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難しくてもちょっと知りたい最新の歯周病治療・歯周病研究 
論文紹介p082(no.371-375)

No.375
Association between periodontal disease and overweight and obesity: a systematic review.
Keller A, Rohde JF, Raymond K, Heitmann BL.
J Periodontol. 2015 Jun;86(6):766-76.

歯周炎と肥満は全世界的に影響を与える最も共通の慢性疾患に含まれ、最近のレビューでは過体重/肥満と歯周炎の間には強力な関連が示唆されている。しかしながら、前向き研究のエビデンスが欠如しているために、過去のレビューは、ごくわずかの縦断的あるいは介入研究と、主には横断的な研究を基にしている。この研究の目的は、肥満と歯周炎の経年的な関連と一般集団における体重の変化が歯周炎の進展にどのような影響を与えうるのかについて調べることである。それゆえ、過体重、肥満、体重増加、胴囲と歯周炎間の関連を評価した、縦断的および実験的研究がレビューされた。
曝露として過体重あるいは肥満、そして結果として歯周炎を扱った介入および縦断的研究がPubMed/MedlineとWeb of Knowledgeを用いて検索された。
8つの縦断的および5つの介入研究が含まれた。縦断的研究のうちの2つがベースライン時の過体重の程度とその後の歯周炎の進展リスクとの直接の関連を見いだし、さらに3研究が肥満と成人の歯周炎進展との関連を見だしていた。肥満が歯周治療効果に及ぼす影響について、2つの介入研究が、非外科的歯周治療に対する反応が肥満患者よりもやせた患者で良好であることみいだした。残りの3研究は肥満とやせの参加者間で治療の差異を報告していなかった。8つの縦断的研究内で、1つの研究はC反応性タンパク(CRP) と、CRP、インターロイキン-6と腫瘍壊死因子-α などの炎症性バイオマーカーで補正され、炎症マーカーは5つの介入研究のうち3つで別々に解析された。
システマティックレビューは過体重、肥満、体重増加、と増加する胴囲が歯周炎の進展あるいは歯周組織検査の悪化に対するリスク要因である可能性を提示する。
(肥満症、 肥満度指数、炎症、肥満、口腔健康、歯周炎)
「関連性は一般脂肪組織より内臓脂肪でより強く、内臓脂肪の蓄積測定が、BMIよりも歯周病発生との関連が強いことが示唆された。このことはTNFαやIL-6 などの炎症性アディポネクチンが腹部脂肪組織から主に産生されるという事実と合致する
肥満と歯周炎との関連に性差は見られなかった。ただ、CRPやIL-6のような炎症性マーカーは男性でのみ肥満と歯の喪失を媒介しているように可能性が示唆された。
歯周病と肥満に関わる病因因子には炎症、性差、社会経済的状態などか重要な要因のようなので、今後このような観点から研究がなされるべきであるとのこと。」
(平成28年1月1日)


No.374
Is weight gain associated with the incidence of periodontitis? A systematic review and meta-analysis.
Nascimento GG, Leite FR, Do LG, Peres KG, Correa MB, Demarco FF, Peres MA.
J Clin Periodontol. 2015 Jun;42(6):495-505.

この研究は、成人における歯周炎発症に及ぼす、体重増加の影響を評価する、システマティックレビューを行うことを目的とした。
2015年2月まで、4つのデータベースにおける電子検索がおこなわれた。成人における体重増加と歯周炎発症間の関連を評価する、前向き縦断的研究のみがこの研究に含まれる適切基準であった。全ての研究が、歯周炎の症例定義と同様に栄養状態(肥満度指数;胴囲)の明確な記載を記述していた。歯周病の発症に関して、過体重と肥満になることに対する累積相対リスクがメタ解析によって評価された。質はコホート研究に対してNewcastle-Ottawa scaleで評価された。
5つの論文がこのレビューと参加被験者42,198によるメタ解析に含まれた。過体重と肥満になった被験者は正常な体重にとどまる対照群と比較して、歯周炎の新たな発症に対して高いリスクを示した(それぞれRR 1.13; 95%CI 1.06-1.20 と RR 1.33 95%CI 1.21-1.47 )。
体重増加と歯周炎の新規発症との明確な正の関連が見られた。しかしながら、これらの結果は限られたエビデンスに由来するものである。それゆえ、縦断的前向きデザインのさらなる研究が必要だ。
(発症、縦断的研究、メタ解析、肥満、過体重、歯周病、歯周炎、システマティックレビュー、体重増加)
「体重増加と歯周病との関連メカニズムは次の様に述べられている。体重増加により脂肪組織が増大してくると、脂肪細胞が虚血のためにアポトーシスを起こす。このような状況はマクロファージのリクルートを生み、さらに炎症を増悪させる。このような複合的な状況が慢性の全身的な低いレベルの炎症を促進し、 このことは正常体重の人よりも感染に対する感受性を亢進させることになる、生体の自然免疫を変化させる。また歯周病原細菌のLPSはインスリンの抵抗性を上昇させることも示唆されている。
肥満と歯周病はともに慢性炎症性疾患として、共通の背景があることも考えられる。」
(平成27年11月22日)


