一方、DMとも相関があるが歯周炎と比較すると弱かった。というのも、無歯顎や歯肉炎/軽度歯周炎では、非糖尿病より糖尿病の人の方がβG値が高いが、重度歯周炎では両者に差が見られなかったのだ。つまり、歯周炎が重度ともなると、その影響が強く出るので、糖尿病かどうかは関係なくなってくるようだ。βGは炎症マーカーの一つで、好中球から放出される酵素なので、好中球の流入を反映している。歯周病では、歯肉溝(歯周ポケット)への流入だ。糖尿病でも血中の好中球の異常な活性化が見られるようで、局所でもそれを反映していると考察している。また高血糖も好中球の流入を直接引き起こし、さらにNADPH oxidaseを亢進させるとのこと。
IL-1βはというと、歯周炎との関連が認められたものの、糖尿病では関連性を示すことができなかった。血糖値を下げる薬剤にはIL-1βレベルを下げる作用があるらしく、関連性のなかったことの部分的な理由になるかも、と考察している。
唾液は、口腔内の炎症を強く反映しやすいが、糖尿病については弱く、その影響は二次的であるようだ。)
バイオマーカー、タイプ2糖尿病、口腔内炎症、唾液
(平成24年6月14日)


No.121
A comparison of Er:YAG laser and mechanical debridement for the non-surgical treatment of chronic periodontitis: A randomized, prospective clinical study.
Soo L, Leichter JW, Windle J, Monteith B, Williams SM, Seymour GJ, Cullinan MP.
J Clin Periodontol. 2012 Jun;39(6):537-45.


この研究の目的は、臨床的患者本位の成績を評価項目として、慢性歯周炎の治療に対するエルビウムヤグレーザーデブライドメント(ERL)波長2940nmの単独治療とスケーリングルートプレーニング併用とを比較することである。
28人の被験者が、口腔内4分割のうちの2カ所をERLで、2カ所をSRPで処置を受けた。全顎のプラーク指数、プロービング深さ、プロービング時の出血、臨床的アタッチメントレベルと歯肉退縮が、ベースライン時と処置6、12週間後に記録された。治療期間および治療後に疼痛、不快感と満足度を評価するために質問票が利用された。22人の被験者が予定されたすべての治療を受け、6および12ヶ月後の臨床評価を受けた。
ERLに比較して、SRPは6および12週間後に平均ポケット深さを著しく減少させ(それぞれp=0.01とp=0.003)、そして6週間後にのみ4mm以上のポケットを大幅に減少させた(p=0.03)。またSRPはERLに比較して、12週間後BOP部位の有意な減少がみられ、6週間後(p=0.02)および12週間後(p=0.03)での平均臨床的アタッチメントレベルに統計学的に有意な減少が見られた。患者は治療当日についてはSRPでより良好な満足度を示したが、その後は同程度の満足度であった。
SRPはERLに比較して、臨床パラメーターや患者満足度において統計学的に有意な短期間での改善を示した。
(私の感想など:SRPの方が良い成績を示したということ。逆の言い方をすれば、ERLは通常のSRPに比べて臨床成績も悪く、患者の不快感も大きいという結論だ。これが結果なので別に文句をつけるような筋合いではない。しかし論文イントロで メカニカルデブライドメントにはデブライドメント範囲に限界がある、メカニカルな治療に不快感を訴える患者がいる、ERLには強い抗菌効果がある、侵襲性が少なく根面のデブライドメント作用があると述べて、だからERLの臨床効果を検討したというくだりが虚しく聞こえる。
ERL効果に関する過去の報告では効果が一致していない。さらなる検討が必要だと言われているから今回検討したと述べたいるのだが、結果はいいとこなしであった。研究デザイン、対象患者、除外基準、レーザーパラメータ、臨床評価項目などに研究間での差があるからと、考察では述べているが、術中直後の不快感や痛みがSRPに比べて劣ると言うのは言い訳できないんじゃないだろうか。 ERLそのものがイケてないかそのやり方がまずいのかSRPが上手いのか。 臨床成績にせよ患者本位の評価にせよERLの優位性を示せるあるいは示そうと思って、本当に取り組んだのかしらん。)
慢性歯周炎、エルビウムヤグレーザー、非外科的治療、スケーリング
(平成24年6月9日)



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