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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p080(no.361-365)

No.365
Management of periodontal disease in patients using calcium channel blockers - gingival overgrowth, prescribed medications, treatment responses and added treatment costs.
Fardal O, Lygre H.
J Clin Periodontol. 2015 Jul;42(7):640-6.

歯肉増殖(GO)はカルシウムチャンネル拮抗薬(CCBs)を使用する患者の薬物副作用の1つである。歯周病管理に及ぼすCCBsの影響についてはほとんど知られていない。この研究の目的は、CCBsの使用が歯周治療を受けている患者において、長期のサポーティブ治療と成績にどのような影響を与えるかについて評価することである。
初期治療及び/あるいはサポーティブペリオドンタルセラピー(SPT)期間中にCCBsを使用する全ての患者が歯周治療開業医から選択された。患者は歯肉増殖指数(GOI)を用いて点数化された。CCBsタイプと用量の効果が、GOの頻度と重症度、治療の反応、薬剤代替物、追加の治療費用に関して評価された。マンホイットニー検定が口腔清掃の良好な患者と不良な患者間でGOに対する有意差、CCBsを終了あるいは代替する前後間での差、薬剤用量(ジヒドロピリジン5mgと10mg)間の差、そして3つの薬剤(CCBとレニンーアンジオテンシン系阻害剤(IRAS)、CCBと非IRAS、CCBとスタチン)併用間の差を評価するために用いられた。
124人(女性58人、男性66人で患者集団の4.6%)がCCBsを用いていた。103人が評価された。平均年齢は66.53歳(SD9.89、42-88歳)で観察期間は11.30年(SD8.06、1-27年)であった。89人の患者がGOで、これらのうち75人がGOに対する治療が必要だった。服用中止かCCBsの代替物による変更はそれぞれ歯肉増殖(p = 0.00016, p = 0.00068) を有意に減少させた。口腔清掃良好と不良間(p = 0.074)、薬剤用量、あるいは種々の薬剤併用に差はみられなかった。GOをコントロールするためには、非外科的治療よりも外科的治療がより有効であった。長期の歯の喪失は1年、患者あたり、0.11歯であった。42人の患者GOの再治療が必要で、患者一人当たり、13471ユーロの追加の人生コストになった。
CCBs使用患者の大多数(86.4%)がGOを経験していた。これらのうち47.2%がSPT期間中にGOの再発も経験し再治療が必要で追加の費用が生じた。長期の歯の喪失は同じ開業医で、他の患者群と比較して、CCBs使用者はかなり高かった。
(カルシウムチャンネル拮抗剤、歯肉増殖、メインテナンス治療、歯周病、治療費用)
「カルシウムチャンネル拮抗剤による歯肉増殖は、報告によって発症率に大きな差があるが、服用者の6.3~83%と報告されている。
カルシウムチャンネル拮抗薬が何故歯肉の増殖を引き起こすのか、メカニズムの詳細はわかっていない。非炎症性の理由としては、葉酸取り込みの増加によるコラゲナーゼ活性の障害、アルドステロン合成の阻害やケラチノサイト増殖因子の上昇がある。炎症性の理由としては、歯肉溝滲出液中での、濃縮された薬剤の毒性効果(幾つかのサイトカインを亢進させるが、特にTGF-β1)があげられている。
カルシウムチャンネル拮抗剤を変更するか、中止するかをすることで歯肉増殖は改善したが、全て解消したわけではないので、カルシウムチャンネル拮抗剤の作用は不可逆的であることが示唆された。
口腔清掃の良好な患者は口腔清掃不良な患者に比較して歯肉増殖は減る傾向であったが、統計学的に有意な差ではなかった。薬剤用量の変化は歯肉増殖に影響を与えず、これは今までの報告と同じであった。レニンーアンギオテンシン系阻害剤との併用は末梢の浮腫を減少させるが、この組合せは歯肉増殖には影響しなかった。同様にカルシウムチャンネル阻害剤とスタチンとの併用も歯肉増殖に影響しなかった。スタチンは重度歯周炎を抑制するかも、という話があるが、今回はそれに注目した解析はおこなっていない。ただ、スタチン併用患者の歯の喪失率が過去の報告の3倍もあるので、スタチンが歯周病に対して抑制的という話は眉唾くさいかも、という感想のようだ。」
(平成27年8月6日)

No.364
Increased infection with key periodontal pathogens during gestational diabetes mellitus.
Gogeneni H, Buduneli N, Ceyhan-Ozturk B, Gumu? P, Akcali A, Zeller I, Renaud DE, Scott DA,Ozcaka O.
J Clin Periodontol. 2015 Jun;42(6):506-12.

