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スイス滞在騒動記(その5)


<言葉@>

 海外へでて困ることの筆頭は言葉の問題でしょうか。我々もご多分に漏れず色々と苦労しました。英語でぺらぺら、と言いたいところですが、英語も流ちょうではないのでドイツ語も出来ない私は八方ふさがりといった状況でした。
スイスの公用語はドイツ語、フランス語、イタリア語、ロマンシュ語の四つです。ただスイスのドイツ語が実はくせ者でした。同じ研究室にいた中国人Drが講習会に出席したときの出来事だと私に語ってくれた話です。講演は基本的にドイツ語を使用し、若干の講演者が英語を使っていたようです。中国人Drは会場で、英語とドイツ語のできるとあるスウェーデン人(北欧系の言語はドイツ語と極めて近い関係にあるそうです)とディナーの際に同じテーブルで隣り合わせになったそうです。テーブルでは共通語として英語が使用されていましたが、現地の人が多いこともあり食が進むに連れテーブルはドイツ語が飛び交うようになったそうです。スウェーデン人に「あなたはこの会話が理解できるのですか」と聞かれて中国人Dr.は「いえ、私はドイツ語が全然出来ないのでわかりません」と答え、逆に「でもあなたはドイツ語を話すことが出来るのでしょう」 と問い返したところ「ええ、確かに私はドイツ語を話せて理解できます。でもこの人達の会話は全く理解出来ません」と言われたそうです。言われた中国人Drは「???」。実はそのテーブルはほとんどがスイス人で「スイスのドイツ語」で会話されていたからなのです。ラボのあるスイスDrは逆に、「highGerman(標準ドイツ語)は我々にとって外国語だ、授業やテレビで聞いたり習ったりするからわかるけど、・・」 ラボテクニシャンにも「彼ら(標準ドイツ語を話す人たちのこと、つまりドイツのドイツ人)は、私たちの言葉を理解できない、、、Nothing(全く何も)!」と豪語されてしまいました。このような例はよく聞きました。ドイツ語を3年間学んだアメリカ人がスイスに来ても全然言葉が通じなかった。ドイツのドイツ人がスイスへ嫁いだが言葉が全然わからずスイス人の偏屈さもあって家族になじめず毎日辛い思いをした、等々。それに加え小さな国スイスの中には、さらに各地に方言があってベルンから離れるとまた違うスイスドイツ語があるというのですから始末の悪いこと。
僕はこの点は困ることはありません、スイスジャーマンであろうとハイジャーマンであろうとスイスのへんぴな場所の方言であろうとどれもほとんど全く理解できませんから。
  しばらくして耳が少しは慣れて、ほんの少し、中央駅でのゆっくり話す構内アナウンスがぼやーとわかるかなあという程度になりました。アナウンスの殆どが決まり切った地名と数字のたぐいだと分かっていますからそのつもりで聞くとそんな風に聞こえました(聞こえた気になった!?)。でも日常会話や街のスーパーでの会話はやっぱりダメでした。レジに並んだ際、商品の値段を言っているというのは状況から明らかなのですが、全然分からない。「ニュウ、ニュウー」と聞こえるけど、、、そんな数字の発音はない、、と思うんだけど、、、。おまえは猫か、と思って、レジ表示を見ると「9.90」。ドイツ語でNeun(ノイン)、Neunzig(ノインチッヒ)(英語では9はnineなので文字でみると似てますから類推はできます)。ようするになまっている。発音だけではありませんドイツ語の名詞の前に来る冠詞類の格変化が、標準ドイツ語では、男性名詞の一格と四格では変化が異なっていました。ところがスイスのドイツ語はではそれら二つの変化が同じだそうです。また助動詞の意味が異なっていたりするなど(英語で例えるとmustをmayの意味で使ったりする)文法上も異なる点が多いようです。もちろん用いる単語そのものも違うことが多いようです。我々が身近に接する言葉として挨拶の言葉がありますが、Guten Tagなど聞いたことがありません。danke schonもあまりききません。「こんにちは」は「Gruezi」(uはウムラウトつきです、グルッセと僕の耳には聞こえます)、気楽なバイバイは「Ade!」(同じくアデッ)「Tschau!」(同じくチャオ)、町中で聞く「ありがとう」は「メルシー、フィールモア」。この地で最初に言ったGuten Tagなどは相手に怪訝な顔をされました(発音が悪くて、Guten Tagに聞こえなかっただけだとは思いますが)。グルッセの綴りはとあるドイツ語の教科書には書いてあったのですが、僕の持ってきた研究社、独和中辞典には記載されていませんでした。考えると当然で、国語辞典を引いても「ぎょうさん」も「よーさん」も「あかん」ものってない。きっとそんな感覚だと思います。ドイツ語を教えてもらっていた現地の人に聞くとスイスのドイツ語は古いドイツ語の発音や文法をより多く残しているそうです。たぶん、ドイツ語圏としては辺縁に位置し、しかも閉ざされた山国であるというのがその理由なのでしょう。そしてさらなる修飾因子としてードイツ語の辺縁と言うことは他言語と接していることに他なりませんー隣接する言語、すなわちフランス語、イタリア語の影響もあるのでしょう。チャオやメルシーなどその最たるものといえます。スイスのドイツ語は地方によって方言がきつく、国内の同じドイツ語でも通じないことがあって、スイス全体としてはむしろフランス語の方が通用するとのことです。
(2008.7月更新)


 
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