スイス滞在記(その16 )
ぼくらはフリブールへ行きたかった(前半)
スイスには、東西に横切るようにして主要都市をつなぐ鉄道路線がありスイスの幹線の一つです。西からジュネーブ、ローザンヌ、ベルンそしてチューリッヒ。もちろんそれぞれの両端は西はフランス、東はドイツへとつながっています。ここを都市間急行Inter City Express (IC)という都市間高速列車が西へ東へと頻繁に行き交っています。ジュネーブからローザンヌまでおよそ40分、ローザンヌーベルン間がおよそ70分、ベルンーチューリッヒ間が1時間半ほどです。よろしいですか、ベルンを起点に西へ向かうとローザンヌ、ジュネーブ、東へ向かうとチューリッヒです。さてベルンから西、つまりローザンヌの方向へ向かうとフリブール(ドイツ名フライブルグ)というそこそこの大きさの町があります。ベルンとローザンヌの中間ですが、ややベルン寄りにあってベルンから20分ほどで行けます。ベルンより古い町で、あまり有名ではありませんが観光地の一つです。そしてこの町は、ここを境に西がフランス語圏、東がドイツ語圏だということでも有名です。先ほど町の名前をふたつ書いたのもそのせいです。
我らが島袋家は、とある週末ここフリブール(フライブルグ)へ行くことにしました。もちろんInter City Expressに乗って。急行と行っても特急と称するものがありませんので日本で言う事実上の特急です。この電車に乗るとベルンからフリブールまで20分ほどなのであっと言う間です。さて、一番先頭の客車へ乗り込む。一番先頭の車両では子連れの数家族がいましたがすいていました。少し離れて、座席を選んで、景色をみておやつを食べて、ふっと気がつくとフリブール。そう急行なので、ベルンの次の停車駅がフリブールでした。降りよう。はよ降りなあかん。荷物を抱えて、子供をせき立てて、列車の一番先頭客車部分の扉から。といっても電気機関車がひっぱているので客車の先頭には運転手はいません。おっつ、扉が開かない。「ここは端っこで開けへんのとこちゃうか?」不幸にも近くに同時に降りる客はいない。「後ろからや!」先ほどの子連れ家族の前を通り過ぎて車両のもう一方の端へ走る。どたどたどた。長男も走る。荷物や服を中途半端に抱えて子供の手をひいて、通路を走るものだから少ないながらも乗っている客が何事かとこちらを見る。扉について取っ手を引く、押す。・・・・・・あ、あ、開かない。・・・反対側の扉か!!!・・・「あけへん」「どうなってんね」「どこや、どこの扉が開くね」頭の中は真っ白。向こうかこっちか通路を移動しようともたもた、子供の顔にも緊張感が。と、このパニックにも終わりが告げられる。ガク、ガクン、ガックン、がくーーん。窓の景色が無情に動く。
おりられへんかった。
しばらくぼーぜんと車両の連結部にみんなたたずむ。あわてて気を取り直して、「次や、次の駅で降りたらええね」持ってきた時刻表をみる。次は、次は・・・目を疑う。時刻表の次の駅の停車は10時25分ローザンヌ。今は9時半過ぎ。(梅田から茨木市へ行きたかったのに乗り過ごして京都か大津までやってきたという感じでしょうか。ベルンーローザンヌは大阪と滋賀ぐらいの距離)
よたよたと移動する。最初の座席へ戻りたくなかったが、あいにくどの一角も4人座れるだけの座席がない。仕方なくもとの方向へ。何となく視線を感じる。そして、ああ、僕らが座っていた座席が、おかえりなさい、はやかったね、とばかりにほほえむ。もとの席へ荷物を置くと、あちらこちらの家族連れが一斉に僕らを見る。その目は「電車を降おりたかったようだけど、降りられなかったみたいねえ」
みんな黙る。子供も黙る。
そのうち長男が「扉開けへんかったな」・・・「そうやな、開けへんかったな」
電車は走る。ひたすら走る。
フリブールを後にローザンヌへ向かって。
なんせエクスプレス、そうや特急やもんな。たった二つ目の駅がもうローザンヌ。それって、ベルンからフリブールまでより、フリブールからローザンヌの方が遠いやンか。ローザンヌって山超えたらフランスやん。
そう、ローザンヌもええ街やきっと、ローザンヌに行ってもええよな。
でもそういう時間の予定じゃないからなあ、帰りのこと考えたら、すぐにでも帰りの電車に乗らなあかんやん。
走る、走る。電車は走る西へ西へ、次の駅ローザンヌへ向かって。
我々の心とは裏腹に。
電車は気持ちよく走っています。次の駅に向かって。
(続きは後半へ、でもまだ準備中))
(平成 22年 12月11日追加
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