妊娠性糖尿病(GDM)、歯肉炎、特異的歯周病原因子による感染と全身的炎症はそれぞれ病的な妊娠結果に対するリスクを増加させる。我々は口腔感染と全身的炎症負荷に関して、歯肉炎とGDMの関連をモニターすることを企画した。
4つのケースコントロール群(n=117)が募集された。(1)歯肉炎もなく、GDMもない(n=27)(2)歯肉炎で、GDMがない(n=31)(3)歯肉炎はないが、GDMである(n=21)。(4)歯肉炎でGDMである(n=38)。3つの主要な歯周病原菌による口腔内感染はPCRにて決定された。全身的炎症はEIAによるCRPの定量によって決定された。
妊娠中の歯肉炎はPorphyromonas gingivalis、Filifactor alocisとTreponema denticola、そしてそれらのコンビネーションにる口腔内感染と関連があった(全てp < 0.01)。妊娠中の歯肉炎では全身的CRP が325%増加した(平均, 2495 vs 8116 ng/ml, p < 0.01)。
糖尿病と歯肉炎は、病的妊娠結果に対するリスクバイオマーカーの増加に協調して作用する。
(CRP、妊娠性糖尿病、歯肉炎、歯周病原菌、妊娠)
「今回注目している歯周病原菌は3っつだ。Porphyromonas gingivalisとTreponema denticolaはこれまでにも妊娠合併症との関連が取りざたされている。新たに取り上げられているのはグラム陽性の嫌気性菌Filifactor alocisだ。この菌は慢性歯周炎、侵襲性歯周炎と歯内疾患関連病原菌として同定された。母性や胎児の健康との関連が調べられたのは今回初めてとのこと。
妊娠時に歯肉炎を罹患していた女性は、健康な歯肉の被験者よりも今回取り上げた3菌種を多く生息していた。これは当然と言えよう。しかし、歯肉炎の有無にかかわらず、GDMは3菌種の増加と関連が見られていた。歯肉炎のない場合には、GDMはF.alocisと3菌種のコンビネーションの検出頻度増加と関連が見られた。歯肉炎の場合はというと、GDMはP.gingivalis、T.denticolaあるいは3菌種のコンビネーションの感染増加と関連があった。それ故に、歯肉炎もGDMもそれぞれに、歯周病原菌の感染発生や妊娠合併症に対するリスクの増加させている、というわけだ。
全身的な炎症増加も妊娠合併症との関連が指摘されている。
妊娠合併症リスクを減らすためには歯肉炎と血糖コントロールの両方が必要だろうという締めくくりだ。」
(平成27年8月2日)


No.363
Effect of application of a PVP-iodine solution before and during subgingival ultrasonicinstrumentation on post-treatment bacteraemia: a randomized single-centre placebo-controlled clinical trial.
Sahrmann P, Manz A, Attin T, Zbinden R, Schmidlin PR.
J Clin Periodontol. 2015 Jul;42(7):632-9.