No.373
Evidence-based clinical practice guideline on the nonsurgical treatment of chronic periodontitis by means of scaling and root planing with or without adjuncts.
Smiley CJ, Tracy SL, Abt E, Michalowicz BS, John MT, Gunsolley J, Cobb CM, Rossmann J, Harrel SK, Forrest JL, Hujoel PP,Noraian KW, Greenwell H, Frantsve-Hawley J, Estrich C, Hanson N.
J Am Dent Assoc. 2015 Jul;146(7):525-35.

学術的な事案に関するアメリカ歯科医師会委員会によって召集された専門委員が、併用療法を伴うあるいは伴わない、スケーリングルートプレーニング(SRP)による、慢性歯周炎患者に対する非外科的治療について、エビデンスベースの診療ガイドラインを提示する。
アメリカ歯科医師会のエビデンスベースガイドラインの開発手法に従って、著者らは臨床ガイドラインを作製した。この診療ガイドラインは、少なくとも6ヶ月以上の臨床研究で、臨床的アタッチメントレベルデータを提供し、2014年7月まで英語で出版された72論文が含まれた、システマティックレビューのエビデンスに基づき作製された。それぞれの推奨(強い、好ましい、弱い、専門家が実施を勧める、専門家が実施しないことを勧める、行わないことを勧める)の強さが、効果の大きさと起こりうる有害事象の強さとのバランス評価に加えて、治療効果に対するエビデンスの確実性評価に基づいて決められた。
慢性歯周炎患者に対して、SRPは中等度の効果を示し、その効果は起こりうる有害事象を上回っていると判断された。著者らは慢性歯周炎に対して最初に行う非外科的治療として、SRPは有効であると表明する。全身的最小濃度以下ドキシサイクリンと全身的抗菌剤はSRPの付加的治療として、同程度の大きさの効果を示したが、抗菌剤の高い濃度では有害事象の可能性が高いために、異なる程度で推奨された(全身的最小濃度以下ドキシサイクリンは好ましいが、全身的抗菌剤は推奨度としては弱い)。他の2つの治療法の推奨度は”弱い”である:クロルヘキシジンチップとダイオードレーザーを用いた光線力学療法である。他の局所抗菌剤(ドキシサイクリン塩酸塩ゲルとミノサイクリン粒子)の推奨度はエビデンスはないが、専門家は好ましいと考える。SRPの付加的処置として他のレーザーの非外科的使用に対する推奨度は、その臨床的な効果と効果-有害事象とのバランスに関して不確実さがあるために、エビデンスはないが専門家は実施しないことを勧める、に限定された。専門家は勧める、という内容の意味するところはエビデンスに基づいた推奨ではなく、エビデンスは欠如しており、エビデンスの確実性レベルも低い、を意味していることに注意したい。
(抗生剤、エビデンスベースの歯科、レーザー、ミノサイクリン、歯周炎、診療ガイドライン)
「”Adjuncts”のシメにこんな論文も取り上げてみました。
臨床的アタッチメントレベルの平均差が0-0.2mm、0.2を越えて0.4まで、0.4を越えて0.6まで、そして0.6を越える、をそれぞれ効果無し、効果が小さい、効果は中等度、効果は大きいと表現している。そして確実性レベルが高くて、効果が可能性のある有害事象を上回ると”強い”、効果が可能性のある有害事象と拮抗するなら”好ましい”、効果無しあるいは可能性のある有害事象が効果を上回るなら、”行わないように勧める”である。同様に確実性が中等度であれば、”好ましい”、”弱い”、”行わないことを勧める”で、最後に確実性が低い場合には”エビデンスはないが専門家が実施を勧める ”か”実施しないことを勧める”と評価している。
SRP単独は確実性中等度で、効果が中等度に分類される0.49mm(0.36-0.62)を示し、処置後の疼痛や知覚過敏症などの有害事象の可能性はあっても、慢性歯周炎患者には最初に行うべきと考える治療で、行うように勧められている。
SRP+全身的抗菌剤は中等度から重度歯周炎患者に対して、期待できる効果は小さいが、臨床家はその治療を考えても良いかも知れない、というレベルだ。確実性は中等度であり、効果は小さくて0.35mm(0.20-0.51)となっている。効果の小ささと有害事象が拮抗している。臨床的な推奨度は弱い、である。
SRP+ダイオードレーザーを用いた光線力学療法だが、確実性は中等度、効果は0.53mm(0.06-1.00)である。しかし、その効果の大きさには不確実性がある。臨床的推奨度は弱い、である。
他のレーザーについては、効果がない、というエビデンスがあって、専門家が行わないように勧める、という臨床的推奨度である。」
(平成27年10月12日)


