しまぶくろ歯科医院 番外編コラム 本文へジャンプ

スイス滞在記(その17 )


ぼくらはフリブールへ行きたかった(後半)

陽がさしてきました。
外は心地よかったかも。
フリブールにいれば心地よかったかも。

しばらくすると同じ車両にいた家族グループの人たちがお菓子を数種類、そして飲み物まで我々に差し入れてくれました。なにを言っているのかわかりませんでしたが、「元気をおだしよ!」我々にはそう受け取れました。

ありがとう。ありがとう。ダンケ、シェーン。

長男は何が起こったのか少しわかっているようでした。幼い次男はよくわかっていないようす。笑顔で差し出されたお菓子をぱくついています。我々もぽつりぽつりと食べ出しました。
すると車掌さんがやってきました。検札です。当然ですが我々はフリブールまでの切符しか持っていません。黙って差し出すと。なにやらフランス語(?)で説明している様子。でも言葉はわからないし、理解する気力も、何か言う元気もありません。だまっていると、先ほどのお菓子をくれた人たちが、車掌に向かって話をします。車掌はしばらく話を聞いて、首をかしげながら、何か言って、向こうへ行きます。僕らが駆けつけた扉へいっているようです。しばらくして戻ってきて、また何か言います。先ほどの人たちが再び声高らかに車掌に向かって長々と訴えます。そう、僕らに代わって事情を説明してくれているようです。「扉がおかしかったんだ、だから彼らはおりられなかったんだ」、と言ってくれているようです。ありがたいなあ。しかし、車掌は仕事に忠実なようです。先ほどの家族連れは執拗に訴え、くいさがります。車掌はもう一度扉を見に行きました。ちゃんと開くよ、ということのようです。
長い論争、、、先ほどの人たちも、車掌の忠実さにあきらめたようです。
車掌が僕たちのところへやってきて料金を提示しました。フリブールから次のローザンヌ駅までの往復料金。僕らは何かを言うすべを持ちませんでした。車掌は御丁寧にもローザンヌでフリブールへ戻る電車の番線を教えてくれ、立ち去りました。彼に出来る精一杯のことだったのでしょうか。

ローザンヌの駅に着きました。先の家族連れも降りるようです。彼らは「ごめんなさい、力になれなかったわ」というようなことを言いました。そして我々のために通路を譲ってくれて、先にホームへおろしてくれました。お互いに少し悲しげな顔で別れの挨拶をしました。外は強い陽射しが照りつけていました。もっと元気をお出しよ、というより我々にとっては、恥ずかしくて隠れていたいのにそれを暴こうかというような意地悪な光にも感じられました。
我々はすぐに今来た方向への電車に乗らねばなりませんでした。記念にローザンヌの表示のある看板の前で写真を撮りました。地下通路を通って隣のホームへ移っておもむろに電車に乗り込みました。
そして家路につきました。

長男は「電車の戸を開けるのは難しいね」といい。
それからしばらくは、電車に乗ると「おとーちゃん、はよおりよな」と荷物を持とうとする子になりました。


(平成 22年 12月11日追加

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