この研究の目的は、歯肉縁下インスツルメンテーションの際に、口腔由来細菌の菌血症の発生率と程度に及ぼす、10%ポピドンヨードで同時おこなう歯肉縁下洗浄の影響を評価することである。
歯周炎患者において、縁下インスツルメンテーションに際し水あるいはポピドンヨード洗浄がおこなわれた。インスツルメンテーションに先立ち、被験者は割り当てられた液体で1分間含嗽をおこなった。ポケットを1分間洗浄し、そしてその後、液体冷却(水/ポピドンヨード)超音波スケーラー(1分間)で歯肉縁下のインスツルメンテーションをおこなった。2分後に、溶血遠心血液培養システムを用いた定量的細菌学的解析のために、腕から血液サンプルが採取された。ノンパラメトリック統計解析が群間の菌血症の発生率と程度の差を評価するためにおこなわれた。
各群19サンプルのうち、コントロール群で10例、テスト群で2例の口腔由来菌血症が検出された。平均3.0 [1; 5]のコロニー形成で、コントロールに比較してテスト群は有意に低い細菌と菌血症であった (12.2 [1; 46]) (p = 0.003)。嫌気性菌はテスト群では検出されたなかった。
ポピドンヨード洗浄併用歯肉縁下インスツルメンテーション後の菌血症は減少するが、除去されるわけではない。それゆえ、心内膜炎あるいは内部人工器官の感染の高いリスクのある患者ではポピドンヨード洗浄は推奨されるかもしれない。しかしながら、予防的な抗菌治療が省かれるべきではない。
(RCT、菌血症、歯周炎、超音波デブライドメント)
「歯科処置にともない、菌血症はしばしば認められる所見である。歯肉縁下スケーリングでは55-70%で、うち72-78%が嫌気性菌であるという。今回の研究でもテスト群の60%に菌血症が現れ、82%に嫌気性菌が関与していたFusobacterium spp. 、Porphyromonas gingivalis、Fusobacterium nulceatum、 Prevotella intermediaなんてところもきっちり検出されている。。
過去の報告を参考に、歯周ポケットとアタッチメントレベルから上皮領域と炎症歯周領域とを算出して、今回の研究ではコントロール群とテスト群の創傷面積を同程度にしている。というのも血流中に菌が侵入するに当たって、ポケット内の炎症面積が大いに影響するだろうとの考えからだ。
10%ポピドンヨードは、0.2%クロルヘキシジンに比較して、洗口で口腔細菌に対し即効的で著しい殺菌作用があるために採用したとのことだ。
安価で安直な10%ポピドンヨードの併用は感染リスクの高い患者には利用すべき対応かもしれない。ただとことん菌血症が抑えられているわけではないので、抗菌剤のお助けもいるだろうとの見解のようだ。」
(平成27年7月30日)


No.362
Short-term effects of 2% atorvastatin dentifrice as an adjunct to periodontal therapy: a randomized double-masked clinical trial.
Rosenberg DR, Andrade CX, Chaparro AP, Inostroza CM, Ramirez V, Violant D, Nart J.
J Periodontol. 2015 May;86(5):623-30.

免疫制御および抗炎症的な効果など、スタチンの多様な効果は歯周組織状態も改善させるのかもしれない。この研究の目的は非外科的歯周治療(NSPT)の補助として、臨床的歯周パラメーターを改善させることについて、2%アトルバスタチン配合歯磨剤の効用を評価することである。
ランダム化、二重盲検臨床研究が2群のパラレル群で行われた:1)アトルバスタチン群(NSPT+2%アトルバスタチン配合歯磨剤)と2)プラセボ群(NSPT+プラセボ歯磨剤)。これらの処置の有効性はベースライン時と1ヶ月後に得られた歯周組織測定値を用いて評価された。測定値はプロービング深さ(PD)、臨床的アタッチメントレベル(CAL)、プロービング時の出血(BOP)、歯肉炎指数(GI)と歯周組織炎症部位面積(PISA)であった。多重線形回帰モデルが性、糖尿病、と喫煙に対して補正された後、成績変数の比較に用いられた。
総数36人がこの研究に参加した(アトルバスタチン群n=18、プラセボ群n=18)。両群とも歯周パラメーターの改善を示した。アトルバスタチン群はPISAで297.63 mm(2) (95% confidence interval = 76.04 to 519.23; P = 0.01)の減少を示した。これはプラセボ群に観察された減少よりも有意に大きい減少値であった。また、プラセボ群に比較して、アトルバスタチン群では平均PD、PD?5 mmの部位率、平均CAL、CAL ?5 mmの部位率、BOP、とGIにおいて有意な著しい減少もみられた。
NSPT+歯磨剤配合2%アトルバスタチンはNSPT+プラセボ歯磨剤よりも臨床的歯周パラメーターの改善により効果的だ。
(慢性歯周炎、臨床研究、歯磨剤)
「考察で何が述べられているかというと、まずはスタチンって歯周病治療に良いよね、って。全身的なスタチン服用者は歯を失う率が服用していない人に比較して37%減少する、だとか、病的歯周ポケットが37%少ないとか、文献をあげている。
歯周組織の炎症部位面積がスタチン群では小さくなっているのは、スタチンの抗炎症作用によるものだろうと指摘しつつ、スタチンでCRP、TNFαやIL-1βの抑制がかかることなどを述べている。
今回用いたアトルバスタチンは第一世代と言われるようなシンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチンよりもコレステロール低下作用は強力である。他の報告で示されたアトルバスタチンによる局所投与が、シンバスタチンによるPD、CALや骨吸収の改善よりも成績がよいのは、アトルバスタチンの抗炎症作用も強力だからではないかと述べている。
今回1.2%アトルバスタチン配合の歯磨剤の使い方は次のような状況だ。口腔清掃指導を行って、1日2回ブラッシングをおこなってもらう。ブラッシング手順は、0.5mL歯磨剤で2分間のブラッシングを行い、10-15秒間過剰の歯磨剤は口腔外へ吐き出し、少なくとも30分間は洗口や飲食をしない。」
(平成27年6月29日)