No.372
Non-surgical periodontal therapy supplemented with systemically administeredazithromycin: a systematic review of RCTs.
Buset SL1, Zitzmann NU, Weiger R, Walter C.
Clin Oral Investig. 2015 Jun 12. [Epub ahead of print]

アジスロマイシンは非外科的治療において、併用する全身的抗生剤の選択肢として可能性がある。
この研究の目的は、慢性/あるいは侵襲性歯周炎において、全身的に投与するアジスロマイシンを併用した非外科的治療を評価している、ランダム化コントロール臨床研究を確認することである。
系統だった文献検索が電子データベースと手検索を用いて2014年3月31日までに出版された出版物に対して行われた。ランダム6ヶ月以上のフォローがあり、英語もしくはドイツ語で出版されたコントロール臨床研究が含まれた。231研究から同定された9つの出版物が適格とされた。
いくらかのバイアスリスクを示す、選定された研究には、慢性歯周炎患者についてが7つと侵襲性歯周炎についてが2つ報告されていた。マイナーな副作用が5つの研究で記述されていた。vote counting methodを用いた結果の統合が適応された。アジスロマイシンの有意な有効性はプロービングデプス変化で6論文、アタッチメントレベルで5論文が示されていた。
侵襲性歯周炎患者とは対照的に、この解析から得られたデータは慢性歯周炎患者における非外科的歯周治療で、併用して用いる全身的アジスロマイシンの有効性を示した。
標準的な抗生剤に対する禁忌があるとき、アジスロマイシン(AZM)は慢性歯周炎の選択された症例において、全身的に投与する抗生剤の別の選択剤として考慮されるだろう。
(歯周デブライドメント、アジスロマイシン、侵襲性歯周炎、慢性歯周炎)
「意地になって4タテだ。こちらもアジスロマイシン。前回よりも考察にはふむふむということが書かれている。
慢性歯周炎に対しては、有効性があると判断できるが、侵襲性歯周炎については結果が相反しており信頼ある結論を出せないとしている。
副作用が少ないと書いたが、下痢と眠気は副作用として報告されている。それでもメトロニダゾールとアモキシシリンの組合せに比較すると副作用は著しく低い。また文献的にアジスロマイシン服用による心血管系リスク出現の報告があるようだ。
1から4週間にかけて2から6回に分けておこなうSRPといわゆるフルマウスSRPの両方が今回取り上げた論文のプロトコールに含まれている。しかしアジスロマイシンの効果はそのプロトコールには関係なさそうだが、アジスロマイシンの効果を最大限にいかすプロトコールは模索する必要がある。
そして、アジスロマイシンの服用時期である。アジスロマイシンをSRP前あるいは最初のSRP時に服用している研究では全てアジスロマイシン併用の効果が現れているのに対し、SRPの最後のセッション時にアジスロマイシンを処方した4研究では2つの研究のみがアジスロマイシンの併用効果を示しているだけだ。このことは、アジスロマイシンが食細胞に取り込まれ、時間をかけてリリースされるという、薬剤特性によるものかも知れない。服用1-2日で、歯周組織や歯肉溝滲出液にアジスロマイシンの濃度上昇がみられる。それゆえSRP治療の直前かスタート時の投与で、SRPを行っている期間にアジスロマイシン濃度がマックスあるいは十分に上昇していると考えられる。一方、メトロニダゾール+アモキシシリンの場合はデブライドメント終了時(つまり全ての罹患歯のバイオフィルムが破壊された時)に抗生剤投与すべき、とのプロトコールになっている。」
(平成27年10月2日)


No.371
Clinical effect of azithromycin as an adjunct to non-surgical treatment of chronicperiodontitis: a meta-analysis of randomized controlled clinical trials.
Zhang Z, Zheng Y, Bian X.
J Periodontal Res. 2015 Sep 12. doi: 10.1111/jre.12319. [Epub ahead of print]

慢性歯周炎の治療において、スケーリングルートプレーニングに併用するアジスロマイシンの効果に焦点をあてた、最近公表された結果は相反している。SRP単独に比較して歯周臨床パラメーターにおよぼすSRPと併用したアジスロマイシンの効果を調べるために、無作為コントロール臨床研究のメタ解析をおこなった。あらかじめ明確にしておいた選定基準に合致する研究を同定するために、電子検索が最初期から2014年12月28日まで、Pubmed、Embaseおよびthe Cochrane Central Register of Controlled Trialsについて行われた。情報収集した論文の参考文献リストもまたレビューされた。二人の著者らによって独立してデータが抽出された。プロービング深さ、アタッチメントレベル(AL)、とプロービング時の出血(BOP)に及ぼすアジスロマイシンの全体的な効果を計算するために固定化あるいはランダム化効果モデルが用いられた。Q testとI2 statisticを用いて、多様性が評価された。Begg's testとEgger's testを用いて、パブリケーションバイアスが評価された。総数14研究がメタ解析に含まれた。SRP単独と比較して、局所デリバリーアジスロマイシン+SRPは統計学的に有意な、0.99 mm (95% CI 0.42-1.57) のポケット減少と1.12 mm (95% CI 0.31-1.92)のアタッチメントレベルの上昇がみられた。加えて全身的投与アジスロマイシン+SRPは統計学的に有意な、0.21 mm (95% CI 0.12-0.29)のポケット、4.50% (95% CI 1.45-7.56)のBOP減少と0.23 mm (95% CI 0.07-0.39)のアタッチメントレベルの増加がみられた。 感度解析は同様の結果を示した。いかなるパブリケーションバイアスのエビデンスも観察されなかった。全身投与アジスロマイシンの追加の有効性は、最初に深いポケット部位で認められたが、軽度のポケットや中等度のポケットではそうではなかった。全身的アジスロマイシンの全体的効果の大きさは経時的に減少する傾向があり、メタ解析から、フォロー期間の長さとプロービング深さにおける純変化は負の関連のあることが示唆された(r = -0.05, p = 0.02) 。このメタ解析はSRPの付随として用いるアジスロマイシンがプロービング深さおよびBOPの減少とALの改善、特に最初に深いプロービング深さにおいては、非外科的歯周治療の有効性を有意に改善させるというさらなるエビデンスを提供する。
(アジスロマイシン、メタ解析、歯周炎、ルートプレーニング)
「アジスロマイシンの処方は非常にシンプルで通常1日1回500mgを3日だ。アジスロマイシンは吸収や組織移行性が高く、長期間に渡って組織に徐放的に作用するが、副作用が比較的少ない抗生剤として知られる。幅広い抗菌スペクトルを持っており、歯周病原生菌たるP.gingivalis、A.actinomycetemcomitansにも作用する。加えて、抗炎症、免疫制御機能に破骨細胞の抑制作用もあるとかで、歯周治療への応用が期待される抗生剤の1つである。
考察でメトロニダゾールとの比較があり、まあSRPとの併用に関して、メトロニダゾールとどっこいどっこいじゃないかと記している。
ただアジスロマイシンの併用効果は長期には続かず、6、12ヶ月と長きに渡るとその追加の有効性が薄れている。ポケット深さに関して言えば、SRP単独とSRP+アジスロマイシンの差は、1ヶ月、3ヶ月後、6ヶ月後そして12ヶ月後で、それぞれ0.43、0.28、0.22そして0.11と何ともじり貧だ。
アジスロマイシン併用で追加0.21mmのポケット減少、という値を、統計学的に有意差はあると言うものの、どう値踏みしますかね。」
(平成27年10月2日)

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