No.361
Efficacy of locally delivered 1.2% rosuvastatin gel to non-surgical treatment of patients with chronic periodontitis: a randomized, placebo-controlled clinical trial. Pradeep AR, Karvekar S, Nagpal K, Patnaik K, Guruprasad CN, Kumaraswamy KM. J Periodontol. 2015 Jun;86(6):738-45.

慢性歯周炎(CP)は歯の支持組織と歯と取り巻く歯槽骨に影響を与える炎症性疾患で、続発して病的な変化に著しくなりやすい歯肉溝の深化形成が生じ、そして最終的に骨吸収と歯の喪失に至る。文献的に、幾つかの薬理作用を持つ製剤が、歯周組織状態の改善を促すように、局所配送経路を通じて病的な部位へ投与されてきた。それで、この研究ではCP患者の治療に際して、スケーリングルートプレーニング(SRP)に付随して、骨内欠損(IBD)に徐放性に作用するように、メチルセルロース媒介体内に含有された1.2%ロスバスタチン(RSV)ゲルの、歯肉縁下投与の臨床的効果を決定することを目的としている。
65人の患者が群1、SRP+1.2mgRSV;群2SRP+プラセボの2群にふるい分けされた。 改変歯肉出血指数(mSBI)、プロービング深さ (PD)と臨床的アタッチメントレベル(CAL)を含む臨床パラメーターがベースライン時(SRP前)、1、3、4、と6ヶ月時点で記録された。IBDのレントゲン的評価はベースライン時と6ヶ月後にソフトウエアを用いて解析された。
両研究群とも有意な改善を認めた。6ヶ月後、群2(1.48 ± 0.33).に比較して、群1(3.71 ± 0.24)ではmSBIにおける著しい減少があった。ベースラインから6ヶ月に至るPDの平均の減少は群1と群2でそれぞれ4.04 ± 0.34と1.31 ± 0.24 mmであった。平均CAL獲得はベースラインから6ヶ月後までにおいて、群1と群2でそれぞれ4.2 ± 0.17と1.4 ± 0.15 mmであった。群1(2.23 ± 0.32 mm, 48.58%) では、群2(0.46 ± 0.02 mm, 10.02%)に比較して、平均IBDが著しく減少した。全ての患者が副作用無しに、この薬剤を許容できるものであった。
ロスバスタチン生体内ゲル(1.2%)は、IBD/ポケット部位に局所的に投与する時、プラセボよりもCALの獲得増加を伴って、PD、歯肉炎指数の著しい減少を示した。
(歯槽骨吸収、慢性歯周炎、サイトカイン ヒドロキシ-3-メチルグルタリル コエンザイムA還元酵素阻害剤、炎症、レントゲン)
「スタチンは低密度リポタンパク質コレステロールを低下させるために最も広く用いられている血中のコレステロール値を下げる薬剤の総称である。この薬剤はヒドロキシ?3?メチルグルタリル?コエンザイムA還元酵素の競合的阻害剤である。スタチンは抗炎症、抗酸化、免疫制御、抗細菌活性と微小血管機能や創傷治癒改善など幅広い作用のあることが報告されている。また骨芽細胞系細胞の分化や石灰化を促進したり、新生骨を増加させたりすることも報告されている。
スタチンには脂溶性(シンバスタチン、アトルバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、RSV)があって、前者は脂溶性なのでそのまま細胞膜を通過して、後者は特異的なトランスポーターの助けが必要らしい。RSVは特異的なキャリアー分子の関与によって骨芽細胞内に移動して、その分化を誘導するということらしい。
で、アブストラクトにあるように、ポケットに投与することで、ポケット深さ、CAL、GIに加えて骨欠損の改善まで認められるという。次の紹介論文もスタチンの予定だ。」
(平成27年6月28日)


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